2022.07.27 wed

サーキュラーエコノミーの潮流

日本総合研究所 二宮昌恵

2022年4月より、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)」が施行され、プラスチックのスプーンやアメニティなど、一部の使い捨てプラスチック製品の有料化が話題になりました。ただ、焦点は有料化だけではありません。法律の目的は、プラスチック製品の設計から廃棄処理に至る全てのプロセスにおいて「3R(リデュース・リユース・リサイクル)+Renewable(再生可能)」を促し、サーキュラーエコノミーへの移行を加速することにあります。では、目指しているサーキュラーエコノミーとはどのようなものであり、なぜその移行が求められるのでしょうか。

サーキュラーエコノミーは循環経済/循環型経済と訳されます。これまでの経済活動は、「生産→消費→廃棄」という「リニアエコノミー(直線型経済)」でした。それに対して、サーキュラーエコノミーには、「廃棄」という概念がありません。消費された製品は廃棄ではなくリサイクルされ、新たな生産のための「資源」として扱われるのです。

リニアエコノミーとサーキュラーエコノミーとの違い/図出典:資源循環政策の現状と課題(経済産業省)(*1)

サーキュラーエコノミーの考え方の背景として、大量生産・大量消費を前提とした従来型の経済は環境・社会の両面からもはや立ちゆかないとの認識があります。資源枯渇の問題と同時に、気候変動や生物多様性の喪失、プラスチック汚染など、様々な環境問題が表面化しています。リニアエコノミーでは、経済活動の拡大は環境問題の深刻化と比例してしまうのです。さらに、資源賦存量で考えると、世界全体の人々が先進国の私たちと同じような豊かな生活を等しく享受することは不可能と考えられ、経済格差の問題にも繋がります。

サーキュラーエコノミーは、経済活動による環境負荷を軽減し、経済活動と環境負荷との負の相関を切り離す、いわばデカップリングの手段として注目されています。同時に世界全体における資源制約を少しでも緩和し、公正な経済システムに近づこうとするアプローチです。

サーキュラーエコノミーは、従来の3Rの考え方と何が違うのでしょうか。3Rは、製品製造の際の投入資源や廃棄物を減らし、また、生じた廃棄物の再資源化を目指すものです。一方、サーキュラーエコノミーにおいては、そもそもの原材料調達や製品・サービス設計の段階から資源の回収や再利用を前提に構想されており、廃棄物の概念は存在しません。

3Rは、従来型の経済活動において廃棄物が生じることをあくまで前提として、その廃棄物をどのように効率活用・再資源化するか、という「廃棄物発の視点」がベースにあるものでした。これに対してサーキュラーエコノミーは、そもそも廃棄物が出ない製品設計・サービス設計はどのようなものかという「デザイン設計発の視点」に重きを置いているとも言えます。3Rの概念や技術は、サーキュラーエコノミーにおいても変わらず重要な要素ではありますが、それだけでは十分ではないのです。

では、「廃棄物が出ない製品・サービス設計」とは具体的にどのようなものでしょうか。ここでは、2つの事例を見てみましょう。

1つは、2050年までに国中で100%サーキュラーエコノミー実現を目指すオランダの事例です。以前から既にリサイクルが進んでいた同国ですが、原料の輸入依存脱却を企図し、2015年にEUが「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を採択したことを受けて、いちはやく国家戦略としてのサーキュラー化を打ち出し、取り組んできました。

ユニークな製品設計の事例として、「壊す時のことを考えて建てる建築」を取り上げましょう。オランダのブルメン市では、新たに市庁舎を建てる際、将来的に建物の適正規模が変っていく可能性を見据えて、耐用年数を20年に定めるとともに、材料の90%の解体・再利用が可能となるレゴ®のような構造を採用しました(*2)。建材には、リサイクルが困難な鉄筋コンクリートに替えて、高品質の木の集成材が使われました。加えて、建物の材料や構造等に関連する情報を「材料パスポート」として記録することで、将来の円滑な解体と建材の再利用が可能となるよう配慮しました。

オランダ、ブルメン市の新市庁舎 左のガラス張りの部分は、90%の部材を再利用できる仕組みとなっている。設計:RAU architects 写真: Petra Appelhof

