Archive / Event Report

2022.02.04 fri

サステナ注目トレンド2022―ゲームチェンジを読み解く

サステナビリティを視野に入れた企業行動がより強く求められるようになった2021年を総括し、さらに2022年のトレンドを考える「サステナ注目トレンド2022―ゲームチェンジを読み解く」を20211222日に開催しました。話題提供と解説は、日本総合研究所の足達英一郎常務理事。グローバルな視点から、企業や政府、個人消費者などのトレンドを読み解き、これからの行動変容を考える示唆に富んだイベントとなりました。
(聞き手:株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部サステナビリティ推進室 室長代理 木村 智行)

  • アーカイブ
  • イベントレポート

再生時間:約63分

06:01 2021年振り返り
26:12 2022年の注目トレンド

  • 1.2021年のトピックスTOP 10
  • 2.2022年大予測——脱炭素、D&I、ステークホルダー資本主義
  • 3.ステークホルダー資本主義——新しい経済システムの芽生え
  • 4.慣性力を超える創造力を

まず2021年を振り返り、足達氏は次の10個のトピックスを時系列で挙げ、これらの出来事をサステナビリティの切り口で解説します。

最初の話題は21日にミャンマーで同国国軍が企図したクーデターによる政権掌握という衝撃的な出来事です。非常事態宣言が出され、今もなお市民弾圧が続く状況です。これを機に国軍と関係を有する企業が問題視・非難をされたと足達氏は指摘。「ビジネスと人権の関係がクローズアップされた出来事。国際的に大きな影響を与えた」と解説しました。

昨年2月、東京五輪・パラリンピック組織委員会での女性蔑視と受け取れる発言が話題となりました。これに対し、ツイッターでは#Don’t Be Silent(沈黙しないで)とハッシュタグをつけた投稿が世界中で拡散。「日本では『長いものに巻かれろ』、『沈黙は金』など黙することが美徳とされてきたが、もうそういう時代ではない」と足達氏。「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の視点で、女性や若者に勇気を与えた注目すべき行動だ」と位置づけました。

米国がパリ協定に正式復帰した後、バイデン米大統領の呼びかけで4月、気候サミット「Leaders’ Summit on Climate」が開催されました。40名を超える国や機関、自治体、企業が参加し、菅前総理が2030年度には2013年度比で温室効果ガスの46%削減を宣言しました。「改めて気候変動やパリ協定に対して国際協調の枠組が進むことを印象づけた」と足達氏は言います。同時に、束の間の国際協調から、2022年は激動の年になる可能性をGGPの関連記事で指摘しています。

オランダでは昨年5月、ハーグ地方裁判所が石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルに対し、2030年までに19年比でCO245%削減するように命令を下しました。足達氏は「裁判所が気候変動を人権侵害だと位置づけた画期的な判決」と言います。温暖化や気候変動が続けば、将来的に人々の自由な行動を脅かし、健康被害の要因にもなると指摘。さらに「裁判が企業の行動を変え、政府の無策に対してサステナビリティを推進する動向の先駆けとなる」と、司法が気候変動を推進していく可能性を示しました。

64日、自然資本の観点からの情報開示を検討する自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が国連開発計画(UNDP)などの機関の協力で正式に発足。これは、自然資本に関して企業がどれだけ依存し、影響を与えているかを把握し、情報開示するための枠組みです。「これまでビジネスは自然資本に対して必ずしも適切なコストを払ってこなかった。そこに対してきちんと情報開示をし、市場メカニズムの中に内部化していく動きを理解する必要がある」と足達氏。企業は自然資本とどのように向き合っていくのか、今後の大きな課題があることを明示しました。

611日、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードの改訂を公表しました。これは、現在の1部、2部、マザーズ、ジャスダックの4つの市場区分から、今年4月に「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編することを見据えたもので、サステナビリティをめぐる課題への取組みが強化されています。プライム市場上場企業では、TCFD などの国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させること、サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することが求められるようになります。「稼ぐ力が長らく議論されてきたガバナンスコードの中で、サステナビリティが真正面から据えられた、象徴的出来事」と足達氏は解説します。

