2022.09.07 wed

ブルーカーボンとは——注目される背景、政府・企業の取り組み

日本総合研究所 小林建介

気候変動への対応やカーボンニュートラルの推進が世界的に注目されています。日本政府が掲げる2030CO2排出量46%削減(2013年比)2050年カーボンニュートラルを実現するためには、CO2排出量を削減するゼロ・エミッションだけではなく、大気中に蓄積している温室効果ガスを回収・除去するネガティブ・エミッションへの取り組みも重要となります。ネガティブ・エミッション技術としては、CCSCCUSが注目を集めていますが、自然資本を活用するブルーカーボンも1つの手法として注目されています。

ブルーカーボンの定義には幅がありますが、主には、海藻が作る藻場や湿地・干潟、マングローブ林のような海洋の沿岸生態系が吸収・貯留・隔離する炭素を意味します。海洋が吸収する炭素について、陸上の森林等が吸収、固定する炭素を意味するグリーンカーボンと区別するため、2009年に国連環境計画(UNEP)により「ブルーカーボン」と名付けられました。ブルーカーボンが注目される背景として、次の3点が挙げられます。

海洋は陸域よりも吸収量が多いと推定される
元々CO2は水に溶けやすい性質を持つため。ただし、海洋がCO2を吸収する点について、海水の酸性化が進むことにより、サンゴの石灰化が妨げられる等、海洋生態系への悪影響がある点には留意する必要があります。

②植物によって海底泥に貯留される炭素の量は、海洋全体が年間に貯留する量の8割近くとなっていること
沿岸浅海域のブルーカーボン生態系の面積は海洋全体の0.5%以下であるが、日光が届くことにより、海藻やマングローブ林等植物の光合成でCO2を吸収するため。

③温室効果ガスの増加緩和に大きな役割を果たしている
貯留された炭素は長期間大気から隔離されるため。

排出された二酸化炭素のうち、海洋には26億トンC/年が吸収される。図:国土交通省資料[*1]をもとにGGP作成

ブルーカーボンに対する取り組み主体として、ここでは、国・政府、企業の取り組みを見ていきます。

①政府の取り組み
2015年のパリ協定に基づくNDC(Nationally Determined Contributions:国が決定する貢献)において、多くの国が温室効果ガス削減に向けたブルーカーボンの重要性について触れていますが、実際に温室効果ガスインベントリ(1国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータ)への組み込みが行われている国は米国・豪州の2カ国に止まる状況です。そのため、多くの国では、自国のブルーカーボン算定に向けた調査・研究が行われている段階です[*2]。

自治体の取り組み
上記の通り、国際的なブルーカーボンへの取り組みが政府によって異なる中、日本では、自治体が早期にブルーカーボンに着目し、独自の取り組みを進めている点が注目されます。例えば、2014年に横浜市が独自のブルーカーボンも対象としたクレジット認証制度を日本で最初に立ち上げました。また、福岡市でも2020年に「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」が始まり、ブルーカーボン・クレジット取引の売上や企業からの寄付金、入港料の一部などを市民、漁業関係者、企業など複数の主体からなる藻場の保全活動に活用しています。その他に、大阪府阪南市では、大阪湾に有するアマモの自生地を活用して、地元の小学校の学習プログラムでアマモの再生・保全活動等を取り入れています[*3]。日本では、海洋に接する自治体が多いため、自治体起点でのブルーカーボンへの取り組みが広がることで、基礎的な統計の早期収集や地域毎の海洋価値の特徴の把握に繋がることが期待されます。

