Archive / Event Report

2021.09.22 wed

つながりを見せるブロックチェーンが拓く可能性とは?“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズ―vol.2

これからの持続可能な社会にとって現代型のコミュニティを醸成していくことが重要だと考え、GGPでは“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズを展開しています。vol.1では京都大学の広井良典教授が、2万通りの未来シミュレーションなどを行い、「分散型で多様性のある社会が持続可能性のパフォーマンスを高める」という分析結果を紹介しました。

715日に開催したvol.2では、分散型社会を支える最先端技術であるブロックチェーンがもたらす、新しい人と人の関係性に焦点をあてます。「感謝・共感・応援」を“見える化”するMasachainの開発者、株式会社chaintope(以下、chaintope)の正田英樹CEOに話を伺いました。

  • アーカイブ
  • イベントレポート

動画再生時間 約71分

  • 1.「感謝・共感・応援」を“見える化”するMasachain
  • 2.社会関係資本を再分配する行動を応援

株式会社chaintope 代表取締役CEO 正田 英樹
九州工業大学情報工学部卒業。1999年7月、株式会社ハウインターナショナル創業。2015年頃よりブロックチェーンの研究開発をスタートし、早期から社会実装に向けた取り組みを始める。2016年12月、ブロックチェーンに特化して事業を進めるべく株式会社chaintopeを設立。ブロックチェーンを用いた自律分散型の新たな社会モデルの構築をモットーに様々な分野でのブロックチェーン実装に向けて展開中。山口県光市出身。九州工業大学、熊本大学 客員教授を努める。著書『ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」』(幻冬舎)。

Website:https://www.chaintope.com/

木村 chaintopeで展開している、社会関係資本をブロックチェーンで可視化する「Masachain」プロジェクトについて教えてください。

正田 chaintopeは福岡とマレーシアを拠点とし、新しい社会モデルにどのようにブロックチェーンを使うことができるかを研究している会社です。その研究の中で、ブロックチェーンを地域活性化に役立てられないだろうかと考えて生まれたのがMasachainです。人々の「感謝・共感・応援」を“見える化”することで、まちづくりや地域活性化のために素晴らしい活動をしている人を支援したいという思いで開発しました。

人の信用はこれまで貯蓄額や不動産の所有などが尺度となり、金融資産を多く所有している人の信用が高いとされてきました。そうした資本主義的な評価軸や価値基準のために、実際には地域の人から感謝や信用、応援を受けていても、一般的には高い評価を得られず、挑戦の機会が狭められてきたと思います。そこで、人と人との良き関係性を見える化できないかと考えました。

金銭的価値の最大化に集中してきたこれまでの資本主義を決して否定しているわけではなく、それは人類の発展に貢献してきたと思っています。しかし、金銭的な価値だけに還元できない地球環境問題や格差が問題になっている時代です。これからは多様な価値軸によってものごとの評価を“見える化”することが大事なのではないかと考えています。

棚橋 ビットコインとともにブロックチェーンという言葉を耳にするようになりましたが、そもそもブロックチェーンとはどういうものなのでしょうか。

正田 簡単にいうとインターネット上のデジタル空間の中で、いつ誰が何をしたかを間違いなく記録して共有できる技術です。改竄なく記録する技術がこれまではなかったのですが、それを最初に実用化したのがビットコインです。

ブロックチェーンの今後の使い道は、暗号資産や中央銀行が発行するデジタル通貨など金融領域で広がっていくと思います。どこで誰が何をしたかというデジタル証書にも使えます。たとえばワクチンを打ったという証書を発行するなどにも有効です。

またモノやサービスの流れを明らかにするトレーサビリティがあるのもこの技術のすごいところです。例えば今話題のCO2を、いつどこでだれがどれだけ排出したか、どこでどれだけ削減したかなどをトレースできます。電気の流れも追いかけることができるので、「今この部屋で点灯している電気は、どこどこ産の太陽光発電です」などと言えるようになります。

お金やエネルギーの動きがだんだんと“見える化”していく中で、人と人の関係性が見えづらいのはよくないので、それをMasachainは可視化しようとしています。これは新しい挑戦のようですが、世界中に集落が点在していた昔は、技術がなくてもコミュニティの中で関係性が顕在していたと思います。村長が「あの若者はすばらしいから応援しよう」と言えば、村全体がその人を応援するというように…。そういうつながりが今は縦も横も崩れ去っているので、新しい技術をつかって再構築して、支援したい人と支援を受けたい人を正しい形で結びつけたいというのが私の願いです。

棚橋 マレーシア国際イスラム大学(IIUM)でMasachainを使った実証実験ではどのような結果を得られたのでしょうか。

正田 IIUMの教授・大学スタッフ・生徒など計121名にアプリを2カ月間使用してもらいました。イスラム語の「マサ」には「苦難に耐えて物事を実現する」という意味があって、大学の先生がこの言葉をとても気に入ってくれて(笑)、「参加者のよい行動にどんどんつながるといいね」とプロジェクトを推進してくれました。

共通の学部、ゼミなどコミュニティをつくり、そのコミュニティ内で、メンバーが善い 行いをした際には、感謝・共感・応援 ・支援などのフィードバックを伝えます。それがマサポイント(MP)として蓄積していくというものです。結果としては、善い行いに対してお互いにフィードバックを行うことで、関係性の向上などが見られました。またMPが溜まることで、ある程度社会関係資本の可視化ができたと思います。



木村 MPをコミュニティの中で流通させる仕組みはあったのでしょうか?

