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DE&I社会の実現に向けた企業の事業開発を考える

Date: 2023.07.27 THU

  • #ソーシャル

  • #新規事業

日本総合研究所 山名景子

近年、企業経営においてDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)が求められるようになっています。ただ多くの企業で、DEIは従業員の「働きやすさ」や「働き甲斐」という人事領域の課題であるとの理解にとどまっているのではないでしょうか。本稿では、人事領域から視点を広げ、DE&Iの視点から新しい事業や商品を生み出す可能性を事例に倣いながら考えていきます。

まず、新規事業や商品の検討を実施する上で、改めてDE&Iの目指す姿を理解しておくことが重要です。DEIでは、多様な人材が存在するだけではなく、「誰もがありのままの状態で社会に存在できること」を目指します。例えば、「目の見えない人が誰かの手を借りなければ道を渡れない社会」はこれにあたりません。誰かの「思いやりや手助け」に依存するのではなく、目の見えない人も、目の見える人が享受している生活を当たり前に享受できる社会を目指していくことになります。

このDE&Iの本質を理解しないまま新規事業や新商品開発の検討を行うとDEIの一部を切り取った議論に陥ってしまいます。例えば、「女性目線の商品開発」というアイデアをよく耳にしますが、ただ女性をターゲットとして、好まれそうなコンセプトやデザインを考えるのはDE&Iではありません。女性のための商品開発とするなら、女性が性別を理由に生きにくさを感じる構造的な要因を突き止め、それを解消するための方法を考えることがDEIの視点です。

近年、企業のDEIに関する取り組みに対して、様々なステークホルダー(自社の従業員、株主、取引先、顧客、求職者など)から注目が集まっている中、より本質的な視点での取り組みが求められていくのではないでしょうか。例えば、2022年のマイナビ調査によると、就職先選定時に「企業の『ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)』の取り組みを知ると志望度は上がりますか」の質問に対し、2024年卒業予定の大学生・大学院生の63.2%が「志望度が上がる」と答えています(志望度が上がる:21.3%、どちらかといえば志望度は上がる:41.9%)[*1]。

また、2022年度の内閣府の調査によると、65.4%の機関投資家等が投資判断において「女性活躍情報を活用している」と答えています(全てにおいて活用している:8.1%、一部で活用している:57.3%)[*2]。このように、企業のDE&Iの取組は、就職先や投資先を選定する上での軸の一つとして確認されるようになっています。

図:内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究(2022年度)」を元にGGP作成

では、DEIの視点から具体的にどのような新しい事業が生まれているか、事例を挙げて見ていきます。例えば、近年女性の生理や妊娠、不妊、セクシャルウェルネス等に係る製品やサービスを提供する、フェムケア&フェムテック分野で新たな事業が生まれています。これは、DE&Iの高まりにより、女性の働きにくさや暮らしにくさに改めて焦点があたり、それを解消する為の製品・サービスの市場が拡大しているのが背景としてあります。矢野経済研究所によると、同市場規模は前年比107.7%の6429,700万円(2021年)と推計されており、更に勢いを増していくと推察されています[*3]。例えば2021年、丸紅、エムティーアイ、カラダメディカの3社は、働く女性の健康課題の改善をサポートする総合的なフェムテックプログラムの共同開発を発表しました[*4]。

他にも、DE&Iの観点から生まれている事業があります。例えば、株式会社オリィ研究所は分身ロボットを開発し、様々な人の社会参画を推進しています。同社の商品の一つである「OriHime eye + Switch」は目の動きだけでキーボードを操作し、その文字をロボットが読み上げてくれます[*5]。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病によって声を出すのが難しい方や手を動かして文字を書いたりキーボード入力が困難な方でも、介助の手を借りることなく、家族や友人とコミュニケーションを取ったり、会議に参加したりすることが可能となります。このように、これまで病気や身体的問題等で機会が得られなかった様々な人々に、新たな社会参画の方法を提供するという事業は、DE&I社会の実現の一躍を担っているといえるでしょう。

OriHime eye + Switch 写真提供:オリィ研究所

DE&Iにビジネスで貢献しようとすることは、「誰もがありのままの状態で生きられる社会を作るために企業は何ができるか」を検討することと言い換えられます。遠回りのようにも見えますが、まずはこの問いにしっかり向き合うことが、結果的にビジネスとしても評価され、収益や評判の向上につながると期待できます。

*1 マイナビ「Z世代の就活生の『企業のダイバーシティの取組』の注目点が判明する」
*2 内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究(2022年度)」
*3 矢野経済研究所(2022)「フェムケア&フェムテック市場に関する調査」
*4 エムティーアイ(2021)「丸紅、エムティーアイ、カラダメディカ 働く女性の健康課題改善を サポートする総合的なプログラムの共同開発に関する業務提携について」
*5 オリィ研究所HP  意思伝達装置OriHime eye + Switch | OryLab(オリィ研究所)テクノロジーの力で「不可能を可能に変えていく」

株式会社日本総合研究所人事組織・ダイバーシティ戦略グループ コンサルタント
豪州クイーンランド大学国際関係学修士卒業。民間コンサルティング会社を経て日本総合研究所に入社。組織・人事・業務領域のコンサルティングに従事。専門はダイバーシティ&インクルージョンの視点を取り入れた制度・組織風土改革、人材育成体系の構築。

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