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GGP-based Project「紙ごみを資源に変えるプロジェクト」――Green Earth Institute × SMBC

Date: 2021.08.31 TUE

  • #気候変動

  • #イノベーション

  • #新規事業

企業から排出される大量のシュレッダーごみから次世代バイオ燃料はつくれるか? 壮大な挑戦の足掛かりとして、環境・社会課題解決を行うGGP-based Project「紙ごみを資源に変えるプロジェクト」が実施されました。これは、古紙からバイオエタノールをつくるプロジェクトです。中心となるのは、微生物を使って植物からグリーン化学品をつくるベンチャー企業Green Earth InstituteGEI)。GEIが進めるサーキュラーバイオ™エタノールのプロジェクトの一つとしてSMBCは紙ごみ提供と製品のエタノールを自社の消毒液として活用する「紙ごみを資源に変えるプロジェクト」を始めました。SMBC内でGGP-based Projectの立ち上げに奔走した成長事業開発部の伊坂瑠莉とGGPが、GEIの伊原智人代表取締役CEOにプロジェクトの背景や今後の企業戦略などを伺いました。

Green Earth研究所にて。伊原代表取締役CEO(左)と伊坂(右)。後ろにあるのは微生物の培養装置。

  • 1.グローバルに戦うグリーン産業を目指して
  • 2.廃棄物を資源に変えるサーキュラーバイオ事業
  • 3.スタートアップ事業が求める緩やかなつながり

GGP Green Earth Institute(GEI)を創業した動機を教えてください。

伊原 当社の基盤技術は、バイオマスを原料として、微生物を使ってグリーン化学品をつくることです。この技術は、公益財団法人の地球環境産業技術研究機構(RITE)が30年くらい研究を重ねたもので、菌の遺伝子組み換えによって従来よりも高効率にバイオ燃料やアミノ酸などの製造が行えます。そろそろ事業化を目指そうとRITEや東京大学エッジキャピタル(UTEC)が株主となり2011年に会社が設立されました。当時、米国でもサトウキビやトウモロコシなど可食原料を用いたバイオエタノールが注目を集めていました。でも当社では、世界の食料問題などを考えると非可食原料でもやろうと気運が高まり、事業をスタートしました。

私自身は2013年の入社です。前職は内閣官房の国家戦略室で、グリーン戦略を作っていました。東日本大震災の後で、ミッションは原子力発電をメインとしたエネルギー政策の見直しで、その一環として、グリーン産業を今後どう育てるかという課題がありました。その戦略の中で、グリーン産業は世界中から投資が入る分野なので、日本企業であっても、最初から、世界の市場をターゲットとしたグローバル企業として成長を目指そうとうたいました。半導体や太陽電池分野が国内で事業展開してから世界に出ようとした結果、技術が優れていても国際競争力が弱くなってしまった背景がありました。

自分で戦略を描いた以上、それを実現するところにいってみようと、UTECの社長の声掛けもあってGEIに入社することにしました。



GGP  SMBCはGEIとどのように出会ったのでしょうか。

伊坂
 ベンチャー企業に特化した専門部隊として成長事業開発部があります。「成長企業といえばSMBC」をスローガンにスタートアップ企業の支援をしていて、資金調達やEXITに向けたサポートを銀行として行っています。国内スタートアップ企業のエコシステムの構築に貢献すべく日々活動しています。

GEIの株主であるUTECなどのベンチャーキャピタルにもLP出資をしており、UTECを通じて、ご紹介をいただきお取引が始まりました。その後、銀行のお取引だけでなく、SMBCベンチャーキャピタルから出資も行い、グループでお取引頂いております。

GEIを担当させていただいてまず感じたのは、「素晴らしい技術を持った企業だ!」ということです。私自身が農学部出身なので、石油由来の化学品をバイオ由来に変えていくには、GEIの基盤技術は将来性が高いと思いました。まずすごいのが「非可食」へのこだわり。食物残渣などの廃棄物をあえて原料にして化学品を作る。さらに魅力的なのは、菌が作れる化学品だったらアミノ酸やバイオエタノール、バイオジェット燃料など幅広く生産でき、遺伝子組み替え技術を使って高効率で生産が可能なことです。

