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世界に広がるサステナブルファイナンスの潮流

Date: 2020.07.17 FRI

  • #グローバル動向

  • #気候変動

  • #ESG投資・開示

金融の流れをシフトすることによって持続可能な社会づくりを加速する「サステナブルファイナンス」への注目が高まっている。世界の動向および日本におけるサステナブルファイナンスの事例を紹介する。

持続可能な社会づくりに向けて“血の通った資金”を流す

「お金に色は付いていない」という言葉があるが、今、世界では “グリーン”を筆頭に、“ソーシャル”や“サステナビリティ” 等、色の付いたお金を流通させて持続可能な社会づくりにつなげようとするムーブメントが起こっている。この持続可能な社会づくりを目指す資金の流れは「サステナブルファイナンス」と呼ばれている。

持続可能な社会づくりに向けた資金といえば、かつては行政からの資金が主役だった。しかし、地球規模の気候変動が現実のものとなり、気象災害の頻発、貧困、健康、経済格差等の社会的課題がグローバルに広がる中、行政からの資金だけではこれらを解決できないことは明白であり、いかにして民間の資金を社会的課題の解決に流せるかが、国際的な関心となっていた。

こうした社会課題の解決に向けて強い姿勢を見せたのが、故コフィ・アナン元国連事務総長だ。アナン氏は、2006年に開催された世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」で「機関投資家らの意思決定プロセスにESG課題(E:環境、S:社会、G:企業統治)を受託者責任の範囲内で反映させるべき」との主張を示し、サステナブルファイナンスの流れを生むきっかけとなる国際イニシアティブ「責任投資原則(PRI※1)」を発足させた。PRIは、以下の6つの原則で構成されている。

  1. 私たちは投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
  2. 私たちは活動的な(株式)所有者になり、(株式の)所有方針と(株式の)所有慣習にESG問題を組み入れます。
  3. 私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
  4. 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
  5. 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
  6. 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。

PRIは100機関の署名を得て運用資産総額6.5兆ドルでスタートしたが、2019年3月時点では署名機関数は2,200を超え、うちアセットオーナーの運用資産総額は約20兆ドルまで増加している。

このESG投資の流れは、その後世界に広がり、2012年には国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)主導で「持続可能な保険原則(PSI※2)」が提唱され、2014年には国際開発金融機関と民間金融機関により共同で「グリーンボンド原則(GBP)」が作成された。

2015年9月には国連総会でSDGsの17ゴールを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、同年12月に第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」が結ばれた。一方で、2015年には、金融安定理事会(FSB)が、気候変動が金融システムに与える脅威の可能性について警鐘を鳴らし始め、パリ協定とときを同じくして、情報開示の枠組みづくりが発表された。これにより、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が設立されている。

2019年9月22日には、132の署名機関の賛同のもとに「責任銀行原則(PRB※3)」が発足し、銀行自らが価値創造を行う過程で環境・社会や経済に実質的な貢献をすることの重要性が示された。こうした動きはサステナブルファイナンスへの取組を加速させている。

サステナブルファイナンスを牽引するEUの動き

EUは、有害化学物質や、企業の環境情報の開示等の「規制」を通じ、世界の産業界に影響を及ぼしてきた。サステナブルファイナンスにおいても、その潮流を牽引するという意図を明確にしている。EUは、2016年12月22日にサステナブルファイナンスについて検討するハイレベル専門家グループ(HLEG)を設置し、2018年1月31日には「サステナブルとは何か」を明確にする「サステナビリティ・タクソノミー」の策定、サステナビリティに関する投資家の義務の明確化、個人投資家への浸透、EUグリーンボンド基準の策定等、意欲的な提言を盛り込んだ最終報告書を公開した。

この最終報告書を受け、2018年3月8日に発表されたのが「サステナブルファイナンスに関するアクションプラン」である。アクションプランでは、以下の3つの目的が示された。

