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目からウロコの新規事業でサステナに貢献——Nikken Wood LabとPASS THE BATON

Date: 2024.03.13 WED

  • #新規事業

  • #ソーシャル

  • #気候変動

右から大庭拓也氏、野崎亙氏、モデレーターの棚橋弘季氏

2024116日、「クリエイティブな企業活動を通じたサステナビリティの実現」と題したイベントを渋谷のロフトワークにて開催しました。

登壇したのは、日建設計Nikken Wood Labチームリーダーの大庭拓也氏とスマイルズ取締役社長でCCO(Chief Creative Officer) も兼任する野崎亙氏の2名です。両者共にサステナビリティに貢献する目からウロコの新規事業を生み出し、推進しています。その創造的な活動内容に加え、発想の源や人を巻き込みながら新たな振る舞いを浸透させていく秘訣について話を伺いました。

日建設計は、1900年に発足した「住友本店臨時建築部」をルーツとする、世界でも指折りの建築設計事務所です。渋谷駅周辺の再開発や東京スカイツリーなどの大規模施設を多く手掛けています。

大庭氏はその中でNikken Wood Lab(以下Wood Lab)のチームリーダーを務めています。この組織は、社内ベンチャーコンペで「つな木」という木材加工システムが選ばれたことを機に2018年、自主組織として発足しました。その2年後には正式組織となって、木質・木造の開発研究を行っています。

一般流通の木材と専用クランプで構成する「つな木」 図提供:日建設計

「つな木」とは、誰でも気軽に空間をつくることができる小径木を使ったユニットです。細くて軽い45mm角の木材を、Wood Labが開発した金属のクランプを使って接合し、解体や組み替えが簡単にできるのが特徴です。

「つな木」を使った仮設建造物の事例。左上:日建設計 OUTDOOR LOUNGE 右上:地域と神社をつなぐ神社カフェ 左下:ポロシリ十勝キャンプフィールド 右下:グリーンディスプレイ 写真提供:日建設計

図提供:日建設計

近年、二酸化炭素を固結できる木造建築に注目が集まり、中大規模の建築が増えています。しかし大庭氏によるとそれらに使われる木材は全体の約50%。「それ以外の木に付加価値をつけたいと考えて、『つな木』をデザインした」と大庭氏は説明します。
発想の原点は「森林保全や木材産業と建築のよい循環です」(大庭氏)。

図提供:日建設計

また、「小さな空間づくりに参加してもらうことが大事。『つな木』に触れることで自分ごと化でき、森林保全や木材利用への理解が深まるのではないか」と大庭氏は活動がもたらす効果を説明します。

さまざまな団体と、つな木をつかったコラボレーションが生まれている。左上:徳島木のおもちゃ美術館 右上:木造校舎を設計した昭和学院小学校の小学生たちと「つな木」をつかったワークショップ 左下:大学生を対象にしたつな木を使ったコンペで、奈良公園で苗木をシカから守る奈良女子大学の学生案が優秀賞となり、実際に社会実装した 右下:地域の神社神社にて制作に参加した子供たち 写真提供:日建設計

大庭氏はWood Labの活動以外に、「つくればつくるほど生命にとって良い建築」をマニフェストとして掲げ、自らをウッドスケープアーキテクトと名乗り、木材利用の可能性を広げています。

ダイレクターアーキテクトとして、東京オリンピック・パラリンピック2020では「有明体操競技場」や「選手村ビレッジプラザ」など中・大規模の木造建築を設計しました。

仮設建築物だった「選手村ビレッジプラザ」は、全国の都道府県から木材を一時的に借り受け、解体後はレガシーとして各県で再利用するという木の循環をデザインしました。

「有明体操競技場」では、約2,300㎡もの木材を内外装材に使った 写真:鈴木研一

「選手村ビレッジプラザ」では「みんなでつくる」をテーマに全国各地から木材を集め、木材に産地を刻印した 写真:野田東徳 

大庭氏が設計を手掛けた「渋谷区立北谷公園」の公園施設は、鉄骨造を木で覆った建物です。木質のパネルの外装かと思いきや、実はこの木材は取り外すことができるのです。公園で行うイベント時には、「つな木」のクランプを使ってフォリー(屋台のような仮設建築)を建て、イベント終了後にはまた建物が木で覆われるという驚きのシステム・デザインなのです。

着脱可能な木の外装材。イベント時には取り外してフォリーの部材になる 写真提供:日建設計

「高度成長期に建築のメタボリズム(新陳代謝)が考案されたけれど、実現されなかった。でも現代の技術で、適材適所で着脱可能にし、建材を循環させていけるのではないか」と大庭氏。つな木という仕組みづくりに端を発したWood Labの活動は、木の新たな循環を生み出そうとしています。

野崎亙氏

スマイルズは、Soup Stock Tokyoを立ち上げた会社です(2016年に分社化)。1人でも気軽に食事できる場として、ファストフードのイメージを刷新し、サイドディッシュだったスープを主食として食する習慣を定着させました。「『なんでこうなっちゃうの?』をキーワードに、世の中の体温をあげていくことを目指している会社だ」と野崎氏は説明します。

図提供:スマイルズ

そんなスマイルズが手掛けるのがPASS THE BATON(パスザバトン/以下PTB)という事業です。もともとは表参道や丸の内、京都などに店舗を構え、個人から集めた思い出の品にそのストーリーを添えて販売していたセレクトリサイクルショップです。「だれかの思いが詰まったものをバトンとして渡す」とPASS THE BATONの意味を野崎氏は説明します。

