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ESGウォッシュから考える、これからの企業のサステナビリティ情報開示

Date: 2023.08.22 TUE

  • #グローバル動向

  • #気候変動

  • #ESG投資・開示

日本総合研究所 二宮昌恵

ESG投資をめぐって、「ウォッシュ」に対する監視の目が厳格化しています。

ESG投資の「ウォッシュ」とは、投資対象の選別手法の不明瞭さや、金融商品としてのESG情報開示の不十分さなど、ESG投資の名にふさわしい実態が伴っていないことを指します。ESG投資の拡大は社会課題の改善に寄与すると考えられる一方、実態が伴わない「見せかけのESG投資」が紛れ込むことは、ESG投資全体の信頼性を引き下げ、結果として投資家のESG投資離れに繋がりかねません。

ESG投資の拡大が日本よりも早かった欧米では、金融当局においてESG投信の定義や情報開示についての基準作りが進んでいます。欧州では、投資家等に向けた開示規制を2021年から適用し、ESG投資商品を2種類に定義してその内容の開示を求めています。米国では、ESG要素の濃淡に応じてESG投資商品を3分類し、各分類に応じた開示を求める規則の導入を検討しています。

日本においても、対策が進められています。金融庁は、ESG投資商品の実態を把握すべく、2021年に資産運用会社へのアンケートを実施し、その結果を2022年に「資産運用業高度化プログレスレポート2022[*1]」の中で公表しました。「ESG専門人材ゼロが約4割」「十分と評価できる開示を行っているESG投信は皆無」など、ESG投信を運用する資産運用会社の課題が浮き彫りとなりました。

金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2022」をもとにGGP作成

これを受けて20233月にESG投信に関する監督指針が公表されています[*2]。指針では、ESG投信の定義を定めると共に、ESG投信に関する情報開示や投資信託委託会社の態勢整備などについて具体的な検証項目を定めています。ESG投信に該当しない商品は、商品名や愛称にESGSDGs・グリーンなどといった用語を用いたアピールは禁止されるなど、実態を伴わない「ウォッシュ」は規制されることになりました。指針公表を受けて、運用各社は運用手法や組み入れ銘柄などESG投資の基準設定を進めています。

こうした動向は、一義的にはESG投資への信頼性を高め、投資家を保護するものです。それに加えて、「新たな産業・社会活動への転換を促し、持続可能な社会を実現するための金融」[*3を推進するという金融庁の姿勢からは、運用会社も個人を含む投資家も、ESG投資が質を伴っているか(本当に持続可能な社会の実現のために効果があり、ウォッシュに当たらないか等)を見極める力がますます求められるようになるでしょう。さらに、企業のサステナビリティ経営についても、今まで以上にその実態が問われてくる可能性があります。

投資家や当局が、企業に具体的な行動を強く求める動きは、既に始まっています。

世界で700超の機関投資家が参加する「クライメート・アクション100プラス(CA100+)」は、温暖化ガス排出量の多い約170社に対して、「気候変動関連の情報開示」に加えて「信頼できる移行計画の実施」を求めるよう運営方針を転換しました。ネットゼロに整合する長期目標を策定した企業は7割超に上る一方、移行に必要な設備投資計画を掲げている企業は1割程度に留まったことが背景です。

欧州や豪州では、企業のグリーンウォッシュに対して法規制を策定する動きも進んでおり、グリーンウォッシュが疑われる企業に対する当局の摘発も相次いでいます。製品の説明が購入者に誤解を与えかねないなどと指摘される事例や、表現の合理的根拠を求められる事例などが見受けられます。

こう整理すると、今後、企業のサステナビリティ情報の開示に求められる要素として、1ウォッシュ懸念のある表示を行わないこと、2実効性を説明することなどが挙げられます。前者に関しては、例えば根拠や定義が曖昧なラベリング(「自然由来」「グリーン」等)など、後者に関しては、環境・社会に大きな影響を与える事業を維持したまま一部取り組みのみを積極的に発信するような開示・PRや、将来の技術革新に大きく依存した計画しか発信しない開示などが課題となります。

前者の課題は、従来からある表示に関する規制類(不当景品類及び不当表示防止法や、環境表示ガイドラインなど)への誠実な対応によって一部解消するでしょう。また、企業内において独自の「環境配慮型製品」を設けている場合には、その定義や伝達方法を再確認することも考えられます。

一方後者に関しては、事業ポートフォリオの転換を要する場合もあり、企業の中でも広報やサステナビリティ部門だけで対処しきれるものではありません。ESG投資への監視という機運を端緒に、改めてどのような行動に裏打ちされたサステナビリティ情報開示を行うべきか、検討していく必要があります。

*1 「資産運用業高度化プログレスレポート2022
*2 「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正を指す。
*3
 「サステナブルファイナンス有識者会議 第三次報告書 概要」

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