イベントレポート
寄付のデザイン―寄付から生まれるサステナブルな社会とは?
Date: 2021.10.11 MON
#ソーシャル
「寄付をデザインすることで、さまざまな環境・社会課題の解決へお金がまわっていくのではないか。それがサステナブルな社会につながるのではないか――」。冒頭、三井住友フィナンシャルグループ企画部サステナビリティ推進室の木村智行室長代理は、本イベントの企画趣旨を語ります。
日本では、米国に比べると年間の寄付総額が1/40(*1)と少なく、その約8割が企業によるものだと言います。個人による寄付活動を増やし、NPOなど中間支援団体の活動資金をつくり出すことは可能なのでしょうか。スマートフォンから手軽に寄付ができるサイトを立ち上げたSOLIO(ソリオ)の今井紀明代表、森林の保全や利活用を行うmore treesの水谷伸吉事務局長のお話しを伺いました。その後、どうすれば寄付に対する意識や行動に変容が起こり、その先にあるサステナブルな活動につなげられるのか、木村室長代理とロフトワークの棚橋弘季氏を交え、議論を交わしました。
*1:日本ファンドレイジング協会調べ、2017年
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動画再生時間 約92分
イベントレポート
左からロフトワーク 棚橋、SOLIO代表 今井氏、more trees事務局長 水谷氏、三井住友フィナンシャルグループ 木村
Contents
Session1 | 現代社会における新たな寄付のかたち 株式会社SOLIO 代表取締役 今井 紀明 |
Session2 | サステナブルな森づくりと寄付 一般社団法人more trees 事務局長 水谷 伸吉 |
Panel discussion | サステナブルな寄付のあり方とは 株式会社SOLIO 代表取締役 今井 紀明 一般社団法人more trees 事務局長 水谷 伸吉 三井住友フィナンシャルグループ 企画部 サステナビリティ推進室 室長代理 木村 智行 株式会社ロフトワーク 執行役員 兼 イノベーションメーカー 棚橋 弘季 |
Profile
株式会社SOLIO
代表取締役 今井 紀明1985年生まれ。イラク人質事件がきっかけで対人恐怖症やひきこもりになったが、社会復帰し2012年に認定NPO法人D×P(ディーピー)を設立。10代の孤立を解決するためのライフワークをしつつ、2019年に株式会社SOLIOを設立。ジャンルを選んで寄付するsolioをリリースし、寄付を拡げるためにも活動中。
一般社団法人more trees
事務局長 水谷 伸吉1978年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、2000年より㈱クボタで環境プラント部門に従事。2003年よりインドネシアでの植林団体に移り、熱帯雨林の再生に取り組む。2007年に坂本龍一氏の呼びかけによる森林保全団体「more trees」の立ち上げに伴い、活動に参画し事務局長に就任。日本各地での森林保全活動やフィリピン、インドネシアにおける熱帯雨林の再生活動のほか、国産材プロダクトや木育イベントのプロデュース、カーボンオフセット、ツーリズムも手掛ける。
Session 1 現代社会における新たな寄付のかたち
さまざまなNPOから「活動資金が集まらない」という悩みを受けて2020年12月、今井代表はスマホから簡単に決済できる寄付サイトSOLIOを立ち上げます。一つのNPOを選ぶのではなく、12ジャンルから自分で寄付したい項目を選び、割合を決めてポートフォリオをつくることができるのが特徴です。
10代の悩みを解決する支援団体「D×P」
その背景には、自らが代表を務める寄付型のNPO、D×P (ディーピ-)の存在がありました。神戸を拠点に、10代が直面している不登校や中退、貧困などについてLINEで相談をうける、「ユキサキチャット」というサービスを、寄付を通じて行ってきました。
21年3月には700人程度だった登録者が、コロナ禍で激増し、6月末時点で5000人を超えます。相談内容も、それまでの進学や就職に関することから、貧困に関するものに変化したと言います。
「寄付が主体なので、ニーズによって支援のかたちを変えることができる。政府の手が行き届かない支援ができるのが、NPOの役割」と今井代表は説明します。政府からの定額給付金10万円は、世帯への支給だったため、子どもに直接届いていない事例も多かったそうです。そこでオンライン相談を通じた食料支援や現金給付(月に1万円、最大11万円程度)に支援のかたちを変えて乗り出します。
食料支援は、2020年は約5,000食、4〜5月の緊急事態宣言でニーズが増えて6月末現在で約1万食と倍増していきました。それに伴い、寄付額も増えます。月額1,000〜2,000円の支援者が昨年までは600人くらいだったのが、3月には1,400人、現在は約1,800人と3倍になりました。「寄付は、国や民間企業ではできない新しい仕組みや支援を形づくることができ、新しい公共的な事業を担います」と今井代表は強調します。
日常的な寄付のプラットフォーム「SOLIO」
