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持続可能な未来の地方都市をデザインするワークショップ vol.02 ——地方×企業でつくるまちのウェルビーイングな未来をみんなで描こう

Date: 2023.05.09 TUE

  • #ソーシャル

  • #初学者

  • #新規事業

「持続可能な未来の地方都市をデザインする」シリーズ第2弾となるワークショップ(WS)を20221213日に開催しました。このWSシリーズは、先進的な取り組みを行う地方自治体の事例を学び、直面する課題を共有しながらオンラインWSを通じて共に考える企画です。
今回は、民間企業や市民と共同で地域の魅力を発掘している5つの自治体をテーマオーナーに迎えました。岡山県真庭市、新潟県新潟市、千葉県市原市、奈良県生駒市、石川県加賀市の5つの自治体から出されたテーマとは——。地方自治体の課題解決や協働する企業とアクションを起こすヒントを見つける一助となれば幸いです。

岡山県北部に位置する人口43,000人の真庭市は、その面積の8割が森林という自然に恵まれたまちです。蒜山高原など豊かな観光資源に恵まれ、市内には軟水と硬水の川が流れ、近年ではワイン製造など発酵産業も盛んになっている場所です。
市は、多様な人材の活躍推進、新しい時代の流れを力に地域内外での経済循環活性化を目標に掲げ、さまざまな取り組みを行っています。
そのひとつがバイオマス発電など地場産の木を使い切ることです。製材されなかった地場産の木片を利用した発電は、201410月〜20213月の6年半で23.1億円の売上を計上。山林所有者に約2億円を還元しています。木のチップを建材にしたCLTCloss Laminated Timber)の生産も日本一で、環境負荷の少ない木質都市化に貢献しています。
もうひとつの大きな取り組みは、生ゴミ・し尿等の液肥化です。それらを資源化する施設を現在計画中で、2024年に稼働開始し、年間約2000tの温室効果ガス排出削減を目指しています。

  • 図提供:平澤洋輔

  • 図提供:平澤洋輔

  • GREENableのロゴマーク(左)は、葉っぱをモチーフとしつつ、蒜山を象徴する蒜山三座が水田に映る逆さ蒜山を表現している 図提供:平澤洋輔

  • GREENableの関連商品 図提供:図提供:平澤洋輔

豊かな自然を資源とする産業開発にも積極的です。阪急阪神百貨店と連携するコミュニティ・ブランド「GREENable」は、さまざまな企業やデザイナーと協働で商品開発を行っています。「モノの付加価値を高めるこれまでのブランディングではなく、人と自然環境の持続可能な関係を探求し、地域振興を行うブランド」と、プレゼンテータで同市産業観光部産業政策課の平澤洋輔氏。広告代理店や事業開発などを経て、神奈川県から移住し公務員となった平澤氏は「社会を変えるために行政にいる」と語り、蒜山高原を活用した新たな観光コンテンツの開発が進む状況を紹介しました。

蒜山草原の活用 図提供:平澤洋輔

WSのテーマは、「人と自然の共生・関わりをデジタルの力でつくり出すには?」。独自の環境開発を目指します。

人口77万人の政令指定都市、新潟市のプレゼンテーションを行った都市交通政策課の稲葉一樹氏は、市の中心市街地のエリアリノベーションに挑んでいます。市の職員として新交通BRT(バス・ラピッド・トランジット)システムを担当し、地方都市でも自家用車を所有せずに、まちなか居住によって快適に暮らすことを自ら実践中です。
また、行政職員の枠組だけにとらわれず、稲葉氏は個人としてもさまざまなまちづくりの活動に取り組んでいます。
2018年に新潟県が主催した「公務員リノベーションスクール」に参加した後、それを中心市街地で実践するためのまちづくり団体「8BANリノベーション」を立ち上げ自ら代表を務めています。

8BANリノベーションによる活動。立体駐車場の屋上でマルシェを開催 写真提供:稲葉一樹

また、新潟市が都心のまちづくり推進のための施策を打ち出した2021年、国や県、市の若手職員で市の中心部2km圏内の将来ビジョンに関する勉強会を開催しました。そこで「にいがた2kmストリートビジョン」を作成し、提言したものの、行政職員だけでまちの未来を考えることに稲葉氏は疑問を抱いたと言います。

新潟市の中心市街地を若手行政職員で考えた「にいがた2kmストリートビジョン」より

そこで稲葉氏は民間企業などと一緒に将来を展望する「にいがた2km未来会議」を立ち上げ、主宰。202110月から、まちについて語る会をほぼ毎月開催し、メッセージアプリを用いて情報共有するなど精力的にネットワークを構築します。

民間企業などと一緒に将来を展望する「にいがた2km未来会議」より 図提供:稲葉一樹

「人を集めることはできるけれど、実践する人をどうやって増やすかが課題」だと稲葉氏。また、「現在は手弁当で行っている活動を持続的にしていくにはどのようにすればよいのか、市としてどのような支援策があるのか」と課題を語ります。
WSのテーマは「まちの未来をつくる開かれたチャレンジと学びの場とは?」です。

千葉県の中央に位置する人口27万人の市原市は、湾岸部には石油化学系の製造業が、里山にはゴルフ場が集積し、第二次産業と観光が盛んな地域です。
今回は30年ほど前にJR五井駅前に建設され、現在は有効活用されていない公共施設「サンプラザ市原」の再生と、若者と女性の人口流出というもうひとつの課題を同時に解決しようという取り組みに対してWSでアイデアを募りました。

