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神山の成功モデルを図解する

Date: 2023.11.22 WED

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左から近藤哲朗氏、真鍋太一氏、大南信也氏

2023825日、GGPはロフトワークと共同で「持続する地域経営—先進事例・神山のケースをビジネスモデル図解で読み解く」と題したイベントを開催しました。若い世代の移住者が多いことで注目されている徳島県・神山町から2名のゲストを招き、同町にクリエイティブな人材が集積する秘訣を伺いました。
1部では、20234月に開校した「神山まるごと高専」(以下神山高専)について大南信也氏がその仕組みを紹介。大南氏は長年にわたって神山の進化を牽引してきた認定NPO法人グリーンバレーの初代理事長で、学校法人神山学園(神山高専)の理事を務めています。また、家族と共に東京から神山に移住し、農業法人フードハブ・プロジェクト共同代表取締役を務める真鍋太一氏は、食に関わる同社の事業を紹介しました。

2部では図解総研の近藤哲朗代表取締役を交え、「神山高専」「フードハブ・プロジェクト」のビジネスモデルをリアルタイムに図解し、これらの事業が成立している背景を読み解きました。

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神山町は、徳島市中心部から車で約1時間の山間地にある人口5000人の町です。1950年代には2万人だった人口は減少し続け、消滅可能都市にも挙げられたことすらあります。その町に全国で19年ぶりとなる新設の高専が誕生し、話題となっています。

その背景には、神山で約30年にわたり蓄積してきた様々な成功モデルがありました。大企業や産業のない場所で地域づくりをする秘訣について、「新しいコトやモノを生み出すクリエイティブな人材が集まり、その人たちが十分に能力を発揮できる寛容な土壌づくりを長い間続けてきた」と、大南氏は説明しました。

活動が始まったのは1990年代で、国際交流→アート→ライフスタイル→創造性のある人材→官民連携→高等教育機関という6つの段階に分け、大南氏はまちの進化を紹介しました。

出典:後藤太一/Region Works LLC(一部大南編集)

クリエイティブな人材が移住する転機となったのは、1998年に始めたアーティスト・イン・レジデンスでした(phase 1.0)。2000年代になると滞在後にそのまま神山への移住を希望する作家が現れ始めます。

大南氏は「アーティストに加え、デザイナーとか映像作家など多様なビジネスの人にも住んで欲しかった。お試しで滞在できるような場所をつくろうと空き家を改修し、クリエイター・イン・レジデンスというプログラムになっていった」と解説します。
ニューヨークでイン神山を見た建築家の坂東幸輔氏が神山を訪問して以降、空き家改修は加速しました。坂東氏と共に空き家改修を進めていた建築家の須磨一清氏の友人がSansanの寺田親弘CEOで、2010年に須磨氏に誘われて神山に遊びに来たのがきっかけとなり、神山初のサテライトオフィスが誕生します(phase 3.0)。

「寺田さんが遊びに来て、20日も経たない間にSansanの社員が3名働き始めSansan神山ラボができた。寺田さんもシリコンバレーでの滞在経験があるので、いずれここが神山バレー発祥の地になるかもしれんな、と話をしました(笑)」(大南氏)。
NHKSansan神山ラボを紹介したことが追い風となり、それまで空き家になっていた商店街が映像制作やウェブ制作などの企業のサテライトオフィスやレストランなどで賑わうようになりました。

図・写真提供:大南信也

グリーンバレーの活動に加え、官民が連携して2015年から始まった神山町地方創生戦略のワーキングを基盤とした新たなプロジェクトが生まれます(phase 4.0)。

40歳代以下の町役場の職員と住民で、町の30年後について構想するワーキングを、毎回2時間、30回ほど開催。至った結論は、「人が集積するためには地域に何らかの可能性が感じられる状況が不可欠。それが何かというと、ここから生まれる様々なプロジェクト(まちを将来世代につなぐプロジェクト)」(大南氏)でした。フードハブ・プロジェクトもその1つです。

