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持続可能な未来の地方都市をデザインするワークショップ TSURUGA SMART DESIGN Challenge

Date: 2023.02.24 FRI

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2022年929日、「持続可能な未来の地方都市をデザインするワークショップ」を開催しました。このイベントは、福井県敦賀市の取り組みをもとに、参加者から企業と地方行政が協働していくためのアイデアを募るものです。

敦賀市企画政策部の橋本善仁氏が同市の具体的な取り組みを紹介した後、chaintope代表取締役CEO・正田英樹氏、クラブツーリズム営業企画部・鈴木光希氏、ジャクエツ経営企画室・赤石洋平氏、同スペースデザイン営業部・若宮幹夫氏らが、企業×地方がいっしょになって地方の課題解決に取り組む活動の最初の一歩をつくるためのビジョンやさまざまなアイデアを提案しました。

なお今回は、地方都市の課題解決に向き合うGGPパートナー企業の方々も参加し、以上4組がテーマオーナーとなるワークショップを開催。未来の地方都市をウェルビーイングな空間とするために、さまざまな立場にある地方自治体やステークホルダー、企業などが組織の枠組みを超えてアイデアを発し、デジタルを活用した関係性資本の充実と拡張とともにある新しい地域[*1]を構想していく共創モデルを思考する機会となりました。

4組のテーマオーナーによる活動の紹介に続いてワークショップが始まりました。

敦賀市企画政策部ふるさと創生課の橋本善仁氏によると敦賀市は、1920年代にロシア革命の混乱から逃れるポーランド孤児を受け入れ、1940年代にはナチス政権による迫害を逃れて「命のビザ」を携えたユダヤ難民を迎え入れた「人道の港」として、昔も今も、人と人の交流や繋がり、共助を大切にする地域性があるまちです。

一方で原子力発電所が集中立地するエネルギー供給都市として知られていますが、2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の長期運転停止や廃炉決定などを背景に基幹産業としてのエネルギー関連部門が縮小して地域経済のベースロードが減退することが懸念されています。また2012年以降、人口減少と高齢化が進み、現在の約64,000人の人口も2050年には5万人を下回ると予測されています。こうした中、過去5年間には企業誘致を進め、180人を超える新規雇用も生んできました。地方都市としては実りのある数字です。しかしながら、製造業を中心とする雇用を望む若者は多くなく、若年層における労働需給ギャップが顕在化しつつある状況が生まれています。

敦賀市は、このように加速化する「人口減少×産業縮小」のダブルパンチに耐えながらも、エネルギー都市としての強みを活かし、若年層の雇用を創出する産業構造の複軸化が課題であると位置づけます。

橋本氏は、この課題と解決策、未来のビジョンを「敦賀市スマートエリア」として示し、その形成を、「社会基盤の革新」→「産業の革新」→「暮らしの革新」へ、そしてクリーンエネルギーの供給体制の構築を通じて電力事業者との連携を確実なものとしてきた敦賀市の強みであるGX(グリーントランスフォーメーション)をDX(デジタルトランスフォーメーション)へと推進し具体化していくことに特徴があるとし、その循環を以下のように提案します。

①「社会基盤の革新」とは、クリーンなエネルギー供給体制を整え、先端企業を誘引する持続可能な社会基盤を築くこと。
②「地域産業の革新」とは、進出した先端企業と地元企業等の共創拠点を形成し、産業のイノベーションを促すこと。
③「暮らしの革新」として、共創によるイノベーションにより生まれる新たなサービスを展開し、市民の豊かな暮らしを実現すること。

提供:敦賀市

革新の推進・循環を実現する政策と、歴史的誇りである交流や共助の市民性を融合した「敦賀市スマートエリア」構想では、市場経済偏重の「契約社会」を超えた「公」の価値観をこれからの社会に必要なものとし、かつての誇りを再インストールしたいとする理念を語りました。

続けて橋本氏は、同市が重点的に取り組むDXが、デジタルを活用した子ども支援であることを解説。具体的に以下の4つの行政支援の充実と拡張を掲げます。

①保護者だけでなく地域住民の共助による「放課後児童対応(見守り)」
②子育て世代に向けて市内の各種イベント情報を地図にプロットした「市民向けAIイベント情報集約」
Wi-Fi環境を活用したデジタル図書の閲覧環境整備「放課後児童対応(図書閲覧支援)」
④施設職員の資質等によらず子どもが自ら学習する体制を整える「放課後児童対応(自主学習支援)」

