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動きだすインパクト投資——経済的価値と社会的価値の追求

Date: 2024.02.05 MON

  • #初学者

  • #ESG投資・開示

日本総合研究所 二宮昌恵

持続可能な社会への移行を資金面から支えるべく「インパクト投資(融資含む)」を巡る動きが活発化しています。

インパクト投資は、財務的な収益に加えて、「社会・環境へのポジティブな効果(=インパクト)」を生み出すことを目的としています[*1]。インパクト投資のコンセプトは、欧米を中心に2000年代後半から広がり始め、2021年の世界全体の資産運用残高は1兆1,640億ドル(約170兆円)と推計されています[*2]。

日本では、2022年6月に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」や「骨太方針2022」でインパクト投資推進について明記されたことを契機に、投資環境の整備に向けた官民の動きが活発化しています[表1参照]。
2022年10月には金融庁が「インパクト投資に関する検討会」を設置し、2023年6月には、インパクト投資に関連する初の指針案を公表しました[*3]。

表1:インパクト投資を巡る主な国内の動き(2022年以降)

2022年6月

内閣・内閣官房が新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画「骨太方針2022」でインパクト投資推進を明記

2022年6月

経団連が報告書「“インパクト指標”を活用し、パーパス起点の対話を促進する」を公表

2022年9月

内閣官房が「インパクト投資とグローバルヘルス」に係わる研究会を設置

2022年9月

東京都が「ソーシャルインパクト投資ファンド」を創設

2022年10月

金融庁が「インパクト投資等に関する検討会」を設置

2022年10月

「インパクトスタートアップ協会」が発足

2023年3月

「インパクト志向金融宣言」の署名機関数が47機関を越え、2021年11月から1年で倍増(2023年11月時点では68機関)

2023年6月

金融庁が「インパクト投資などに関する検討会報告書」を公表。その中の「基本的指針(案)」への意見募集を実施

2023年11月

民間団体等を発起人とし、幅広い主体による協働・対話の場として「インパクトコンソーシアム」が発足

社会・環境への配慮という観点では、ESG投資を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、両者は実務的には一部重複する点はあれど、目的が異なります。
一般的なESG投資は、企業のESGに対する取組みなどを総合的に評価し、投資先を選別します。
一方、インパクト投資は、投資を通じてどのようなインパクトを創出したいのかという投資サイドの「意図」が重要になります。また、当初期待したインパクト創出が実現できているかどうか、その成果を定量的・定性的に把握し、それをもって投資先と対話を継続することも求められます。

ESG投資にもさまざまなスタイルがありますが、例えば株式を購入したことによって生じた追加的なインパクトの発現状況については問わないことが一般的です。ゆえに、「個別の投資が、社会・環境課題の解決に資する技術開発やビジネスモデルの変革などにどの程度繋がっているのか、確認しづらい」といった課題がありました。

インパクト投資は、投資を行ったことによる追加的なインパクト創出の成果を計測するため、投資を通じた改善効果を認識しやすくなります。また、資金の出し手と受け手の双方が、具体的なインパクトを意識し、コミットすることで、インパクト発現の実効性をより高めやすい面があるとも言えます。
加えて、規模や成長段階などを問わず、将来のインパクト実現可能性を評価するなど、一般的なESG 投資の手法では捉えきれなかった企業・事業の価値を高く評価できる可能性があります。

インパクト投資等に関する検討会報告書では、インパクト投資に必要な条件として、以下の4つを挙げた。①当該投資を通じてどのような効果・収益性を実現するのか(意図)が事前の計画において明確であること、②投資の実行によりどのような効果・収益性が具体的に生じることが見込まれること(追加性)、③効果を事後的にも確認し、継続的な行動につなげていくもの(特定・測定・管理)であること、④ 社会・環境的効果の創出にかかるコストを低減し、社会・環境課題への対応と収益性を両立するイノベーション 出所:金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書概要」を基にGGP作成

では、具体的にどのような手法や事例があるのでしょうか。
インパクト投資の残高ベースで最も多い手法は、非上場株式・上場株式から、インパクト投資の観点で投資先を選定する「インパクト投資ファンド」の設定です。テーマやどのようなインパクトを求めるかはファンドの投資方針によってさまざまですが、いずれも社会的価値と経済的価値の両立がコンセプトとなります。

インパクト投資は欧米が先行しており、数多くのインパクト投資ファンドが設定されています。
一例として、
トリオドス銀行グループの取組みを紹介します。
トリオドス銀行グループは、社会課題解決を意図した金融機関である「ソーシャル・バンク」の草分け的存在であり、1980年にオランダで設立されました。そのグループ傘下のトリオドス・インベストメント・マネジメントは、再生可能資源や持続可能な食・農業など7つの注力テーマを設定し、各テーマへのポジティブなインパクト創出を掲げたさまざまなファンドを運用しています。

