GGPパートナー企業を訪ねる vol.02

2022.06.15 wed

アート✕ビジネスで、障害のある人たちが活躍できる社会へ――ヘラルボニー

「全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する」。1970年に制定され、その後に現在の名称となった障害者基本法にはそう記されています。障害者雇用率制度は2021年にさらに引き上げとなり2.2%に。民間企業の雇用障害者数は597千人を超えて過去最高を更新しましたが、法定雇用率達成企業は全体の47.0%(令和3年実績)。また国内の障害者数が964万人以上であることを考えると、依然として障害者の雇用機会の少なさ、そしてそれに紐づく経済的自立の困難さは課題として残ります。

そんな社会に一陣の風を吹き込むのが、2018年に岩手県盛岡市に設立した株式会社ヘラルボニー。知的障害のある作家によるアートを活かしたビジネスモデルを構築し、2021年にはシリーズAラウンドの資金調達を実施。アート、ビジネスの両シーンで頭角を表しています。双子の兄弟でもある松田崇弥(たかや)代表取締役社長CEO、松田文登(ふみと)代表取締役副社長COOは、どんな未来を描いているのでしょうか。

神戸市で建設中のSMBCの社員寮の仮囲いにヘラルボニーのアート作品を使ったSMBC SOCIAL ART MUSEUMを設置。地元の作家・柳生千裕による作品を2022年9月末まで展示予定。写真提供:ヘラルボニー 

  • 1.アートをデジタル化することで生まれたビジネスモデル
  • 2.ターニングポイントとなったショールームという“場”
  • 3.ライセンス収入を作家に還元するのが会社としての義務
  • 4.“ヘラルボニー”という障害者のインフラに

取材はインクルーシブフロアとしてリニューアルした、渋谷モディ4階の「HERALBONY CARAVAN in 渋谷モディ」にて。松田文登CCO(左)は岩手県からオンラインで参加。写真:木寺紀雄

オリンピック・パラリンピックの聖火台のトーチ、マルイのクレジットカードの表面に、東北発のヒット商品として知られるサバ缶「Cava? 缶」や日本酒のラベル、日本各地の工事現場の仮囲いや、ラグジュアリーホテルの特別ルームのインテリア、地元スポーツチームのユニフォーム……。まだまだ長いリストが続くこれらのアイテムや空間を彩る個性的なアートはすべて、ヘラルボニーと契約する障害のある作家たちによるもの。ヘラルボニーは国内外の153名の作家と契約し、約2000点以上の作品の著作権を預かるスタートアップです。

「事業の中心はアートデータとそのライセンスです。著作権としてお預かりした作品をデータ化し、そのアートデータをさまざまなモノ・コト・場所に展開しています。作品がプロダクトとなってリテールに流れたり、建設現場の仮囲いやオフィスに展開したり、各種パッケージに展開したり……。現在は自社ブランドも運営していますが、基本的にはさまざまな企業や地方自治体などご依頼のあったお客様に高解像度のデータをお渡しし、そのライセンスフィーを作家に還元しています」(文登氏)

“ヘラルボニー”という全く聞き慣れない、それでいて一度耳にすると離れない不思議な引力のある言葉を20年以上も前にノートに書きつけたのは、崇弥氏・文登氏の4歳上の兄・翔太氏。知的障害があるという翔太氏こそが、いわば会社の名づけ親であり、二人の起業の大きなきっかけとなった存在です。崇弥氏が話します。

松田崇弥CEO(右)。写真:木寺紀雄

「兄に重度の知的障害がある環境で育ったので、もともと福祉は身近な存在でした。知的障害のある方のアートという分野に出会ったのは24歳のとき。とても興味を惹かれた反面、自分たちがこの分野で何かやるならば、障害のある作家たちが納期に縛られないでいいビジネスモデルがいいと思ったのです。中度〜重度の知的障害のある人にとって、たとえばいついつの個展のために10作品をつくる、どこそこの企業のために大きな作品を描くというような方法は負荷が大きすぎるのが想像できましたから。そうではなく、素晴らしい作品ができた時にデータ化して保管するアートデータというかたちならば、企業などとの契約が成立しても全く納期に縛られることなく商流に乗せることができる。そういうビジネスモデルなら、重度の知的障害がある作家も、社会そして資本主義経済に乗っていける可能性があると考えました」

アール・ブリュット/アウトサイダー・アートは、アートの世界では古くから認知されてきた言葉。専門的に知的障害のある作家の作品を扱うギャラリーは国内外に多数あるが、ヘラルボニーのようにライセンス事業を展開している先例は「おそらくないですね」と崇弥氏は言います。世界的にも先駆的なビジネスモデルです。

