インタビュー
ブルーエコノミー実践で、もっと楽しい食を——フーディソン
Date: 2024.06.20 THU
#新規事業
#ソーシャル
#自然資本
左から、フーディソンの取締役CFO兼経営管理部長の内藤直樹氏、執行役員兼魚ポチ事業部長の日下部俊典氏、経営管理部マネジャーの松本広大氏
GGP Edge Program(以下Edge Program)は、本業を通じて社会的価値を創出する企業や事業を支援することを目的としたサービスです。SMBCグループが2023年度から開始し、初回の支援先として公募で選ばれたのはフーディソン、三谷産業、三和物産の3社でした。 |
日本総研によるメンタリングの概要 図:日本総研
参加企業フーディソンに聞く
2022年に東証グロース市場に上場したフーディソンは、「生鮮流通に新しい循環を」をビジョンとし、「世界の食をもっと楽しく」をミッションに掲げる企業です。飲食店向け生鮮品EC「魚ポチ(うおぽち)」、いつも新しい発見のある街の魚屋「sakana bacca(サカナバッカ)」、フード業界に特化した人材紹介サービス「フード人材バンク」を展開しています。 Edge Programでは、日本総研の村上芽氏がメンターとなり、「魚ポチ」に焦点をあてたロジックモデルを検討しました。プログラムに参加したメンバーの内、取締役CFO兼経営管理部長の内藤直樹氏、執行役員兼魚ポチ事業部長の日下部俊典氏、経営管理部マネジャーの松本広大氏にお話を伺いました。 |
——Edge Programに参加した動機を教えてください。
松本広大 フーディソンは、元々社会性の高い事業に取り組んでいる意識を持っていたので、ことさらSDGsを謳わなくてもよいと思っていました。しかし、東証グロース市場に上場したことで、ステークホルダーに対するサステナビリティ開示が必要となったのですが、どのように整理して対外的に伝えていけばよいか難しく感じていました。そこで、Edge Programに参加することで、情報開示の方法がクリアになるのではないかと思いました。
内藤直樹 2023年4月に社内でサステナビリティ委員会を立ち上げ、しっかりとサステナビリティを言語化していこうという動きがありました。そうした背景がある中で、Edge Programによってインプットをいただきたいという期待がありましたね。
ECサイトで魚仕入れ——飲食店の作業軽減×未利用魚の活用
——Edge Programで、生産者と飲食店をECサイトでつなぐ魚ポチの事業を中心に掘り下げました。魚ポチのサービスを始めた背景と事業の概要を教えてください。
リモートで参加した魚ポチ事業部長の日下部氏(左)
日下部俊典 魚の流通は今、スーパーマーケットが主軸となっています。20種類くらいが定番化していて、よく売れる魚が水産流通のメインです。しかし、日本全国では4,000種類くらいが水揚げされていて、値段が付かずに捨てられる未利用魚、低利用魚がたくさんあります。それはもったいない。水揚げされたものを効果的に流通させることにチャレンジしなければならないと思い、産地と飲食店をつなぐサービスを始めました。
飲食店側も、食材が安く手に入るメリットがあり、独自のメニュー開発にも繋がります。またECサイトなので、市場に行く労力を省くことにもなります。産地とのネットワークを広げながら、一般的ではない魚の価値を飲食店に伝え、付加価値をつけ、産地に還元していくのが魚ポチ事業の目指すところです。
松本 私たちのビジネスは卸業で、基本的に市場で仲卸をしている方々と同じモデルです。ただし、社内にエンジニアがいてソフトウェアを自前でつくり、商取引をDX化しているのが特徴です。また、大規模の物流センターがあり、大量の水産物を効率よく一括で処理できるシステムがあるのが私たちの強みです。
日下部 会社設立当初は、ソフトウェアだけで産地と飲食店をつなげられると思っていました。しかし、巨大な水産業界に入っていくにつれ、情報マッチングだけではなく、水産物のクオリティをしっかりとコントロールしないと、飲食店に価値を届けられないということが分かってきました。
そこで、創業から3期目には、東京都中央卸売市場である大田市場での仲卸免許を取得し、自分たちで全国から仕入れ、販売もするというかたちに変わっていきました。
水産業にコミットする中で、物流にもコミットしていかないと持続可能な流通網がつくれないことに気づき、物流センターを所有・運営することも始めました。
魚ポチの価値を受益者ごとに整理——社会的価値を伝えるロジックモデル
——事業や活動がその目的を達成するまでの論理的な因果関係を明示するロジックモデルを用いて日本総研の村上氏が5回のメンタリングを行いました。最初に村上氏が魚ポチ事業について、「ソフトウェアの開発」「市場の買参権と仲卸免許」「物流センターの所有・運営」をインプットとしたモデルを作成し、これを基にディスカッションをしました。このプロセスの中で、何か気づきはあったでしょうか?
