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「灼熱の夏、すでに避けられない」——沸騰する地球、気候変動対策の遅れをグリーン・マーケティングで取り戻せ

Date: 2024.01.23 TUE

  • #気候変動

  • #グローバル動向

2023127日、GGPは東京大学国際オープンイノベーション機構と共同で、「サステナブルな社会に向けた産学連携 地球沸騰を受けて改めて考える気候変動〜対策に必要なグリーン・マーケティングとは?」と題したイベントを開催しました。もはや「地球温暖化」どころか「地球沸騰」の時代に突入しており、さらなる気温上昇を抑えることは重大な課題です。しかし、日本の消費者の関心は低く、迫る危機と一人ひとりの行動には大きな隔たりがあります。このギャップをどう埋めたらいいのでしょうか。

本イベントでは、東京大学大学院・新領域創成科学研究科・サステイナブル社会デザインセンター教授の亀山康子氏と日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパルの佐々木努氏を招き、私たちが直面している課題と解決策を議論しました。モデレーターはフリーアナウンサーの三宅民夫氏が務めました。

右から、東京大学国際オープンイノベーション機構の上條健統括クリエイティブマネージャー、日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパルの佐々木努氏、東京大学大学院・新領域創成科学研究科・サステイナブル社会デザインセンター教授の亀山康子氏、フリーアナウンサーの三宅民夫氏、GGP事務局の山北絵美

産業界の二酸化炭素(CO2)排出量は徐々に減っているが、家庭はここ数年、むしろ増える傾向にある

イベントは、そんな警鐘から始まりました。登壇したのは、東京大学国際オープンイノベーション機構の上條健統括クリエイティブマネージャー。日本では約10億トンの総排出量のうち14%を家庭が占めていますが、対策が大きく遅れています。

上條氏は「サイエンスやエンジニアリングが進歩しても、それだけでは気候変動対策の目標は達成できない」と、人間の心理を十分に考慮した社会・経済・生活システムを構築することの重要性を指摘。そのためには、「一人ひとりのマインド、そして背後にある倫理観も同時に変えていく必要がある」とし、それに向けた知の集結、すなわち産業界・市民・アカデミアのさらなる連携が必要だと訴えました。

次のセッションでは、東京大学大学院新領域創成科学研究科・サステイナブル社会デザインセンター教授の亀山康子氏が、ショッキングなデータの数々を示しました。その一つが、増えてしまった温室効果ガスはすぐには減らない、つまり、一度熱くなった地球は当面暑いまま、という事実です。

亀山氏は、「地球温暖化が人為的な要因によるものであることは疑いの余地がない」と強調した 出典:IPCC、2021

亀山氏は、「いまだに地球温暖化への人間の活動の影響を疑う人がいるが、因果関係は科学的に証明されている」と強調。その上で、「今から23年前の時点で、地球の平均気温が産業革命以前と比べて1.1度高くなったと指摘された。1度上がっただけで、これだけ世界中で異常気象が起きている。変化するスピードが速くて生態系がついていけない」と危機感をあらわにしました。

パリ協定では、気温上昇を産業革命前から2度より十分低い水準に、さらに1.5度以内に抑える目標を掲げていますが、亀山氏によれば「1.5度目標の達成はほぼ困難」です。「排出量を2030年までに半減し、50年までにほぼゼロという、ものすごい勢いで減らしていかないと達成できない。気温上昇を2度まで許容する場合でも、今世紀末までに排出量をゼロにしないといけない」(亀山氏)

2023年の夏は日本を含む世界の至る所で猛暑となり、「地球沸騰」を多くの人が実感しました。亀山氏は「2023年の猛暑が人間の活動によるものなのかは、何年か経って検証しないと断定的なことは言えない」と前置きしつつ、年を追うごとに明らかに猛暑が過酷になっている状況をデータで示しました。

ある一定期間の夏の気温分布をプロットすると、山のような形のグラフになります。195180年のグラフを基準にすると、19912000年、201020年と、山は右側、つまり気温が上昇する方向へ動いていきます。しかも、異常なほど高温になるケースが明らかに増えているのです。

1951〜80年のグラフを基準にすると、1990〜2000年、2010〜20年と気温の山が右にずれていき、猛暑が確実に増えていることがわかる 出典:James Hansen and Makiko Sato, July 2020

2023年の猛暑が10年後には平均値になる可能性もある。しかも異常なほど暑い夏が今以上に訪れる。そういう夏を、みなさん過ごしたいですか」と亀山氏は問いかけます。

温暖化は既に1980年ごろから始まっており、それ以降に生まれた全ての人は気温上昇の中で生涯を送ります。今から排出量ゼロに向けて動き出しても、気温上昇は避けられません。「孫のため、次世代のため、とよく言われるが、気候変動対策は私たち自身が10年後にどう過ごしたいか、という問題だ」と亀山氏は緊急の課題であると強調しました。

さらに亀山氏はもう1つ、残念なデータを示しました。日本人の意識の低さです。

Globe ScanとBBC Worldによる国際的な世論調査(2021年)では、日本人の気候変動に対する責任感は調査対象31カ国中最下位だった

Globe ScanBBC Worldによる国際世論調査(2021年)では、「気候変動を抑制する際、あなたのような一般の人々には、どれほどの責任があると考えますか?」という問いに対して、「責任重大」と答えた人の割合は31カ国平均が35%。一方、日本はわずが6%で最下位でした。

また、調査会社イプソス(IPSOS)の調査「IPSOS Global Advisor2022Earth Day」でも、「気候変動への対処には、企業の行動が求められる」という問いに「賛成」と答えた人の割合は世界の平均が68%であるのに対し、日本は44%でこれも最下位。