出典:後藤太一/Region Works LLC(一部大南編集)

神山高専の構想が始まるのは2016年の正月。後に神山高専理事長となる寺田氏から大南氏に「神山で学校をつくりたい」という旨の1通のメッセージが届きました。そこから、クリエイティブディレクターや建築家など12名で2018年に準備委員会を設立し、昨年夏に文部科学省の認可を受け、今春の開校に至りました(phase 5.0)。

「どのような学校であれば町民や役場から支持されるかを検討しながら進めました。後藤正和前町長が、この機会を逃すと町の再生はないと決断してくれたのが大きかった。」(大南氏)。

神山まるごと高専の校舎。寮や食堂の入るHOME棟は既存の中学校の校舎を再利用し、教室や講堂のあるOFFICE棟は新設した。写真提供:大南信也

企業版ふるさと納税などを活用しファンディングパートナーと呼ぶ企業・個人から寄せられた約37億円の寄付で校舎の新設、寮となる元中学校校舎の改築を行いました。さらに11社から受けた105億円の出資金や寄付金を運用することで、1学年40名・総勢200名の学費を実質無償化する仕組みを築きました。

出展:神山まるごと高専(一部大南編集)

神山高専は全寮制のため、15歳から20歳の200人が人口5千人の町に流入することになります。

図提供:大南信也

「神山の変化を主導してきたのは定住者とともに各種イン・レジデンスを含めた一時滞在する人たち。彼らは風の人と呼ばれています。風は何かを運び、何かを運び出します。その風の人と土(土着)の人の力が合わさって大きな変化が生まれます」大南)。

アートやワーク、クリエイティブなど多様なイン・レジデンスで集まった人たちが起こした神山の進化に対し、大南氏は「多様な関係人口が築かれ、そこから生まれる偶発が必然のように起こっている」と締めくくりました。

神山町地方創生戦略のワーキングから生まれたフードハブ・プロジェクト(以下フードハブ)は、「神山の農業を次世代につなぐためにできた農業法人」と真鍋氏は説明します。

10年前に神山に家族と共に移住してきた真鍋氏は、町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」のワーキングメンバーとして、フードハブの原案を立ち上げました。

「僕自身は食で何かをやりたいと思っていた。一方役場職員だった白桃薫さん(現・フードハブ共同代表)は、農業従事者が高齢化し耕作放棄地が増えているという問題意識があった。見ている方向性が合致し、地域で育てた農産物を地域で美味しく食べる仕組みづくりをすることになりました」(真鍋)

神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」第1期。意志ある未来に向けて、40歳代以下の役場職員と地域住民らでワーキング・グループを構成し、約半年間に渡って勉強会と話し合いを重ねた。写真・図提供:真鍋太一

真鍋氏は、ウェブ制作会社モノサスのChief Design Officer、東京の飲食店the Blind Donkey を運営するRichSoil & Co.の支配人という多彩な顔を持ちます。モノサスは、2017年に神山町にサテライトオフィスを設立し、フードハブはモノサスの新規事業のひとつです。また、神山町職員だった白桃氏がフードハブに出向というかたちで参画するなど、官民連携で生まれたプロジェクトです。

「創生戦略WGでは、主体性のないプロジェクトには予算をつけないのが原則でした。フードハブでは、予算をどのように使うかではなく、皆の思いが集結したアイデアを実践するために予算をかき集めました」と、真鍋氏はこのビジネスモデルの背景を説明しました。