10月8日、経済協力開発機構(OECD)は多国籍企業の租税逃れを防ぐ国際課税の新ルールをとして法人税の最低税率15%で136カ国・地域が最終合意したことが発表されました。さらに、米国の大手IT企業などを対象に「デジタル課税」を導入することも明らかに。これまで、タックスヘブンなどで各国はグローバル企業の招致合戦を繰り広げていました。しかし、「各国政府がワイズ・スペンディング(賢い支出)へ舵を切り、サステナビリティを担保していこうという動きが出てきた」と足達氏。「長期化するパンデミックによる各国の公的な支出増加が背景となり、グローバル企業に社会的責任としての納税が求められるようになった」のです。

米労働省が10月13日、ERISA(エリサ/従業員退職所得保障)法を改正する立法案公告を発表し、日本の経済界にも波紋を投げかけました。足達理事は、このERISA法の改正で「年金基金を受託運用する会社が、投資先の選定などでESGを考慮することになる」と言います。これまでは、利益最優先が使命とされていた年金の運用の場で、気候変動や労働者の多様性などESGを考慮した投資が推進される可能性が生まれます。

国内では1022日、中長期的なエネルギー政策を示す「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。足達氏は、同日発表された「地球環境気候変動適応計画」、「地球温暖化対策計画」にも注目し「今後、気候変動に伴う災害などにどのように備えていくかを示した」と分析。また、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」は、「温暖化対策のステップを示し、今後のグリーン成長に対する戦略が出てきたことが鍵」と、評価しました。

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が1022日から開催。「グラスゴー気候合意」が採択され、脱炭素への注目がますます高まっています。これから脱炭素に向け、どのようなことを考えて行く必要があるのでしょうか——。本稿後半の2022年大予測で、足達氏が解題します。

イベント後半は2022年のトレンドを見通すトークセッションです。足達氏が3つのキーワード「脱炭素」「ダイバーシティ&インクルージョン」「ステークホルダー資本主義」を挙げ、それぞれの世界的動向を深掘りするため、三井住友フィナンシャルグループの木村智行が質問を投げかけます。

脱炭素に向けグリーンフレーション懸念

足達 COP26でグラスゴー気候合意ができ、パリ協定に関わる細かなルールブックが完成するなど、気温上昇を2100年には産業革命から1.5度以下に抑える目標が強調されたかたちです。つまり、将来の到達点は共有されたことになります。到達点をめぐるこれまでの議論から少しフェイズが変わり、まさに「ゲームチェンジ」が起こると思います。方法論や道筋論に大きく焦点が動き、現実と将来目標のギャップの間で、どう格闘し解決していくかが次のゲームのルールになると思います。

同時に印象的だったのは、当初合意文書にあった石炭火力発電をPhase-outする(終わらせる)という文言が、土壇場でPhase-downする(段階的に削減)というかたちに緩められました。開発途上国を中心に「急に脱炭素と言われてもついて行けない」という声が上がり、国家間のストレスはまだまだ解消されていないことですね。

木村 脱炭素の障壁に対して、国や地域毎に温度差やスピード感が違う。今後の国際協調の難しさを助長しそうな予感もします。

足達 そうですね。また、グリーンフレーションが起こるという仮説がかなり現実味を帯びてきました。例えば化石燃料の産出国は、将来的に化石燃料が使えなくなるまでにいかにそのビジネスを継続させ、累積で総収入を大きくできるかを図っています。増産せずに価格を下げないことで、当面、エネルギー価格は上昇傾向となります。さらに炭素税も今後入ってきますから、高くても仕方ないという方向に政策が動く。これをマーケットが先読みしていくことになると思います。

一方、脱炭素に向けた技術革新に伴い、実需を背景に物価上昇が起きています。例えば自動車のEV化で銅やリチウムの需要は世界で上がっています。こうしたグリーンフレーションの状況が、2050年に向けて顕在化してくる可能性は否定できません。

そうしたことを含め、脱炭素が生半可なものではないことが鮮明になってくるのが2022年。金利が上がり、衰退産業もはっきりしてくる。それらの動向は人々の不安につながり、民主主義国家では、脱炭素に背を向ける政策が選挙で票を集めるかもしれません。そうすると、脱炭素の流れにブレーキがかかることも予測されるわけです。

木村 ゲームチェンジが起こる一方で、これまでの資本主義のメカニズムは働き続ける。国や企業のさまざまな思惑がより複雑に絡まり、脱炭素は生半可ではないということですね。

