イベントレポート
GGP Edge Program 2024 社会的価値創造のコミュニティ醸成に向け選考会開催——アクチュアル、日揮パラレルテクノロジーズ、ヤマハ発動機を選出
Date: 2024.12.23 MON
#新規事業
#イノベーション
#ソーシャル
2024年11月28日、GGP主催・日本総合研究所共催のもと「GGP Edge Program(以下Edge Program)」最終選考会兼交流会を開催しました。
Edge Programの2024年度の支援先として、芸術作品や展覧会をアーカイブするアクチュアル(京都市中京区)、障がいの有無に関わらない働き方を目指す日揮パラレルテクノロジーズ(横浜市西区)、マウンテンバイクのツーリズムを含めたサービスの提供で古道や地域再生に取り組むヤマハ発動機(静岡県磐田市)の3社を選出しました。
Edge Programは、本業を通じた社会的価値創造を支援するプログラムで、昨年度に続き2回目。最終選考に選ばれた7社によるプレゼンテーションと選考委員による質疑応答の後、先駆性・先見性・具体性の選考基準に則り上記の3社に決定。
選考委員は3名で、京都大学経営管理大学院教授の山田仁一郎氏、JEPLAN代表取締役執行役員社長の髙尾正樹氏、日本総合研究所創発戦略センター チーフスペシャリストの村上芽氏でした。
より高い社会的価値を創造する事業に発展させることを目指して、3社には、グリーンアントレプレナーシップの専門家である山田氏によるメンタリング、および日本総合研究所によるロジックモデルの磨き上げの支援をご提供します。
GGP Edge Program 2024に選出された3社の皆さまと3名の選考委員。
前列左から山田仁一郎氏、村上芽氏、髙尾正樹氏。後列左からアクチュアルの辻勇樹氏、日揮パラレルテクノロジーズの關健宏氏・瀬野尾安弥子氏・阿渡健太氏・長尾浩志氏、ヤマハ発動機の石田翔平氏・前田帆乃夏氏
世界の文化遺産をサステナブルに——アクチュアル「WHERENESS」
アクチュアル代表取締役社長の辻勇樹氏
アクチュアルは、360°の映像技術を使って世界中の展覧会や美術品をアーカイブするプラットフォーム「WHERENESS」を構築する会社です。
代表取締役社長の辻勇樹氏は、芸術作品が抱える現代の課題を指摘。数千万円と巨額の資金を投じて開催される展覧会が仮設的であること、物理的に残せない作品が増えていること、美術品の99%が収蔵庫で眠っていること、紛争等で破壊される恐れがあることなどを挙げました。
辻氏は、世界の文化遺産をアーカイブ化することで、時空間を超えてバーチャルで芸術鑑賞ができ、将来的な教育や研究に貢献できる可能性を示しました。
WHERENESSのサービス概要。アーカイブを制作し、閲覧・鑑賞を可能とする。閲覧料や会費、寄付などで収入を得る
360°カメラを用いて制作する臨場感のある3次元映像
資料提供:アクチュアル
選考委員は「文化遺産を残そうという壮大な計画に敬意を表する。ぜひ実現させて欲しい」(髙尾)、「長期的な視点から文化を眼差す重要な取り組みだ。テクノロジーや仕組みだけでなく、ステークホルダーに対するガバナンスやパートナーをいかに構築していくかなど今後の課題が極めて大きいが頑張って欲しい」(山田)と講評。
将来、多くの美術品の保管が困難となりトリアージ(峻別)が必要となるという辻氏の見解に対して「その悩みを解決するための選択肢として、美術関係者からの期待が今後高まると思う」と村上氏も事業の可能性を示唆しました。
辻氏は「社会構造的に経済合理性のないところで事業が可能かというのが自分の人生の問いだ。短期的なキャピタルゲインを求めるのではなく、サステナブルな事業のあり方をつくりたい」とEdge Programへの期待を語りました。
すべての人が対等に働ける社会を——日揮パラレルテクノロジーズ
左から、日揮パラレルテクノロジーズ代表取締役社長の阿渡健太氏、事務責任者の瀬野尾安弥子氏、事業部長の關健宏氏、取締役CTOの長尾浩志氏
「障害の有無に関わらず、全ての人が対等に働ける社会を目指す」をミッションに掲げる日揮パラレルテクノロジーズは、日揮ホールディングスの特例子会社として障がい者の労働環境の改善に取り組んでいる会社です。
特例子会社は最低賃金での雇用が多く平均年収が200万円であるところ、日揮パラレルテクノロジーズでは年収の中央値である標準年収350万円を実現。さらにフルリモート、フルフレックスの勤務態勢を実践しています。
代表取締役社長の阿渡健太氏は「自分自身に生まれつき障がいがあり、(働けないという)偏見にさらされてきた。そんな社会を認めたくなかった」と会社設立の動機を語りました。
「なぜ350万円を実現できているのか」という髙尾氏の質問に対し、日揮グループに対して高度な技術を駆使してIT・DXのサービスを提供していることを説明しました。
日揮パラレルテクノロジーズでは、一般的な特例子会社の1.75倍の年収を実現
設立4年目で7倍の従業員数に成長している。内定受諾率100%
資料提供:日揮パラレルテクノロジーズ
選考委員は「フルリモート、フルフレックスは障がい者だけではなく、女性など必要としている人は多いはず。コロナ後だからこそ注目してほしい」(村上)、「従前から“障がい者雇用”という言葉のあり方に違和感をもっている。人は生まれてから老いていくまで常に変化し続ける多様な存在で、性別も国籍も超えて働き方のバリエーションが必要。雇用のかたちを変える志と挑戦にエールを送りたい」(山田)と共感を示しました。
そしてこの事業が「一推しだった」と言う髙尾氏は「経済合理性の中で成果を上げ、認められたからこそ350万円の標準年収を達成しているのが素晴らしい。日揮グループの外でも可能性を広げて欲しい」と激励しました。