核家族化や共働き世帯の増加という不可逆的な変化の中で、行政が子育て支援を複軸化し、子・親・社会が最適解であると思える方法を模索しています。

提供:敦賀市

あらためて、「公」とはなにか。なぜ「公」を考えるのか。橋本氏は、「公」とは、社会に生きる大人たちが共有すべき「次世代に対して、より良い社会をつくり、バトンをわたすこと」であろうと語ります。そして、自分の子どもに対してだけでなく、地域の子どもたち、日本の子どもたちに、負債ではなくさまざまな良質な資産を残すために「公」の社会活動を広げていきたい。

戦後、血縁・地縁社会を脱し、経済取引を中心とした社会が完成すると、子育てや介護が経済性のない活動として取りこぼされ、孤立化と商品化の2極化が進んできました。DXを活用したスマートエリアづくり、そこでの支援のあり方を広くリデザインすることをテーマとする本日、子ども支援を通じて考える「公」の再構築、かつてあった「縁側社会」の再インストールなどについての議論が深まるといいと提案しました。

次に、ブロックチェーン技術開発やコンサルティングサービス事業を展開する福岡県の企業、chaintope代表取締役CEO・正田英樹氏は、デジタル地域通貨による地方創生、自律分散型社会をブロックチェーンが推進していくと語ります。

正田氏は、デジタル地域通貨が求められる社会的背景には現在2つの傾向があると整理します。①地域内の経済活性化と循環の実現、②地域コミュニティの活性化、です。①は、さまざまな経路で中央から地域経済支援がなされるものの、結局は利潤が中央に還流してしまう「漏れバケツ理論」的状況と、さらにコロナ禍によって地域外との交流が減少している傾向。②は、地域の価値を向上させる地域内での経済循環の創造と、金銭的価値だけではない価値の共有を追求する傾向です。

ここで2つの先行する特徴的なデジタル地域通貨の事例を紹介します。岐阜県高山市、飛騨市、白川村で流通する「さるほぼコイン」(アプリ)は、加盟店・地元企業数が1,500以上、ユーザーが20,000人を超え、市場に出ないお酒、飛騨牛、飲食店の特別メニューなどがデジタル地域通貨で購入でき、行政と連携した災害や獣害情報の発信プラットフォームとしても機能している成功事例です。また、埼玉県深谷市が地域一丸となった持続可能な地域経営の実現を目指して策定した「地域通貨導入戦略」による「地域通貨ネギー」(QRコード決済)は、全国初のふるさと納税電子感謝券として納税返礼品にも活用されるなど、実績を築いています。こうした成功事例に続くかたちで、現在では全国で多様な地域通貨が社会実装されています。

地域通貨に特徴的な「金銭的価値だけではない価値」の追求は、「感謝・共感・応援」=「関係性資本」の見える化という、新しい評価軸を生んでいます。これまでの社会的価値観において、個人の信用評価は、資産額などの経済指標によって一元化されてきました。「しかし本当にそうでしょうか?」と正田氏は問いかけます。「これまで金銭的価値だけでは評価できなかった、地域コミュニティの維持や繁栄に貢献する人々に光を当ててポイントを付与し、次なる挑戦のための人的・経済的支援に繋げ、地域内経済の循環と関係人口の増加を実現していく。そのような地方都市の未来のビジョンをブロックチェーン技術とともに立ち上げている」と。

提供:chaintope

東京に本社を置く旅行会社、クラブツーリズム営業企画部・鈴木光希氏はユーザー同士のコミュニティを運営する「テーマ旅行」を紹介しました。

クラブツーリズムでは、累積約300万世帯のユーザーのうち約86%50歳以上のいわゆる「アクティブ・シニア層」であると分析しています。しかし、長引くコロナ禍にあって、旅行のイメージも少しずつ変わりつつあります。交通機関を利用して観光を楽しむだけではなく、例えば登山スキルを習得しながら名峰の登頂をめざすテーマ型や、オンラインコミュニティを学びや体験の場として活用する新しいかたちの旅行の提案は、ユーザーからとても高い満足度を得ていると言います。

そのような、旅行を通じてコミュニティを創出する基幹メディアとなっているのが『旅の友』とテーマ旅行ごとの月刊パンフレットで、登録情報やアンケートによるユーザーの多彩な趣味嗜好に合わせて配送しています。こうしたステージに参画するユーザーを「クラブツーリズムキャスト」と呼んで、活動の輪を広げるほか、ユーザーがテーマ旅行の添乗員や介助スタッフになったり、趣味ツアーの講師になったり、生きがいを創出するさまざまなステージが生まれていると解説します。

提供:クラブツーリズム

かつての「旅=オフライン」とコロナ禍の「生活=オンライン」の新しい融合を目指して、共通のテーマで人と人とが繋がり、集うオンライン上のプラットフォームを構築し、居心地のよい居場所を提供する。さらに、多様な企業・自治体と独自性のあるコンテンツを共同開発して新たな顧客体験価値を創出し、派生的に連携団体の事業活動を支援していく。こうした広い範囲を視野に入れて旅行を捉え直すとともに新しい事業像を描いていると、鈴木氏は語りました。