「ハイアット セントリック 銀座 東京」内のヘラルボニーアートルーム。写真提供:ヘラルボニー

東京で勤務していた崇弥氏は前職を辞し、迷わず故郷の盛岡でゼネコンに勤務していた文登氏に声をかける。起業時は28歳。ここ1〜2年はライセンシーに大企業が名を連ね、TVや雑誌などメディアへの露出も多いヘラルボニーだが、決して事業は順風満帆ではなかったと崇弥氏は言います。

「全くとんとん拍子じゃないですよ(笑)! 起業当初はBtoBの仕事に注力したいと思っていましたが、1年目は惨憺たるもの。文登と二人で全国の福祉施設に通い、アートを通じて知的障害のイメージを変えたいと誠心誠意お伝えして作家さんたちと契約を結んだけれど、いろいろな企業にプレゼンに行っても『素晴らしいことをなさろうとしてるんですね!』と言われておしまい。チャリティーだと勘違いされ、無料ならば考えると言われたこともありました。

クロスター社とのコラボレーションによるランドセル。写真提供:ヘラルボニー

そんな風に全くダメで、僕は前職のプランニングの仕事などで食いつないでいましたね。そうして見えてきたのが、ライセンスをやるならば知名度が必要だということ。ならばリスクを背負ってショールームとなる場を持つべきだと思うようになりました。実は起業当初は、自分たちでアイテムをつくって店舗を持つことにはリスクしか感じていなかったんです。でも自分たちで世界観を作って、こういうアートはこういうものになる、こういう世界観をつくれますと見せないと全くどこにも通じない。覚悟を決めて借金をし、店舗をかまえたことで風向きが変わりました。思惑通りにヘラルボニーの世界観が浸透し、BtoBの仕事をいただけるようになっていきました」

最初のショップは地元・盛岡の川徳百貨店の3階(この4月に1階へ移設)。現在は同じ盛岡にギャラリーを持つほか、各地でポップアップストアを開催、オンラインストアも運営しています。シャツやネクタイ、各種バッグ、食器類、水筒……。ヘラルボニーはいまや、生活をアートで彩るライフスタイルブランドでもあります。

「HERALBONY CARAVAN in 渋谷モディ」2022年3月17日~6月8日の風景。写真:木寺紀雄

BtoBによるライセンス販売、D2Cでのプロダクト販売。両輪が周り始めたことでヘラルボニーのビジネスは軌道に乗り、それに伴って契約作家のライセンス収入も増えていきました。就労継続支援B型の平均工賃が月額約16000円という社会状況のなか、ライセンス契約によって年収数百万円を稼ぐ例も出てきたそう。現在は、ヘラルボニーとの契約を望んで、作品の持ち込みなども相当数に上ると、文登氏が話します。

図版提供:ヘラルボニー

「元はテキスタイルデザイナーで、長くアパレル業界で活躍してきた取締役の佐々木春樹が見るなど、プロの視線を入れて契約を決めています。誰も彼も契約して、お仕事を持っていけないことがいちばん失礼だと僕らは思っていますから。ぜひご一緒したいと思う方と契約を結ぶことが、結局は作家さん、親御さん、福祉施設のすべてに最良です。

僕たちのビジネスモデルでは、アートの表現としては円を描き続けるといった繰り返しの表現が、テキスタイルに落とし込みやすいのでライセンスによりつながるといった傾向は確かにあります。一方でライセンスには結びつきにくくても素晴らしい作品は、もちろん無数にありますから、それは原画で売るといった具合に、僕たちがチャンネルをさらに増やしていかなくてはいけない。信頼できるプロの視点にも頼りながら、障害のある方のアートの可能性をもっともっと拡張できたらと思っています」

現在は本社をかまえる盛岡と東京オフィスに正社員が20数名。2023年には関西拠点をつくるほか、将来的には京都、名古屋、福岡、そして北海道にも拠点を持ちたい、と文登氏。

「作家さんたちが地元で活躍できるというのがいいなと思うからです。地方でポップアップをやったりすると、作家の方のかつての同級生が偶然やって来てその作品を買うといったことが起きる。そういう風に地元で知られると、今度はその作家さんが『すごいね!あの百貨店で見たよ』と直に賞賛されたりするんですよね。そうすると作家さんはもちろんとても喜びますし、如実に周りの見る目も変わっていく。そんな風に作家さんの近くの環境を変えていく構造をつくりたい。作家さんにとっての地元・地域をより大切にすることはこれからのひとつのテーマです」