もう1つの製品及びサービス設計の一例として、「サトウキビストロー」を販売する株式会社4Natureの事例を取り上げます。同社は、産業廃棄物として処理されていたサトウキビの搾りかすをアップサイクル(従来なら捨てられるはずの廃棄物や不用品を、新しい素材や製品にアップグレードすること)したストローを販売しています。生分解可能で土壌への悪影響がないこと、紙ストローよりも耐久性が強いことなどが、製品の利点として挙げられます(*3)。

同社のユニークな点は、商品だけではなく、その回収・再利用の試みにあります。プラスチックから生分解ストローに代替しても、使用後廃棄され、燃やされてしまうのではサーキュラーエコノミーとは言えません。同社は、地域の飲食店を拠点に農家と消費者を繋ぎ、食資源やコミュニケーションの循環を促進する新規サービス「CSA LOOP」と連動し、当該ストローを導入している店舗が収集した使用済みのストローを、その他の有機物と合わせて農家が回収する実証実験に取り組んでいます。回収したストローは、主に堆肥作りに利用され、野菜の栽培を経て循環されていきます。

写真提供:4Nature

先述した事例はサーキュラーエコノミーのごく一部に過ぎません。ただ、これらが示しているのは、サーキュラー化に際しては、リサイクル強化などの既存システムの一要素の改善に留まらないということです。提供する価値の変容や消費者も巻き込んだ多様なステークホルダーとの協働など、ビジネスモデルを含むシステム全体の変更が求められます。そのような新しい試みには各種コストもかかりますが、それでもなおサーキュラーエコノミーへの転換が進んでいくと考えられる理由は2つあります。

1点目は、各国のサーキュラーエコノミーへの移行戦略の存在です。法制化が先行するEUでは、サーキュラーエコノミーの推進を欧州グリーンディールの中核に位置付けています。今年3月には、その具体策として「サステナブル製品イニシアチブ」が採択され、消費者がサステナブルな製品を購入しやすくなる各種政策や、アパレル・建設分野を含めたエコデザインルールの改正などが定められました。

日本においても、2020年に「循環経済ビジョン2020」が策定され、従来の環境活動としての3Rから、経済戦略としてのサーキュラーエコノミーへの転換が打ち出されました。2021年3月には環境省が「循環経済パートナーシップ(J4CE)」を立ち上げ、国内外の取り組み事例の共有など、官民を挙げた推進体制の構築を進めています。

このように各国が国家戦略としてサーキュラーエコノミーへの移行を掲げる中、短期的には移行コストがかかったとしても、長期的には法規制の強化や課税などを考慮に入れると、リニアエコノミーよりもサーキュラーエコノミーの方が経済的なインセンティブがあるという判断も成り立ちます。冒頭のプラ新法は、その分かりやすい規制強化の事例と言えるでしょう。

2点目は、カーボンニュートラルとの関係です。サーキュラー化が欧州グリーンディールの中核政策であることからも分かるように、温室効果ガス(GHG)排出削減とも密接な関係があります。例えば、製造時にバージン素材に比べてGHG排出量を抑えたリサイクル素材の開発事例は数多くみられます。また、サーキュラーエコノミーにおける複数のビジネスモデルの中でも、修理や部品交換等を見据えた製品寿命の延長に関する施策に関しては、「高程度のGHG削減効果が見込まれる」と国立環境研究所による研究結果も出ています(*4)。

カーボンニュートラル達成に向けては、調達素材の製造時や製品の廃棄時といったサプライチェーン上の他社のGHG排出削減も求められつつあります。サプライチェーン全体のカーボンニュートラル実現の手段として、既存のビジネスモデルを維持し、個々のプロセスのGHG排出削減努力に加えて、今後はGHG排出削減効果を持つサーキュラーエコノミー型のビジネスモデルに切り替えるという発想も、成立してくるようになるでしょう。

サーキュラーエコノミー型のビジネスモデルは、ビジネス発想の起点が従来と異なっており、リニアエコノミー型の既存事業に容易に適用できるものではありません。そうした難しさがあるにせよ、あらゆる産業・企業にイノベーションが求められる時代だからこそ、新規事業開発においてサーキュラーエコノミー型のビジネスモデルを取り込む絶好の機会が、今あるのではないでしょうか。

*1:資源循環政策の現状と課題(経済産業省)
*2:エレン・マッカーサー財団
3株式会社4Nature
*4:サーキュラーエコノミーを脱炭素化につなげるための必須条件を解明(国立研究開発法人国立環境研究所)

  • TOPに戻る