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「トレーサビリティ」で目指す、洋服の大量消費からの脱却

Date: 2024.12.19 THU

  • #ソーシャル

  • #ESG投資・開示

  • #グローバル動向

ファストファッション、ウルトラファストファッションの台頭により、服の大量廃棄が問題視されています。

消費者庁による2021年度サステナブルファッション消費者調査結果[*1]によると、衣服の購入時に最も重視される点は「価格」(79.1%)であり、その次は「デザイン」(70.0%)です。「環境や人・社会に配慮した製法や素材を使っているかどうか」を選んだ人は1.7%、「リサイクルやリメイクがしやすいかどうか」を選んだ人はわずか0.5%でした。流行のデザインを追い求め、安く手に入れた服は、手放すことも簡単にできてしまいます。

  • 全国の15歳~69歳の男女2,000人を対象として行った「衣服を購入するときに重視すること」に関する調査結果。

  • 衣服の購入時に重視する点の中で、「環境や人・社会に配慮した製法や素材を使っているかどうか」「リサイクルやリメイクがしやすいかどうか」を選択した人の年代別結果。
    図2点出典:「サステナブルファッション」に関する消費者調査結果報告を基にGGP作成

消費者行動の背景には、流行をつくり出して消費を喚起したり、より安い生産地を求めて移動したりできる、大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄の強力なループがあり、「服を着る」ことを持続可能なものにしていくには、さまざまなレベルでの策を講じる必要があります。

その1つとして、服の成り立ちを開示し消費者に伝えること、それを服の付加価値にすることへの挑戦が始まっています。服の大量廃棄という課題に一石を投じる取り組みとして、服のトレーサビリティを紹介します。

服のトレーサビリティとは、原料から製造、流通、販売を経て手元に届くまでのすべての行程を追跡(トレース)する能力(アビリティ)のことです。EUでは、20247月に、従来の「持続可能な製品のためのエコデザイン指令」から要件の対象を広げた「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」が制定され、持続可能性要件(耐久性、再利用可能性、修理可能性、エネルギー効率、リサイクル素材の使用率など)が規定されました。[*2

それに伴い、製品が持続可能性要件を満たしているかどうかを消費者に情報提供するための基盤が必要になります。具体的には、電子的な証明書「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」がアパレル産業にも導入される予定です。
DPPには製造元や原料、リサイクル性など、製品を追跡できる情報が電子的に記録され、トレーサビリティが確保できていないと記録もできないことになります。
フランスでは、これより前の20231月から拡大生産者責任の枠組みの中で、アパレル産業に対し、衣類のリサイクル素材利用率、リサイクル可能性、トレーサビリティなどの情報提供を義務づけました。[*3

日本においても、類似した規制が導入される可能性はあるでしょうか。
服のバリューチェーンは長く複雑であり、原料調達から撚糸、織布・編立、染色整理、縫製など、数多くの行程を経て消費者の元に届きます。日本のアパレル産業では現在、服の産地表示の義務はありません。「MADE IN ○○」と記載のある製品も、縫製を行った国のみを記載するのが通例です。

例えば、中国で生産された綿花を使い、バングラデシュで織られた布を用いて、日本で縫製を行った場合、「MADE IN JAPAN」と記載される、ということです。私たち消費者が、その製品がどのような環境で作られ、どのような生産者が関わっているのか、あるいは製造工程や輸送による環境負荷はどの程度か、ということについて知りたい場合、そのニーズに対応できるブランドはごく少数しかないのが現状です。

日本においても、いくつかの先進的なブランドはトレーサビリティに関する取り組みを始めていますが、消費者への十分な情報開示を行うところまで達成しているブランドは多くありません。
私たちが、「環境に配慮された製品を選びたい」「生産者の顔が見える製品を選びたい」と思っても、判断のための十分な情報が与えられていません。「服を着る」ことを持続可能なものにするためには、消費者が購買によって自らの意思表示を行うことができるよう、トレーサビリティを確保し、消費者が簡単に見られる形に整えることが求められます。

生産国や、温室効果ガス排出量などのデータを示すことは重要ですが、もう一歩進んで、生産者や生産現場を見える化することも消費者の行動変容には欠かせません。生産者のこだわりや、生産環境を発信し、時にはオープンファクトリーを実施することで、単なるモノ消費だけではないコト消費の付加価値を載せられることが期待されます。

消費者が服を手放すとき、その68%はゴミとして廃棄されています[*4]。
もし服のトレーサビリティが保証され、自分が着ている服の成り立ちや生産者の顔を知っていたら、着終わった服はゴミ箱に捨てるのではなく、次の人に渡していきたいと考えるようになるかもしれません。そうした意識変容が起きれば、「次の人へ渡したい」という思いを実現するリサイクルやリユースの取り組みも、ますます加速していくでしょう。
消費者である我々は、原料から服へ、服からまた原料へ、という長いバリューチェーンサイクルの真ん中に立っているということを意識できるようになれば、服の大量消費社会から脱却できる日もそう遠くありません。

[*1]2021年度「サステナブルファッション」に関する消費者調査結果報告
[*2]EUのエコデザイン規則、718日から施行(EU) | ビジネス短信ジェトロの海外ニュース
[*3]2023年1月からリサイクル素材の利用率などの情報提供を義務付け(フランス) | ビジネス短信ジェトロの海外ニュース
[*4]環境省_サステナブルファッション

南かのん

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
サステナブル消費、インパクトファイナンスに関する調査に従事する傍ら博士課程に在籍し、循環型ものづくりへの貢献が期待される繊維素材の研究を行っている。2023年から現職。

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