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サーキュラーエコノミー起点で事業変革のヒントを探る——ロジックモデルを考えるWS開催

Date: 2024.05.29 WED

  • #イノベーション

  • #気候変動

近年よく耳にする「サーキュラーエコノミー(CE)」とは、資源循環型経済です。社会に浸透すれば、気候変動や生物多様性損失などの環境課題解決に寄与することは論を俟ちません。そのCEをビジネスとして実践するにはどうすればよいのでしょうか——。

その課題を深掘りして考えるイベント「サーキュラーエコノミー意見交換会 —事業変革のヒントを探る—」を311日、東京・渋谷のhoops link tokyoにてGGP主催で行いました。

「自社のビジネスの中でCEを実践するためのヒントを見つけて欲しい。そして将来的なビジネス・パートナーとの出会いの場になれば嬉しい」と、GGP事務局の清水倫は開催目的を説明しました。

イベントは座学とワークショップの2部構成で行いました。

1部では、まず日本総合研究所(日本総研)高保純樹氏がCEの重要性について講演しました。それに続き、実際にCE起点で事業変革に取り組む3つの事例を事業者自らが紹介。
2部では、約30名の参加者が3つのグループに分かれ、1部で話を聞いた3つの事業に対して、そのロジックモデルをアップデートするワークショップ(WS)を実施しました。
参加者が発案しやすくするために、WSに先立ち、ロジックモデルの作成方法を日本総研の村上芽氏が講演しました。

<1部>

講演
サーキュラーエコノミーの重要性について
日本総合研究所 コンサルタント 高保純樹
【サーキュラーエコノミー起点で事業変革に挑む企業からのピッチ】
「包む(包装資材)」 をアップデートする 藤森工業 総務部・サステナビリティ担当 池﨑亘
「自動車整備・リビルト部品の利活用」を
アップデートする
高輪ヂーゼル 代表取締役社長 杉崎正寛
「廃棄される紙資源のアップサイクル」を
アップデートする

一般社団法人アップサイクル 事務局長 瀧井和篤

<2部>
講演
事業変革を考える上で有用なフレームワーク
「ロジックモデル」の概要と重要性について

日本総合研究所 エクスパート 村上 芽

【3つのグループに分かれてワークショップ】

日本総研の高保氏は、2000年代になりCEの概念が世界的に重視されるようになったと言います。2010年、英国でCEの普及をミッションとするエレン・マッカーサー財団が設立され、その火付け役となりました。高保氏は、同財団のCE3原則(EliminateCirculateRegenerate)など、CEに関わる基礎知識を解説しました。
さらに、CEとは「ループが閉じた経済システム」であることを強調し、同財団が提唱する概念図を示しました。

CEの概要 図提供:高保純樹

そして高保氏は、CEの意義を以下の3つの項目に分類し解説。
1つ目は資源制約への対策です。人間が自然資源を使用するスピードは、生態系による自然資源の供給能力の1.75倍に及び、持続可能な資源消費になっていないことを示しました。
2つ目は気候変動の緩和。廃棄物と気候変動の関係の例として、全世界の温室効果ガス排出量の810%が食品ロスに起因している実態を語りました。
3つ目の意義として、CEビジネスチャンスであることを強調します。2050年には世界全体のCEの市場規模が120兆円に拡大するという試算があることを示しました。

図提供:高保純樹

さらに高保氏は、ブリヂストンによるタイヤのサステナブルマテリアル化、セブン&アイホールディングスによる完全循環型ペットボトルなど、CEの実践事例を挙げ、具体的なループの閉じ方を紹介しました。

高保氏は「『ループを閉じる』経済システムの実装は大変革であるが、実現していかなければならない」と訴えます。
そのためには「サプライチェーン・ビジネスモデル全体を戦略的に組み立てることが重要。その上で、自社だけでできないところはパートナーの協力を受けるとよい」と、協業がCEの実践につながることを示唆しました。

2部のワークショップに先立ち、日本総研の村上芽氏が「ロジックモデル」の基本的な作成方法を解説しました。

村上氏によると「ロジックモデルとは、ある事業・活動がその目的を達成するに至るまでの変化の論理的な因果関係を明示したもの」で、「『風が吹けば桶屋が儲かる』仕組みを細かく分析すること」です。

図提供:村上芽

ロジックモデルは、インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム→ゴールと、時系列に沿って、誰が何をすればどうなるかということを書き留めて作成します。
WSでポイントとなるのはステークホルダーの目線を増やすこと。一般消費者の観点など、それぞれの立場で論理構築を行うとよい」と村上氏は言います。

図提供:村上芽

「アウトプットまでは売上や販売点数などで把握しておられること。アウトプットがもたらすその先の変化であるアウトカムを考えることが重要」と村上氏。
「例えばCEでは、その重要性を伝えること(インプット/活動)で、どんな消費者が受け止めたか(アウトプット)、それにより消費者の行動がどう変化したか(アウトカム)を捉えることなど。アウトカムの受益者は人間だけではなく、自然や動物、環境や地域なども含めて考えてください」と、村上氏は視野を広くしてWSの議論を進めることを促しました。