  1. 持続可能かつインクルーシブ(包括的)な成長を遂げるため、資本の流れを持続可能な投資に向けさせること
  2. 気候変動、環境劣化および社会的課題に起因する金融リスクをコントロールすること
  3. 財務および経済活動において、透明性と長期的視野を育むこと

2019年6月には、最終報告書に示された「サステナビリティ・タクソノミー」を基に、欧州委員会の技術専門委員会が策定した400ページを超える「EUタクソノミーに関する技術報告書」が公表された。EUタクソノミーは、以下の環境目標のうち少なくともひとつの環境目標の達成に貢献し、一方でほかの目標を著しく害するものではないことが、持続可能な投資対象の条件になると定めた。

  • 気候変動の緩和
  • 気候変動への適応
  • 水・海洋資源の持続可能な利用と保護
  • 廃棄物発生の予防と再生資源の利用促進等、循環型経済への移行
  • 汚染の予防と管理
  • 生物多様性および生態系の保全と回復

EUタクソノミーは、今後、加盟国の常駐代表委員会(COREPER)での審議に移り、それが通れば欧州議会、EU理事会での正式な立法プロセスに入ることになる。

さらに、欧州委員会は2019年12月、2050年までに欧州が世界に先駆けて気候中立を達成することを目指した包括的な政策案「欧州グリーンディール」を発表した。同委員会は、気候中立目標を法制化すべく100日以内に欧州気候法案を提示し、2030年までの温室効果ガス削減目標を引き上げるための作業に着手するとしている。同時に、これらの目標を達成する上で推計年2,600億ユーロの追加投資が必要と試算し、持続可能な投資計画やグリーンファイナンス戦略といった資金調達手段も示された。

ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は「欧州グリーンディールは、欧州の新たな成長戦略だ。温室効果ガスの排出を減らすと同時に、雇用を創出して生活の質を引き上げる。運輸、税制、食や農業、産業からインフラまでEUの政策すべてを『緑の糸』でつなげる」と語っている。

このように欧州が先導するサステナブルファイナンスのムーブメントは、今、地球規模に拡大しており、2018年時点で世界のESG投資額は2016年度対比で34%も拡大し30.7兆ドル(約3,300兆円)となり、ファイナンスの主流として認識されるようになった。

欧州グリーンディールの概要

日本国内に目を転じると、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による提言を受けて、気候関連財務情報に関する開示を投資判断につなげる取組について議論するTCFDコンソーシアムが、2019年5月に発足。また、経済産業省もTCFD提言に取り組む世界の企業や金融機関等のリーダーを集めた「TCFDサミット」を同年10月開催し、この流れを後押ししている。こうした動向を受け2019年12月時点で、日本のTCFD賛同機関は207機関となった。わが国ではTCFD提言に呼応する情報開示において、「気候変動対応に積極的な企業に資金が流れるためには、気候変動リスクの高い業種から資金を引き揚げるアプローチ(ダイベストメント)ではなく、エンゲージメントを通じて企業価値を向上し、その結果が投資リターンに還元されていくことが重要である」「気候変動を巡る投資・金融に関しては、従来、気候変動リスクへの対応に重点が置かれてきたが、非連続なイノベーションに向けた取組等にリスクマネーを供給するためには、オポチュニティ(事業機会)の評価等、アップサイドに目を向けていくことが必要である」等の意見がある。

国内のサステナブルファイナンス市場は2018年にESG投資残高が231兆円となる等、大幅に拡大している。特にグリーンボンドは2016年から2017年にかけて発行額が前年比204%と急増しており、2018年には発行額が5,000億円を超えた。グリーンボンド発行体の多くは、経営計画に環境・社会に配慮したサステナビリティを目指す方針を掲げており、これに基づく環境配慮型事業計画の一環として発行するケースが多いとされている。

グリーンボンドを発行して建設した総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」

国内事例としては、2018年10月にエアラインで世界初となるグリーンボンドを発行し、2019年5月にも一般事業会社として国内で初めてソーシャルボンドを発行したANAホールディングス株式会社の案件が知られている。

