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生物多様性保全のこれまでとこれから ——企業には何ができるのか?

Date: 2026.01.07 WED

  • #自然資本

  • #気候変動

  • #初学者

日本総合研究所 高保純樹

2025
年の夏は過去最高の猛暑となり、気候変動の影響がますます深刻になっていることを身をもって感じた方も多いでしょう。
そして、気候変動は人間だけではなく、動植物にも影響を及ぼします。生き物の多様さを示す「生物多様性」の主な喪失要因は、化学物質や外来生物、土地利用の変化と並んで気候変動だとされます。

生物多様性の喪失は、社会全体に大きなリスクをもたらす差し迫った問題です。
日本の企業は、自然と事業のリスクと機会の関係を分析して開示するTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に、世界で最も多く関心を表明しており[*1]、生物多様性への関心が相対的に高いと言えます。
GGPではTNFDについて何度か取り上げてきましたが、本稿では、TNFDをきっかけに生物多様性について理解しなければならなくなったビジネスパーソンを中心に、改めて生物多様性保全の「これまで」を俯瞰し「これから」を考える切り口を提供します。

自然の状態変化を測る「生きている地球指数(LPI)」は、1970年から2020年の50年の間に73%減少したと報告されています[*2]。
生物多様性保全は、世界的に取り組んでいかなければならない課題です。

1992年、環境保全に関連するテーマ別の条約を包括し、また各国が同じ方向を向いて取り組んでいけるよう、生物多様性条約が締結されました。
2010年の締約国会議では国際目標として「愛知目標」が議決され、2022年には「昆明・モントリオール生物多様性枠組」へと引き継がれました。

自然環境保全と言えば、日本の環境省が古くから自然公園法で取り組んできたように、公共セクターが保護地域の設定、規制等を通じて行うべきことと思いがちかもしれません。
一方で、上述の国際目標では、行政だけでなく民間企業も役割を果たすべきものとして書かれています。
では、民間企業がなぜ取り組む必要があるのでしょうか? その答えは、2つの視点から考えることができます。

第一に、企業自身の経営にとっての必要性です。
生物多様性は事業活動の限りある原資ですので、自社がそれにどれだけ依存し影響を与えているか、そして喪失した場合に自社にどれだけのリスクがあるのかを把握し、積極的にリスク管理をしなければなりません。これはTNFDも基本としている考え方です。

第二に、社会全体にとっての必要性です。
資金、担い手、技術など生物多様性保全に必要な資源は、民間企業も豊富に有しており、うまく活用されることが望まれています。
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、理想の姿を実現するために年間7,000億ドルの「資金ギャップ」があるとして、公的資金(政府開発援助や国内の補助金等)も民間資金も合わせてそのギャップの解消に取り組むべきとされています。

その意義について、より現場に近い視点から考えてみましょう。
例えば生物多様性保全の基本的なアプローチの1つとして、保護地域の設置があります。

日本の保護地域というと、行政により設置される「国立公園」や「鳥獣保護区」などが思い浮かびますが、近年は民間事業者による保護地域の設定も推奨されています。
国によりトップダウンで設置される保護地域は生態学的な観点で網羅的ではなく、2017年の研究では、国内で保護地域外にしか生息しない絶滅危惧種の植物が300種弱あったこと等が指摘されています[*3]。

環境省は、2020年までに陸域の20.5%を国立公園など法律等に基づく保護地域に指定していますが、今後は民間事業者によるボトムアップ型の保護地域が増え、そこに民間からの資金や担い手も動員されることで、行政と民間事業者が補完しあって効果的な生物多様性保全が可能になります。
すでに環境省は、民間事業者による保全地域を「自然共生サイト」として認定する事業を推進しており、2025年度までに448か所を認定しています[*4]。

環境省のサイトから全国の自然共生サイトが検索できる「生物多様性『見える化』マップ 自然共生サイト検索ナビ」 出所:環境省 

国際目標では、5年後の2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せること(ネイチャーポジティブ)が目指されていますが、生物多様性の毀損はいまだ続いています。上述のことを踏まえると、企業はこれから何ができるのでしょうか。

まずはTNFDのような考え方に基づき、自社にとってのリスク管理として、事業活動による生物多様性への影響を最小化していくことが必要です。

その上で、企業がリスク管理の範疇を超えた資源動員をも行うことで、より効果的な生物多様性保全が実現します。というのも、絶滅危惧種の植物を保護地域によって守るようなことは、事業リスクの管理とは基本的に縁遠いからです。

このような活動は社会貢献の一環として行われることもありますが、より拡大していくためには、企業にとっての経済的なインセンティブの構築が必要です。
そこで近年では、環境省が「生物多様性クレジット」等の価値取引の制度も検討しています[*5]。ぜひ企業が取り組む社会的意義を理解し、最新の潮流を積極的に追っていきましょう。

生物多様性クレジットに取り組む意義 出所:日本総合研究所 「生物多様性クレジットの国内市場を育成する意義と可能性-地方創生の切り札として-」 

*1 TNFD Adopters – TNFD
*2 生きている地球レポート2024 -自然は危機に瀕している-
*3 民間で維持される保護地域の評価と拡充の重要性
*4 令和6年度後期「自然共生サイト」認定結果について | 報道発表資料 | 環境省
*5 生物多様性クレジットの国内市場を育成する意義と可能性-地方創生の切り札として-|日本総合研究所

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