足達 そうした状況を象徴する写真がこれ。台風の黒い雲の中に突っ込んで行く飛行機の中から撮影したものです。

脱炭素を目的地の空港になぞらえると、出発地に戻る燃料はもうなくて、空港にたどり着くしかない状況。でも目の前には悪天候が待ち構えている。乱気流に巻き込まれ、客室からは「もう耐えられない、出発地に戻れ」という声が聞こえてくる中、パイロットがやるべきことは、脱炭素という目的地に向けて高度や角度、速度を正確に舵取りして着陸すること。勝手なシナリオですが(笑)。
(出所) “A VERY bad trip -3: Typhoon clouds over Hong Kong, 17.50 5 October 2008 by In Memoriam” 作者:PhillipS is licensed under CC BY 2.0

木村 企業や国家、あるいは国際社会全体に、この比喩は当てはまりそうですね。

足達 エゴとエゴのぶつかり合いになってくるがゆえに、これから話題に挙げるダイバーシティ&インクルージョンが重要になってきます!

足達 日本ではD&Iと言うとジェンダー平等と捉えられることが多いですが、国際的にはもっと幅広い概念を含んでいます。9月の国連総会でグテーレス事務総長は「世界はかつてないほどの脅威にさらされています。また、かつてないほど分断されています」とスピーチをしました。「不信と誤情報の急増が、人々を対立させ、社会を麻痺させています」(*1)とまで形容しました。違う意見があることを認めた上でどうやって合意をつくるか、その能力がわれわれひとりひとりに試されていると言えると思います。
D&Iで、国際的に目指すべき方向は、以下の6つの分断を解消する必要であることは明らかです。

まずは、「政治の分断」。政治的に立場が違うからといって批判し合っているだけでは前には進みません。
次は「気候の分断」。先述の脱炭素とも関わりますが、現在の経済活動を考えると、脱炭素で割を食う産業、脱炭素で機会を掴み成長する産業の2通りがあり、産業構造の転換をどう実現していくかが大きな課題です。
それから「貧富の格差」が日本国内でも広がっています。そして#Don’t Be Silentでも述べたように、「ジェンダーの分断」問題もまだまだあります。さらに「デジタル格差」。インターネットの中に飛び交う誤情報に対するリテラシーの格差もあれば、そもそもデジタル情報に経済的な理由などでアクセスできない人もいます。これらが今後の大きなテーマになってくると思っています。
そして重要なのが「世代間の分断」です。2050年までの道のりは、将来を担う世代にとっては大問題です。COP26では、2003年生まれのグレタ・トゥンベリさんの姿が印象的でしたし、日本から参加した高校生も岸田首相に手紙を渡すなど、私たちの世代とは違う目線で自分たちの未来を考え行動していました。年嵩のいった我々と今の若い人たちがある合意をつくって進めていかなければならないと思います。

そのためには、傾聴ですね。「時間がかかる会議はダメ」という言説は、もう通用しません。ものすごく時間がかかることですが、その先に豊かな未来が待っていると信じ、耳を傾け、対話を重ねる! 
(出所) "Multiethnic Diverse People in a Circle Holding Hands" 作者: Helge V. Keitel is licensed under CC BY 2.0

木村 「ステークホルダー資本主義」は、2年前の世界経済フォーラムでセールスフォース社のマーク・ベニオフ氏が掲げた言葉です。多様な価値観がある中で、新自由主義からどのように社会システムが変わり、移行できるのか……。そこが重要なポイントだと私も強く関心を寄せています。

足達 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」では、成長と分配がクローズアップされています。これもたいへん重要ですが、課題はそれだけではありません。SDGs17の目標を3層構造に表現した「SDGsウエディングケーキ」というのがあります。スウェーデンの学者ヨハン・ロックストローム博士が提唱するもので、第一階層は生物圏、第二階層は人間社会、一番上が経済に関する目標の三層構造です。重要なのは、健全な生物圏と人間社会なくしては、健全な経済は成り立たないということです。

パンデミックを例に挙げると、いかに経済で頑張ろうとしても、2階部分の人間社会、人々の健康が損なわれれば、経済はまわらないことがはっきりしました。また、生物圏や地球環境がおかしくなると、いくら経済をまわそうとしても、たちゆかなくなります。生物圏、人間社会をベースとした健全な経済圏に変えていかなければならないということです。
(出所) Azote Images for Stockholm Resilience Centre, Stockholm University をもとに一部を翻訳して作成