しかし、メルカリなどC to Cのリサイクルが台頭してくる中、「新しいサイクルを生み出すための共同体としての活動:ニューサイクルコモンズに切り替えました」(野崎氏)。「日本の倉庫を空っぽにしよう」というキャッチコピーを掲げ、企業の倉庫で眠るB品やデッドストック品に光を当てることを始めたのです。

きっかけは、ハンカチのメーカーであるブルーミング中西で半端に余った大量の端布でした。それらを縫い合わせて「半カチーフ」として販売したところ大ヒットし、ついに端布がなくなってしまいました。「新品を切ってつくるという案も出たけれど、それじゃあ本末転倒。倉庫が空っぽになるとビジネスができなくなるという自己矛盾に陥った(笑)」と野崎氏はそのプロジェクトを振り返ります。

PTBのパートナー企業ブルーミング中西の端布をつかった「半カチーフ」 写真提供:スマイルズ

そこから「日本中にはまだまだ眠っている宝がある」と気づきを得て、企業が持つデッドストックや、処分されてしまうものにPTBのアイデアを加えて新たな命を吹き込み、再び世の中に流通させる仕組みをつくりました。

図提供:スマイルズ

品川のTHE CAMPUSで開催されているPASS THE BATON MARKET 写真提供:スマイルズ

そして「ただ店舗で販売するだけでなく、大きな活動につなげたい」と多くの人が一同に会し、リアルメディアプラットフォームとなるPASS THE BATON MARKET(以下PTBM)を始めます。品川にあるコクヨのオフィス「THE CAMPUS」でこれまでに14回開催し、869組が出店、6万人が来場、およそ25万個の商品のバトンが渡る実績を上げています。15回目を20243910日に予定しています。

野崎氏はPTBMを通じた「あたたかい商流」を生むための3つのメソッドを解説しました。

① 「いいいいわけ」
「購買においては“いいわけ”が行動のトリガーになる」と野崎氏。「自分が“好き”であることが“社会的な価値”と結びつくと“いいいいわけ”になる」と言うのです。つまり、廃棄されるものをリサイクルして、そのバトンを受け取ることが、新たな商流に拍車をかけていくということです。

図提供:スマイルズ

「フラット関係」
PTBMでは、場づくりも重要視しています。決まり事を少なくすることで、主催者、参加者、生活者がよりフラットな関係をつくれるような配慮をしています。そうすることで、出展者同士のコミュニケーションが生まれ、そこから新たなコラボレーションやサービスに発展したと言います

図提供:スマイルズ

「誘い方のデザイン」
「一番よくないのは、正しくても誰も求めていない商品やサービスだ」。野崎氏はそう言い切ります。提供側の目線だけでなく、自らが顧客としてもワクワクできるものづくりやサービスにこだわり、その届け方や循環をデザインすることの重要性を語りました。
「効率性と合理性の中でワクワクするモノが減っている。倉庫に大量に眠っている在庫を見ると、怖くて自分が好きなものではなく、売れそうなものをつくってしまいがち。でも、企業の本質として、自分たちが良いと思うものをつくるべき。そのために、足かせとなっている在庫をなくせばよい。倉庫を空っぽにするのが目的ではなく、その先にワクワクする社会をつくりたい」(野崎氏)。

図提供:スマイルズ

Wood LabとPTBの活動には共通点があります。まず、どちらも利用されていないものに価値を与えるということ。そして、多くの人々が関与できる余白を残すことで、参加を促すデザインにしていることです。
参加者が自分ごと化し、ともすれば廃棄されてしまうものを活用する振る舞いが定着する——。どうすれば、このように創造的な発想が生まれるのでしょうか。

GGPの連携パートナーであるロフトワークの棚橋弘季氏を交えたトークセッションでは、創造的なプロジェクトを立ち上げるためには、「プロジェクト前プロジェクト」が有効であるという、示唆に富んだ意見が交換されました。

PTBがKOKUYOと共に始めた地域創生プロジェクト「バトンのヨコク」は、プロジェクトを始める前に、課題を探るプロジェクトです。
「プロジェクトは始まるとゴールが限定されてしまう。その前になるべく多くの情報を入れ、あらゆる視点から何の問題を、どういう課題に変えて、どのように解決するかが大事」と野崎氏は説明します。

図提供:スマイルズ

また、「多くの企業は、サステナに対して自分たちに何ができるかという問いを抱えている。その答えが自分たちだけでは見つけられないからマーケットに出展、そこで玉突きのようなことが起こって具体化できる。具体化すればその先の課題が見つかる」と、PTBM発の新規プロジェクトの実現事例を紹介しました。

大庭氏もまた「普段の設計作業は先にゴールを決め、そのために時間やお金を調整する仕事。一方Wood Labでは先に人とつながって、何をするかを見つけることが多い」と可能性を広げる実体験を語りました。

GGPもまた、『環境・社会課題解決の“意識”と“機会”を流通させる』というキャッチフレーズを掲げた活動体。パートナーのプロジェクト前を一緒に考えたい」と棚橋氏が締めくくりました。

2024116日ロフトワークにて、文:Studio SETO/有岡三恵)

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