伊原 この技術の面白さを分かってくれる人はなかなかいないので、伊坂さんにお目にかかれて幸運でした。しかも資料を見ただけで分かってくれていたのは驚きでした。

伊坂 GEIの技術を広めていくような支援を、金融機関としてさせていただきたいと思っています。例えば銀行のお客様で食品残渣を出してしまう企業をご紹介できたらいいなとか…。

伊原 銀行の業務で最近は企業のマッチングとかありますが、伊坂さんの場合はGEIの事業と合うだろうという仮説を立ててご紹介くださるところが普通のマッチングと違う。日本ハイドロパウテックさんなど普通なら結びつかない会社でも、「その会社の技術を使うとGEIの事業を低コストで競争力のあるものにできるだろう」とご紹介いただきました。それがみごと的中し、今も一緒に事業をしています。他にもご紹介いただいた会社が事業に共感し出資してくださって共同事業に発展したり。そのピンポイントさと正確さは、きちんと事業を理解してくださっているから可能なのだと思います。

GGP SMBCも参加した「サーキュラーバイオ™エタノールプロジェクト」はなぜ始めたのでしょうか。

伊原 GEIとしてはガソリンに代わる非可食のバイオエタノールを作ろうという構想が当初からありました。ところが2014年末に原油価格が下がってガソリンも安くなり、わざわざ非可食でバイオエタノールをつくる動機が薄れて、我々もライセンスを計画していた米国の新規プロジェクトが凍結したりしました。でもその後「つくる責任、つかう責任」というSDGsの流れもあり、やはり廃棄物を資源に変えるニーズは高まっていて、それにGEIの技術は使えるなと思っていました。

そんなときに、古紙再生をしている森田紙業さんから、ご相談をいただいたのがプロジェクトの直接的なきっかけです。古紙を集めて再生紙をつくる事業は、紙離れと共にだんだんと需要がなくなっていて、古紙の出口がなくなりつつあるというのが森田紙業さんの抱えていた課題でした。それで、より付加価値の高いエタノールに古紙を変える技術があるということを調べたそうです。もともと王子製紙がパルプからエタノールをつくる研究をしていて、その研究のエキスパートが定年後もその研究を続けたいとGEIに入社していたのを辿って、GEIの扉を叩いてくれました。

確かに紙は身近にある廃棄物で、特にシュレッダーをかけると繊維を細かく裁断してしまうので実は再生紙には向かないそうなんです。しかも化学品の方は細かくなっている方が分解しやすいので、エタノール製造のニーズに合う。それでシュレッダーゴミを資源として活用してみよういうことになりました。

でもいきなり事業として継続的にできるか、この主旨に賛同してくれる人がどれくらいいるのか分からなかったので、まずはプロジェクトということで2020年の秋にスタートしました。いろんな企業にお声がけして、紙ごみのご提供をお願いしたり、製品となるエタノールのニーズがあるのかなど相談しながら進めました。そのひとつがSMBCさんで、伊坂さんに銀行内の関係部署を紹介していただき、ご協力いただけることになりました。

伊坂 銀行は情報をたくさん扱っており、情報が記載されている以上、シュレッダーには必ずかけます。紙の使用量の削減は積極的に行っていますが、それでも排出しますので、シュレッダーゴミの供給ができます。そして、紙は分解するとセルロースでデンプンとなり糖になる。GEIの基盤技術である菌の餌となる紙ゴミを供給する担い手になることで、銀行としてもサステナブルなビジネスにつながると思いました。

また、自分たちがプロジェクトに参加して事業として成立することを証明できれば、より多くの企業にも参加いただき、GEIの事業を大きくできるのではないかと考えました。エタノールを購入してどのように使うかまで考えないとサーキュラーにはならないのですが、とりあえず供給側にはなれると、見切り発車でしたけど走り始めました(笑)。

