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サーキュラー・エコノミーの実践者たち—サーキュラー・エコノミー先進都市アムステルダムの事例と小田急電鉄の取組

Date: 2021.07.30 FRI

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動画再生時間 約97分

新規ビジネスで廃棄物を資源に変える

2021年3月17日、SMBCグループとロフトワークの共催で「サーキュラーエコノミーの実践者たち」をウェビナーにて開催しました。サーキュラーエコノミーの先進都市アムステルダム、小田急電鉄の座間市での取組などを通じて、環境負荷を削減し経済利益を生み出す新たなビジネスモデルや循環型の経済システムを紹介します。

  • Session1
  • Session2
  • Crosstalks

Session1

サーキュラー・エコノミー先進都市アムステルダムの事例
Circular Initiatives & Partners 代表 安居昭博

Session2

神奈川県座間市のデジタル技術を活用したごみ収集業務のスマート化実証実験の事例  
小田急電鉄株式会社 経営戦略部 正木弾

Crosstalks

Circular Initiatives & Partners 代表 安居昭博
小田急電鉄株式会社 経営戦略部 正木弾
株式会社ロフトワーク 執行役員兼イノベーションメーカー  棚橋弘季
三井住友フィナンシャルグループ 企画部サステナビリティ推進室 室長代理 木村智行

  • Circular Initiatives&Partners
    代表
    安居 昭博

    1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラム Future Global Council 日本代表。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程卒業。サーキュラーエコノミー研究家 / サスティナブル・ビジネスコンサルタント / コンポストアドバイザー / 映像クリエイター。これまでに100社以上の企業・関係省庁向けに講習会を実施。複数の企業へアドバイザー・外部顧問として参画。2019年日経ビジネススクール x ETIC『SDGs時代の新規事業&起業力養成講座 ~資源循環から考えるサスティナブルなまちづくり~』講師。

  • 小田急電鉄株式会社
    経営戦略部
    正木 弾

    学生時代のバックパッカーの経験から自然と人が調和する街を実現したいという想いで当社に入社。入社後は、当社遊休地を活用した環境関連の新規事業の企画・運営を経験したのち、人事、秘書といった人に携わる仕事を経験。2018年経営戦略部への異動を契機に、サーキュラーエコノミー事業への参画を志願し、現在に至る。

環境に負荷を与え続ける従来の経済から、2050年までの完全サーキュラーエコノミー移行(*1)を実践中のオランダ。Session1では、その首都アムステルダムを拠点にサーキュラーエコノミー(CE)を研究してきたCircular Initiative & Partners代表の安居昭博氏にお話しを伺いました。

2019年1年間に約50組の日本企業・自治体の視察案内をした実績をもつ安居氏は、「日本でも今後、国家レベルでCEに取り組む土壌が整備されていく必要がある」と強調します。

では、オランダの取組とはどのようなものなのでしょうか。世界人口の増加や資源の枯渇など地球規模で直面している状況を説明した上で安居氏は、「廃棄物を前提とした大量生産・大量消費のリニアエコノミーから、廃棄物の出ないサーキュラーエコノミー(循環型経済)へ向かう」とオランダ政府の政策を説明します。

安居氏も愛用しているMUD JEANS。 写真撮影:Akihiro Yasui

それを実践する代表的なビジネスモデルとして安居氏が挙げたのは、ジーンズのサブスクリプションを行うMUD JEANSという企業です。古くなって返却されたジーンズの繊維を再生し新しいジーンズをつくる仕組みで、人口1700万人のオランダで1.5万本以上がレンタルされるほど浸透していて、安居氏も愛用しているとのこと。
現在は、再生繊維40%と新規のオーガニックコットン60%で生産が行われています。原材料の使用量削減による環境負荷とコスト削減と共に、グローバルサプライチェーン不安定化の影響を受けにくいビジネスモデルを構築するリスクマネジメントも同時に達成する仕組みになっています。

