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「これからの田園都市」の姿を構想する──環境危機とウェルビーイングの時代の都市のあり方を考えるWS開催

Date: 2024.06.11 TUE

  • #地域共創

  • #新規事業

2024年3月19日、GGPはロフトワークと共催で「『これからの田園都市』の姿を構想する~環境危機とウェルビーイングの時代の都市のあり方を考えるワークショップ~」を開催しました。

「これからの田園都市」というテーマの背景には、2021年に日本政府が掲げた「デジタル田園都市国家構想」があります。この構想では「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを」と謳い、人口減少や少子高齢化、産業空洞化など現代のさまざまな社会課題をデジタルの力で解決することを目指しています。
また「田園都市」の歴史を紐解くと、19世紀末に英国のエベネザー・ハワードという都市計画家が提唱した新しい都市モデルに起源があります。産業革命後に農村から都市へ労働者が集中し、人口過密や居住環境の悪化などの問題が生じました。それらを解決するために、都市と農村両方の長所を兼ね備えた居住スタイルとして構想されたものです。
さて「これからの田園都市」は、現代の複雑な社会課題をどのように解決することができるのでしょうか——。

そうした問いに対して「これからの田園都市」を構想するワークショップ(WS)を行いました。
兵庫県三木市、埼玉県所沢市、岡山県真庭市の3つの自治体職員が、それぞれテーマオーナーとなり、各々の地域の課題や取り組みをプレゼンテーション。その後、参加者が3つのグループに分かれ、WS形式で各テーマについて議論を深めました。

1つ目のテーマは兵庫県三木市で取り組む地域内外の人を巻き込んだ「チャレンジの場」の創出です。はじめにテーマオーナーの三木市総合政策部縁結び課清水暁彦氏が、市の抱える課題を共有しました。

三木市は、神戸市の中心街まで電車で約1時間、大阪市中心街まで車で1時間という立地です。1970年代に合計約5,450区画を有する広大な戸建て住宅団地「緑が丘ネオポリス」が開発され、
郊外型ベッドタウンとして発展しました。しかし現在では、人口減少、空き家の増加、人口構成の高齢化という課題が浮かび上がってきました。

全国各地で同様に抱える「地方郊外の戸建て住宅団地の課題」を解決するためには「ベッドタウンだった地域の価値をアップデートし、魅力的な価値を持続的に創造する仕組みづくりが必要」と清水氏は熱く語ります。

その具体策の1つが産官学民で連携しながら挑んでいる「チャレンジショップ事業」です。
その拠点となるのが「青山7丁目団地再耕プロジェクト」(2025年度完成予定)。閑静な住宅街が拡がるだけではなく、すでに立地している宿泊施設や介護福祉施設などもあり、現在整備に向けて進めている多世代交流施設をまちのリビングとして多世代が長く住み続けられる団地を目指しています。

拠点整備に先立ち三木市は、民間事業者が市内商店街近くの空き家を買い取りリノベーションした戸建て住宅を活用し、棚貸しというかたちで地域内外から新たなビジネスを呼び込むことを試みています。
三木市が目指す姿は「市民だけではなくさまざまな人々が関わり、チャレンジして新たな魅力を生み出し、繋がり続ける場所を目指している」と清水氏。

挑戦できる場をつくることで関係人口を増やし、新しいビジネスを持続的に生み続ける。そんなチャレンジショップ事業を端緒とし、今回のWSでは「私ならこうやる」といったアイデアを出し合い、地域で新規事業を生み出す可能性を探っていきました。

チャレンジショップ事業の拠点「青山7丁目団地再耕プロジェクト」の構想 図提供:三木市

棚貸しチャレンジショップのイメージ 図提供:三木市

WSはまず、「『やりたい』を実現するチャレンジの場として地方都市が選ばれにくいのはなぜだろうか?」 という問いから始まりました。地方への移住は、家族の生活、教育や勤務先の選択肢の少なさ、人とのつながりをつくれるかが心配、といった懸念点が挙げられました。

教育や交流の場については「行政側が十分なサポートを行う」、「ポータルサイトを立ち上げてショップの評価やエンドユーザーの声をリアルタイムで反映させる」、「チャレンジを公募し住民投票を通して関係人口を増やす」など、チャレンジャー同士の情報共有や刺激を生むシステムに関するアイデアが出てきました。
そしてNFT(非代替性トークン)を活用したバーチャルでの創作やコミュニケーションが可能となるIT技術の導入についても多数意見が寄せられました。
地方都市でも人や情報が繋がることで新しい価値を生み出すための仕組みや環境づくりについて幅広い議論が展開されました。

続いて2つ目のテーマでは、まず所沢市環境クリーン部マチごとエコタウン推進課齋藤伸宏課長が、ゼロカーボンシティに向けた取り組みを紹介しました。

埼玉県南部に位置する所沢市では、緑地が40%を占め都市近郊の農地や樹林地が残されています。しかし、人口増加とともに樹林地の面積が年々減少しています。
「気候変動対策は避けて通れない地球の課題であり、限りあるエネルギーに依存してきたライフスタイルを転換する必要がある」と齋藤課長は語ります。そこで所沢市は、2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにするという長期目標を据えた「ゼロカーボンシティ宣言」を2020年に掲げました。

