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まちづくりと地域経済から考えるサステナビリティ“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズ―vol.3

Date: 2021.11.19 FRI

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9月16日、サステナビリティと「コミュニティ」の関係を考えるGGPのイベントシリーズ第3弾を、地域住人が集まる人気スポット「喫茶ランドリー」にて行いました。その「あらゆる人々の『やりたい』ことが実現できる場」の運営で注目を浴びているのは、株式会社グランドレベルの大西正紀氏。Session 1では大西氏に喫茶ランドリーを開設した経緯や空間の設え方、運営方法、そしてどのようなコミュニケーションで場づくりを行っているのか、その秘訣を伺いました。Session 2のクロストークでは、現場より空間の魅力をお伝えしています。

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左からロフトワーク 棚橋、グランドレベル 大西氏、三井住友フィナンシャルグループ 木村

  • Session 1 喫茶ランドリーとは何か
  • Session 2 つながりを発生させる場づくりのコツ
  • Q&A

(以下、大西氏談)

喫茶ランドリーを運営する会社グランドレベルは、文字通り1階をつくることをテーマにしています。
私は大学院まで建築学科で勉強をし、建築家になろうとロンドンの設計事務所に1年間勤めたのですが、その後は、建築メディアをつくる仕事を十数年していました。
でも一方で、どんどんと変化する街に対して、メディアづくりでは具体的なアクションができず、やるせない思いを抱えていました。パートナーの田中元子(グランドレベル代表)と共に「もっとダイレクトに街に関わる仕事がしたい」という想いを持ちはじめました。

私たちが人の能動性に多くの気づきを得たのが、「アーバンキャンプ・トーキョー」です。TRANS ARTS TOKYO(統括ディレクター中村政人)というイベントの中で、2015年、神田に出現した東京電機大学跡地で何かをして欲しいという依頼を受け、それで考え出したのが、都会のド真ん中でキャンプ場を行うという企画でした。

宿泊者に対していろんなコンテンツを企画したのですが、予想以上に参加が増えませんでした。話を聞いてみると、多くの人は映画に行ったり、銭湯に行ったり、隣のまちへ繰り出したり……。つまり、人々は自分でその環境を読み取って発見して楽しんでいたのです。そもそも野外のキャンプも、自然の中で能動的に生産的な行為をするものです。だから、都会でやる時も同じで、人が何かをやりたくなる、能動性を発揮する器をつくるという意識が大事だと気づかされたのです。

ある日、田中がオリジナルの屋台をまちへ出して「コーヒーをまちで振る舞いたい」と言い出し、さっそく友人の事務所の軒先をお借りして、通りを行き交う人々にコーヒーを振る舞わせていただきました。一見すると怪しいので最初は誰も声をかけてくれなくてドキドキしますが、やがて近所のおじさんが「何をしているの」と話しかけてくれました。

この時、たった一杯のコーヒーで知らないおじさんと話ができると言うことに純粋に感動します。コーヒーがあれば、街の人と話ができるきっかけになる! と。そうこうしていると人だかりができていく。この光景は実に公共的だなと想いました。

「自家製公共だ!」ということで、田中はこれを「マイ・パブリック」と名付け、プロジェクトを継続していきました。その後、僕らはコーヒーだったけど、「あなたなら何を無料で振る舞いますか?」というテーマを持ったワークショップを全国で展開し、千人以上の方々を対象に行っていきました。驚いたのが、何人やろうが、全員の発表が面白いんですね。つまり、どんな人も面白い何かを心に秘めているのに、それを表出する機会がない。逆にそういうものがもっと街に少しでも表出するだけで、日本中の街は面白く生まれ変わるのではないかと気づきました。

そして、同時期に田中は、街の1階(グランドレベル)に会社をつくると言い始めました。なぜグランドレベルに注目したかと言うと、1階はプライベートな場所だとしても誰かの目に触れる特殊な領域だからです。プライベートとパブリックが交差している。そこに能動的なアクションが自然と沸き起こる器づくりを仕事にしようと。

