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2022.07.20 wed

市民参加によるウェルビーイングなまちづくり——共創のために必要なことは?

2022年2月8日、デンマークと日本の市民参加型のまちづくりの事例を紹介するトークイベント「ユーザー中心のスマートシティ」を開催しました。

近年、デンマークやイギリスなどの都市で実践されている「スマートシティ」。都市や地域の抱える課題を、ICT技術やデータの活用によって改善・解消していく、持続可能なまちのあり方です。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに急速に進展したデジタル化の潮流に後押しされ、日本でも行政サービスのDX化など検討が進められてはじまっています。
一方で、利便性や効率化のために技術を導入することばかりが先行し、それを利用する市民(ユーザー)のニーズが置き去りになってしまっては、暮らしの充実にはつながっていきません。街のスマート化、デジタル基盤の充実は、データを起点としたまちづくりやオンラインでの見識の共有など、市民のまちづくりへの参画を可能にします。市民自身がスマートシティをつくる主体として、民主的なまちづくりを可能にしてくれるのです。

イベントのゲストは、スマートシティ先進都市デンマークで研究を行なうロスキレ大学准教授・北欧研究所代表の安岡美佳氏と、「わたしから始める、スマートシティ」を掲げて、市民、行政、企業をつないだネットワーク型のまちづくりチャレンジ「Make our City」を推進する一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事の関治之氏。
デンマークと日本、それぞれのスマートシティの実践例から、まちづくりへの市民参加の手法に焦点をあて、レポートします。

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北欧研究所 安岡氏(左)、コードフォージャパン 関氏(右)

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Session1

まちづくりに市民参加を促す3つのしくみ
北欧研究所 代表 安岡 美佳

Session2

市民がフラットにまちづくりに参加できるための環境をつくる
一般社団法人コードフォージャパン代表理事 関 治之

Panel

discussion

北欧研究所代表 安岡 美佳
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事 関 治之
三井住友フィナンシャルグループ 企画部 サステナビリティ推進室室長代理 木村 智行
株式会社ロフトワーク 執行役員 兼 イノベーションメーカー 棚橋 弘季

まずはじめに、デンマークで北欧のスマートシティ研究を行う安岡氏から、市民が主体となって始まり、継続しているユーザー中心のスマートシティプロジェクトについて、お話いただきました。

デンマークのスマートシティの特徴は「市民の共創によるまちづくり」を実践している点にあるといいます。その例として、コペンハーゲンの自転車専用道の事例を紹介いただきました。
コペンハーゲンではCO2排出量削減の一環で街中の移動を自動車から自転車移動へと転換していくにあたり、道路上にセンサーを設置。混雑エリアや時間帯などのデータを計測し、データをもとに専用道整備などの都市計画を検討していきました。
さらに、自転車道の利用状況は街中の電子掲示板などを通じて市民にもリアルタイムに共有。自転車ユーザーが、混雑緩和や環境改善に貢献している実感を持てるようデザインされているそう。「みんな、楽しいからまちづくりに参加しているという状態ができている」と安岡氏はその成功要因を語ります。

デンマークでは、行政サービスをはじめ、生活のインフラがすでにデジタル化されており、収集されたオープンデータやサービスに行政、民間、市民の誰もがアクセスしやすい環境が整えられています。
そうしたデジタル基盤があることに加え、市民参画をサポートする仕組みが共創型のスマートシティプロジェクトを可能にしています。その仕組みの代表例3つをご紹介いただきました。

「デンマークには、市民が主体となって行動を起こすための最初の起点となり、共創を促す“フォイーニング”という仕組みがある」と安岡氏は言います。フォイーニングとは、目的を持った5人以上の人が公的な組織として活動するための枠組みです。
設立における認可や手続きのハードルが低いこと、活動内容を外部に開示する必要があること、法人格の所有やファンド申請・公共施設の利用などが可能になることで、市民中心のあらゆる活動につながっています。デンマークではこの仕組みを活用し、サッカークラブや音楽教室、政治団体や宗教団体など、ありとあらゆることが行われています。「フォイーニングは、一人の熱意ある人だけでは始められません。周囲を説得するための論理や理由づけ、多様な人との協力が必要です。環境問題などの社会課題へのアプローチや、町内会主体のまちづくりが、フォイーニングを活用して行われています」(安岡氏)