GEI独自の技術をつかって菌が化学品を生産している様子

GGP プロジェクトの中で見えた課題を教えてください。

伊原 我々はこの事業に「サーキュラーバイオTM」と名付けました。サーキュラーは廃棄物を資源にしていこうという目標。バイオは石油からバイオマスへ変えていこうという意味で、それを両方同時にやるのでサーキュラーバイオTMと言っています。

循環のために当初は紙ごみを提供いただく企業にエタノールを買い取っていただくことを考えていましたが、やってみてわかったのは、紙ごみを出せるところとエタノールを必要しているところは必ずしも同じではないということでした。ごみを出す人と精製したものを使う人が違っても社会全体で循環すればよいので、このムーブメントを大きくするためには社内のサーキュラーから社会のサーキュラーへ、出口側の広がりを探さなければならないというのが課題のひとつです。

具体的なイメージとしては、まずは、シュレッターごみを原料につくったエタノールを配合した消毒ジェルを作ります。それらをショッピングモールや店舗でノベルティとして配布しつつ、同時に古紙回収の箱を置いてそこで集める。それを原料にエタノールを生産し、それを消毒液という形にすることで、多くの人たちがこれをきっかけに紙の分別に対する意識が高まるといいなと。モールなどで古紙回収し、数カ月後にエタノールを配布するイベントなどができれば、広がっていくと思います。

もうひとつの課題は、コストです。一般的な水準からすると今はまだ高いので、もっと価格を下げないと広がりません。そのためにも出口となる販売先・活用先を拡大し、古紙回収をもっと広くやっていかなくてはならない。同時に製造工程も見直しています。第二弾まではこのためだけの製造委託をやっていたのですが、第三弾は普段バイオエタノールをつくっている会社に、通常のオペレーションの中で、GEIが提供する古紙も原料として使ってもらうことで、製造委託費を安くする見通しがついています。またそれまでは発酵と蒸留が別の場所だったのが一カ所で行えるようになったので、移送コストもカットできる見通しです。

GGP 今後、紙ごみからエタノールをつくる事業をどのように展開していくのでしょうか。

伊原 サーキュラーバイオTMというマークを作成して、第1弾の製品から貼っています。エタノールに限らず、今後廃棄物を原料とした化学品の製品にはこのマークをつけ、普及させていきたいと思います。いずれは、サーキュラーバイオTMのマークを貼っている商品を、消費者が「同じような価格・性能ならばこっち」と、積極的に選んでくれるようになるといいなと。そこまで到達するのが夢です。

あとは、学校なども環境教育の一環でとして参加してくれると非常に嬉しいですね。子どもに古紙を持ってきてもらい、「今捨てたものがこの先どうなっているか知っている?」と問いかける。実際に紙がエタノールになるプロセスをメッセージとして伝えられれば、ゴミに対する理解と同時にサイエンスにも関心を持ってもらえるのではないかと思います。そういう活動につなげていきたい。

GGP エタノール以外のサーキュラーバイオTM事業の展開について教えてください。

伊原 非可食の廃棄物ということで、日本航空との共同で古着からジェット燃料をつくるというプロジェクトを実施しました。

また、食品残渣では、コーヒー粕も原料になるので、そういうものからエタノールやより値段の高い健康食品につかえる食品添加物などをやろうと思っています。実は、SMBC以外のGGPパートナー企業とも食物残渣を使ったほかのプロジェクトを進めています。

まだ非可食由来の事業だけでは、規模もあまり多くはなく、やっていくのは難しいので、会社全体としては、まずは石油由来の化学品を広くバイオマス由来の化学品に変えていこうとしています。例えば、GEIの技術を生かしたバイオプラスティックなどの原料となるバイオ化学品です。これは今後需要が何万トンという単位に拡大していく分野ですから、まずは既存のメーカーがトウモロコシから何万トンとつくる装置にGEIの技術をいれ、プラスティックの原料をつくってもらう。将来的には、大量に集まる廃棄物を集めプラスティックにしていく。そこを目指しながら、まずは先駆けとなる事業を現在行っているという位置づけです。

GGP 非可食にこだわりつつ、将来的には大手企業と一緒にサプライチェーンを活用しながらサーキュラーバイオTM事業を拡げていくというイメージでしょうか。

伊原 非可食は、GEIの会社としてのこだわりというよりは、社会が求めていると感じます。食料問題と競合せずに、廃棄物をなくしていくという課題を同時に果たせる取り組みですから、そこは大きなチャレンジです。これまではコストの問題や、集めることの難しさとかが課題でしたが、それを乗り越えようと、われわれは今取り組んでいます。

GGP 今後協働していきたい企業、技術など、どのようにイメージしていますか?