「素晴らしい活動をしているNPO代表から、なかなか寄付が集まらないという話を聞くことが多かった」と今井代表は、SOLIO立ち上げの背景を説明します。「子どもの教育支援など活動の専門性が高い一方で、広報まで手が回っていなかった」とその理由を分析。同時に、今井代表のtwitterのフォロワー1万8千人中でも寄付経験のない人が50%いて、寄付に興味があってもどこのNPOに寄付をすればよいかが分からないという実情がありました。「CAMPFIREの家入一真氏から『ジャンルごとに寄付できるサービスがあったら面白いのではないか』というアイデアをいただき、それで始めたのがSOLIO」なのです。
国際協力、子供の教育、障害者、介護支援、女性支援や動物保護など12ジャンルから、自分で割合を決めて寄付できるというのがSOLIOの特徴です。寄付先は、SOLIOが選んだ約30のNPO団体。
(Session 1 図提供:今井紀明)
まだ月額約30万円程度とD×Pに比べるとまだ小規模ですが、毎日個人からの寄付が増えており、法人からの問い合わせも増えていると言います。「環境分野や、福祉分野の起業家を一緒に応援することに共感してもらえたら、ぜひ、SOLIOを試してみてください!」(今井代表)。
Session 2 サステナブルな森づくりと寄付
森林が抱える課題とmore treesの活動意義
世界中で森林破壊が進んでいます。伐採や火災などで失われる面積は「1秒間にテニスコート15面分、2秒間にサッカー場1面分」と、more treesの水谷事務局長。シャンプーや洗剤など日常品に含まれるパームオイルを生産するプランテーション、自動車のタイヤ生産のための天然ゴムのプランテーションなどが森林伐採の一翼を担っていることを指摘し、「遠い世界の森林破壊と、僕たちの生活は関係ないと思われがち。しかし、さまざまな商材となる樹木が、われわれの生活を支えると同時に、熱帯雨林へのインパクトを増加させています」と訴えます。
その結果、インドネシアやマレーシアでは、オランウータンなど貴重な野生動物の住処が奪われ、生物多様性の問題にも関係しているのです。
また、国土の7割が森林で覆われる日本ではどうなっているのでしょうか。水谷事務局長はこの100年を振り返ります。江戸時代など近代以前は里山の樹木を日常の資源としていたためハゲ山だったのが、戦後の木材不足を補う国策としてスギやヒノキを植林し、現在の状況になっていることを説明します。
「半世紀経って、伐採の時期を迎えているにも関わらず、木材自給率は37%で、6割は海外からの輸入に頼っている。半世紀前は儲かる産業だった日本の林業の運営がうまくいかなくなっている」と産業構造の矛盾を指摘。「本来植林から15年くらいで間伐する必要があるが、林業人口の減少で手入れされない森も増えている」と言います。
水谷事務局長は「森林が抱える課題は、SDGsの15番目の『陸の豊かさも守ろう』にあたる」とし、SDGs17項目を「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3層で表す「ウエディングケーキ・モデル」を示します。
「森林や海、水資源、気候が支える生物圏の上にはじめて社会活動・経済活動がなりたっています。どんな業種業態であっても、自然資本がきちんと成立していないとビジネスも成立しない」と、森林保護や活用を行うmore treesの活動意義を語りました。
都市と森をつなぐ
more treesは国内16箇所、海外はフィリピンとインドネシアで植林活動、森林の手入れを展開しています。テーマは「都市と森をつなぐこと」。
モチベーションは二つあると言います。一つは、都市と森が分断されてしまっていること。たとえば、自分が使っている家具の樹種や生産地が分からないなど、サプライチェーンが複雑化していることで、森に対する意識が低くなっていることを指摘します。
もう一つは、ライフスタイルの変化で木材の利用が減っているということ。古来からの木造家屋や木製家具が、別の物質に置き換えられているということです。
more treesの具体的な活動としては、国産木材でつくられたプロダクトの提案などです。企業ノベルティをつくったり、空間を木質化することにも取り組んでいます。
(Session2 特記のない図提供:more trees)
また、7〜8割が企業の寄付で成立しているため、企業とともに森づくりも進めています。戦後の植林で伐採時期を迎えているスギ、ヒノキの需要を増やし、偏ってしまった樹種のバランスを整えて、多様性のある森を目指す活動です。広葉樹もミックスし、その土地に合った苗木を植えていこうとしています。その一例として、三井住友カードと共に国内5カ所で進める、従業員による記念植樹など植林や森の手入れの活動を紹介しました。
「森林の育成や管理は長い時間がかかります。木材を生産する目的で投資をしても数十年かかるので今は敬遠されがち。しかし森林には、CO2の吸収、水資源、土砂災害防止など資本主義の中では評価されにくい価値があります。民間企業が事業としては手を出しにくい領域ですが、もはや企業も無視できなくなっていると思います。寄付との親和性が高い領域なので、NGO単独でなしえないところを企業や個人の寄付と一緒に解決していきたい」と水谷事務局長は締めくくりました。
Panel discussion サステナブルな寄付のあり方とは
寄付とは共感する仲間を募ること
木村 今井さん、水谷さんの共通点は、環境課題や若者の貧困問題など、国や企業の手が届かない、いまの資本主義の外側にある事業をやっていることだと思いました。
ここで敢えて難しい質問をしたいのですが、1人から100万円の寄付をもらうのと、100人から1万円ずつ寄付されるのと、どちらがよいですか?