「働きづらさなどは誰もが抱えている課題。それは、社会のルールを変えていけばクリアできると思う。フルリモート、フルフレックスのメソッドを言語化し、グループ内だけでなく社会全体に伝えていきたい」と阿渡氏はこれからの抱負を語りました。
マウンテンバイクで古道や地方を再生——ヤマハ発動機「Mountain Ride Hub」
ヤマハ発動機技術・研究本部の共創・新ビジネス開発部 企画グループの石田翔平氏(左)と前田帆乃夏氏(右)
ヤマハ発動機はマウンテンバイク(MTB)のフィールドとして国内の古道を再生し、観光価値を高め地域貢献を目指すプロジェクト「Mountain Ride Hub」について発表。 同社技術・研究本部の共創・新ビジネス開発部 企画グループの石田翔平氏はまず、日本の中山間地では森林が放置されている問題などを指摘しました。
そしてMTBという遊びを通じて、自然を感じることができる新しいツーリズムを含めたサービスを提案。海外での成功事例などを示すと共に、現在廃れかけている古道とMTBを掛け合わせることで、インバウンドも含めてユーザーを増やし、コミュニティを構築していく計画を語りました。
日本の古道をMTBのフィールドとして利活用するアイデア
Mountain Ride Hubのサービス内容
資料提供:ヤマハ発動機
Mountain Ride Hubについて選考委員は、「遊びというキーワードがあることが大事。現在、熱中症の危険などが原因となり外で遊べない子どもが増えている。すでに存在している自然の資源を生かして新たな遊びのチャンスが広がるのが面白い。楽しみだ」(村上)、「マウンテンバイクが好きという、楽しい視点で社会課題を解決しようとするのが良い。実装するためには、安全や資金の課題があるが、それを乗り越えて欲しい」(髙尾)と講評。
さらに山田氏は、「里山の環境が悪化すると水質汚染で農業にも漁業にも悪影響を与える状況は、歴史的にいま危機的になってきている」と里山保全の重要性を強調。「それに取り組むにはパッションがないとできない。粘り腰で取り組み、商業化・ブランド化し、将来的には他の企業にも影響を与えるような事業にして欲しい」と、社会的インパクトが強い事業へと成長することに期待感を示しました。
「すぐには貨幣価値に変え難い共感ドリブンの事業。そのため関係者とのコミュニケーションを重要視している。その結果として、この場で自分たちの思いを届けられたこと、皆さまの共感を得られたことに感動している」と、チームリーダーの小倉幸太郎氏は選考された喜びを語りました。
経済合理性と社会的価値を両立させるビジネスを
選考会の風景。山田氏(左)、髙尾氏(右)、村上氏(右から2人目)とGGP事務局
最終選考に残った3社以外の4社もまた、ITなど高い技術力で新しいサービスを提供する事業を紹介しました。
山田氏
時間労働など障がい者にも多様な働き方をマッチングするアプリを提供するMatchbox Technologiesは、コンビニエンスストアなどですでに利用されています。
山田氏は「AIの技術を駆使してどのように働き方を変えていくのか、挑戦的な発想でその行動力を推したい」とコメントしました。
髙尾氏
自らも独自技術を用いてPET ケミカルリサイクル事業を手掛ける立場から髙尾氏が「面白い技術」と高く評価したのがアパレルの生地を簡単に捺染する転写システム「TRAPIS」を擁するミマキエンジニアリングです。
従来の印刷技術のような汚染水を出さず、誰でも手軽に捺染ができる画期的な製品でした。同社はこの他、テキスタイルの脱色・再プリントを可能にするアップサイクルの自動化に取り組み、資源循環への貢献を目指しています。
村上氏
子どもの権利とビジネスを研究する村上氏が注目したのは、ICチップを搭載したデジタル名刺「プレーリーカード」を展開するスタジオプレーリー。
「紙からスマホへの移行ではなくカードにしているのが常識を破っている。中学生が使っているという点も興味深く、キャリアパスポートのような展開にも期待している」とコメントしました。
そして、家具や家電をサブスクリプションでレンタルすることで、耐久消費財を循環させるクラスのビジネス展開にも共感が集まりました。
「サーキュラーエコノミーのリーダー的な存在になっていくポジションを狙うのであれば、地方都市やグローバルに対する経営戦略の取り組みに今後期待したい」と山田氏は述べました。
選考会の後半では、2023年度の支援企業Tesera(三谷産業グループ)、フーディソン、三和物産が事業内容を紹介。その後、三和物産代表取締役社長の西河誠人氏とメンターを務めた日本総研の渡辺珠子氏によるパネルディスカッションや参加企業同士のネットワーキングが行われました。
参加企業のネットワーキング 写真:GGP事務局
最後に「社会課題を解決しようとすると、経済合理性と必ずぶつかる。それを超えるには信念が必要で、それをいかに共有して広げていくか——。そのためにはアイデアだけでなく、行動が必要。資本主義社会の中では、みんなで行動しチャレンジしていくしかない」と髙尾氏は会場に集まった企業に呼びかけました。
山田氏は「ワクワクするビジネスプランをもった企業が多数参加したEdge Program選考会のこの場を祝いたい。ここでのインタラクションや志のあるビジネスコミュニティ感覚が、膠着状況にある日本の企業やスタートアップの突破口になることを期待している」と締めくくりました。
Edge Program 2023を振り返る |
(2024年11月28日、日本総合研究所 社会価値共創スタジオにて 文:有岡三恵/Studio SETO 写真:山田愼二/シーン・セカンド)