正田 IIUMでは、まずは送り合うところまででした。おっしゃるように、何かしらの有用な価値に変換できなかったので、MPを送るモチベーションが続かず、後半にはアプリの利用率の減少傾向になったという課題が残りました。

ほかにも感謝のポイントの量をどうするかという課題があります。感謝は本質的に無限ですが、ポイントが無限にあるとおかしな結果になると考え、一日5ポイントと決めてやりました。感謝という総量が限られないものの価値の源泉をどうするか、その価値を代替するためには何に変えていくのがよいのか、今後の設計の中で課題です。単純に金銭に変えてはいけないと思っていて、そこがMasachainの大きな特徴です。

コミュニティの規模も課題の一つです。やってみてわかったのは、数人でやるとおかしなことになってしまう。100200人とか人数が増えていき、広い関係性の中でどのような関係が生まれてくるのかがポイントだと思いました。

今は、それらの課題をどのように設計に取り入れていくかが肝心だと感じています。そのためにも、いろんなタイプの人と実証実験を重ねていきたいと思います。

木村 一体どんな仕組みをとりいれたら、社会関係資本が実態的な価値になっていくのでしょうか。たとえばモノやサービスと交換できるのかなど、今後の展望について教えてください。

正田 交換という言い方が正しいかは分かりませんが、最初はクーポンや人事評価など、わかりやすい価値を取り入れる必要があると思っています。でも、次のステップになると、例えば特別の空間を共有できるようになり新しい出会いや自身の成長につながるなど、新しい世界観にシフトしていくとよいと思っています。ただ、一気にそこに行こうとすると、なかなか受け入れられないと思います。

人々の思考や価値観の変化を含めて、段階的に、展開していけるのではないかと感じています。それが組み合わさって、次の時代にパラダイムシフトしていくのではないでしょうか。

棚橋 クーポンのようなものに交換できる機能は今後出てくるでしょうか?

正田 現時点では考えていません。最初はそういうものが必要だろうと思いつつ、私が目指しているのは、やる気とアイデアに満ち溢れている人たちを応援するための指標であって、「1ポイント」=「いくら」というものではないからです。

街づくりなどに懸命に取り組む仲間がいるのですが、国の補助金や行政の支援をうける流れとはちがう、型破りな人が多い(笑)。そういう人たちが、面白いことに挑戦するときの、指標になれば良いと思っています。地域でのアントレプレナーシップの応援ツールです。

応援の方法は、一緒にアイデアを考えたり活動するなどの労力の提供だったり、資金を出したり、さまざまなかたちがあっていい。そういうコミュニティづくりのための見える化された情報ソースにMasachainがなってくれればいいと思います。

1ポイントがある一定の価値と交換できるということではなく、関係性を築くきっかけになり、その輪が広がることが大事です。3人から100ポイントずつ贈られているより、300人から1ポイントある方が、その人の「只者ではない」感がありますよね。そのスケールになると誤魔化せないし、そこに改竄できないブロックチェーンを重ねることで、社会的な信頼が浮き彫りになるというわけです。

棚橋 投票とはどう違うんでしょう。

正田 投票は瞬間的なもので、たとえば芸能人が何かを言ったとか、一瞬の輝きによって投票は揺れるものです。Masachainは一定の長い時間の行動に対する感謝や共感の積み重ねなので、そこが大きな違いだと思います。

棚橋 幸福とお金の関係を研究している広島・叡啓大学学部長で、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科で専任教員もされている保井俊之先生によると、価値を蓄積できないと、他人のためにお金を使おうとするそうです。MPも何かそのような仕組みを持つのでしょうか。

正田 ゲゼル型地域通貨(減価型マネー)ですね。たしかに感謝を見える化してストックすることで、既得権益になるとしたらそれはよくないですよね。そんなこともこれから試していきたいですね。

視聴者からの質問 Masachainがコミュニティに寄与することは理解できましたが、サステナビリティに関わる社会課題について、どのように役立つのでしょうか。

正田 今までの金銭的な価値軸だけだと、効率や能率が重要視され、地球環境などへの配慮が後回しになってきたと思います。そこに新しい価値軸を設け、たとえば環境に配慮した行動をする人を支援することができます。そうすると行動変容を起こすことにつながるのではないでしょうか。脱炭素についても、具体的な排出量の見える化と多くの人の行動の変化がパラレルで起こってくると思います。

Masachainは新しい価値軸、多様な価値軸に対する応援を“見える化”するものです。先ほど言ったように、金銭的な支援だけでなく、行動でも応援することができ、自分が取り組もうという主体性を向上させます。富の再分配というとこれまではお金の再分配でしたが、金銭もふくめた価値を再分配するための行動変容を起こすきっかけを、我々は今いただいていると思っています。


2021715日 ロフトワークにて)

  • TOPに戻る