2022.03.11 fri

サプライチェーンを測る ――話題のScope3とは?

日本総合研究所 渡辺珠子

脱炭素に取り組む企業が増加する中、自社のオフィスや工場での温室効果ガス排出量だけでなく、事業活動に関係する温室効果ガスの排出量、つまりサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量(以下、サプライチェーン排出量)を算定・可視化する動きが急速に強まっています。サプライチェーン排出量を算定・可視化することによって、環境対策を強化すべき事業活動に優先順位がつけられるなど、効率的な脱炭素の取り組みが推進することが期待できます。

近年、大手製造業各社を中心にバリューチェーン全体でのカーボンニュートラルを目標で掲げている他、気候関連財務情報タスクフォース(TCFD)に賛同する企業が増えたことや、コーポレートガバナンス・コードの改訂により、プライム市場上場企業は気候変動についてTCFDまたはそれと同等の仕組みに基づく情報開示が求められるようになったことなども、動きを加速化させている主な要因だと考えられます。

出典:環境省「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」をもとにGGP作成

サプライチェーン排出量の算出や可視化においてよく使われるのが、Scope13です。これは2011年に作成された温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)の排出量算定のための世界基準GHGプロトコルが使用する考え方で、サプライチェーン排出量の算定方法を以下のように示しています(*1)。

サプライチェーン排出量=Scope1+Scope2+Scope3
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う関節排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

GHGプロトコルではScope3を下記の15カテゴリに分類しています。

出典:環境省「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」をもとにGGP作成

Scope1Scope2は自社のオフィスや工場での燃料・エネルギー使用によって生じる温室効果ガス排出です。これらは自社内で使用するガソリンや軽油などの燃料、各拠点の電気使用量を集計すれば、環境省のウェブサイトで公表されている排出源単位データベースや事業者別排出係数を用いることで温室効果ガス排出量を求めることができます。Scope3は自社のサプライチェーンの上流と下流での事業活動で生じた温室効果ガス排出が対象ですから、上記のカテゴリに該当するような原材料の調達や加工、輸送、廃棄プロセスにおいて使用した燃料・エネルギー量を集計することが必要です。

Scope3が話題に上がっているのは、特に製造業の温室効果ガス排出量においてはScope3が全体の8090%を占める場合が多いためです。例えばリコーの2020年度のScope3の排出量は全体の84.3%(*2)、豊田自動織機は98.1%(*3)でした。脱炭素を推進するためには、Scope3における温室効果ガス排出量の削減努力が必要というわけです。

Scope3における温室効果ガス排出量の削減を進める上での企業の主な悩みとして、サプライチェーン上のどこまでを算定対象とするのか、どこまで正確な情報を把握できるかの2点がよく挙がります。例えば国内の取引先を対象とするのか、海外の取引先も含むのか、上記カテゴリ毎に対象とする活動をどうやって特定するのかなど、算定対象範囲についての課題だけでも考慮・検討すべきことは多岐にわたります。仮に算定対象を確定できたとしても、サプライチェーン上の自社以外の企業が、温室効果ガス排出量を正確に算定しており、共有する準備があることも必要です。

Scope3に取り組むにあたっては、Scope3における温室効果ガス排出量を算定する目的は何かを明確にすることから始めることが必要ですが、取引先企業や、金融機関、ESG投資家といったステークホルダーからの要請であれば、まずはステークホルダーの目的や要求を理解し、その上で算定対象を協議することが必要になるでしょう。そうではなく、「これからステークホルダーから要請される機会が増えるだろうから、事前に準備しておきたい」という場合は、すでにScope3の温室効果ガス排出量を公表している企業の情報を参照するのも一案でしょう。いずれにしてもサプライチェーン上でまず把握したい範囲、把握できる範囲を明確に知っておくことは重要です。

その上で取引先が温室効果ガス排出量を把握しているか、どんなデータを取得していて、どのように算定しているかを直接ヒアリングするなどを通じて把握することが必要です。サプライチェーン上に複数の業種を含む場合には、業種によって算定の考え方が異なる場合も考えられるため、ヒアリングの際にはお互いの算定の考え方などを共有しておくことも重要だと考えます。

Scope3への対応は複数社で連携し、温室効果ガス排出量算定の前提を揃えるという取り組みが必要なわけですが、これを業界横断でデジタルの力を活用して進めようという動きも出てきています。20211019日に電子情報技術産業協会(JEITA)がGreen x Digitalコンソーシアムを設立し、その活動の一つとして「見える化WG」を立ち上げています(*4)。これはサプライチェーン全体のCO2データを共有するプラットフォーム構築を目指し、CO2データ共有における課題や懸念事項を洗い出し、それらを踏まえてデータの取り扱いルールや運用ガイドライン等を検討しようというものです。このようにさまざまな業種の企業が参加することで、共通の課題だけでなく、それぞれの業種の課題にも対応した仕組みが構築され、多くの企業がScope3に取り組みやすくなることが期待されます。


*1:(出典)環境省「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」
*2:(出典)リコー環境パフォーマンスデータ2020年度のScope3排出量
*3:(出典)豊田自動織機 CSR情報 環境への取り組み エコプロセス Scope3
*4:(出典) Green x Digitalコンソーシアム活動紹介

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