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地域の自然・特性を活かした“We”の価値循環システムをつくる ──トビムシと飛騨の森でクマは踊るの事例から考える

Date: 2023.06.05 MON

  • #地域共創

  • #自然資本

  • #新規事業

左からロフトワークの棚橋弘季氏、トビムシの竹本吉輝氏、飛騨の森でクマは踊るの岩岡孝太郎氏、三井住友フィナンシャルグループの山北絵美氏

2023年125日三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行、ロフトワークの主催で、地域独自の自然を起点とした経済圏の確立に取り組む活動を紹介するイベントを開催しました。

森林資源と林業に着目し、人と森林、都市と地域の関係性を捉え直し、自然を含む他者への共感や責任を取り戻し、各地域に富が分配──地域内で価値循環──されることを目指す、飛騨の森でクマは踊る代表取締役CEOの岩岡孝太郎氏とトビムシ代表取締役竹本吉輝氏にお話を伺いました。

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飛騨の森でクマは踊るの岩岡孝太郎氏

まず、飛騨の森でクマは踊るの岩岡孝太郎氏より、具体的な飛騨市での活動についてプレゼンテーションが行われました。岩岡氏は、森は「木材」でないという考えから、森の可能性を再発見し、新たな価値を見出し流通させる試みに取り組んでいます。

飛騨市は、面積の93%を森林が占め、うち68%が広葉樹の天然林ということもあり、2014年より「広葉樹のまちづくり」に取り組んできました。自然のままの森には、多種多様な木が少量ずつ自生し、細く曲がったものが多いため、家具などに適する材は一部に留まり、95%の木が安価なチップ用材として市外へと流出していました。こうした状況に対して、飛騨の森の広葉樹を有効活用する途を見つけ価値を高める目的で、飛騨市と株式会社ロフトワークと株式会社トビムシが、2015年に合同で立ち上げた官民合同会社が、「株式会社飛騨の森でクマは踊る」(ヒダクマ)です。

「ヒダクマは、飛騨の森についての情報発信を行い(Webサイトやイベント)、森で活動する準備をするための拠点(FabCafe Hida)を提供し、森の資源を活かして形にして(ヒダクマ森の端オフィスと曲がり木センター)、飛騨の森の価値を世界に広げる活動を行っています。曲がり木などの未利用材の新たな活用方法を生み出すことで、地域の森や林業をサステナブルにしていくのが僕らのミッションです」と岩岡氏は語ります。

根曲がりした広葉樹から家具を製作するための材料を収集 図作成:岩岡孝太郎

3Dスキャンした曲がり木をデータベース化し、設計者やクリエイターとのマッチングを図り、ニーズを掘り起こすなどの活動が実り、飛騨市内で生産される広葉樹のうち価値の高い家具用材をはじめとする高単価材の割合は、2015年の5%から2021年には19%まで上昇しました。

曲がり木は既存の木工機械での加工は困難なため、飛騨の職人がAR(拡張現実)ゴーグルを用い、墨出しした3DCGを木材にマッピングした映像を見ながら加工しているとのことです。また、飛騨産の材料を地域の中で循環させるために、新しい林業就業者を育てる試みや、次世代の木がどのように育っていくのかを追った調査を基に広葉樹をあらかじめ特注できるような仕組みづくりのほか、ドローンを使って森全体を3Dスキャニングすることで樹種を判別したり、木の太さを計測する取り組みも行政や林業事業者、大学や研究機関との連携の中で行われています。

ARゴーグルを用いて、曲がり木を素材とする家具を製作 写真提供:ヒダクマ

曲がり木を3Dスキャニング加工することでテーブルの脚として利用 写真提供:ヒダクマ

トビムシの竹本吉輝氏

トビムシの竹本吉輝氏は、イベントのタイトルにある「We」をどのように考えるのか、思想的背景やトビムシの活動事例などを交え詳説すると共に、持続可能な社会の実現において重要なキーワードが複数挙げました。竹本氏は、森林を中心としたそれぞれの土地特有の資源を活かすことにより、域内(周辺地域)価値循環型の経済エコシステムの実現など、地域が持続可能であることへの寄与を目指し、日本各地で地域商社や機能会社の設立と運営に携わり、それぞれの地域の人たちと共に解決方法を探求する活動を行っています。

トビムシの活動 図作成:竹本吉輝

まずは、私たちが地球全体を「私たち」(we the people)とは考えられない理由について以下のように解説しました。

例えば、アマゾンの熱帯雨林が燃えていることに心を痛めても、日本に住む「私たち」は即座には自分のこととしてResponseすることができません。一方で、山が荒れたために自分の家の前の川の氾濫が起きたのであれば、山を手入れしようと応答(Response)できます。英語のResponsibilityとは、すなわち「応答できる(Response)」「能力(ability)」のことなのです。では「私たち」とはだれなのでしょうか。例えば、全体を残したいと考えたときの全体とは、地球でもなければ国でもなく、「共通感覚(common sense)」を基に身近な事象に「応答できる」集合体(世間)のことなのです。つまり「私たち」日本人がいま現在のアマゾンの状況に対して応答できないのだとすると、意識が低いわけではなく、応答可能な範囲ではないからなのです。