木村 これまでESGは経済合理性がないという認識だったのが、先ほどのERISA法改正提案など、人間社会や自然資本に配慮をした経済活動へ転換が起こりつつあるという状況でしょうか。

足達 新しい資本主義に向けた予兆が起きていると思います。例えば、最近は企業内部で事業部毎にカーボンプライスを計上するなど、負の外部性を数値化しコストとして経常する試みもあります。

また、世界的には上場企業の数が減っている。これは、M&Aの影響もありますが、自社のパーパスを完遂するために、「儲けろ」という株主からのプレッシャーを受けないようにする志向が高まっている現れだとも言えます。スタートアップの「ユニコーン企業」が注目を集めていますが、強くどんどんと成長していく「ユニコーン」に対して、最近は“草食動物”の名を冠した「ゼブラ企業」という言葉もあります。これはサステナビリティや共存を重視した企業を指します。アメリカでは、BE-COOP(ベネフィット・コーポレーション)と言って、よき企業を認定する動きがあったり、日本でもクラウドファンディングに対する期待も高まっていたり、株主と企業の関係が変化していると感じます。

木村 これまでの企業活動は、低コストの非財務資本を無限に使って経済合理性を追う方向でしたが、非財務資本を守りながら持続可能性を追求する企業の体制や社会システムが徐々に整いつつあるということでしょうか。

足達 そうですね。まだまだ芽生えでしかないと思いますが、こう言うものをどれだけ育てていけるのかがカギだと思います。

足達 今日は3つのトレンドを掲げてみました。

脱炭素は、目前のことだけ重視するとなかなか進みません。自分たちの創造力が慣性力をいかに超えることができるか……。それに挑戦することが、今後のトレンドに合致していくための肝になると思います。D&Iに関しては、違いを乗り越えてだれも置き去りにしないための合意をつくる能力が大事になります。そして最後のステークホルダー資本主義に関して言うと、国連のグテーレス事務総長の言葉ですが「私たちが生み出した問題は、私たちが解決できる問題」(*1)だと、希望を持つことですね。

企業にとっては、息が詰まる感覚があるかもしれません。金融機関はそれに対して、できるだけ長期目線で語り、資金を誘導し、企業にエンゲージメントをしていく必要があると思います。政府も、現在と将来を見据えて、政府支出によって経済のバランスを整えていくことができます。

消費者も、長く使えるものや世の中に害がないものなど、高くても価値のあるものにお金を使っていく。つまり企業だけで頑張ってできるものではないので、社会全体の仕組みを変えるという意味で新しい資本主義が必要になっていくのではないでしょうか。

木村 一朝一夕には答えが見えない社会課題も多いので、GGPでは多くの方々と一緒に学び、答えを模索し続けたいと思います。そのための情報提供やコミュニティ形成の機会をつくる活動を継続していきます。そこから実証実験や検討会の立ち上げなどのアクションにつなげ、サステナブルな事業や企業連携が生むことを目指しています。

1:和訳は国際連合広報センターより引用

株式会社日本総合研究所 常務理事 未来社会価値研究所長 足達 英一郎
民間シンクタンクを経て、1990年に(株)日本総合研究所に入社。経営戦略研究部、技術研究部などを経て、2021年から社内組織である未来社会価値研究所長。専門は、環境経営、企業の社会的責任、サステナブルファイナンス。2005年03月~2009年05月には、ISO26000作業部会日本国エクスパートとして「組織の社会的責任に関する国際規格」の策定に携わる。現在、ISO/TC322(サステナブルファイナンス)ならびにISO32210(サステナブルファイナンスの原則と手引に関する国際規格)作業部会の日本国エクスパート、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」メンバー、(株)三井住友フィナンシャルグループ取締役会サステナビリティ委員会委員なども務める。共著書に『環境経営入門』(日本経済新聞出版社)、『自然資本入門』(NTT出版)、『投資家と企業のためのESG読本』(日経BP社)、『ビジネスパーソンのためのSDGsの教科書』(日経BP社)など多数。

  • TOPに戻る