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サーキュラーエコノミーと分解者たち

Date: 2024.12.16 MON

  • #新規事業

  • #ソーシャル

左から、ASTRA FOOD PLAN代表取締役の加納千裕氏、一般社団法人シモキタ園藝部理事の川崎光克氏、BIOTA代表取締役の伊藤光平氏

2024年1010日、GGPはロフトワークと共催で「サーキュラーエコノミーと分解者たち」を開催しました。
近年、ビジネスの世界ではサーキュラーエコノミーの社会実装が進んでいます。
例えば、製品の原材料や部材のトレーサビリティを確保する情報を記録した「デジタルプロダクトパスポート」、建材のリユースを促進するための国際研究プログラム「Building as Material Bank」などが注目を集めています。
そこでGGPでは、ビジネスとしてサーキュラーエコノミーを実践する企業に注目したイベントを企画。ASTRA FOOD PLAN代表取締役の加納千裕氏、一般社団法人シモキタ園藝部理事の川崎光克氏、BIOTA(バイオタ)代表取締役の伊藤光平氏の3氏をお招きし、その先駆的な取り組みをご紹介いただきました。

3社に共通するのは、物質の「生産」と「消費」を循環させるために必要となる「分解」[*1]の概念です。事業の中でエコシステムを構築する「分解」とは、どのようなものでしょうか──。3氏によるトークセッションに加え、後半では会場参加者を交えてワールドカフェ形式のディスカッションも行いました。なお本イベントは、SMBC Sustainability Forum 2024の一環として開催されました。

  • 過熱蒸煎機による粉末化技術で食品残渣を分解・アップサイクル
  • 都市の残渣は宝物!? 残り物を資源化する緑のコミュニティの可能性
  • サーキュラーデザインは生物多様性から
  • 会場参加者と共にサーキュラーエコノミーを考える
  • アーカイブ

ASTRA FOOD PLANは、食品を乾燥して粉末化する装置「過熱蒸煎機」の開発と販売、過熱蒸煎機を使って製造した食品パウダー「ぐるりこ®」の販売を行うベンチャー企業です。代表取締役の加納千裕氏は「食品残渣を分解することでフードロスを解決する」と事業の目的を説明します。

ASTRA FOOD PLAN代表取締役の加納千裕氏

同社の前身は、廃棄されてしまう規格外の野菜やフルーツをピューレ状に加工し販売するベンチャー企業ネピュレです。食品の栄養価を落とさず、素材の色をそのまま生かすことができる高温の過熱水蒸気を使って加工し、商品開発を行なっていた会社です。過熱水蒸気を使った技術とミッションを引き継ぎ、加納氏は2020年にASTRA FOOD PLANを設立。ピューレではなく、品質が安定したパウダーを製造できる「過熱蒸煎機」を新たに開発し、20243月には特許を取得しました。

加納氏が注目したのは「かくれフードロス」という問題です。商品が売れ残り廃棄される量は年々減少傾向にあるものの、その一方で食品工場から出る野菜の芯や外葉、飲料工場の茶殻といった製造過程で生まれる食品残渣が大量に廃棄されている事実を明かします。その社会課題に対してASTRA FOOD PLANは、企業が廃棄していた食品残渣を粉末の食品としてアップサイクルすることができる「過熱蒸煎機」の開発に成功したのです。

左:過熱蒸煎機300タイプ(毎時300kg原料処理)初期投資1500万円で導入可能 右:食品残渣とそれを粉末化した製品 写真提供:ASTRA FOOD PLAN

「通常のフリーズドライや熱風乾燥機に比べ、乾燥時間は510秒、大容量の食品を連続的に乾燥可能、高い殺菌力、風味良好という特質を過熱蒸煎機は持ちます」と加納氏。「サーキュラーエコノミー型のビジネスモデル」と位置づけます。

商取引の仕組みは、食品残渣が発生する事業者に過熱蒸煎機を販売・レンタルし、そこで生成した粉末をASTRA FOOD PLANで買い取り「ぐるりこ®︎」という商標でブランディングし、販路開拓や用途開発をするというもの。「事業者にとってはこれまで数百万円をかけて廃棄していた残渣がぐるりこ®︎にアップサイクルされ、その売上で利益が生まれ、さらにPR効果も創出されます」と加納氏はこの循環が生む価値を説明します。

かくれフードロスを解決するためのビジネスモデル 図提供:ASTRA FOOD PLAN

玉ねぎ、干し椎茸、オリーブなどの食品残渣に加え、最近熱心に取り組んでいるのが大量に出てしまう飲料残差のアップサイクルだと言います。食品としてだけでなく飼料としても利用することで用途や販路を拡大。また他のスタートアップと協業で、残渣を食べて育った昆虫を養殖海老の餌にする事業を展開するなど、かくれフードロスから新たな商流を模索しています