北欧にはたくさんの国や民間企業が提供するファンドがあり、市民が主体となるスマートシティの多くの事例で活用されています。
「フォイーニングでは、比較的簡単にファンドの申請ができます。数十万円の少額ではあるものの、このファンドを用いて、アートやスポーツなど多彩なイベントを市民が開催し、人が集まる場づくりにつながっています。人が集まると、さらに新しいアクティビティが生まれるという、ファンドを軸とした循環が回るようになっています」(安岡氏)。
たとえば「ロスキレ・フェスティバル」という市民が主導となってつくられた野外音楽フェスは、ファンドを使って1971年から今に至るまで、毎年開催されています。フェスティバルの前後1カ月ほど、参加する人たちが周辺でキャンプをして13万人ほどの一時的な都市となることもあります。その一時的な都市を利用して、最新技術やテクノロジーを試す実証実験の場としても機能しています。

(C) Oliver Foerstner

ダオスオーデンは、議論のためのテンプレートで、フォイーニングでもよく用いられるものです。ミーティングの前日などに議題がメールで共有されます。ミーティングが開始される際には、議長と書記を選び、皆で事前に議題を確認し、追加したいことがあれば誰でも追加することができるというテンプレートです。
「ダオスオーデンがあることで、オープンで平等性が担保される議論が行われています。このテンプレートがあることで、一人ひとりが平等な立場で議論に参加でき、一部の人の意見だけが通る会議になることもない。デンマークでは、このダオスオーデンが慣習として社会に根付き、日常生活にも組み込まれています」(安岡氏)
ダオスオーデンはもちろんフォイーニングの運営におけるミーティングでも活用されています。フォイーニング活動の議事案は、公開されますので、密室での決定は見られません。フォイーニングは、誰か一人のための活動にならず、ファンドで得た資金の公正な運用を保つことにも繋がっています。

デンマークでは、市民参画の機会が公平かつオープンに開かれており、市民の活動を支援する仕組みが運用されています。単に技術を導入するというだけでなく、まちの利用者である市民がまちづくりに積極的に参加するための土壌づくりこそがデンマークのスマートシティ成功の理由なのかもしれません。

市民が主体となり、地域課題解決に取り組むコミュニティづくりの支援や、テクノロジーを活用したアクションを創発する活動を支援している一般社団法人コード・フォー・ジャパン。
代表理事の関氏からは、「わたしから始める、スマートシティ」をコンセプトに掲げて市民、行政、企業をつなぐネットワーク型のまちづくりを推進する「Make our Cityプロジェクト」についてお話いただきました。
Make our Cityプロジェクトでは全国各地で都市に関わる一人一人の「やりたい!」を実現するためのリビングラボ1として、次の5つを大切にしながら市民の意見を社会実装につなげているといいます。

・誰もがオープンに参加する
・世代を超えてみんなでつくる
・小さく始めて、大きく育てる
・ナレッジはグローバルに、実践はローカルに
・オンライン、オフラインを上手に使う

「企画立案は誰でも可能。必要なプレイヤーを集めてチームを組成したら、プロトタイプを素早くつくり、なるべく多くの人たちでオープンに議論する。このプロセスを何度も回すことで、素早く社会実装につなげていこうとしています」(関氏)

※1 リビングラボとは、「Living(生活空間)」と「Lab(実験場所)」を組み合わせた造語で、研究開発の場を人々の生活空間の近くに置き、生活者視点に立ったサービス・商品を生み出す場のこと。