MUD JEANSのサーキュラーデザイン

出典:https://mudjeans.eu/

欧州委員会は2015年に資源の効率的活用による国際経済競争力強化や雇用創出を狙った「サーキュラーエコノミー・パッケージ」を発表しました。また、20203月には「新サーキュラーエコノミー ・アクションプラン」が発表され、その中で安居氏は「消費者が修理をする権利」に注目しています。

それをビジネスとして実践しているのがオランダの携帯電話メーカー「FAIRPHONE」です。接着剤を使わない組み立て式で、カメラやマイクなどモジュールごとに交換可能。ネジなどの部品も規格化され、自分で修理・部品交換ができるシステム設計です。さらに、部品を製造元に戻すとキャッシュバックがあるため、実質的に廃棄物を出さない仕組みが導入されています。

モジュール交換で修理や更新が可能なオランダの携帯電話FAIRPHONE

写真撮影:Akihiro Yasui

Googleの調査によると日本ではまだ認知度が低いCEですが、「SDGsはあくまでもゴール。CEはそれを達成する手段。企業が積極的にCEにシフトしていくことで、環境負荷を下げながら経済的利益の創出が生まれる」と安居氏はCEが今後の企業活動にとって欠かせない成長戦略となることを示唆しました。

*1 A Circular Economy in the Netherlands by 2050 | Policy note | Government.nl

Session2は、小田急電鉄が取り組む廃棄物収集のサポートシステムの紹介です。


1927
年に新宿と小田原を結ぶ小田原線を開通して以来約100年、今では全長120.5kmの路線を抱える小田急電鉄。沿線には520万人の人が住み、鉄道事業を中心に不動産や商業・観光施設の運営などを手掛けてきました。右肩あがりの成長時代とは異なり、沿線のまちでは現在、それぞれの課題を抱えるようになっているといいます。都心部では施設の老朽化や高齢化、郊外では農家の後継者問題などです。「沿線圏内に日本の課題が詰まっている。この地域で課題解決をすることで、ほかの地域にも役に立てるのではないか」と、同社経営戦略部課長サーキュラーエコノミーPJ統括リーダーの正木弾氏は語ります。

そこで2018年ごろから取り組み始めたのが、循環型社会の実現に向けたビジネスです。多岐にわたるアプローチの中から「地域の中で大量のごみを排出する会社になってしまった」と、企業の社会的責任の観点から「ごみ」に着目。社内だけでごみを削減し、リサイクルに取り組むのではなく「地域社会を巻き込みながら行動を起こすことで、循環型社会につながる」と考えたといいます。

事業内容は自治体や廃棄物処理業者を対象とした、収集運搬の支援です。米国でデジタル技術を活用してごみ収集のDX化に取り組むルビコングローバル社と業務提携をし、自治体向け廃棄物収集のサポートシステムを構築しました。

小田急電鉄が開発を進める廃棄物収集システム

自治体が抱える廃棄物収集に関わる課題を、デジタル技術を使ってワンストップでサポートするシステム

このシステムにはごみ収集業務に革新をもたらす四つの機能があります。一つはルート・サポート。道路工事などに対応できるルート管理や、収集状況をモニタリングすることで漏れを防ぐことなどができます。二つめはワーク・サポートです。車両の位置や収集状況をリアルタイムで把握できるため、市民からの問い合わせにもすぐに答えることができ、さらには中間処理場でうけとる計量表を撮影・送信をすればあとの入力業務をする必要がなく、事務作業が軽減されます。三つめは、運転支援と車両管理を行うドライブ・サポートです。速度や急発進・急停止など運転状況をデータ化することでドライバーの運転技術向上を支援します。また、車両の不具合などの情報を共有することで安全な環境をつくります。四つめはスマートシティ化。ごみ収集のリアルタイムの情報を市民に公開することで、最適のタイミングでごみを出すことができ美観や衛生に貢献できます。また道路インフラの不具合や不法投棄の早期発見など日々のごみ収集業務が担う役割が拡大し、安全なまちづくりにつながっていきます。

