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人を巻き込み、行動を生むしくみとは? 社会課題解決の鍵として「共感」のデザインを考える

Date: 2026.02.04 WED

  • #新規事業

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2025年11月14日、GGPはロフトワークと共同でトークイベント「社会課題×共感のデザイン 人を巻き込み、行動を生むしくみとは」を開催しました。
現代社会では多くの企業がサステナビリティなどの社会課題解決に取り組み、その体制は着実に進化する一方で、それらをより広く実践していく次の展開が求められています。
そうしたなか、若者世代をはじめ人々の行動の動機になり得るものとして、「共感」の感性が近年着目されています。

本イベントでは、社会課題に関するメッセージを発信する若手実践者の取り組みから、共感とは何か、共感を手がかりに仕組みやムーブメントをつくり出す手法を考察しました。登壇したのは、学生時代に気候変動ムーブメントに参加し、現在はマルイファシリティーズ 企画本部脱炭素推進部再エネピジネス課に所属する三島のどか氏と、若年層マーケティングの専門家として起業し、「虹と満月と」のCEOを務める西村海都氏です。当日は活動を紹介する両氏の講演とクロスセッションが実施されました。

クロスセッションの風景。右から、虹と満月とCEOの西村海都氏、マルイファシリティーズ 企画本部脱炭素推進部再エネピジネス課の三島のどか氏、ロフトワークの大里薫氏

  • 1.「“気づいたら”サステナブルだった」の仕掛けづくり
  • 2.社会課題×エンタメの掛け合わせで提示する
  • 3.目的を理解したうえで間接的に仕掛ける

三島のどか氏

三島氏は「人を巻き込む」「行動を生む」をキーワードに、学生時代の体験と就職後の企業における活動について講演しました。三島氏が気候変動解決に関わる活動をはじめたきっかけは高校生の時。「パリ協定」「気温が1.5度上昇する未来」という授業で習った情報と、「猛暑によるお米の歴史的不作」という地元の身近なできごとが重なった時、はじめて環境問題が自分ごととして捉えられたと切り出します。

大学生時代はFridays For Future[*1]に参加し、SNSによる発信を担当します。しかし差し迫った気候変動の情報を伝えても、フィルターバブル[*2]によって新たな層には声が届かないジレンマや、知ってもらっても行動変容には至らない厳しい現実に直面しました。

そこで、渋谷にクライメートクロック[*3]を設置するクラウドファンディングに参画した際は、まず人々への呼びかけに際してポジティブな感情に訴えかけたと言います。三島氏は危機感や負の感情を煽ることはせず、おしゃれな古着のフリーマーケットや、アップサイクルされた衣服のスナップ撮影会を実施。あくまで「かっこいい・可愛い・楽しそう」を動機に集客しながら、“気づいたら”気候変動解決につながるアクションに結びついていく、という気づきの仕掛けをつくっていきました。「時計の設置はあくまで手段。目的は、たくさんの人に気候変動の現実を知ってもらい巻き込んでいくことでした」(三島氏)。

クラウドファンディングの告知画面(左上)、フリーマーケットの様子(右上)、 アップサイクル服の撮影会(下) 提供:三島のどか

その後、社会課題解決企業を標榜する丸井グループに就職した三島氏。「資本主義の中で起きた気候変動問題は、その枠組みの中に解決策があるかもしれない。NGOで働くことも考えたが、まずは会社で働いてみよう」と考え、現在は再生可能エネルギーを推進する部署で知見を広げつつ、社内周知や主管事業との連携強化に尽力しています。

会社の社会課題に対する取り組みの一例として、三島氏は社員のアイデアから事業化したミュージアムエポスカード[*4]障がいを持つアーティストの支援につながるヘラルボニーエポスカード[*5]の事例を示したほか、自身が会社のランチ代補助制度を利用して実施した「プラントベースフードのランチ会」を紹介。ここでも「環境問題解決のため」ではなく「代替肉は本当に美味しいのか確かめてみましょう?」と好奇心を刺激するかたちで参加者を募って好評を博し、ささやかな交流と意識変化に繋がったのではと自負します。

三島氏による「共感」の分析

三島氏は、人を巻き込む際には「ポジティブな感情を促す言葉」と「“気づいたら”サステナブルだった」という仕掛けが、行動を生むには「内発的な動機」と「それを活かす組織の存在」が鍵となるのではないか、とまとめました。