かくれフードロスの削減は、産廃のコスト削減、食糧危機対策、生産者の収益向上、CO2削減など様々な社会課題解決につながります。加納氏は「ぐるりこ®︎を食べることで社会課題解決に貢献し、みんなが分解者になれます!」と締め括りました。

オンライン販売もされているぐるりこ® 写真提供:ASTRA FOOD PLAN

シモキタ園藝部理事の川崎光克氏

続いて、一般社団法人シモキタ園藝部理事の川崎光克氏が、東京・下北沢で展開する緑地管理やコミュニティの形成、そしてその活動によって広がる「都市の分解可能性」について語りました。「都市の分解」とはどのようなことなのでしょうか。

シモキタ園藝部は、緑と人が関わり合いながら街に新しい園藝文化をつくることを目指す任意団体として立ち上がり、2021年に法人化しました。現在部員は約180名。「『まちの緑を、自分たちの手で』が当たり前になる社会にしたい」と川崎氏は語ります。

下北沢駅近くの「こや」を拠点とし、約2kmにわたる小田急線の線路跡地の下北線路街で活動。「植物の循環に寄り添いその恵みを生かし切る、緑を共有資源として捉える、この2点を大切にしています」と川崎氏はコミュニティの基本的な考えを紹介しました。

シモキタ園藝部が緑の手入れを行う下北線路街 図提供:シモキタ園藝部

シモキタ園藝部の事業内容は、植える・育てる・活かす・還すという植物と人の営みの循環を軸にしたものです。具体的には、下北線路街の緑地管理です。植栽から水やり、草刈りなどの手入れまで行っています。

  • 植える・育てる・活かす・還すを軸としたシモキタ園藝部の緑地管理活動

  • 図提供:シモキタ園藝部


また刈り取った植物を活用したブーケや茅の輪制作のワークショップや販売も行っています。他にもハーブティーなど収穫した植物を楽しめるカフェ「ちゃや」の経営、養蜂で得た蜂蜜「シモキタハニー」の販売など、育てた緑の活かし方も多岐にわたります。

  • シモキタ園藝部のさまざまな事業展開。カフェのハーブティー

  • シモキタハニー

  • ワークショップで製作したリース
    写真提供:シモキタ園藝部

図提供:シモキタ園藝部

育てきれなくなった植物を引き取り、新たな持ち主へと繋いでいく「古樹屋(ふるぎや)」という取り組みも展開。植物の管理だけではなく、担い手を育てるシモキタ園藝學校では木の剪定の知恵だけでなく、実技を学びながら緑の生育に貢献できます。

さらにシモキタ園藝部は、周辺の店舗のゴミなど都市の残渣を分解し、堆肥として活用するコンポストの活動を行っています。エリア内の5か所に設置されたコンポストでは、雑草や枝葉など植物だけでなく、周辺の店舗からコーヒーカスやフルーツパルプ、牡蠣殻、ビールカス、パンのカスなどを分解し、堆肥化。都市の残渣を宝物と位置づけ、価値を見出し循環させる仕組みです。

  • 廃材を使ってセルフビルドで建てたコンポスト

  • 活動エリア内の5カ所にコンポストを設置
    図提供:シモキタ園藝部

  • 図提供:シモキタ園藝部

川崎氏は、シモキタ園藝部を「コミュニティの力で残渣を分解し、資源化する活動」と説明します。さらに物質的な循環だけではなく、緑を介して市民と行政や企業の関係に変化をもたらす可能性があることを、図式化して説明しました。

  • 図提供:シモキタ園藝部

「共有資源と私有資源が断絶し、それぞれから発生する残渣も焼却され埋め立てられていたのが従来の都市の姿だった。そこにシモキタ園藝部が入ることで起こる残渣の分解は、私有資源と共有資源の境界を溶かし、分断されていた両者にネットワークをつくり、都市の緑に人を巻き込み、人の循環を生んでいる」と川崎氏。

緑のコミュニティによって起こる、都市の分解とは——。「経済活動の中で生じる『残渣』を『宝物』として愛で、堆肥化や再利用と通して、共有資源としての都市の緑へと還元すること」と締めくくりました。