「トビムシの考えるこれからの地域のありようとは、森を起点とした⾃然な域内価値循環を整え、それでいて外に対して閉じない関係性を構築し、『共通感覚』に基づいて『動的平衡』を体現していくことなのです。他者の人生の細部へと想像力を働かせ共感することにより、だれかに手を差し伸べた経験は『私たち』の範囲を少しだけ大きくするはずです。こうしたことに希望をもてる社会を『共感社会』と定義づけ、それができれば結果的に社会を犠牲にすることなく環境問題は解決していくのだという仮説を立てています」と竹本氏は活動方針を説明しました。

鴨長明の『方丈記』の冒頭で「行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と表現されているように、「動的平衡」とは、変化しながらもそこにあり続けることであり、社会が自然資本とつながり、地域の感覚を整え、その地域があるようにある状態です。

「『ひとつが残るためには全体が残らないといけない』。これは養老孟司さんの言葉です。岩岡さんが飛騨で体現しているように、トビムシの事業においても、森づくりでスタートしながら、地域全体に関わる必要が生まれ、全体に関わるからこそ森が残せるという循環が見えてきています。また、ある地域だけ人口が増えて隣接する地域の人口が激減してしまうとしたら地域全体としては残れない事態になってしまう。『私たち』(ひとつ)と思える領域が全体の中で残っていくことができればと考えて活動しています。われわれトビムシが関わっている地域にぜひ足を運んでいただけたらと思います」と竹本氏はトークを締めくくりました。

図作成:竹本吉輝

後半は、ロフトワークの棚橋弘季氏をモデレーターとして意見交換を行いました。

棚橋 竹本さんから「ひとつが残るためには全体が残らないといけない」という養老さんの言葉を聞き、「価値循環」が重要な理由を改めて理解しました。

岩岡 飛騨には森があって、森から採ってきた木を扱う製材所があって、大工さんがいて、家具メーカーがあり、木の家や木の家具が使われる暮らしがあって、これらの過程で排出されたおが粉で飛騨牛が育つ。そして牛舎で出た堆肥で農作物を育てる──というような物質循環があるのです。ですが、成長のための十分な経済的なリターンが地元の林業にされているとは言えず、これまで「価値循環」には至りませんでした。広葉樹には建材としての規格がないため一般流通材が存在せず、先ほどもお話ししたように95%の木が安価なチップ用材として域外に流出していました。ヒダクマの活動以前には家具用材として用いられるのは5%でしたが、2021年度には19%にまで上がってきました。

森の端オフィスにおける広葉樹を建材として活用するための木取りとプロセス 図作成:岩岡孝太郎

棚橋 ヒダクマの活動が飛騨の「動的平衡」を取り戻す一助になっているのですね。

竹本 7年間で数字を4倍にするのは本当にたいへんなことです。これだけ増加すればヒダクマのプロジェクトに参画するモチベーションだけでなく、その次への希望が新たに生まれる。木を切る人や製材所の数は減少してきたわけですが、家具用材の割合が30%に届いたら、全体が増えていくようなスパイラルアップの状況になるはずです。

岩岡 ヒダクマを始めて34年ほど経って僕らが扱う木材の量は着実に伸びていたので、よい流れだと考えていました。ですが市内の林業の方に、このままでは木を森から降ろしてくれる人手や予算を含めて限界が訪れると指摘されました。スパイラルアップという考え方で捉えれば、ここを乗り超えることができれば、別の課題が出てきたとしても全体として量は増えていくはずです。

竹本 第一次産業だけの問題として考えれば、森や畑をなんとか管理すればその先にある加工の課題につながります。しかし、そもそも林業従事者がいなければ森から木が出てこない。ですから、日本の中山間地域を残すためには、全体を見通してていねいに一次産業と二次産業の連関をつくっていかなければなりません。

棚橋 「動的平衡」な状態の実現を考える地域の方やこれからその活動に関わっていこうとする企業の方に、お二人からアドバイスをいただけますか。

竹本 やはり長い目で見ていただきたいです。大企業が参入してくれれば問題は解けるのではないかと期待してしまいがちですが、実際は大企業でさえ循環は簡単にはつくれないわけですから、よいところもあれば悪いところもあるという前提で、時間をかけてお互いに歩み寄る必要があると思います。

岩岡 まさにその通りで、長い目で見てほしいですし、地域が前へ進んでいくためには、地域のみなさんや域外の企業の方も一緒に共感できるようなアウトプットを定期的に着実につくっていく必要があると思います。共有の成果や共通の体験がないと外からやってきた人たちは居場所を失ってしまいますから。

竹本 地域の方たちが自分たちはこういう場所で活動をしていると明示することは、IターンやUターンを考える若者たちにとっては移住や定住に積極的になれる動機づけになりますし、ミスマッチが起こりにくい。こうして訪れた新しい人材と築いた関係を断絶しないためには、岩岡さんが言うように、お互いが共感するための共通の体験が必要になるのです。

高齢化が進む地域において若い人材を迎える際のポイントを示唆し、トークセッションが締めくくられました。

(文/特記なき写真:スペルプラーツ)

動画再生時間:約92分

00:02:10 イベント開始
00:05:30 GGP紹介
00:18:48 Session1:飛騨の森でクマは踊る 代表取締役CEO 岩岡 孝太郎
00:40:56 Session2:株式会社トビムシ 代表取締役 竹本 吉輝
01
:01:22 Panel discussion 

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