第2回目のメンタリング前に村上氏が作成した、議論促進のための資料。図中のマテリアリティはプログラム実施当時の内容
図:日本総研の資料を基にGGP作成
日下部 魚ポチは社会の役に立っていると漠然と自負しておりましたが、ステークホルダーが多くいる中で、誰に対しての価値なのかを細かく整理できていませんでした。Edge Programを通じて、飲食店、産地、物流事業者などそれぞれに対しての価値をきちんと分解できたのがよかったと思います。
例えば、飲食店は仕入れ業務が大幅に削減できたり、市場では見つからない食材を入手できたりします。料理に集中できるので、飲食店の魅力向上にも繋がります。
産地にとっては、通常の卸先に加えて魚ポチの選択肢を増やせば、市場に出ない水産物を販売できます。また私たちを通じて、飲食店の声がフィードバックされます。
物流については、現在は地域毎に分散化し、スケールメリットがないことに問題意識があります。規模を大きくするほど、出荷の効率を上げ、労働生産性も高めることができます。
労働集約的な働き方が水産業の課題なので、それを改善していきたいです。飲食店や産地のステークホルダーが増えれば、われわれの流通取引総額(GMV)が上がります。そうなると多くの魚を短時間で出荷しなければなりません。そのために、より少ない人数でより生産性の高い物流網をつくり、水産業全体をよくすることを構想しています。
その結果、魚の付加価値を高め、産地の収入が増えるようにしたい。ひいては地域の活性化や水産業界の魅力を高めることにも繋げていきたいです。
メンタリングを経てフーディソンが作成したロジックモデル。アウトカムがステークフォルダーごとの便益に整理された。図中のマテリアリティはプログラム実施当時の内容
図:フーディソン提供のロジックモデルを基にGGP作成
経営管理部マネジャーの松本氏
松本 今回作成したロジックモデルには記入していませんが、地方自治体やアカデミアなど、水産や地域に関わるより多くの人達も含めて考えると、もっと事業に広がりが出るだろうと思うようになりました。
また、後半のメンタリングではSDGsの「海の豊かさを守ろう」などからバックキャストで、私たちが何をやるべきか議論しました。長期的な目線から現在を考えるという新しい視点を頂きました。
内藤 これまでは、社内ではいろいろと話をしていましたが、外部の方とディスカッションする機会がありませんでした。特に今回はSDGsやESGを専門とする村上さんの視点が学びとなりました。村上さんは「CO2を減らしましょう」など、普段の業務では意識しきれない条件を提示してくれました。世の中ではサステナビリティへの意識が高まっていること、環境問題の中にビジネスチャンスがあることなど、村上さんのフィルターを通すことで改めて気づかせていただきました。ブルーカーボンやブルーエコノミーにもしっかり取り組んでいかなければならないと改めて思いました。会社としてこれまでも考えていたことではありますが、Edge Programを通じて、それは間違っていないという信任を得られたと思います。
——今回作成したロジックモデルをどのように利用されるのでしょうか。
松本 ロジックモデルの考え方は、社内のサステナビリティ委員会で活用できると思っています。IRへの開示情報だけでなく抽象的な話をディスカッションするときに、このツールを叩き台にすれば、思考の整理に繋げられるな、と。
日下部 事業会社は、どれくらい売り上げを伸ばしていくかなど、数字が一人歩きすることがあります。売り上げだけでなく、その事業が社会的にどういう意味があるのかを整理できたので、数字と社会的な意味を繋げて社内外に発信していくために役立つと思います。
既存の市場流通に比べ、魚ポチを通じた流通金額をどれくらい増やすことで、産地や飲食店にどれだけ寄与できるようになるのかとか示していきたいです。
環境配慮の経営の実践に向けて
——京都大学経営管理大学院教授の山田仁一郎氏によるメンタリングを経て、何か変化はありましたか?
取締役CFO兼経営管理部長の内藤氏
内藤 山田氏によるメンタリングには、代表取締役CEOの山本徹も参加しました。組織の話や、環境に対してビジネスとしてどう取り組むかについて、フリーディスカッションをしました。アカデミアの視点は、一般的なビジネスコンサルティングとは違う印象でした。
環境とビジネスの関係については、山本とも常に話をしていたところでした。「藻場が枯れて、水揚げ高が減っている」という話を産地で聞くのですが、フーディソンとしては藻を育成するには投資回収が難しく、会社として取り組むことが難しいという悩みがありました。
環境は地球規模の話なので一朝一夕に効果が生まれるものではなく、なかなかビジネスとして取り組めない。しかし、山田氏の話を聞いているうちに、長期的なものだけではなく、中〜短期的に効果が得られる研究や技術が出てきたら、ビジネスとして関わっていけるのではないかと気づき、ひとつの転換点になりました。
ブルーカーボンやブルーエコノミーについて様々な研究はありますが、私たちのようなベンチャーはなかなかアカデミアと繋がる機会がありません。そういう課題に取り組んでいる学会や研究者と今後は積極的に繋がっていきたいと考えています。
松本 山田氏は、「ストーリー」という言葉を強調されていました。
対外的に伝えるストーリーと社内に伝えるストーリーがあり、リーダーシップをもった経営陣がみんなの納得できるストーリーを発信することが重要だとおっしゃっていました。
環境問題は、すぐに数字に反映されるものではないので、そのストーリーテリングが大事だと。そこでリーダーが役割を発揮することが重要だというお話をいただきました。
内藤 Edge Programは、経営陣が参加するとよいのかな。「プログラム終了、以上!」ということではなく、これで得た気づきを企業活動にどう活かしていくかという観点が重要だと感じました。それで、環境や社会的価値に配慮した経営を会社が続け、そうした会社や団体が増えると良いと思います。
(2024年4月10日、フーディソン本社にて 聞き手:GGP事務局 文:有岡三恵/Studio SETO 写真:村田和聡)