ANAホールディングスは2018年2月に策定した「2018-2022年度ANAグループ中期経営戦略」において、経営の重要課題として「環境」「人権」「ダイバーシティ&インクルージョン」「地域創生」の4項目を掲げ、これらに適切に対応して「社会的価値」と「経済的価値」を同時に創出し、企業価値の向上を図るという方針を打ち出した。さらに、SDGs達成に貢献していくことは、グローバルな事業を展開する同社グループにとっての責務であるとの考え方を示している。

グリーンボンドを発行して建設した総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」

発行したグリーンボンドは、新設した総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」の建設資金に全額充てられた。「ANA Blue Base」は太陽光発電、LED照明、高断熱 ・高気密、屋上緑化、自然換気等、環境に配慮した建物だ。ANAホールディングスは、同施設における訓練等を通じて、経営の基盤である「安全」の堅持と、品質・サービスの源泉となる「人財」の育成に取り組み、これを基礎としてボーイング787型機やエアバスA320neo/A321neo型機等の省燃費機材の積極導入を継続し、世界の「環境リーディング・エアライングループ」を目指すと、グリーンボンド活用の目的を発表している。

また、ソーシャルボンドを発行する目的のひとつは、利用者に「ユニバーサルなサービス」を提供することとしており、具体的にはWebサイトを国際標準のW3Cのアクセシビリティ・ガイドラインに適合したものにする改修や、車いす利用者等を念頭に置いた国内空港施設・設備の改修に充当すると発表されている。

ANAホールディングスは、グリーンボンド、ソーシャルボンドを発行した目的を「ステークホルダーの皆さまに、当社グループがサステナビリティや環境を始めとする社会的な課題に取り組んでいることを知っていただく」「ESG投資に関心の高い投資家に訴求し、投資家層を拡大する」ことにあるとしている。

日本のサステナブルファイナンス市場を拡大するには、銀行融資等の間接金融のグリーン化が必要との指摘がなされている。その理由は、日本企業の資金調達は間接金融比率が高いからだ。日本銀行の「資金循環統計(2018年12月末時点)」によれば、日本企業の資金調達は借入が42%を占めており、株式と債券は合わせて25%にすぎない。つまり、間接金融にもサステナブルファイナンスを持ち込まなければ、日本全体での拡大とはいえないのだ。

間接金融にサステナブルなフレームを持ち込む方法のひとつとして、世界では「グリーンローン原則」といったスタンダードができている。資金使途を環境面に配慮した事業に限定し、事業が生み出す好影響について、外部評価機関からのセカンドオピニオンやインパクトレポートが提供されるといった特徴がある。

インパクトレポートの開示により、調達企業は本業における社会や環境、SDGsへの貢献を説明することが可能となり、これが、銀行にとどまらずESG投資家との対話につながることが大きなメリットとなる。たとえば三井住友銀行では、環境に加え、SDGsが示すような貧困や健康、教育等の社会的課題の解決に貢献する事業を対象とした「SDGsローン」を開発している。

株式会社エノモト ホームページ

山梨県上野原市に本社を置く精密機械部品メーカーの株式会社エノモトは、世界的な自動車メーカーやIT企業との取引額が大きいことと、サプライチェーンの一角を担う企業であるため、以前から環境経営を強く意識していたが、投資家や取引先に環境への配慮をどうやって説明していいのかわからないという問題を抱えていた。

この課題を解決するために同社が活用したのが、サステナブルファイナンスである。同社が研究開発していた技術は、水素燃料電池の製造コストを押し上げているセパレータと、ガス拡散層を一体化することで安価かつ高性能な水素燃料電池の開発を可能とするものであり、その普及は水素社会の実現に大きく貢献することから、サステナブルなローンの要件に合うとして調達が実行された。

その後に開催された決算説明会では、初めて投資家から「御社のSDGsへの取組や考え方を聞かせてほしい」といった前向きな質問が出る等、投資家との対話が始まり、同社経営層は環境経営に注力することが事業成長の原動力になると、身をもって実感する機会になったと喜びを表す。