今井 一概にはいえませんが、NPO経営の立場からすると、100人から1万円いただく方が、強みがあります。支援の持続性につながり、計画性をもって有効に使うことが重要だからです。単発で高額の寄付をいただくよりは、少額でも継続的により多くの方に支えていただくのがリスク分散という意味でもよいです。
ただ当然ながら、大きな金額の寄付を否定するわけでは決してありません。
水谷 僕たちが活動を始めた頃は、1人から100万円の方を重視していました。
スタッフの人数が少ない中で、ファンドレイジングする渉外業務を効率的に行って資金を獲得するためには、高額サポートを多く取り付けると全体のバジェットを固めやすかった。ところが、続けているうちに、母数が少ないとインフルエンサーも少ないということに気づきました。何かの呼びかけをしても、そもそも母数が少ないと、活動につながらないことがありました。それで、今は100人から1万円をいただく方向に発想を転換しています。
今井 寄付者を募ることは、仲間集めだと思います。寄付をすることが関係性の始まりで、その仲間を巻き込み、増やしていくのが寄付の面白さだと思います。
木村 「仲間を巻き込む」というのは、具体的にはどういうことですか?
水谷 共感し、自分事として発信してくれるということです。単に寄付をしておしまいではなく、プロジェクトに伴走していただけるということですね。株を買うのと似ています。株主になった企業の業績が気になるように、寄付した団体がどのように発展しているのかが気になると思うんです。単に施して終わりではなく……。
今井 そういう意味だと、SOLIOは投資信託に近い(笑)。寄付をしたことがないと、その面白さが分からないので、SOLIOが一歩踏み出すためのきっかけになってくれるとよいと思います。「コーヒーを買うように寄付をしよう」と、常に僕らは言っています。寄付行為を日常的なものにしていきたいと考えています。
日常的な寄付体験をデザイン
棚橋 これまで寄付体験がうまくデザインされていなかったから、日常的なものに感じられなかったということですね。
今井 そうですね。SOLIOを立ち上げたとき、初めて寄付をした人が5割くらいいました。また中小企業など法人からの問い合わせが多くなったのも興味深いところです。やはり、ジャンルで寄付するということが受け入れられたという実感があります。寄付をしたいという想いを生み出せたのかなと思いました。
水谷 SDGs達成が求められる中で、どういう社会課題を重要としているのか、企業はマテリアリティを定める必要が出てきました。寄付先をその課題の中で選ぶ企業が増えた印象を持っています。
木村 寄付をするときにどういう判断をしたのか、場合によっては企業は株主に説明しなければなりません。SMBCグループでは、「環境」「コミュニティ」「次世代」ということをマテリアリティにしています。その文脈の中で「こうした活動を支援します」というのは、ステークホルダーに対して説明しやすい状況だと思います。
今井 寄付を集める側も、なぜ寄付が必要なのか、その事業は本当に寄付を使う必要があるのかを説明しなければなりません。さらに、何にお金を遣っているか公開する必要があります。そして、きちんとお願いしているかどうかも問われます。
でも、ほとんどのNPOが情報をきちんと出せていない実情がありました。そこで、SOLIOがその信頼性を担保し、さまざまなNPOを支援して、活動報告や広報していくことが大事だと思っています。
水谷 内閣府の調査で、寄付をしない理由を聞いたアンケートを見たことがあります。
寄付が役にたっているかどうかが分からないというのが1位でした。次に寄付団体の透明性、3番目が経済力の問題だったと記憶しています。
1位の課題に対しては、成果をきちんとフィードバックができていないと、寄付を継続するモチベーションが失われるということですよね。寄付文化を育てるには、広報の力が必要だというのは、自分の背筋を正す意味でもお伝えしたい。
木村 なるほど。寄付者の懸念は、スタートアップ企業への投資と一緒だと思います。うまくいかないかもしれないけれど、こういう課題解決に向けて活動している人には投資したいというところが共通しています。その目的と資金の流れを明確にするだけでも、寄付者が増えると思います。
水谷 透明性が大事です。僕たちもどこにどういう植林したか、定量化して伝えることを心がけています。
ただし森林の場合に難しいのは、面積や本数は提示できますが、それが生態系にどれだけプラスになったかは、定量化できないことです。他の多くの社会課題も、定量化しづらいという課題があるので、活動の先にあるアウトカムをどう伝えていけるかが課題です。
今井 環境課題はとくに難しいですね。
NPOの経営をしていて思うのは、寄付者とのコミュニケーションについて、いろいろな設計方法があると思います。D×Pの場合は、月額会員になるとサポーターグループ(Facebook)に入れます。そこでは経営的なことや財務的な方向、支援の情報とかを出していて、見ると大体分かるようになっています。
木村 アウトカムをはっきり定量化して示せれば、投資対効果が見えると思います。
でも投資ではなく寄付だからこそ、見返りを求めないという考え方があると思います。共感から初めて、NPOやNGOと一緒になってチャレンジするということでしょうか。
水谷・今井 おっしゃるとおりです!!