*1 環境活動家グレタ・トゥーンベリが始めたムーブメントで、気候変動・環境問題に関して政策提言や署名運動など、数々の活動を行う。
*2 検索エンジンやSNSのアルゴリズムが利用者の行動履歴(検索履歴、クリック、いいねなど)を分析して「好みに合う」「快適な」情報だけを自動的に表示することで、自分と異なる視点や多様な意見に触れる機会が減り、同じような情報に囲まれてしまう現象。
*3 世界の平均気温上昇を産業革命以前から「1.5度」に抑えるために残された時間を刻む気候時計。ニューヨークやベルリンなど世界の主要都市に設置されている。三島氏らのクラウドファンディングは無事達成し、2022年に設置された。
*4 エポスカードは丸井グループが展開するクレジットカードで、ミュージアムエポスカードは新規入会につき1,000円と利用額の0.1%分のポイントが、国立美術館などの各独立行政法人へ自動的に寄付される仕組み。
*5 ミュージアムエポスカードと同様の仕組みで、新規入会につき1,000円と利用額の0.1%分のポイントが、提携先のヘラルボニーを通じて、知的障がいがあるアーティストやその支援団体に提供される仕組み

西村海都氏

学生時代からジェンダー課題解決等に取り組み、高校生・大学生向けのマーケティング活動を経て若者マーケティング専門会社を創業した西村氏は、「社会課題をエンタメに」をキーワードに、Z世代集客に特化したイベントを行い、大学入学者数日本一となったマーケティング施策などを多数手がけています。今回は「エシカルがカッコいい世界を当たり前にする」をビジョンに掲げ、計2万人を動員したエシカルエキスポ2024[*6](以下、エシカルエキスポ)の実践を中心に講演しました。

エシカルエキスポでは、POP&FUN FESTIVALをコンセプトに掲げ、環境問題や社会課題を、文化祭のようにポップに楽しく見せています。多数用意された企画のねらいは、社会課題やエシカルに触れるきっかけづくりです。例えば東京会場では3層にまたがる空間を利用し、人気インフルエンサーのイベントは最上階に、下階に若者の価値観の調査や環境への取り組みを伝える企業出展ブース等を配置としました。これにより社会課題へ訴えかけるエリアを必ず通る動線をつくり出し、インフルエンサー目当ての来場者にも、社会課題に少しでも接してもらう仕掛けをつくっています。

エシカルエキスポ2024の告知ページ(上) エシカルエキスポ2024、東京会場の風景(下3点)出所:西村海都

多くの企画の中で特に好評だったのが、お笑い芸人たちによるエシカル大喜利とE-1 GPでした。

「社会課題を起点としたエシカルなどの取り組みは、有無を言わせない風潮があるため本来はネタになりにくい。けれどもここでは大いにイジってくださいと芸人さんにお願いした結果、聴衆は大ウケし、立ち見が出るほどの人気でした」と西村氏。さらに開催後、会場近くのコーヒーチェーン店で高校生たちが「さっき芸人さんが、この紙ストローをイジっていて面白かったね」と話しているのを耳にし、手応えを感じたといいます。

エシカル大喜利とE-1 GPの登壇リスト 出所:西村海都

エシカルエキスポは高校生や大学生などの学生を中心とした実行委員会を組んで実施しており、エシカル漫才も高校生の発案だったと明かします。「若者向けの企画は、若者がつくらなければ面白くならない。大人が企画すると勘所がずれたものになる」と、共感に踏み込む手法を示しつつ、TikTok等のショート動画が若者へのアプローチとして有用であることにも踏み込みました。

*6 2024年は東京と大阪の2都市で、それぞれ渋谷ストリーム(5/2526)、グランフロント大阪(6/1516)で開催。持続可能性や倫理的価値観を大切にし、未来の社会に向けた革新的な取り組みや商品を紹介・共有する日本最大級のエシカル(倫理的)な祭典

右から、西村氏、三島氏、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部・GGP事務局の岡本めぐみ 撮影:藤田恵弥子

講演後のクロストークでは、両氏の実例を踏まえながら、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部GGP事務局の岡本めぐみを交えて、社会課題解決の鍵としての共感と行動変容について議論と分析を深めました。