1階や街路に人の気配があるのが健康的な街で、そのことは多くの社会問題と紐付いていると私たちは考えています。たとえば孤独死の問題や、街の防犯など……。江戸時代の絵を見ると道に人があふれています。でも、現代は人口密度は高くなっても、必ずしも日常的な街に人が溢れているようにはつくられていません。むしろ、人口が増えているのに、街に人がいなくなってしまっています。本当は人口が多いことよりも、人の姿が街の1階に日常的に見えていることが大切なのです。

会社を立ち上げて、最初に依頼を受けたのが、築55年の隅田区のビルの相談でした。住宅街の中心に建つ3階建てのビルの1階をどうすべきかという内容でした。周辺は2000年代になってマンションが増え、人口が爆発的に増えている地域なのですが、街路はそれほど賑わっていません。

その頃、旅先のコペンハーゲンで生まれてはじめてランドリーカフェへ行ったことがありました。感動したのはランドリーがあったことではなくて、赤ちゃんや大学生たち、ママさんや高齢の方まで、その街に暮らすあまねく人々がカフェでくつろぐ姿でした。考えてみれば、全ての年代の人が居心地よくいられる場所が日本にはほとんどない。この場所には、そういう状況がつくられるべきだと考えました。

大きなコンセプトは、世代を問わず誰もが、どんな気持ちの人も使える場所です。その上であらゆる人々の「やりたい」ことが実現できる場でありたい。そのための「ハード」や「ソフト」、それらをとりもつ「オルグ」(コミュニケーション)の3つを一体的にデザインし、よりアクティブな状況をつくることを試みました。

ハードは、建築とかインテリアだけではなく、視覚に入るすべてのものをハードと捉えています。ここでは能動性を発揮する環境、あえてエラーをつくり、そのエラーが会話のきっかけにもなるので、そういうことを意識してハードを設計しています。

ソフトは、サービスやプログラム、コンテンツなどいろいろありますが、それはあえて抑え、個人がこの場でやりたいことをどこまでを許容するかをデザインしようと考えています。ここを何かに使いたいという依頼があったときも、許可というよりは全力で応援しましょうという感じで取り組んでいます。

オルグは、コミュニケーションの問題ですが、お店のスタッフと客ではなく、対等な状況をつくり出したいと思っています。「スタッフとしてというよりも、一人の人間としてこの場にいてね」と言っています。そうすると、人と人の関係になるので。この3つを建築や街に埋め込んでいくことを会社としては事業にしています。

喫茶ランドリーの奥が私の仕事場ですが、ふつうの仕事では出会えない光景が日々広がっていて、コミュニティとは何かなと考えることがよくあります。
まず、コミュニティというと群のように思いますが、基本的には個人と個人の関係性がベースになっていると感じます。そして、ちょっとしたエラーをきっかけに知らない他者同士が話をはじめることがコミュニティが発芽する瞬間です。そういうことが膨らんでいくと、外から見たときに「コミュニティ」と表現されるのかなと思います。

ハード、ソフト、オルグの3つのウエアを街に埋め込むことで生まれていくコミュニティの種が、いろんな社会の問題を支えることにつながると考えています。消費的かつ人がいない街の幸福度は低くなります。一方、人が能動的でかつ人が居る街の幸福度は高まっていく。そういう状況をつくっていきたいと私たちは活動しています。

(以上、大西氏談)

木村 喫茶ランドリーは、HPを見ただけでは分からなかったけれど、実際に来てみるとすごくいい空間です。自分もこの場所の一員となって、他の人と関われる……。こういう場所が自分の街にあると、生活が豊かになる気がします。

大西 キャンプでの教訓をもとに、オープン当初から、自分たちではあえてイベントを企画しないということを実践してきました。そうではなく、お客さんがやりたいことを実現させていく。