提供:Make our City

アイディアを実装につなげるため、Make our Cityでは市民の共創や、共創のファシリテーションをサポートするツール、また議論に参加するためのプラットフォームの提供、オープンソースの都市OS※2を用意しています。
様々な地域で、人々がそのまち独自のコンテキストを大切にしながら、みんなでフラットに議論できるための環境を提供しています。

現在Make our Cityプロジェクトでは、3つの実証実験プロジェクトが進行しています。

※2 都市OSとは、その都市にあるエネルギーや交通機関をはじめ、医療、金融、通信、教育などの膨大なデータを集積・分析し、それらを活用するために自治体や企業、研究機関などが連携するためのプラットフォームのこと。

バルセロナで生まれたオープンソースのツールであるDecidim※3は、市民が誰でも参加できるオンラインプラットフォームツールです。戦略立案・住民参加型計画立案・討論・参加型予算編成・署名活動や市民相談受付・コミュニケーションなどを行うことができます。
Code for Japanでは、このDecidimを日本向けにローカライズして、2020年10月から兵庫県加古川市に導入。加古川市では、ウォーカブルなまちづくりやゴミのポイ捨てなどのアイデアについての議論に使われています。スマートフォンから隙間時間にコメントできるなど参加のハードルが低いことで、より多くの市民が主体的に参加できるようにしました。
「まずは議論に参加することが市民参加の最初のステップ」と関氏は言います。

提供:Decidim

※3 Decidimは「市民参加のためのデジタルプラットフォーム」。オンラインで多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結びつけていくための機能を有している参加型民主主義プロジェクトのためのオンラインツール。バルセロナやヘルシンキなどで使われている、「Decidim(デシディム)」というツールを一般社団法人コード・フォー・ジャパンが中心となり、日本語化を行ったもので、世界中の30を超える自治体で利用されており、日本国内では加古川市が初めての導入となる。https://decidim.org/ja/

Code for Japanはスマートシティの拡大と高度化を進めている一般社団法人スマートシティ・インスティテュートと共同で、Liveability & Well-Being City Indexを研究しています。
「幸福指標」と、オープンデータをもとに算出した「住みやすさの指標」の掛け合わせによって開発が進められている、幸福感を測る新たな指標です。安全・安心、居住空間、教育機会、雇用と収入などの12のカテゴリーにおける客観指標と、生活の利便性、快適な暮らし、街の活力など8のカテゴリーの主観的アンケートをもとにデータを集め、各都市の傾向や状態を測ることができます。指標に基づいて、自分の街と他の街を比較することで、街の特徴を知り課題を理解することもできます。
「街の住みやすさ、幸福度についての指標を議論のたたき台とすることで、目指す街の解像度を上げることができます」(関氏)

Make our City OSは、EUでデファクトスタンダードになっているオープンソースのFIWAREをベースに日本向けにローカライズしたデータ連携基盤です。
「自治体ごとにバラバラにスマートシティを進めると、お金のある自治体しか進めることができないという課題もある」と関氏。
Make our Cityでは、このOSを用いて自治体間の相互運用性を重視した、公共財としてのプラットフォームとして開発を進めることで、多くの自治体が財政状況にかかわらず、スマートシティ化に取り組めるようにしています。

棚橋 お二人の話を聞いて、ロフトワークで取り組んでいるまちづくりを思い出しました。自治体や企業の方も参加するプロジェクトの中でも、まちづくりのつくり手が育つ、チャレンジできる場を大事にしようという議論になっています。チャレンジしたい人たちが外から街に入ってくることで、街の関係人口も増えて、にぎわいも生まれる流れをつくりたいという話になることが多いんです。

安岡 デンマークでは、街中の旧工場地帯がチャレンジできる場として使われています。始めは2年ぐらいのプロジェクトなのですが、うまくいけばもっと長く使われるようになる。そういうことが外にも伝わっていくので、チャレンジしたいとか新しいことをしたい人が、確実に集まるようになっています。うまい関係人口の作り方なのかもしれないですね。