フードハブの具体的な活動は、「地産地食」というヴィジョンのもと、農業から食堂経営や学校給食、食品加工などさまざまな事業を行っています。

循環システムとしてのフードハブプロジェクト。図提供:真鍋太一

手掛ける農業を「社会的農業」とフードハブでは位置づけています。農産物を生産するだけではなく、景観や食文化を次世代に継承し、その担い手を育成するという意味です。

具体的には、国の農業次世代人材投資資金を活用した研修制度があります。フードハブが所有する農地で2年間研修し、その農地と共に独立するという仕組みをつくりました。

またフードハブは、神山町でパンと食料品の店「かまパン&ストア」と食堂「かま屋」を営んでいます。ここでは地域の食材を使い、産食率[*150%以上(調味料を除くと80%以上)の食を提供しています。食堂の定食メニュースタイルは、カリフォルニアで人気のオーガニックレストラン、シェ・パニースの元総料理長で、現在は東京のレストランthe Blind Donkeyの創業者であるジェローム・ワーグ氏が考案したもので、休日には行列ができる人気店となっています。

地域の農産物が食べられる食堂とパン屋。写真提供:真鍋太一

かま屋では、地産地食を図る指標「産食率」を表示。写真提供:真鍋太一

真鍋氏は「料理人が地域の食や農の可能性を開いてくれる」とし、シェフ・イン・レジデンスというプログラムも実践中。世界各国から口コミでシェフが集まり、町に長期滞在をしながら料理を通じて食文化の学びと交流を図る仕組みです。

シェフ・イン・レジデンス。写真提供:真鍋太一

20224月からは、町立小中学校の学校給食センターの運営を手掛け、地産地消の給食を町と一緒になって実践しています。神山高専の寮の食堂も運営しています。

地産地食の給食を提供。写真提供:真鍋太一

その他にも1970年代に出版された郷土料理の本『神山の味』のレシピをベースとした商品開発をしたり、昔は地元でつくられていた小麦日本酒を復活させたり、食文化の継承を実践中です。

プロダクトでつなぐ「神山の味」。写真提供:真鍋太一

大南氏と真鍋氏のプレゼンテーション後、近藤哲朗氏は「神山まるごと高専」と「フードハブ・プロジェクト」のビジネスモデルを整理していきました。二人に質問をしながら、必ずしも貨幣価値には置き換えられない、価値創造があることを明らかにしていきました。

ビジネスモデル図解の読み方。『ビジネスモデル2.0図解』(KADOKAWA 刊)より

3×3のマス目を用いたこの図解手法は、近藤氏の著書『ビジネス モデル 2.0 図鑑』で用いられたものです。枠の中には、利用者(顧客)、事業、事業者(企業)の3つの主体が縦方向に並びます。そしてモノ、カネ、情報の流れを矢印でつなぎ表現しています。また吹き出しを用いて、補足の説明を行います。

近藤氏は「複雑な構造を分かり易く構造化して可視化していくためのもの。いろいろな人がビジネスで共創できるといいなと思い、図解をしています」とビジネスモデルを図解する目的を説明しました。

図2点提供:近藤哲朗

地方創生のモデルとして、これらの図をどのように読み解けばよいのでしょうか。

大南氏は「神山高専は神山の地方創生のためだけにやっている訳ではない。これからの日本の社会に必要とされるものが神山にできたのだと思う」と位置づけました。

真鍋氏は「日本の食文化というと大げさだからそうは言わないけれど、フードハブのメンバーは神山だけでなく日本のまちを楽しくする方向を見て、それぞれの役割を果たしている。神山全体が目的に向かって進化するティール組織みたいだと思う」と、地域の価値を創造するためのヒントが2つのプロジェクトの背後にあることを示しました。

近藤氏は、「ビジネスモデル図解だけでは表現しきれない人の思いや、これまでの神山での蓄積があることが分かりました。他の地域でやろうとしても、図式をコピーするだけでは成功しないだろう」と感想を述べました。

2023825日ロフトワークにて 文:有岡三恵/Studio SETO)

*1 「産食率」は、食堂における「地域で育てて、地域で食べている」割合(%)を
定期的に測定していくために定めた基準。学校給食などで用いられる「食材品目数(町内産)÷ 食材品目数(総合計)」という計算方法をベースに算出。

動画再生時間:約94分

00:00:44 GGP紹介
00:08:10 イベント本編開始

※動画後半で一部音声が乱れている箇所がございますがご了承ください。

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