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死生観をリ・デザインする“明るい葬祭用品メーカー”——三和物産

Date: 2024.06.27 THU

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写真左より:西河誠人氏、松浦絵美氏、大村明日香氏、清水吉樹氏 松浦氏が手にしているのが「ひつぎひつじ」と銘打った同社のキャラクター

GGP Edge Programとは

GGP Edge Program(以下Edge Program)は、本業を通じて社会的価値を創出する企業や事業を支援することを目的としたサービスです。SMBCグループが2023年度から開始し、初回の支援先として公募で選ばれたのはフーディソン、三谷産業、三和物産の3社でした。2024年1月〜3月にかけて日本総合研究所(以下、日本総研)によるメンタリングを5回、選考委員を務めた京都大学教授の山田仁一郎氏によるメンタリングを2回行いました。
Edge Programに参加した各社の皆さまにプログラムの手応えを伺い、3回シリーズでレポートします。
2024年度は7月より、公募を開始する予定です。

石川県金沢市に本社を置く三和物産は、「明るい葬祭用品メーカー」と銘打ってEdge Programに応募しました。創業から65年、主に棺や祭壇などの企画、製造、販売を手掛けている企業です。
Edge Programでは、日本総研の渡辺珠子氏がメンターとなり、ロジックモデルをブラッシュアップしていきました。プログラムに参加した代表取締役社長の西河誠人氏、取締役・営業本部長の清水吉樹氏、広報の大村明日香氏、生産本部商品課海外商品係の松浦絵美氏の4名にお話を伺いました。

——Edge Programに参加した動機を教えてください。

西河誠人 2023年に私が社長に就任し「日本中の誰もが知る葬祭用品メーカー」になるというビジョンを掲げました。その実現には多くの課題がありますが、Edge Program に選ばれることが、知名度を高める1つのきっかけになると考え、応募しました。
これまでは葬儀社様とBtoBの取引のみでしたが、今後はBtoBに加えて、BtoCも視野に入れた展開を考えています。私たちの事業が社会にどのように受け入れられるのか、このEdge Programの中で客観的なご意見をいただきたいと考えていました。

——「明るい葬祭用品メーカー」として、どのような取り組みをしているのでしょうか。

西河誠人氏

西河 「明るいパン屋」「明るいお花屋」と聞くと、そこまでギャップを感じないのではないでしょうか。しかし「明るい」と「葬儀用品メーカー」を組み合わせると、ギャップを感じませんか?この意外性こそがビジネスチャンスだと捉えています。
例えば、棺と羊を掛け合わせた自社キャラクター“ひつぎひつじを使ってSNSで発信したりしています。24年3月には、終活とは異なるアプローチとして学生向けに「死ンキング展」を開催しました。その他にも様々な試みを行っています。

  • SNSで発信している“ひつぎひつじ”

  • 三和物産で開発した「雲もなか」。雲のカタチをした皮の中に故人との思い出の色の餡を手作りで込めて弔う。

  • 三和物産が主催する展覧会「死ンキング展」。2024年3月、金沢大学の学生4名と共に企画し、金沢市内で開催した。

  • 金沢大学の学生と三和物産による「死ンキング展」の企画風景

——葬儀用品メーカーとして社会と直接的に繋がろうとする取り組みは、SDGsを超えた先にある持続的な社会に貢献すると思います。それが支援対象として選ばれた大きな要因でした

清水吉樹氏

清水吉樹 選考委員の山田仁一郎氏がメンタリングの際に「死生観をリ・デザインすることに興味がある」と言ってくださったのが印象的でした。経済発展と死生観はリンクしているということを教えていただき、まさに現代は死から遠ざかっているということに気づきました。そこで、死をもう少し日常的なものとして捉え、そこに感謝や人とのつながりを見出す動きをつくることができないか。山田氏とはこのような深い話をすることができました。私自身も死生観とは何かを考え、言語化することができたのは、Edge Programでの大きな気づきでした。

西河 Edge Programでは、山田氏から、経済発展と死生観がリンクしていることを教えていただきました。
日常の中で、死や別れについて話題にすることはタブーとされがちですが、若い世代をはじめとする新たなアプローチによって、社会全体の死生観をリ・デザインしていくことができれば「死から生をポジティブに考えても良い」世の中になっていくのではないかと考えています。

——Edge Programに応募する時点で自社のロジックモデルを作成していただきました。ロジックモデルとは、事業や活動がその目的を達成するまでの論理的な因果関係を明示したものです。環境や社会に対する効果創出など、非財務面での達成方法を可視化します。作成した感想をお聞かせください。

応募時点で三和物産が作成したロジックモデル。日本総研の渡辺珠子氏からの「問いかけ」を吹き出しとして追記 図:資料を基にGGP作成

大村明日香氏

大村明日香 最後のインパクト欄にあるSDGSへの貢献というのは、通常業務の中で考えることがほとんどない観点だったので、記載にはかなり時間がかかりました。資料の作成がなかなか進まず、応募を断念した方が良いのではないかという意見が社内で出たほどです。しかし、こうしてロジックモデルを作成し可視化するところまで漕ぎつけたことで、参加メンバー全員が視座を高めることができたと実感しています。ロジックモデルが完璧ではない会社こそ、メンタリングが必要だと感じる機会でした。