CO2を最も多く排出しているのは家庭部門であることから、「ゼロカーボンの達成は行政による省エネ・再エネの推進のみならず、市民のライフスタイルの転換が必要だ」と齋藤氏は言います。

そこで、市民の考えを直接聞いて政策に反映するべく、所沢市では2023年に第1回「マチごとゼロカーボンシティ市民会議」を開催しました。
これは、ヨーロッパを中心に広く行われている気候市民会議の所沢版であり、国内では初の取り組みとなりました。無作為抽出された市民4,500名中の51名が参加し、「我慢ではなく暮らしやすいライフスタイル」について意見を出し、所沢市はそれらを政策に活用していく意向です。

マチごとゼロカーボンシティ市民会議にて、幅広い世代で議論をする 写真提供:所沢市

市民会議の参加者みんなで作成した所沢市の将来像 図提供:所沢市

まずは、日常で環境問題について学ぶ機会が少なくエコへの意識が浸透していない、長期的広範的な課題であるために個人だけで取り組める活動には限りがある、といった「環境に関心を持つ若者が活躍できない環境要因」が共有されました。
そこで出たのが「駅前ちょこっと塾」というアイデア。駅前に若者が気軽に入れるスペースをつくり、日常的に環境問題を学べる機会を提供するというものです。
また、多様な人々が交流し社会的価値を創出するためのインキュベーション施設の創設案が出されました。そこを拠点に、地域の課題解決をしたい人や学習の機会を応援する提案です。
さらに独自の地域通貨を発行し、環境に良い行動をするとポイントが貯まる、などの案も生まれました。

3つ目のテーマでは、森林資源を活用した家具を題材に、森林と人の暮らしの距離について議論を深めました。テーマオーナーを務める岡山県真庭市産業観光部産業政策課の平澤洋輔氏は、地域資源である木材や林業の可能性をサーキュラーエコノミーの観点から探ります。

真庭市は、県内で最大の面積があり、その8割が森林です。所沢市同様、ゼロカーボンシティ宣言をし、内閣府からSDGs未来都市にも選定されるなど注目されている市です。市の目標としては、多様な人材の活躍を推進する「共生社会」と、新しい時代の流れを力にする「回る経済」を掲げています。

平澤氏は、市の「回る経済」の具体例を紹介。1つは、製材業の余材を木質バイオマス発電として有効活用する事業です。将来的には市内の電力をバイオマスで賄うことも想定しているとのこと。
もう1つはCLT(直交集成材)の活用です。CLT生産量日本一の企業が真庭市にあることから公共施設等で積極的に利用を進めています。
また東京五輪2020の開催に合わせ東京・晴海に真庭産のCLTを用いてイベント施設を建設し、五輪終了後には真庭市に里帰りさせるプロジェクトも行いました。さらに、家庭から排出される生ごみやし尿液を液体肥料として再資源化する施設を今年度中に稼働する予定だとか。「地域資源を有機的に接続し、これまで価値のなかったものに価値を与える取り組み」と平澤氏は説明しました。

そして、今回のWSのテーマ「100年先まで使える家具」を着想した理由を平澤氏は語ります。
50年から100年かかる森林の成長と経済成長や人の暮らしのサイクルは釣り合っているのか?環境を考えたときに、今とは異なる時間軸での木材の消費や活用を考える必要があるのではないか」と。
平澤氏は、森林の大量生産・大量消費(ファストウッド)へのカウンターとして、森林のリズムに寄り添う「スローウッド」プロジェクトを構想しています。「家具」をキーワードに、100年先まで使える家具のつくり方を考えます。

真庭産の広葉樹を活用した家具。自然共生に関する行為やものを発信する施設「GREENable HIRUZEN」にて活用されている 図提供:真庭市

スローウッドの企画にあたって森林のフィールドワークを行なった 図提供:真庭市

WSでは家具など「もの」が生まれるプロセスに価値を見出しました。その背景にあるのは、壊れたら捨てる・新しいものを買う、といった消費者の価値観が根強く、木材への関心が薄いことです。
そこで、木が一生の間で触れ合う生物や動物がわかる絵本や図鑑をつくって伝えるなど、木材を取り巻く環境・歴史・背景を消費者にとって身近なものにするアイデアが注目を集めました。家具の価値のみならず、家具が持つ背景や歴史から生まれる価値についても参加者から多くの関心が寄せられました。

100年先まで使える家具は終始ひとりで使っていくことは難しいため、世代を跨いでいくなかで家具にストーリーが付随され、オリジナルの価値が生まれます。
こうした使用の遍歴など、なかなか表には出にくい価値をブロックチェーンの技術で可視化する「デジタルワビサビ」などのアイデアも出されました。家具の再利用にまつわる前向きな意見が多く、その価値観や背景のプロセスに考えが巡らされ、新しい視点が見えてきました。

2024319日オンラインにて 文:中村睦美)

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