コロナ禍による繋がりの「分断」。特に高齢者の孤立や身体・認知機能の低下、防犯・防災などの地域活動の縮小が顕著になりつつある現在、クラブツーリズムの事業スキームやサービスが、「地域型コミュニティ」と「目的型コミュニティ」の本来の価値を再認識させ、さまざまなコミュニティ運営に活用できるのではないか。こうした仮説をもとに進む、コミュニティ形成のコンサルティングやコミュニティサロンの運営などの最新の事業が紹介されました。

プレゼンテーションの最後に、敦賀市に本社を置く、保育教材教具や遊具、園児服の企画・製造、まちづくりやコンサルティングを行う企業、株式会社ジャクエツ・赤石洋平氏、若宮幹夫氏が、「あそび」を通じたコミュニティ形成やまちづくり、クリエイティブな環境の創造というテーマを紹介しました。

ジャクエツは「未来は、あそびの中に。」をスローガンとしています。偉大な発明や世界を変えた公式など創造の源泉である「あそび」から生まれ、想像力、共感力を育み、社会のルールを身につけていくことが、あそぶ力を伸ばす中で獲得されていくものと考えています。事業活動の理念は、子どもの無限の力を引き出し、未来を作ることにあると説明します。

そうした理念からデザインされた5つの成果を紹介しました。「あそんじゃう遊具 “YUUGU”」は、デザイナーの深澤直人氏によるデザインで、子どもが自分で遊び方を創造できる遊具です。シリーズのひとつ「OMOCHI」は登って滑る以外に、寝てみたり、抱きついてみたりと、子どもが自由に考えて遊ぶことができます。「良い記憶をつくる園児服」はファッションブランドminä perhonenによるデザインで、何か良いことがあった日に、2重になっている生地の表面をハサミで繰り抜くと中から刺繍のデザインが現れ、着る時間の長さだけ個性的になっていく。

富山県美術館の「オノマトペの屋上」は、遊具で「ひそひそ」「ぐるぐる」などの擬音・擬態語を表し、知らない子どもたち同士がラッパ状のパイプを通じて「ひそひそ」話し、新しい経験をするものです。白馬岩岳マウンテンリゾートのブランコ「Yoo-Hoo! SWING」は、白馬連峰に向かって漕ぎ出す「アルプスの少女ハイジのブランコ」として大人にも親しまれています。紀の川市民公園「野あそびの丘」は、周囲のランドスケープを取り込み、起伏や植栽を遊具と融合させたダイナミックなあそびが可能な施設です。

提供:ジャクエツ 上段(左から右へ)あそんじゃう遊具 “YUUGU”/良い記憶をつくる園児服/オノマトペの屋上 下段(左から右へ)Yoo-Hoo! SWING/野あそびの丘/同左

最後に赤石氏は、「昔子どもだった頃に、誰と、どんな場所に、何を置いて、どうやって秘密にするかを一生懸命に考えた『秘密基地づくり』を思い出しながら、どんなあそび場をつくるかではなく、どうやったらみんなが楽しく参加できるか、その仕掛けを考えていきたいと」ワークショップ参加者へ呼びかけました。

最後に、以上4組のテーマオーナーがファシリテーションするオンラインのブレイクアウトルームに、参加企業の方々が分かれて入り、Miroを使ったワークショップを行いました。組織の枠組みを超えて「みんな」で持続可能な未来の地方都市をデザインするとはどういうことなのか。コーディネーターを務めるロフトワークの棚橋弘季氏は、常識にとらわれない発想を生む「未来の地方都市をデザインする」ワークショップに適したスタイルは、定説を発見する、定説を逆説に変換する、逆説からアイデアを生む、という3つのステップであると促します。まずは現状がどういうルールで成り立っているかを観察する。次に今はないが、ありえるかもしれない別のルールを考え、デザインの契機を見出すプロセスの体験となります。

その後約50分間、それぞれのチーム内で闊達な意見交換とアイデア出しを行い、最後に各チームがワークショップの概要を報告。テーマオーナーがそれぞれの地域を牽引してきた活動のコンセプトを引き受けて、課題とアイデアをめぐる密実な議論のプロセスが共有されました。

DXによる子どもたちの支援を通じて、あるいはデジタル地域通貨の流通を通じて、オンラインでの趣味嗜好の共有を通じて、あそび体験が持つ無限の力を通じて、いきいきとした「豊かな暮らし Well-being」が実感できる環境をデザインし、育成していく。情報化社会における地方都市デザインの課題は、こうした大きな目標をDXによって見える化し、「みんな」でソリューションのプロセスを議論、共有し、前進していくことになるでしょう。

[*1]https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.html

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