木村 つまり生産の場だと。自分が何かを生み出して人と共有することで、つながりを実感して幸せをつくり出す場というのは、発見ですね。

棚橋 カレーが美味くて人気だと伺いました。

大西 1号スタッフのさおりさんが発案してくれたもので、最近有名な雑誌にも掲載していただきました。でも当初は、「○○が美味しいお店」と言ってしまうと、それ目的の人が来てしまうので、あえてそれもやりませんでした。あくまでも、喫茶ランドリーが好きという人に来て欲しかったからです。それでも普通に来てくれた人が「めちゃくちゃ美味しい」と言ってくださって、だんだんと人気になっていきました。

棚橋 ランドリーを利用するときに、お客さんがスタッフと話をしているのも印象的です。

大西 お店のランドリーは実はコインを入れるところがありません。レジでお金を払って、その後使い方を説明します。面倒くさいプロセスですが、そこが会話のきっかけになります。他のお店ではコイン式の機械を導入したのですが、そうするとやはり、そこでの会話の発生はほぼ皆無となりました。やはり、コミュニケーションのきっかけにはエラーが必要ということです。

棚橋 コミュニティのハブになる場づくりとか、ミートアップとかマッチングという言い方をしがちですが、それを目的とすることを考え直したほうがよいのかなと思います。

大西 ミートアップというのは意図的な出会いですが、喫茶ランドリーをはじめとした私たちのプロジェクトでは、その対極というか、いかに自然に出会いを発生させるかということにトライしています。0歳から100歳まで、いろんな世代の人たちがその場に居合わせていて、パソコンで仕事をしていたり、何か物づくりしていたり、赤ちゃんをあやしていたり、そこに多様な行為が溢れていると、それらが引き寄せ合って会話が自然と生まれるものです。ミートアップよりも、瞬発的な達成度合いは落ちるのかもしれませんが、より自然なかたちでコミュニケーションが始まるので、持続力と成長度が高いものになると感じています。

木村 ビジネスの観点でいうと、問題解決のための手段を探す目的で来るというのが一般的ですが「果たしてそれだけでよいのか」と。それが喫茶ランドリーが与えてくれる気づきです。目的をいかに効率的に達成するかを追求し、結果的に一方的な消費につながるのが現代の状況だとすると、個人の生活のレベルからつながりの意味や実感を取り戻すと、コミュニティに対する認識が変わってくるということなのかな。

棚橋 場所をデザインするときに、これまでは人の属性を仮説として置いたうえで、より多様な属性の人に適応する場所を「多様性のある場所」と設定してきたと思います。喫茶ランドリーは、仮説としての属性を置かずに個人にフォーカスしているのがこれまでと違うデザインなんだと思います。

大西 「主婦」や「サラリーマン」と一言で言っても、ココロの状態はみんな違うものです。一見、幸せそうに見える人だって落ち込んでいるときもある。そう考えると誰一人同じ状況ではないので、そういった人間の複雑性をもまるっと包摂して、個人ときちんと向き合う視点が大切かなと思っています。
「あなたは無料で何を振る舞いますか?」というテーマのワークショップを行う時は、ひとつだけ条件をつけます。それは、「社会・地域の問題を解決するなんてことは一切考えないでください」ということです。そうすると、みんな自分に向き合ってとても個人的な想いを吐露してくれます。世界のFMが大好きなので、街へ屋台を繰り出して、その場所にあったFMを流したい。占いが趣味だから、街を行き会う家族全員を占ってあげたい。読んでいない大量の本を所有している自らの「積ん読」を自慢したい。どれも、くだらないことのように思いますが、非常に面白いですよね(笑)。こういうものがコミュニティの種であって、モノによっては未来のカルチャーの種にもなり得ます。千人に聞くと、このレベルのものが千人分出てくるんです。人って本当に面白い存在なのだなと気づきました。

木村 実態のない社会の中でいかに人の目を気にして品行方正を演じているのかということを気づかされますよね。”サステナビリティ×コミュニティ“シリーズ—vol.1に登壇いただいた広井良典先生もおしゃっていましたが、そもそも一人では生きられないからそのためにコミュニティがあるとおっしゃっていました。
それは、コミュニティに所属することで安心したいという「欲求」と捉えなおすこともできますよね。現代は、それを実現する仕掛けが問われているのだと思います。

Q1 人が能動的に動く空間づくりで一番大事なことはなんですか?