企業の取り組み
企業がブルーカーボンに関心を持つ大きなきっかけの1つは、カーボン・オフセット取引でしょう。カーボン・オフセットとは、人間の経済活動や人間の経済活動や生活などを通して排出された二酸化炭素などの温室効果ガスについて、削減努力をしても削減できない分の全部または一部を、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)などで、埋め合わせすることを言います。海洋の炭素吸収量が陸域の吸収量よりも多いと推測されていることからも、ブルーカーボンを活用したオフセット・クレジット取引の潜在的なポテンシャルは大きいため、今後の市場拡大・関心を持つプレーヤーの増加が想定されます。
海外では、VerraThe Gold Standard等、民間企業やNGOのカーボン・オフセット基準管理団体を中心にカーボン・オフセット・クレジットが取引されています。実際に、Verraでは2021年に「ブルーカーボン保護プロジェクト」が初めて正式に登録されています。
更に、事業会社をみても、既にブルーカーボン・クレジットの導入や生態系保全に取り組んでいる企業もあります。例えば、米Apple2018年に環境保護団体が主導するマングローブ林再生プロジェクトに資金を提供し、100万トンのCO2削減プロジェクトに参画しました。そして、2021年には、このプロジェクトから販売されたブルーカーボン・クレジットを自社で購入しています[*4]。
一方、日本では、政府の認可法人であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合が、海洋、沿岸の環境保全を行うプロジェクト等によって大気中から吸収されたCO2量を「Jブルークレジット®」として認証し、企業へ販売する取り組みを行っています。2020年度には1つ、2021年度には4つのプロジェクトが認証を受け、それぞれに対してクレジットの購入の公募が行われました。このうち、1つのプロジェクトは、J-POWERが自社事業所の近海で藻場を造成したものであり、民間事業者単独での取り組みも行われ始めています[*5]。

カーボン・オフセットの基本概念とクレジット取引。図:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の資料[*6]を元にGGP作成

また、海洋価値の測定方法が国際的に統一されていない中、今後の市場活性化に向けて、ブルーカーボンの算定方法や海洋価値のモニタリング方法等の更なる充実が必要と想定されます。直近で取り組まれた研究の一例を挙げると、20225月、長崎大学と理研食品ら研究グループは、海藻のCO2吸収量を海水中に溶けた酸素の量から計測することに成功しました。従来、海藻の収穫量などからCO2の吸収量を推定するのみで、実際のCO2吸収量が計測できていなかったため、本研究は「ブルーカーボン効果」の定量化・標準化に貢献し、海藻養殖や藻場保全が有する温室効果ガス削減効果の評価に寄与するといえます[*7]。

日本では、「ブルーカーボン」という単語は認知されていても、その実態や自社のビジネスにどのように関わるか、という点については把握できていない企業も多いのではないかと思います。

企業にとっては、カーボン・オフセット・クレジットを購入することで、プロジェクトによっては海洋環境の保全への投資や、保全に取り組む団体への支援などにも繋がります。また、投資家等に対しても、SDGs目標の1つである「海の豊かさを守ろう」に貢献していることをアピールできます。このような取り組みによって、ステークホルダーからサステナブルな企業と認められ、企業価値の向上や更なる顧客・ファン獲得に繋がることも期待されます。

一方で、課題としては、ブルーカーボンに関して、統一的な算定方法やデータ収集に関しては未だ整備中であること、ブルーカーボン・クレジットの認証制度も試行段階にあり流通量が少ないこと、等が挙げられます。国際的な枠組みが整備されていないからこそ、日本が先行して地域特性に応じたブルーカーボンの算定方法や政府によるブルーカーボン・クレジットの認証制度の整備等を行う意義は大きいと考えられます。

*1:国土交通省 ブルーカーボンとは
*2:環境省 ブルーカーボンについて
*3:横浜ブルーカーボン・オフセット制度
   福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度
   阪南市SDGs×ブルーカーボン・オフセット
*4:Apple Inc.
  
Conservation International
*5:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合
   脱炭素社会の実現に向けたブルーカーボン・オフセット・クレジット制度の試行について(国土交通省)
*6:Jブルークレジット®(試行)認証申請の手引-ブルーカーボンを活用した気候変動対策-
*7:国立大学法人長崎大学

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