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食と農の社会課題にどう挑むか vol.2——フードバリューチェーンの未来を、共に描くワークショップ

Date: 2025.12.23 TUE

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社会的課題に対して実践的に行動する事業機会を創出する「GGP共創プロジェクト」
2025年度の重点テーマの1つは「食と農の社会課題にどう挑むか」です。このプロジェクトでは、9月に開催した社会課題を提起するトークイベントに続き、食と農に関する具体的な課題を抽出するワークショップを1010日、東京丸の内のHOOPSLINKにて開催しました。

食品加工業や食品流通業、食農分野に進出する異業種企業、地方自治体など様々なセクターが参加。三井住友銀行、日本総合研究所の社員らと共に2つのグループに分かれ、フードバリューチェーンの未来について4時間に及ぶ白熱した議論を交わしました。各グループのファシリテーターは、日本総合研究所 未来デザイン・ラボの橘田尚明氏と市岡敦子氏が務めました。

ワークショップ(WS)のメインテーマは、未来のフードバリューチェーンの“ありたい姿”を描き、その実現に向けた具体課題の特定と解決のためのの方法を考えること。
生産者から消費者、それをつなぐ加工業や流通、そして行政など、さまざまなステークホルダーがどのような行動変容を起こせば「ありたい姿」を実現できるのか——。

WSに先立ち、参加者には事前のヒアリングを実施。
GGPと日本総合研究所が設定した現在のフードバリューチェーンが抱える4つの課題、「農業の持続的発展」「食料安全保障の確保」「食の多様化への対応」「環境との調和への対応」が、自社や自セクターにどのような影響を及ぼしているかという質問を投げかけていました。
その回答を参加者が語るStep.1からWSはスタートしました。

WSの概要。Step1からStep4の4つの段階で思考を深めた 出所:日本総合研究所

Step1では、事前にヒアリングを行ったフードバリューチェーンに関する4つの課題を横軸におき、縦軸は生産、加工、流通、消費といったセクターとし、現代のバリューチェーンにどのような影響があるかを書き出していった。写真は、橘田氏(写真右)がファシリテーターを務めるチーム2のワーク風景

続いてStep2ではフードバリューチェーンの“ありたい姿”を各チームで掘り下げました。
ここでは9月に開催したトークイベントで日本総合研究所の三輪泰史氏が基調講演の中で示した3つのキーワードを参照しながら議論を展開。
そのキーワードとは、環境配慮を起点とする「グリーン」、食料の安定供給を起点とする「レジリエント」、食のニーズ多様化への対応を起点とする「パーソナライズドバリュー」です。

チーム1では、ありたい姿として持続的な農業のための環境配慮などを重視する方向に意見を集約。
一方チーム2は、国産農産物などの付加価値を価格に反映させていくという視点に多くの賛同の声があり、これをありたい姿として設定しました。

フードバリューチェーンの“ありたい姿”を探るStep2のワーク。ファシリテーターの市岡氏(写真中央奥)がホワイトボードに意見を集約していくチーム1の様子

ワークショップの後半は、Step2で浮かび上がった“ありたい姿”を実現するための課題抽出(Step3)と具体的なアクション(Step4)について、バックキャストで話を展開していきました。

Step3では“ありたい姿”を実現するための課題抽出を行った 出所:日本総合研究所

「ありたい姿が実現した時、各セクターはどんな状態になっていますか? どんな活動をしていますか?」
ファシリテーターが、参加者にそう質問を投げかけます。
続いて「ありたい姿の状態・活動と現状を比較して、実現に向けて生じそうな課題を洗い出してください」と問いかけ、ワークをスタートさせました。

各チームでは、生産、加工といったセクターを横軸に置いた紙に、参加者が付箋を貼っていきます。

チーム2のStep3のワーク風景

参加者からは、幅広く多角的な視点で意見が寄せられました。
両チームで共通していたのは、新たなフードバリューチェーン構築のためには企業による農業分野への参入の促進など企業側の積極的な関与が必要であるということでした。
また、単独セクターの利益ではなくチェーン全体の価値創造する必要性も共通の話題となりました。

そして最終段階のStep4では「ありたい姿の実現に向けた課題に対して、どのようなアクションをとると良さそうでしょうか?」と、セクターを超えた行動変容に対するアイデアを参加者に求めました。

具体的なアクションとして、農業参入企業への税制優遇などの政策支援、企業ふるさと納税など新しい資金調達、人材確保や雇用創出など数多くのステークホルダーを巻き込むなど、数多くのアイデアが出されました。
さらに、スマート農業、温室効果ガスのセンシングや環境価値の見える化など最先端技術の活用などの提案もありました。多様な参加者による知恵が、模造紙からはみ出るほどに寄せられました。

チーム1のStep3のワーク風景

ワークを終え、両チームはそれぞれの成果を発表。

環境配慮型の農業を“ありたい姿”と位置づけたチーム1は、「農産物の環境価値をどのように伝えるかを軸に話し合った。生産から消費までの温室効果ガス排出量を測定し見える化する必要性、環境に配慮した農作物を集約して流通させるなど新業態の可能性、生産地と消費地の物理的距離を縮めるための新ビジネスなどのアイデアが出た」とまとめました。

国産農産物の普及をテーマに話を展開したチーム2は、「日本の企業が農業に参入していくためには加工、流通、小売りなどセクターを超えた協力が必要。そのために投資や税制改革がなされれば日本の農業も変化するのではないか。環境価値への理解など消費者の意識改革も必要」とまとめました。

普段交わる機会の少ないフードバリューチェーンの各プレイヤーが一同に会し、各者の視点を持ち寄ることで、重要な課題の特定とその解決に向けた多様なアイデアが抽出されました。
各社それぞれの知見を活かした連携案も掲示され、本プロジェクトの次のステップである事業共創のコンセプト検討につながる示唆も多数得ることができました。

こうした成果を踏まえて、食と農をテーマに据えたGGP共創プロジェクトは、事業共創の段階へと歩を進めています。

202511月末の段階で、ワークショップの成果等を踏まえた事業共創の仮説を構築。様々な企業様と対話を重ね、事業共創の実現に向けて動いています。

ワーク終了後、各チームが議論した内容を発表

20251010日、HOOPSLINKにて 文:有岡三恵/Studio SETO 特記なき写真:村田和総)

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