創立から100余年の藤森工業(東京都文京区)は、牛乳の紙パックや医療機器用包装材料、洗剤などの詰め替え用パウチの製造・販売を行っている会社です。
ハウスネームをZACROS(究極の最先端)とし、環境負荷を小さくするための製品開発や製造を長年実施しています。

同社によるCEの取り組みを総務部・サステナビリティ担当池﨑亘氏が、プレゼンテーションしました。

主なターゲットは、使用済みのプラスチック製品。
これをゴミではなく資源として捉え、循環を促進しようとしているのです。

環境負荷を抑えるための藤森工業の取り組み 図提供:藤森工業

そのために藤森工業が開発したのが、ポリエチレンのみで様々な機能を実現した「モノマテリアル」の樹脂製パウチです。
従来の複合素材に比べリサイクル性を高めた素材です。

ポリエチレンのみでつくるモノマテリアルの詰め替えパウチを開発 図提供:藤森工業

GGP提供素材に基づき藤森工業作成

このモノマテリアル・パウチをインプットとして、池﨑氏が作成したロジックモデルを基にWSでは議論を深めました。
アウトカムとして自治体のごみ収集コストの削減や海洋汚染の緩和などのアイデアが出されました。

池﨑氏は「これまでに社内ではなかった視点を頂いた。リサイクルスキームの確立は新しい市場を創造することであることを再認識させられた」とコメントしました。

高輪ヂーゼル(東京都大田区)は、1948年の創立以来トラックやバス、建機などの整備事業を行ってきた会社です。

代表取締役社長の杉崎正寛氏は今回、同社が取り組む自動車部品の再生事業を紹介しました。
使用済みの製品を回収し、分解・洗浄・部品交換などを経て新品同等性能の製品として販売する事業です。

同社はその取り組みをリビルト(再構築)と呼んでいます。

「リビルト製品の利用は、環境負荷削減だけでなく、整備コストの削減や整備作業時間の短縮につながる」と杉崎氏は言います。

リビルト製品の製造過程 図提供:高輪ヂーゼル

高輪ヂーゼルが製造するリビルト製品。新品同等の性能をもつ 写真提供:高輪ヂーゼル

また、自動車整備といえば力仕事のイメージが強い中、リビルト製品の製作工場では女性や高齢者、障がい者が活躍している現状を明らかにしました。「リビルト製品を広めていくためには、社会的認知度を高めなければならない」と杉崎氏は今後の課題を語りました。

高輪ヂーゼルは、このリビルト製品をインプットとして、以下のロジックモデルを作成しました。

GGP提供素材に基づき高輪ヂーゼル作成

WSでは、整備工場という現在の顧客層を超え、個人や車メーカー、運送会社など多くのステークホルダーが上がりました。さらに具体的なCO2の削減値や価格メリットを謳っていく重要性などが語られました。

杉崎氏は「顧客のターゲットが広がった。リサイクル製品の価値を訴求すること、脱炭素の見える化など会社としての課題が鮮明になった」とコメントしました。

アップサイクルは、持続可能な社会の実現に向けて、業界の垣根を越えた企業が連携をするために20232月に設立された社団法人です。
20243月時点で、35の企業・団体が所属しています。

日本ネスレに勤務しながらアップサイクルを立ち上げたアップサイクル事務局長の瀧井和篤氏は「ビジネスではサステナビリティを定着させることが難しい中で、様々な企業のノウハウを結集させ、新たな価値を見える化して消費者に届けていきたい」と活動の目標を語りました。

「TSUMUGI」プロジェクトによる社会課題解決 図提供:瀧井和篤

紹介したプロジェクトは、紙ゴミや未利用の木材を紙糸にしてアップサイクルする「TSUMUGI」です。
日本の伝統産業とコラボレーションし、伝統技術の継承にも貢献するデザイン性が高い製品を紹介しました。

日本の伝統産業とコラボして開発した製品 図提供:瀧井和篤

紙資源・間伐材をアップサイクルした紙糸の製造・販売をインプットとしたロジックモデルを瀧井和篤氏が以下の通り作成し、これを基にWSを行いました。

GGP提供素材に基づきアップサイクル作成

WSでは、アウトカムとして消費者の認知を高めることを重視して議論を深めました。
小学校の授業で取り上げたり自治体との連携を拡大するなど活動領域を広げることで、子どもの環境問題への意識を高め、将来世代の育成につながるなどのアイデアが出ました。

瀧井氏は「ステークホルダーの豊富さを学ぶことができた。消費者の行動変容につながるように、紙ごみが資源としてアップサイクルできることを発信し続けたい」とWS後の感想を語りました。

2024311日、hoops link Tokyoにて 文・特記なき写真:有岡三恵/Studio SETO

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