もうひとつの事例は、臨床検査の受託および検査試薬の製造を中心に事業を展開するみらかホールディングス株式会社だ。同社は、最先端の検査ラボ設立に伴う機器・ITシステムの導入および検査の質の向上と革新的な技術開発に向けた研究開発を行うにあたり、ソーシャルローンとソーシャルボンドを組み合わせて資金を調達することにした。同社が立ち上げる施設は、高品質な検査を低コストで提供することを目指しており、少子高齢化を背景とした医療費抑制の要請等の社会課題解決につながると評価されたことが、サステナブルファイナンスによる調達につながった。

同社が発行したソーシャルボンドについては、発行予定金額に対し投資家の応募倍率が約2倍となり、新顔のESG投資家も多数応募するという今までにない効果が生まれた。中長期で対話を重視するESG投資家が増えたことに関して、同社CFOは、ソーシャルファイナンスのフレームワークを活用した資金調達による会社の知名度向上および将来の資金調達へのプラスの効果に対して大きな手応えを感じた、と話す。

サステナブルでない投資から撤退するダイベストメントも増加傾向

サステナブルファイナンスでは、資金を「どこに投じるか」という判断においてサステナビリティが重視される。「どこに投じるか」は、同時に「どこに投じないか」という議論も生む。欧州を中心に、「ここには投資しない」とするダイベストメント(投資撤退)の動きも目立ち始めた。

こうした判断の基礎として活用されるのが、先に述べたタクソノミーだ。EUの影響を受けて、独自にタクソノミーをつくる国も出始めている。これからの流れとして、「サステナビリティに貢献する事業を行うために、サステナブルファイナンスで資金を調達しよう」という企業の意欲も高まるだろう。サステナブルファイナンスで資金を調達する側も、供給する側も、タクソノミーを参照する時代が来るかもしれない。欧州を中心とした中央銀行、年金基金、保険会社、民間銀行等の動きはますます見逃せないものとなるだろう。

国内でも、世界の流れを注視しながら、資金使途の明確な「色の付いたお金」を流通させることで持続可能な社会づくりにつなげる取組が広がっていくであろう。

※1 PRI:Principles for Responsible Investment
※2 PSI:Principles for Sustainable Insurance
※3 PRB:Principles for Responsible Banking


取材協力

  • 三井住友銀行、三井住友ファイナンス&リース

コラム:リース取引が社会課題の解決につながる「SDGsリース」

三井住友ファイナンス&リースは、2019年12月に国内初のSDGsリース「みらい2030TM」の取扱を開始した。同リースには寄付型と評価型の2種類がある。

「みらい2030TM(寄付型)」は、リース取引の対象機器に対する制約はないため、そこだけ見ると一般的なリース取引との違いはない。ポイントはリース料総額の0.1%をSDGsに貢献する団体へ寄付することにある。現時点(2020年2月)では、貧困等の困難な環境にある子どもたち(小学生から高校生世代まで)を対象に学習支援を行うNPO法人キッズドアが寄付先に認定されている。つまり、「みらい2030TM(寄付型)」を契約するだけで、自動的に「貧困」および「教育」というSDGsのゴールに貢献できることになる。

「みらい2030TM」が優れている点は、「寄付金がどのように使われるのか」「SDGsの目標達成にどう貢献したのか」を寄付前と寄付後(1年後)に評価機関(日本総合研究所)が分析・評価し、「SDGs評価貢献報告書」が提供されることにある。

「みらい2030TM(評価型)」は、リースの対象を再生エネルギー発電設備や省エネ機器等に限定した商品だ。このタイプも第三者機関(日本総合研究所)による評価書が組み込まれており、顧客企業は、環境関連設備をリースしたことで、どの程度CO2削減等に貢献したのかを示す客観的な評価書を受け取ることができる。また、リース取引に直接関連性のないSDGsの取組についても、日本総合研究所により本業との関連を加味された上で評価書に盛り込まれる。

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