岡本はまず、両氏には共通する手法がいくつかあることを指摘。「気づいたら(サステナブルだった)」「間接的に(社会課題が目に触れる仕掛け)」などのアプローチは、まず「社会課題を知ってもらう関心の入り口としての共感」の獲得に有効だろうと考察します。

また両氏が口を揃えるのは「価値観(共感)を押し付けると失敗する」ということ。三島氏は「気候変動解決に寄与できる」など、サステナビリティを直接的に掲げた事業は成果を上げられていないとし、理由として「経済合理性や嗜好など、ひとりひとり優先事項は異なるからではないか」と分析します。「サステナビリティが上位とは限らないのに、共感行動を直接的に期待してしまった。ビジネスとしては間接的な提示が望ましいのでは」と振り返ります。

西村氏も社会課題への認識を真正面から振りかざしても、人は耳を傾けず、時に当事者からも反感を買うだけと話します。「共感するかどうかは、最終的に各自の判断に委ねられるべき」であり、だからこそ自身はエンタメを掛け合わせることで、社会課題を別の価値に昇華して提示していると語ります。

では関心の入り口に立った人に、一歩踏み込んだ行動に進んでもらうにはどうしたらよいでしょうか?

三島氏は、「継続できる仕組み」に入ることを提案します。先述のエポスカードのように一度入れば自動的に特定の団体を継続支援できる仕掛けのほか、三島氏が重視するのはコミュニティ。「当初は気候変動へのショックと恐怖が原動力だったが、活動を継続できたのはコミュニティの存在が大きかった。先に進むためには、仲間と繋がりポジティブな感情を生み出すことも大事」と語ります。

その言葉を受け、西村氏は起業家の視点から継続の重要性を見据えます。それは、経済面をきちんと担保した上で社会課題に取り組むべきということ。「心身の両面で余裕がないと、現代社会では継続的に社会課題には立ち向かえない。それは企業も個人も同じです」(西村氏)。他者の幸せを考えるには、まず自分の器が満たされていることが肝要と話します。

社会課題を訴えて行動変容を促したくても、それは容易ではありません。検索エンジンやSNSのフィルターバブルの作用はもちろん、人の心はそう簡単に動かないからです。西村氏はその突破口として「時には戦うことが大事」と力強く語ります。

「私は心ない投稿にもコメントを返しています」と西村氏。「言葉をSNSで伝えることは自分のためにもなるし、“喧嘩”はリツイートされやすくインプレッションが伸び、多くの人の目に止まるようになる」と言います。ここには、迷惑コメント自体は決して歓迎できないけれど「より深い理解や協働に繋がる可能性を見据えていれば、時に異なる意見を戦わせること自体は、広い意味での共感ではないか」という、共感と行動の多義性が見え隠れします。

またそうした議論を経ることで、時に「言葉に励まされた」「一緒にやりたい」とDMが届いたり、投資家へも熱量が伝わったりと新たな展開へつながることもあると西村氏は言います。

対照的に三島氏は、他部署と連携する際や課題にぶつかった時は、目的や利用効果を相手にきちんと伝えていくといった対話を心がけている姿勢を示しました。

まとめとして、岡本は「強いリーダーシップのある発信に心惹かれる人もいれば、自然体で活動している姿にこそ影響を受ける人もいる。発信の姿勢はそれぞれの企業やパーソナリティに合わせて選ぶことがポイントで、その先に共感があり得るのではないか」と考察しました。

少人数のグループに分かれ、「共感」のあり方をディスカッションする会場参加者たち

クロストークの後、会場の参加者は少人数のグループに分かれ、登壇者を交えてイベントを受けて思うこと、共感を通じて自身の事業や取り組みにどんなチャレンジができそうか、活発に議論しました。

知ってもらうため、行動してもらうため……目的の段階によって起こすべきアクションは異なります。また時には戦略的に意見を戦わせることも、社会課題解決を目指す場においてはひとつの共感のありかたなのかもしれません。そんな仕掛けをいかにデザインするか、多くの示唆のあるトークセッションとなりました。

(2025年11月14日ロフトワークにて、文:藤田恵弥子 特記なき写真:ロフトワーク)

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