例えば、環境に優しく、社会的にも持続可能な食料システムへの転換を掲げる「トリオドス・フード・トランジション・ヨーロッパ・ファンド」では、「バランスの取れた生態系」など3つのインパクト目標を定め、その目標達成に寄与する4つの投資分野を選定のもと、オーガニック食材の販売企業など12社に投資を行っています(2022年度)。
どの課題を解決してどのような世界を目指すのかを明確にした上で、そのために必要な投資テーマを設定しており、この点は従来のテーマ型ファンドとの違いとも言えるでしょう。また、インパクトの創出効果がより高まるように、インパクトの測定・管理や投資家へのエンゲージメントなども行っており、その結果はレポートとして公表しています。

国内においても、近年インパクト投資ファンドの設定が見られつつあります。例えば、東京都はソーシャルインパクト投資ファンドとして、2023年2月にウェルネス領域における課題解決を図るインパクト志向のスタートアップを投資対象としたファンドを設立し、出資も行っています。

インパクトIPO(新規公開株)にも注目が集まっています。
インパクトIPOとは、インパクト企業が、インパクトの測定・マネジメントを適切に実施していることを示しながら行うIPOを指します[*4]。IPOから上場後も、財務的価値のみならず、自らが目指すインパクトの価値について広く投資家に理解してもらうことを通じて、インパクト創出と事業拡大の両立を目指すものです。
例えば、2023年12月に上場を果たした株式会社雨風太陽は、2020年よりインパクトの測定・マネジメントを開始しており、その過程で設定したインパクト指標を経営指標の一部として、法定開示の中で開示することを謳っています。こうしたインパクト上場企業への投資を通じて、ファンドを介することなくインパクト投資を行うことも可能になります。

インパクト投資は、株式投資に留まりません。例えば、銀行融資などにおける「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」という手法が挙げられます。
PIFとは、企業活動が環境・社会・経済にもたらすインパクトを分析し、特定したポジティブなインパクトの向上と、ネガティブなインパクトの低減に向けたエンゲージメントを重視する手法です。特定したインパクトの達成度合いに対して定期的に評価・モニタリングを行うなど、インパクト実現に向けたエンゲージメント機能が強化されていることが特徴となります。

インパクト投資の対象の1つとして、社会・環境価値の向上が事業の成長に不可欠と考える「インパクトスタートアップ」と呼ばれる企業にも注目が集まっています。
経済的成長と社会課題の解決・社会的価値の向上との両立を掲げるインパクトスタートアップは、インパクト投資のコンセプトに合致する投資先とも言えるためです。
企業側も、インパクト投資拡大の機運を活用すべく、2022年10月に「インパクトスタートアップ協会」を設立し、投資資金の呼び込みに向けた企業間のノウハウの共有や、行政などと協力したインパクトスタートアップ企業の成長環境構築といった活動を行っています。

こうした動きも受けて、官側でもインパクトスタートアップ育成の支援に乗り出しています。経済産業省は2023年10月にインパクトスタートアップ30社を選定し、公共調達で優遇するほか、投資家などとの関係構築を後押しなどの支援を行っています。

インパクト投資のさらなる浸透に向けては、まだ課題も残されています。関連調査によると、投資家がインパクト投資により取り組みやすくなる条件として、自社のステークホルダーからの関心や、経営トップや社会におけるインパクト投資への理解、インパクト測定手法のルール化といった回答が多く寄せられています[*5]。

インパクト投資という動きが日本でも拡大・定着するためには、経済的価値と社会的価値を両立することの重要性を社会全体が認識することが、大きな鍵となるでしょう。


*1インパクト投資について GIIN(インパクト投資の活性化を目的に、2010年にロックフェラー財団を中心とした投資家によって創設された非営利団体)においては、インパクト投資を「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動」と定義している。また、その構成要素として、①ポジティブなインパクトを与える投資家の意図があること、②財務リターンを目指すこと、③多様なアセットクラスでの取り組みであること、④インパクト評価を行うこと、の4つを挙げている。
*2 GIIN“SIZING THE IMPACT INVESTING MARKET 2022”
*3 金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書」の公表について
*4 インパクトIPOとは、「①ポジティブなインパクトの創出を意図している企業が、インパクトの測定およびそのマネジメント(Impact Measurement & Management, IMM)を適切に実施していることを示しながら、IPOを実現すること。さらに、②IPOに際して、インパクトの追求とIMMを継続的に実施できるよう、当該企業を取り巻くステークホルダーに対して、インパクトおよびIMMの状況を説明し、インパクト志向の資金提供者からの資金調達をめざすことで、企業価値の向上を図ること」とされる(一般財団法人 社会変革推進財団 インパクトIPO実現・普及に向けた基礎調査より)。なお、インパクトIPOの要件やあり方などについては、現在、GSG国内諮問委員会主催のインパクトIPOワーキンググループにおいて議論が進められている。
*5 GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2022年度調査」

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