  • JR五井駅直結の複合施設「サンプラザ市原」 写真提供:市原市

  • JR五井駅と「サンプラザ市原」をつなぐペデストリアンデッキ 写真提供:市原市

プレゼンテーターの市原市経済部商工業振興課の遠山翔氏によると、五井駅の乗降者数は15000人/日にも関わらず、サンプラザの利用者数は年間で3万人程度。1日あたり100人以下の利用者ということになります。

市原市の2019〜2021年にかけての転入出状況。右のグラフは転入超過数を示す(出典:総務省「住民基本台帳人口報告」) 図提供:遠山翔

また、人口動態を見ると工業地帯があるため10代男性の流入は安定しているものの、若年層と女性の転出が増えているという課題を抱えています。
そこで、市は駅前のサンプラザを2025年までに若者や女性の起業支援を出来る場に再生しようという構想を描いています。産業創造拠点として位置づけ、コワーキング、シェアキッチンなど入れ改修していく予定です。
WSのテーマは「若者や女性が中心となって自分たちの仕事がつくれる場とは?」。JR五井駅からサンプラザを結ぶペデストリアンデッキ、サンプラザ市原の2階ロビーの空間利活用を含め、いかに自己表現の場を創出し、同時に交流や賑わいの場づくりが行えるか、WSでは具体的なアイデアの交換を行いました。

人口12万人の奈良県生駒市は、大阪の都心部から電車で20分という利便性に優れたまちです。1970年に宅地開発が行われて人口が約4倍に増え、県外就業率が53.1%と全国2位のベッドタウンとなりました。小中学生の学力は全国トップレベルで、本当に魅力のある市区町村ランキングでは奈良県で1位、安全・安心な住居エリアです。
しかし、プレゼンターの同市スマートシティ推進室の掛樋佐紀子さんによると高度成長期の巨大開発によるベッドタウン化で住人の年齢層に偏りがあるため、高齢化が一気に進んでいる課題があるとのことです。また近年はリモートワークの増加でベッドタウンとしての魅力が希薄化し始め、これまで培われてきた地域コミュニティが時代と共に分断され始めているなどの課題も抱えています。

  • 図提供:掛樋佐紀子

  • 図提供:掛樋佐紀子

掛樋氏は、そうした課題解決に繋がる生駒市で現在起きている活動を紹介します。大人の飲食代に含まれている寄付でこどもの居場所や食を支援する「まほうのだがしやチロル堂」、学校に行かない子を持つ親や、賛同する大人が集まり活動しながら学び合う場「トーキョーコーヒー」(名称は登校拒否のアナグラム)、そして誰かに食事をつくりたい高齢者が子どもと触れあう「たわわ食堂」。さらに、ゴミ捨て場を「こみすて」(コミュニティ・ステーション)として多世代の交流の場として市民が活用する萩の台地域の事例を通して、「誰かが誰かに支えられているのではなく、それぞれ支え合う仕組みができないか……」と、将来のコミュニティを向上させる可能性を語ります。

  • 「たわわ食堂」写真提供:掛樋佐紀子

  • 「たわわ食堂」の異世代交流 写真提供:掛樋佐紀子

萩の台地域の「こみすて」の風景 図提供:掛樋佐紀子

同市でスマートシティ構想を検討中の掛樋氏は、「生駒の中で〈循環〉が生まれる」「やりたいことが〈応援〉される」「つながり方を自分で〈選べる〉まち」という市民からの希望を受け「これをもっと社会的に広げることを生駒市から始めたい」と掛樋氏はWSのテーマに「被支援者というラベルで負い目を感じずに済む共助社会の在り方とは?」を掲げました。

石川県加賀市のプレゼンテーターは、同市教育委員会の小林湧氏です。教師としての経験を積む中で、学校の成績評価によって「どうせできない」とチャレンジする意欲を失う生徒を目の当たりにし、「公教育の役割を考え、より良い社会をつくる仲間を増やしたい」と考えるようになったと言います。

人口63,000人の石川県加賀市は少子高齢化が進み、消滅可能性都市に名を連ねているまちです。共創性、創造性、持続性を謳った加賀ライズタウン構想、デジタル田園健康特区として推進するスマートシティ構想に合わせて、市は教育改革を進め、これからすべての公立小・中学校を「コミュニティ・スクール」にしていく方針を打ち出しています。コミュニティ・スクールとは学校運営協議会を設置した学校で、教員だけではなく市民が参加する協議会が学校運営を担うというものです。

変化する学びの風景 出典:学校施設の在り方に関する調査研究者協力者会議「School for the Future」最終報告

コミュニティスクールのイメージ 出典:総合科学技術・イノベーション会議「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」より

小林氏は、その施策の一貫となる「社会のWell-beingを実現する学校づくり」というプロジェクトの地域プロジェクトマネージャーとして加賀市の職員に着任しました。市が定義するWell-beingとは、一人ひとりの多様な幸せと社会全体の幸せの実現を持続可能にしていくこと。つまり多世代にわたって学ぶ場をつくっていくことです。

社会のWell-beingを実現する学校づくりのための組織 図提供:小林湧

加賀市の地域プロジェクト図のイメージ 出典:加賀市がTeach for Japanと包括連携協定を締結した時の資料より

小林氏は、「少子化、過疎化が進む中で学校施設はどうあれば素敵?統廃合を進める以外に道はないのか?」「地域と共につくる学校でできそうな学びとは?地域のWell-beingにつなげるにはどうする?」と話題を投げかけます。
「学校教育がまちの成長につながっていくことを目指したい」とWSで議論を深めました。


GGPとロフトワークが共催で行う「持続可能な未来の地方都市をデザインするWS」は、現在の課題を解決することで持続可能な未来像を共創していく企画です。

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