亀山氏は「気候変動がどれくらい危機的状況かということが日本人にはあまり伝わっていない」と推測します。「『一人だけ行動しても変わらないから、やらない』ではなく、『一人で行動しても変わらないから、みんなでやる』という意識に変えていく必要がある」と訴えました。

日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパルの佐々木努氏も、亀山氏と同じ危機感を抱いています。
佐々木氏は、「『北極の氷が溶けてホッキョクグマが危うい』などと言われるが、『自分には関係ない』という意識が広がっている。それをどう変えていけるかが大きな課題」と指摘します。

日本総合研究所が設立した「グリーン・マーケティング・ラボ」の概要 出典:日本総合研究所

佐々木氏は日本総研で、消費者の行動変容を後押しするマーケティングを研究する「グリーン・マーケティング・ラボ(GML)」を設立し、ラボ長を務めています。佐々木氏は、「カーボンニュートラル対応商品を購入したい」という消費者は76%にも上る一方、消費者の75%はそうした商品に「出会ったことがない」という調査結果を紹介。そんなミスマッチの背景には、企業と消費者の間にある「鶏と卵」問題があると分析します。

「カーボンニュートラル対応商品を購入したい」という消費者は76%にも上る一方、消費者の75%はそうした商品に「出会ったことがない」 出典:日本総合研究所

例えば、メーカーが脱炭素の商品を作りたいと考えても、通常の商品と比べて割高でなかなか売れない。売れなければ、流通は売り場に置いてくれない。売り場に並ばなければ消費者に認知されず、さらに売れない…。

企業と消費者の間には「鶏と卵」問題が横たわっている 出典:日本総合研究所

環境に配慮した商品であることを示す各種ラベルでも、同様の課題が見てとれます。ペットボトルの分別を促す「PET」や、プラスチックのリサイクルを促す「プラ」などは長い時間をかけて消費者に浸透してきました。しかし、それらはごく一部。企業側は脱炭素やサステナビリティに貢献できる商品ということを伝えたいと思い、多種多様なラベルを表示していますが、その多くは知られていません。消費者の多くは「わかりやすい解説」を企業側に求める一方で、企業側は「ラベルを表示しても見てくれない」と考えがちです。

製品あたりのCO2排出量、いわゆるカーボンフットプリントを示すラベルの導入機運も高まってはいるものの、消費者に認知してもらうのは容易ではありません。「企業側の言い分も、消費者側の言い分も、どちらも正しい。うまく折り合いをつけられる方法を見出していく必要がある」(佐々木氏)

環境対応をアピールしつつ実態が伴わない詐欺まがいの「グリーン・ウォッシュ」を防止するため、欧州委員会では「環境訴求指令」という新たな規制の導入が検討されている 出典:日本総合研究所

欧州連合(EU)では、「環境訴求指令」の導入に向けた議論も進んでいます。科学的根拠に基づかない曖昧な表示を禁止する規制で、将来的には日本にも何らかの形で影響を及ぼす可能性があります。曖昧さを排除することは、詐欺まがいの「グリーン・ウォッシュ」を排除する意味で重要です。その一方で、表示に慎重になりすぎると環境に配慮する企業の取り組みがますます消費者に伝わりにくくなる可能性もあります。佐々木氏は、「負のスパイラルに陥らないよう、企業も当局も考えていく必要がある」と警鐘を鳴らします。

まずは楽しく気候変動対策に取り組み、「自分ごと化」していく必要がある 出典:日本総合研究所

脱炭素商品を企業がつくり、多くの生活者が買う――。そんなサイクルを早く軌道に乗せることが理想ですが、佐々木氏は「そうした世界へは一気にはいけない。まずは実際に商品に触れ、楽しく学び、ステップ・バイ・ステップで脱炭素を自分ごと化していくしかない」と話します。「一人ひとりの力は小さくても、社会全体で『賢い生活者』を増やしていくしかない」と佐々木氏は述べました。

ディスカッションでは、どのように消費者の行動変容につなげていくかが改めてテーマとなりました。

亀山氏は「日本人はマイバッグを使ったり、使わない部屋の電気をこまめに消したりは得意。しかし、自分一人の努力に止まりがち。もっと、周囲を巻き込んでいく必要がある」と指摘。これに対し佐々木氏も、「一人ひとりのパワーを過小評価する傾向がある。消費者は商品の選択を通じて、企業の行動を変えることができる。決して小さい力ではない」と応じました。

その上で、佐々木氏は「気候変動対策というと、どうしても難しく、真面目に考えがちだが、まずは『楽しく』取り組むことが重要」と述べ、「(気候変動対策の必要性を)どう伝えるか、より、伝わるまでやる、ことが必要では」と提案しました。

一方、亀山氏は「この仕事を30年以上やってきたが、全員の意識を高めるのは無理。もはや全員を納得させている時間はない。『お得だ』とか『かっこいい』とか、誰もが自然に脱炭素に向かうような社会・環境を作っていくしかない」と強調しました。

地球規模の危機が間近に迫るなか、消費者の行動変容には時間がかかります。他方、202312月に開催された第28回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP28)のような多国間協議では、実効性の高い具体的な対策への合意は難しいという課題があります。ディスカッションでは、危機感を共有する企業や個人、アカデミアが率先して動き、新たな社会システムを構築するムーブメントを起こしていくことが重要だという認識を共有し、閉会しました。

(文:大竹剛/エディットシフト 特記なき写真:工藤朋子

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