伊原 ひとつは、現在石油を原料にいろいろなものをつくっている化学メーカーです。世の中の流れのなかで原料をバイオマスに変えないといけない。その問題意識を持っているメーカーと一緒にバイオ化学のパイプラインを増やしていきたいです。

もうひとつは、原料となる非可食バイオマスに問題意識を抱えていて、それをなんとか優良物に変えたいというところです。このふたつの方向で上手くネットワークができるといいですね。

伊坂 SMBCの成長事業開発部としては、次世代の新しいビジネスをつくることに果敢に取り組む、スタートアップを支援したいと考えております。加えて、環境や社会問題の課題解決にむけたサステナブルなビジネスに取り組む企業を応援したい。GEIのようにバイオリファイナリーの基盤技術を持っていたり、次世代の電池、燃料をつくるような企業、それを広域的に利活用するシステムを構築されている企業などです。また、今注目されている次世代のタンパク質を開発している企業。さらには我々の生活習慣病の予防、病気の発見をしやすくなるような検査ツールをつくっている企業などさまざまな業態が考えられます。そのようなベンチャー企業は多いので、いろんな方々から知恵をいただき、新規事業のお手伝いが少しでもできればよいと考えます。事業を展開していくときに、SMBCに相談しよう! とファーストコールをいただけるような関係性を企業の皆さまと構築していきたいと思います。

研究所内のコンテナを利用した会議室前にて 本記事写真撮影:稲垣純也

GGP  GGP-based Projectを今後推進していく上で、事業のヴィジョンを共有できるコミュニティをつくるということが重要だと考えています。緩やかな紐帯の中から新しい取り組みを生み出していくところを目指しています。そうしたコミュニティに期待することがありましたらお聞かせください。

伊原
 新しい取組は試行から入らなければなりません。試行は、単独で見ると事業としての旨味や利益は、参加する方々にとってもそれほど大きなものではありません。でも、これをやらないと次につながらないので、ベンチャーにとってそれは乗り越えなければならない壁です。そういうときに、いろんな人に参画していただける土壌があるとありがたいことです。

すべての事業はそうだと思いますが、一社でできる事業は基本的に今の社会ではないと思います。とくにGEIの場合は、製造工場を持たず、もともとの顧客がいるわけではないですから、何かやるときには必ず企業と組まなければなりません。そこに協力していただける企業が、増えれば増えるほどチャンスが拡大すると思います。そういうかたちでベンチャーも、大企業の場合でも新規事業をはじめるときに、緩い意味でのパートナーが必要だと思います。

GGPのコミュニティが、「いっちょ、かんでみようか」と捉えられる場になると面白いのかなと、期待しています。

GGP 今回は、プロジェクト参加者がこれまでのご縁でたまたまSMBCとなりましたが、今回のプロジェクトが他のパートナー企業の方の目に留まって、「紙ごみを資源に変えるプロジェクト」を含む「サーキュラーバイオ™」が拡大して、環境・社会課題解決の一つの動きになるとよいと感じています。

2021616日 かずさアカデミアパーク内Green Earth研究所にて)

プロジェクト名:「紙ごみを資源に変えるプロジェクト」
プロジェクトオーナー:Green Earth InstituteGGPパートナー)
プロジェクト参加者:SMBC
解決した課題:紙ごみを資源に変える

GGP-based Project
GGPを運営するSMBCグループがプロジェクトオーナーもしくはプロジェクト参加者となり、環境・社会課題解決に資するPoCや実証実験から最終的に社会実装を目指すプロジェクト

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