大西 たまたま洗濯機を置いたことで、30cm床が高くなっています。この高低差を舞台に見立て、ある日「子どものお遊戯会をしたい」というお母さんがきました。空間を均質にするのではなく、いろんな使い方を読み取れるようにつくっておくと、僕たちが想定する以上に人は使い方を発見していろんなことを言ってくださいます。だから、いつも多様に「見立てられる」空間をつくりたいと考えています。

Q2 いろんな世代が来たくなるための工夫があれば教えてください。

大西 まず、「洗練さ」は人を遠ざけるので、洗練さではなく既視感のあるものをできるだけ取り入れるようにしています。その方が空間全体に安心感が生まれ、どんな人も迎え入れやすい空間となります。私たちは喫茶店が大好きなのですが、喫茶店の椅子って座面の高さが40cmくらいで、一般的な椅子よりは少し低い。そうすると子供も高齢の方も座りやすくなります。すべてそういう視点でデザインをジャッジしていきます。

あとは、外からの見え方には気をつけています。多世代といっても、子供だらけになってしまうと、仕事をしたい人が入って来づらくなります。そういう理由で、当初お店の中に設置していた子供の遊び場は、途中からなくしました。外からどう見られているかは常にチューニングしながら、できるだけ多くの人に入りやすい状況をつくるように心がけています。

Q3 空間のコストについては、どのように課題解決しているのでしょうか。

大西 一般的なカフェに比べたらインテリアの費用は最低限におさえられています。壁紙も貼られていなかったり、仕上げが途中のところも多いです。その分、オープン当初は、空間として寂しい感じですが、お客さんによるいろんなことが行われて行く度に、その痕跡をできるだけ残すように運営していきます。たとえば、展示会や結婚式などのイベントが開催された後に、その装飾はそのままでと。そういう余韻の蓄積が、空間の居心地や会話のきっかけへとつながっていきます。

Q4 喫茶と掛け合わせるものとして、ランドリー以外ではどのような掛け合わせが可能でしょうか。

大西 出張にいって帰ってきたときに、もしランドリースペースが卓球場になっていたとしても、お客さんにとって今の喫茶ランドリーと同じような存在であれば、それで良い。掛け合わせは何でも可能です。どんな場所も、喫茶ランドリーのようになれるということです。実際、三重県の生駒市では、街の資源ゴミステーションが、千葉県のスーパーマーケットでは軒先スペースが、喫茶ランドリーのような場所になっていたりします。

(以上、特記なき図はクランドレベル提供)

株式会社グランドレベル リサーチャー/ディレクター 大西 正紀
2003年日本大学大学院修士課程前期修了後、渡英。20032004年設計事務所Ushida Findlay Architects UK 勤務。2004年田中元子と共にmosaki 共同設立。編集者・クリエイティブディレクターとして、主にメディアやプロジェクトづくり、イベントのキュレーションなどを行う。
2016年株式会社グランドレベルの設立に参画。以後、「1階づくりはまちづくり」という考えのもと、地域の人々がまちの小さな主役になれるような空間・施設・まちづくりを全国で手がける。2018年東京都墨田区に「喫茶ランドリー」をオープン。同店は2018グッドデザイン賞特別賞[地域社会デザイン賞]受賞。
日々、世界のベンチからパブリックスペースの活用、都市計画まで、グランドレベルの視点で世界のまちと人々の営みの関係を研究している。noteは日々の発見を発信中。
note 大西正紀Ground Level & 喫茶ランドリー: https://note.com/masakimosaki
Ground Level Inc. : http://glevel.jp/

動画再生時間:約68分

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