BIOTA代表取締役の伊藤光平氏

3人目は「微生物多様性によって健康で持続可能な暮らしをつくる」ことをビジョンに掲げるBIOTA代表取締役の伊藤光平氏。

BIOTAは独自の大規模データ解析で環境の中に存在する微生物の構成や特性を網羅的に検出する技術を持つ会社で、2019年に設立。微生物に関する研究開発を基盤に、ランドスケープデザイン、都市計画のコンサルティング、さらにはアート制作や教育活動も行っています。

伊藤氏はまず「地球上に存在する生物を炭素質量で比較すると、微生物は植物を除く生物全体の97.9%を占めています」と驚きの事実を紹介しました。

さらに現代の都市環境では微生物多様性が低くなったことにより、自己免疫疾患の発生など健康上のリスクが高まっていることを指摘します。

地球上に存在する微生物や動物の炭素質量の比較 図提供:BIOTA

そこで「都市の中で微生物の多様性を高めることがBIOTAの社会的責任」と位置づけ、自社の事業目的を紹介しました。

BIOTAのミッションとヴィジョン 図提供:BIOTA

続いて伊藤氏はBIOTA が展開する事業について解説を行いました。

まずはBIOTAの事業の核となる微生物研究です。最先端のバイオインフォマティクス技術を使って環境中に存在する微生物多様性の解析を行っています。「都市や住環境の微生物多様性についての研究はまだまだ未発達」と伊藤氏。それゆえに自社で研究し、世界中の住環境のデータベースを構築し、建築物などの微生物多様性を正しく評価するための評価指数をつくっています。

BIOTAによる空間内の微生物多様性評価サービス「BIOTA Pack」 図提供:BIOTA

BIOTAはその知見を基に空間創造のコンサルティングを行っています。生物多様性を高めるための3つのアクションを伊藤氏は説明しました。

1) ランドスケープデザインなど微生物の発生源を増やす
2) 高気密になりがちな現代建築の中で室内レイアウトや換気などで微生物を拡散しやすくする
3)多孔質な建材開発などで微生物を留め受容する

空間内で微生物多様性を高めるための3つのアクション 図提供:BIOTA

そしてランドスケープや建築などデザイン、アート作品などBIOTAが手掛けた作品を紹介。

群馬県伊勢崎市にある一条工務店の事務所で植栽デザインを手掛けた。四季を感じる庭づくりの魅力を顧客に伝えることを目指した 写真提供:BIOTA

  • Kaomai Estate 1955(タイ) に展示したアート作品

  • 菌糸でつくったアート作品のダルマが半年で土に還って生態系を拡張する 写真提供:BIOTA

「微生物はあらゆる生態系の基盤となる分解者です。BIOTAは微生物多様性を高める企業活動を通して、100年後のより良い地球の未来をつくりたい」と伊藤氏。「サーキュラーデザインはヒトだけの循環ではなく、ヒト以外の生き物と共に豊かな社会をつくることに挑戦していきたい。そのきっかけとしての微生物だ」と締めくくりました。

会場参加者と共に意見交換

後半は、会場参加者が3グループに分かれ、三氏と意見交換を行いました。

ASTRA FOOD PLANの加納氏が加わったグループでは、アップサイクル製品のビジネスモデルを確立するために、どのように消費者と生産者の価値観を変えていくかが議論になりました。新たな体験を生んだり、言語化したり、ブランディングが重要という意見もありました。また、ぐるりこ®︎を建材など食品以外にアップサイクルするアイデアも出ました。

また、川崎氏によるシモキタ園藝部の解説を受けて、参加型コンポストへの関心が多く寄せられました。さらに下北沢での意欲的な取り組みを他の地域で展開していくためには、「中心となる人材育成が重要」「ヘルスツーリズムで地域と都市を繋げる」といった意見がありました。

伊藤氏が掲げた「微生物多様性を高める」というミッションに対しては、「感染症など微生物にはマイナスイメージがあったが偏見だった」という参加者の気づきの声がありました。話題の中心となったのは、「目に見えない微生物をどう可視化」できるかでした。そこで注目されたのが、「微生物の助けを借りることで植物が育ちやすい環境になる」という事実。植栽のデザインなどのわかりやすい表現により微生物多様性への関心が高まるという話に、参加者の多くが共感を示しました。


(2024年10月10日 ロフトワーク渋谷10階にて 文:中村睦美  特記なき写真:ロフトワーク)


*1 参考図書:『分解の哲学─腐敗と発酵をめぐる思考』(藤原辰史著、青土社 、2019) 著者は同書内で「分解し崩壊し始めることを生まれるというのではないか」と記し、「生産者」、「消費者」、「分解者」を生態系の中で位置づけている。

動画再生時間:約65分

00:02:35 GGP紹介
00:05:45 イベント本編開始

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