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EV普及の促進はEV電池の循環利用が鍵——EV電池のスマートユースとは?

Date: 2024.03.13 WED

  • #エネルギー

  • #イノベーション

  • #気候変動

日本総合研究所 木通秀樹

近年、サーキュラーエコノミーへの注目が高まり市場創出の動きが加速しています。
サーキュラーエコノミーとは、従来の廃棄物対策だけでなく、紛争鉱物や生物多様性等の課題を考慮した資源循環価値の最大化と、長期利用などにより製品使用価値を最大化することで新たな市場創出を行う考え方です。
2020年には国内で「循環経済ビジョン2020」[*1]が策定され、包括的なサーキュラーエコノミーへの転換方針が提示されました。233月にはグリーン成長戦略とも紐づけられた「成長志向型の資源自律経済戦略」[*2]が定められました。

こうした中で注目されているのが、市場の潜在価値が大きく、紛争鉱物の循環利用が期待されるEV電池です。

欧米ではEV電池の資源循環価値が注目されています。欧州では237月に電池規制が交付され、電池の製造から再資源化までのCO2排出量や再生材料使用量の明記などが、247月から順次義務付けられます。米国では234月にインフレ抑制法EV条項を定め、関係国での資源確保が強化され、EV電池からの再生資源確保も促進されています。

EV電池のサーキュラーエコノミー 出所:日本総合研究所

一方で、国内では使用時の品質の不安などから中古EVやリユース電池の利用が進まず、海外流出させているのが現状です。これにより、国内の資源循環が進まないだけでなく、EVの残価低下により、新車EVの販売やリースも進め難い状況となっており、EVの普及にも影響を及ぼしています。

資源を確保してEVを普及するには、中古EVやリユース電池を安心して利用できるようにする必要があります。そのためには、ユーザーが積極的に電池の残存能力や安全性を管理し、大事に使う「賢い利用(スマートユース)」を実践することが有効です。

スマートユースの効果を、中古EV利用、新車EV利用、リユース電池利用、再生材料利用、の4つの場面で見てみましょう。

EV電池サーキュラーエコノミーのスマートユース実践の意義 出所:日本総合研究所

特に重要なのが中古EV利用です。中古EVを国内で利用することにより、新車EVリース期間満了時の残価を上げることができます。そうすることで、EV電池の海外流出を防ぎ、リユース電池や再生材料の利用を促進する流れを生むからです。中古EVは電池の品質評価や長期保証を行うスマートユースによって、安心して利用できるようになります。こうすれば新車の半額程度で導入できるので、国内でのEVの利用促進が期待できます。
さらに、最適充電運行計画、電池性能・残価管理等を行って電池を大事に使うスマートユースを行えば、中古EVの廃車時の価値を高めることができ、使用済み電池を高く販売できるようになります。つまり、中古EVを安価に調達できて廃棄時に高く売ることで、実質の車両コストを抑えることができると言えます。EVへの早期シフトを目指すEVユーザーの企業にとってはメリットとなるでしょう。

新車EV利用では、国内で中古EVの利用ができるようになれば、リース期間満了時の残価向上というユーザーメリットが得られます。また、中古EV同様にスマートユースを行うことで残価はさらに向上して実質コストを下げるので、新車EVが導入し易くなります。

次にリユース電池利用は、電池の残存能力が分かり難くバラツキがあること、安全性に不安があることが導入の足枷になっています。利用時に電池の品質管理を行うことで、安心して導入できます。また、電池をモニタリングしながら適切に交換すれば容量にバラツキがある中古電池が電力会社などで効率的に利用できるようになります。この結果、安価でEV電池の利用ができるようになり、将来、資源価格が高騰した場合にはさらに効果が大きくなります。また、計画的に電池を交換すれば、電池メーカーなどの再生材料の利用者は再生材料を計画的に利用できるようになります。

最後に再生材料の利用では、電池のリユースと連携すれば電池メーカーなどで再生材料が確保しやすくなります。また、再生材料製造までに生じるCO2削減が生む経済効果が活用できれば再生材料のコスト低減効果も得られ、電池規制への対応も進みます。

このように、EVや電池の活用を4つの場面で連携すれば、利用者のメリットが高まることから、最終的にEV普及に貢献すると言えるでしょう。

スマートユースの実現に向け、これまで2回の「スマートユースフォーラム」[*3]が開催されました。
1回は202311月に開催され、経産省および環境省の講演者から政策動向やスマートユースへの期待が話されました。また、東京大学よりスマートユースを後押しする評価と標準化が紹介されました。株式会社JERAからはリユース電池利用の考え方と最新技術を紹介頂き、今後の電池利用時の技術標準化の重要性などもご指摘頂きました。筆者からスマートユースの考え方を提示させていただいたところ、アンケートでは90%以上の方に考え方へのご賛同いただきました。

2回は2428日に開催され、新車EV導入を推進されるASKUL LOGIST、中古EV販売を推進されるIDOM、リユース電池の導入を推進する伊藤忠商事、ブロックチェーンを用いた信頼性高い情報連携を推進するカウラから、現状の課題や市場動向に関して講演を頂きました。また、筆者からスマートユースのユーザー意義と連携を促進する「スマートユース協議会」の構想を提示しました。ディスカッションでは、EV電池のサーキュラーエコノミーのバリューチェーンの方々が一同に会することで、様々な気づきが得られる場となりました。アンケートでは90%程度の方に協議会の考え方へご賛同いただきました。

こうした仕組みが実現すれば、国内企業へのEV導入の促進、海外からの輸入も含めたリユース電池利用と再生資源利用の促進が期待できます。そこで、協議会では世界的にも先進的な取り組みとして、ユーザー起点で資源循環価値や製品使用価値を最大化するEV電池のサーキュラーエコノミーの実現を目指しています
スマートユースは賢く大事に使うという日本人にとって取り組みやすい活動であり、世界的な標準化を先導することも期待できるのではないでしょうか。

*1 循環経済ビジョン2020 
*2 成長志向型の資源自律経済戦略 
*3 関連URL
①第1回スマートユースフォーラム動画
ダイジェストバージョン
フルバージョン
第2回スマートユースフォーラム

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