こう話す背後には、“作家ファースト”というヘラルボニーが大切にする価値観があると、崇弥氏も続けます。

「作家さんあってのヘラルボニー。福祉の分野では、障害者に対して彼らの生活を支える人々を支援者といいますが、ヘラルボニーでは私たちは支援されている側だと強く意識しています。作家さんがいなければ食べていけない立場ですから、作家さんとの関係性、信頼関係は何より大切にしないといけない」

衣笠泰介『ブダペストで朝食を』図版提供:ヘラルボニー

小林覚『夏の魔物』図版提供:ヘラルボニー

佐々木早苗『無題(丸)』図版提供:ヘラルボニー

地域性に重きを置きたいと話す一方で、ECサイトは世界125カ国の販売に対応して世界でのD2C展開もスタート。ほかに今年の4月には、PwC Japanグループによるメタバースでの入社式で、壁面をヘラルボニーのアートで彩りました。海外、そしてメタバース……。ヘラルボニーを介して、知的障害のある作家たちのアートの可能性は複層的かつ全方向的に広がり続けているようです。「ARやメタバースには大きな可能性を感じます」と文登氏。

ヘラルボニーのアートブラウス。写真:木寺紀雄

「たとえばヘラルボニーの服をリアルの世界で着るのはちょっと派手で気が引けるという方でも、ARでなら着たいと思うかもしれない。そういう意味ではARに出店といったこともあり得るかなと思います。メタバース空間でアートができあがっていくまでの様子を見られたりと、これまでにない展開ができたりする。僕たち自身はとてもアナログな会社ですが、テクノロジーの得意な企業との協業で、まだまだ面白いことができそうだという予感はありますね」

知的障害のある作家たちのアートを変化を続ける社会の波に乗せ、軽やかに走り続けるヘラルボニー。夢はと尋ねると、崇弥氏からこんな答えが返ってきました。

丸井が発行するヘラルボニー柄のエポスカードは、デザインにアートが採用されているだけでなく、利用金額の0.1%がヘラルボニーを通じて作家に還元されるしくみ。 写真:木寺紀雄

「ヘラルボニー的にビジネスに乗せやすい作家だけが売れればいいとは、実は全く思っていないんです。ウチの兄貴みたいな重度〜中度の知的障害のある方は、誰もがアートをつくれるわけじゃないし、アート以外が得意な方もいる。そういう人たちが当然のように社会に存在して、当然のように働いているという社会をつくることこそがイノベーションだと思っているので、そこにチャレンジしたいですね。2023年中には、ウェルフェア部門を立ち上げル予定です。福祉施設、グループホーム、カフェなどでの障害者雇用を始めます。知的障害のある人が働いている場を、ひとつやふたつではなく、全国1000店舗というような規模でつくれたら、障害者との直接的な出会いをつくることができます。僕らの今のビジネスの中心にあるアートは、リスペクトは生まれるけれど、実際の顔は見えづらいんですよ。彼らの顔がより見えるようになることが、人々のマインドチェンジの肝になるだろうと思っています。そうやって最終的には“ヘラルボニー”を知的障害のインフラにしたい。“ヘラルボニー”とついた施設はカフェもスイミングスクールも、学校も、誰でも受け入れてくれる場所とわかるような社会です」

「全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する」——冒頭に書いたこの言葉が本当の意味で実現した社会が、松田両氏の行く先に見えてきます。

(取材・文/阿久根佐和子)

  • ヘラルボニー代表取締役社長CEO 松田 崇弥

    1991年岩手県生まれ。小山薫堂が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。双子の松田史登と共にへラルボニーを設立。(写真:木寺紀雄)

  • ヘラルボニー代表取締役副社長COO 松田 文登

    1991年岩手県生まれ。ゼネコン会社で被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にへラルボニーを設立。
    (写真:ヘラルボニー提供)

株式会社ヘラルボニー
2016年松田崇弥が中心となって前身となる「MUKU」を発足。18年「株式会社ヘラルボニー」設立。19年松田崇弥・文登が日本を変える30歳未満の30人として 「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」に選出。20年岩手県盛岡市の「川徳百貨店」に常設出店。21年知的障害のあるアーティストの作品を披露する「HERALBONY GALLERY」 を岩手にオープン。
「ICCサミット」ソーシャルグッド部門優勝、第3回日本オープンイノベーション大賞・環境大臣賞など受賞多数。2022年日本スタートアップ大賞にて、審査委員会特別賞を受賞。
HP:https://www.heralbony.jp/

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