収集業務を変革する4つの機能

神奈川県座間市と小田急電鉄はサーキュラーエコノミー推進協定を結び、20208月より実証実験を開始しました。業務の効率化で、収集車の積載量を20%以上向上する効果が得られたといいます。

小田急×座間市 廃棄物収集のスマート化に向けた挑戦

座間市×小田急電鉄 廃棄物収集のスマート化に向けた挑戦 https://www.youtube.com/watch?v=j0EXSTkqFyU

「沿線開発とともにまちづくりをしてきた会社として、地域に根ざしたCEとは何かを追求し、新しい市民サービスにつなげていきたい」と正木氏。

座間市では元社宅をリノベーションした「ホシノタニ団地」等の住宅から出る食品廃棄物をコンポストを利用して削減する取組も検討するなど、まち全体のCEを進めています。

Session1、2の後、GGP事務局で三井住友フィナンシャルグループ企画部サステナビリティ推進室の木村智行室長代理、ロフトワークの棚橋執行役員/イノベーションメーカーを交えてクロストークを行いました。テーマは「CEで生活やビジネスはどう変わるのか」です。

「CEで成功している企業に共通している点は、いわゆる意識の高い層だけターゲットしているのでなく、あくまでもメインは一般層。いかに魅力的で、お得にも思ってもらえるかという商品・サービス開発が鍵で、リニアエコノミーでは生まれ得なかったサーキュラー型のビジネスモデルを創造していく必要がある」と安居氏。「オランダの企業では、FAIREPHONEのように社会に一石を投じるインパクトを残す第一段階と、そこで得た知的財産をビジネスに活かす第二段階を意識している企業が見られます。知的財産型のビジネスは人や資源を大量に投資しなくてもよいため、人口減少が進む日本にも必要なビジネスモデルの考え方です」と、安居氏は位置づけます。先進的な取組を見せるアムステルダムに海外から多くの視察があり、オランダの知的財産が求められていることが、そのモデルの一例といえるでしょう。

「小田急の廃棄物収集支援もまた、蓄積したデータを知的財産として活用していくのか」という棚橋氏の問いに対し、「ごみ収集を効率化するためのデータ化が最初の一歩。それがCO2やコストの削減、市民サービスにつながる」と正木氏。ごみ収集のDX化の先に、さらなる新規事業へのヒントがあるようです。

木村室長代理は「リニアからサーキュラーに流通を変えるためには、企業の経営計画や事業計画の立て方が変わらざるをえない」と事業の根本的な改革の必要性を語りました。

ごみは人間がつくりだした概念だ」と正木氏。「一度消費者のもとに届いたものを効率的に資源として回していくためには、消費者の意識転換に加え、資源・廃棄物を出す事業者、その運搬を担う収集事業者、製造業など資源を返す先の事業者がCEをビジネスチャンスとして捉え、連携していくことがとても重要。戻っていけばごみはなくなる」と、企業が負う責任と課題について言及します。

いっぽう安居氏は、個人でもごみやCO2削減に取り組める可能性を示します。アムステルダムでは生ごみは公共のコンポストで堆肥化していることから、「日本も生ごみを可燃ごみとして燃やしているが、「資源」と捉え完熟堆肥化することで、農家支援、温室効果ガス・コスト削減、ごみ回収頻度の減少、学校給食のオーガニック化、魅力ある地域づくり、そして人と人との新しい結びつきに繋がる。」と、現在は熊本県南小国町の黒川温泉でコンポストプロジェクトを進めているとのことです。「ただ処理するだけでは農家目線では利用できる堆肥はできない。きちんと美味しい野菜づくりに繋げるための微生物の高温熱処理(2次処理)とできあがった堆肥を使用してもらう農家さんとの連携による出口の設計が必要」と、知見をもった堆肥専門家と共同していく必要性を語りました。

これまでは消費の結果として ごみと位置付けてきたものを、資源として活用していくためには、さまざまな、技術革新や制度改革、意識改革が必要ということでしょう。GGPでは今後もCEに寄与するさまざまな取組に注目していく予定です。

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