寄付で未来社会を選び取る
棚橋 寄付だからこそできること、その意義をもう少し詳しく説明していただけますか?
今井 僕たちの世代の起業家を見ていて思うのは、課題を発見する力があり、そこに支援を生み出すことができる能力に長けています。ほとんどのNPOが、国が見過ごしている課題に小回りを効かせ重点的に手を打っていく力があると思います。
それをやっていくのは、目標が決められている行政からの委託事業ではだめなんですよね。行政がやっていたことを委託されてやるだけではなく、NPOの能力を最大限に生かしていく必要があります。だからこそ、寄付が大事だといつも思っています。
水谷 国が国土保全で森林保護をやればよいという考えももちろんあるのですが、そうすると日本全国一律の政策になってしまう傾向にあります。今井さんがおっしゃったように、小回りが必要で、地域に合った樹種を植えようとしても、補助金のメニューがそれに該当しないということもあります。
行政主体でやろうとすると金太郎飴のような仕組みになってしまうので、それに対して、僕たちが地方自治体などと組んでやっていく。それがNGO/NPOならではの立ち位置だと思っています。
今井 購買行為は投票と似ていると言われますが、寄付も同じで、実現したい社会のために一票を投じていくという選択があります。そこが面白いところだと思います。
木村 新しいお金の使い方として意思を持たせるということですね。自分自身がこの社会の役に立っているという実感を得ることができるための方法としての寄付だと思います。
棚橋 自分の希望を叶えるという意味での便益ですね。
今井 そういう人はかなり多い。例えばある情報を広げて欲しいというときに、100人単位でSNSなどを通じて情報をシェアしてくれたりします。寄付だけではなく、行動まで一緒につくっていくことができ、有り難いと思っています。そういう人と「一緒にやりましょう」と思っています。
木村 インターネットが広まった中で寄付のあり方が変わり、環境問題・社会問題が顕在化する中で、企業・個人ともに寄付との関わり方が変わってきたということですね。
棚橋 北欧などでは、コミュニティが持っている共有のお金があるそうです。日本では、仲間で使われるお金が足りてないという議論があります。今井さん、水谷さんの活動への支援は、まさにみんなで使えるお金という感じがします。
木村 富の偏在があって、世代を超えて教育格差などが広がっていくという問題があります。それを解消するために、コミュニティの中で助け合って、あえて共助の仕組みをいれていく、そういうことに寄付を使っていくというのはあり得ることだと思います。
今井 再分配の話だと、子供・若者の分野だとなかなか行き渡らない実情があります。
環境分野もそうだと思いますが、そこに対して、自分たちが選んで寄付をしていくことで、未来の社会を選び取れるというのが大きなことだと思います。
木村 自分が便益を受け取るためだけに消費するお金の使い方ではなく、いろいろな基盤の上に生活が成り立っているので、自分が生んだ利益を自然資本のような基盤に還元していくのは当たり前のことだと思います。ステークホルダー資本主義ですね。
水谷 企業も、利益を株主だけに還元していくのではなく、公共や共助に還元していくのがよいと思っています。
木村 企業も自社の収益だけでなく、社会や環境に還元していくことが求められています。NPOやNGOと一緒に新しい事業や便益を生み出すということですね。それがCSRにおけるオープンイノベーションだなと思いました。
(2021年6月30日、ロフトワークにて)