西河 難しいと感じたのは「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「つくる責任、つかう責任」の3つのSDGsをインパクトに置いた際、三和物産がどのように貢献できるかを論理的に結びつけることでした。
私たちが“ひつぎひつじを使って発信することが「業界のイノベーション」や「若い世代をはじめとした新たな人材の流入」に繋がるかもしれないというアウトカムの発想が生まれました。これまでは自社の成長に焦点を当てていましたが、ロジックモデルを考える過程で、業界全体としての視点をもてるようになったと感じます。

——日本総研の渡辺珠子氏がメンターとなり、ロジックモデルを一緒にブラッシュアップしていきました。皆さまお一人おひとりがロジックモデルをつくり、それを渡辺氏が統合していくというプロセスでした。参加メンバーはどのように選んだのですか? またメンタリングを通じて得た気づきがあれば教えてください。

松浦絵美氏

西河 役職にこだわらず“ひつぎひつじに関係する4名で参加しました。営業の清水、広報の大村、そして“ひつぎひつじのSNSを担当している松浦と私です。それぞれ異なる立場のメンバーだからこそ、広い視点で考えることができ、柔軟性をもって進められたと思います。

松浦絵美 通常業務の枠を越えて参加できるので「学びたい、勉強をさせていただきたい」という姿勢で臨みましたが「目指す社会とは?」という初歩的な段階から深く思考を巡らせる良い機会となりました。
渡辺氏からは、例えを交えながら考え方のヒントを教えていただき、特に「言語化する」ことの重要性を学びました。今回の経験を通じて、目的の先にある社会変容まで考える習慣が身につき、仕事に取り組む姿勢や自分の役割を見つけられた気がします。

三和物産の参加者が作成したロジックモデルを、第2回目のメンタリングで日本総研が統合 図:資料を基にGGP作成

西河 ロジックモデルのアップデートを通じて、目指す姿が明確になっていきました。今後、どのように世間へ発信していくかということに対しても、Edge Program で得た影響は大きい。
渡辺氏からの「言語化を諦めない!」というメッセージが強く印象に残っています。

清水 私たちの取り組みや葬儀会社について、エンドユーザーにより深く知ってもらえたら、三和物産だけでなくクライアントも新しいビジネス領域で発展できる可能性が広がると思っています。

大村 Edge Program の支援先に選ばれたことで、私たちの取り組みは社外の方々からも興味を持って頂けるものなんだという自信に繋がりました。さらに多くの方々に「面白い」と感じていただけるよう、共感の輪を広げていきたいと思っています。

——メンタリングは、フォアキャストとバックキャストの2つの方法で行いました。“ひつぎひつじ”から始まったロジックモデルが、最終的にはバックキャスト型になり、三和物産の事業全体に収斂した印象を持ちました。

2024年4月時点に三和物産が作成したロジックモデル 図:資料を基にGGP作成

西河 今もまだ、ロジックモデルの整理をし続けている段階ですが、プログラムの前後を比較して見てみると、全然違うものになりました。

大村 政府や自治体といった主体は、最初はまったくなかった項目でした。

西河 また、応募前は自社の成長に思考が留まっていましたが、初めてロジックモデルを作成したときには「業界全体」に視野が広がり、更にメンタリング後には「日本全体」に視野が広がっていきました。「事業を通じて社会的な価値を生む」というワクワク感が高まったと感じます。現在も引き続きロジックモデルの整理に取り組んでいます。

松浦 23回目のフォアキャスト型のロジックモデル作成では、ひつぎひつじの発信がどのように目指す社会に繋がっていくのかをイメージできるようになり、私たちの取り組みは間違っていなかったと感じました。また、取り組みを言語化することで、他の社員にも説明できるようになり、私自身はワクワクしていました。
ところが西河が「ワクワクしない」と言い始め、何をおっしゃっているんだか......? と不思議に思っていました(笑)。

西河 バックキャストの方がワクワクするんです。「積み上げていった結果こうなる」だと、それが本当にやりたかったことだっけ? となるのであまり面白くないと感じます。ただ、フォアキャストとバックキャスト、両方のアプローチでロジックモデルを作成できたのは良い経験でした。
全体を通して、三和物産が大切にしている価値観に気づくことができました。互いの考えを知る機会となり、私自身も新たな価値観を発見できたと感じます。

大村 私は、社長である西河が「ワクワクしない」と言っている横で、松浦が「そうでもないです!」と言える環境が良いと感じていました。フラットに意見を出し、互いに尊重し合える社風に改めて気づくことができたと感じます。

——この後、三和物産の事業はどのように展開していくのでしょうか?

清水 エンドユーザーのニーズを葬儀社に伝える懸け橋になりたいと考えています。そのうえで新しいコトづくりに繋げていきたいです。

西河 社内に対してはもちろんのこと、社外に対しても私たちが目指す社会の姿を伝えていき、共感者を増やしていきたいと思っています。例えば、医療関係者など、協力者を広く募っていくイメージを膨らませています。

三和物産では、商品展開する棺「桜風シリーズ」をつかって、入棺体験などできるイベントを行っている

202445日三和物産本社にて 聞き手:GGP事務局 文:有岡三恵/Studio SETO 写真:吉岡栄一)

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