木村 安岡さんも関さんも「オープンであることが大事」とおっしゃっていましたが、それはなぜでしょうか?いろいろな人がコミュニティにアクセスできるようにしておく利点を教えてください。

 オープンじゃないと新陳代謝が生まれないので、だんだんとコミュニティが澱んでいくんですよね。人の入れ替わりがなく固定化すると、活動が広がっていかないように感じています。ウェルビーイングの話でも「弱い紐帯※4がたくさんあるほうがいい」という話があって。これまでの日本人は、そこから弾き出されると一気に不幸になるような、強い紐帯の中で生きてきた。でも、それが液状化しつつある中で、弱い紐帯を作り直す必要があると思うんです。その点、ヨーロッパにはカルチャー面でのつながりがたくさんありますよね。

※4 「弱い紐帯の強さ」とは、1973年にスタンフォード大学のマーク・S.グラノヴェターが、“The Strength of Weak Ties”という論文で発表した社会ネットワークの概念。価値ある情報の伝達やイノベーションの創出のためには、家族や親友、同じ職場の仲間などの強いネットワーク(強い紐帯)よりも、「ちょっとした知り合い」や「知人の知人」のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要であるとした社会ネットワーク理論。https://snap.stanford.edu/class/cs224w-readings/granovetter73weakties.pdf

安岡 デンマークではコミュニティの異なる人同士が関わるきっかけとなるものが街に埋め込まれています。コロナの時に感じたんですけど、ヨーロッパ、特にコペンハーゲンでは、外に出る、街を歩くことをすごく促しているまちづくりをしているんですね。ベンチがあちこちにあるし。小さなカフェもたくさんあるので、通りを歩いていても、人と話をする機会を与えてくれる。また、通りにいろんな彫像が置かれていたり、お店のウィンドウが見て楽しいものになっていたりもする。そもそも街が車中心ではなく、歩行者を中心としたつくりになっているので、外に出たくなるんですよね。街のなかで、人がいろんなコミュニティに接する機会が埋め込まれているのです。

棚橋 スマートシティというと、テクノロジーやデジタルに話が行きがちなんですが、本当に人がお互いに何かを一緒にやる時って、やっぱり街そのものの工夫も大切なんだろうなと。人が何をやっているか、見える状態になっていることが大事だなと思います。

棚橋 市民参加のまちづくりを進める上で、デンマークにはフォイーニングやダオスオーデンのような共創を促す仕組みがあることが、日本との大きな違いだと思いました。そもそも、デンマークでは、なぜ共創が重視されるのでしょうか?

安岡 デンマークは小さな国ですからね。何かをやろうと思ったら、他のところから人を連れて来ないとアクションにつながらないという話は、よく耳にします。それに「イノベーションは分野の境目で起こる」と学術的に証明されているので、意識的に実践していることも考えられる。「たとえば、研究ファンドに申請するときには、必ず地方自治体やローカル企業を入れなければならない」という規定があるのも、秀逸な制度設計だと思います。とはいえ、全員が全員共創に参加しているわけじゃないんですよ。そこは日本もデンマークもそんなに大差ないと思います。

 「変えたい」という想いのある人が手を挙げて、チャレンジできる場があることが大切ですよね。変化を苦手とする日本では「そんなの無理だよ」と意見をつぶされることも多いので、小さなことでもポジティブにチャレンジできる“心理的安全性”が担保された場づくりが、より求められるのだと思います。何のためのスマートシティか。今日のテーマでもあるウェルビーイングのためだと思うんですよね。そのためにツールを使う、データを使うことが大切だと。

木村 スマートシティプロジェクトを行う上で、企業が市民や行政とどう共創して進めることができるかは、課題もありつつ、とても重要なポイントとなりますね。

 とても重要だと思います。デジタル田園都市国家構想として行う企業のプロジェクトでも、地域の人をどう巻き込んで一緒につくっていくのか、共助の領域をどうつくるかが、持続的なまちづくりには重要だと思います。

動画再生時間:約91分

00:01:37 GGP紹介
00:03:52 イベント本編開始

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