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少子化に向き合う社会デザイン会議2025プロジェクト・レビュー03 Co-sodate, working Day@日立製作所

Date: 2026.05.08 FRI

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2月20日に行われた日立製作所の実証実験風景 写真:Studio SETO

【実証実験】働く場で、子育て前の世代 × 子ども × 親の多世代交流

2025年度、GGP共創プロジェクト「少子化に向き合う社会デザイン会議」では、システム思考のアプローチを用い、少子化が生まれる社会構造の調査・整理に取り組んできました
現代の社会では、核家族化や地域のつながりの希薄化が進み、日常のなかで子育て前の世代が子どもたちと交流する機会がすっかり失われています。

そこで、「世代間の分断で失われつつある、子育て前の世代・親・子どもが、同じ空間にいる時間をつくることで、小さくとも何らか意識の変容が生まれるのではないか?」という仮説を立て、“多世代が自然に交わる居場所づくり”を図るべく、実証実験を行いました。
場所は “働く場”に設定し、
会員制シェアオフィスSHIBUYA QWS(東京・渋谷)では「Open day with Baby @ SHIBUYA QWS」、日立製作所内の会議室(東京・品川)では「Co-sodate, working Day」と名付け、20262月〜3月にかけてそれぞれ複数回実施しました。

実験の主旨:多世代が自然に交わる居場所づくり
目的:少子化の要因を「世代間の分断」という視点から捉え直し、「多世代交流(子育て前の世代×子ども)の居場所」が、少子化対策の有効な解決策となる可能性を検証する
アプローチ:子育て前の世代・子ども・親が同じ空間で交わり、どのような変化が生まれるかを、場づくりを通じて共に探る共創型の実証実験
検証観点:①人は来るのか ②交流は生まれるのか ③「子ども・子育て」に対する意識の変化は生まれるのか

日立製作所は、202624日(水)と20日(金)の2日間、日立大森ビルで「Co-sodate, working Day」を開催しました。
これは、同社がGGP共創プロジェクトの一環で “働く場で多世代が自然に交わる居場所づくり”の実証実験として企画したものです。
対象としたのは、同グループ内に勤務する従業員と4歳〜6歳の社員の子どもです。社内にある会議室の中に子どもが遊べるプレイエリアを設置し、それを囲むように配置した机で社員が仕事をする光景が現れました。

この実験の背景にあったのは、「職場」という場のあり方そのものに対する問題意識でした。

「職場は、子どもの存在を想定しないものとして設計されてきたように感じています。その前提をくつがえし、子どもがそこにいることも自然に受け止められる場であり得るのではないか——。そんな可能性を確かめたかった」。
そう説明するのは、この実験を中心となって企画した同社社会イノベーション協創事業統括本部 ウェルビーイングソサエティ事業創生本部の大澤郁恵氏です。
同じ部署の阿部恭也氏、宮本まどか氏、岡田仁那氏らと共にチームでアイデアを出し合い、会社内で実証実験を実現させました。
「こどもを見守りながら働く交流の場を一過性の取り組みとして終わらせるのではなく、どのようにすれば持続的かつ展開可能な形で構築できるか」。それがチームの狙いでした。

協力会社として、KODOMOLOGYと、Louvyの「そだてるはたらくプロジェクト」が参画。KODOMOLOGYは企業内保育所の運営を担う立場から、安全面の知見や企業と家庭をつなぐ新しい子育て支援の視点を提供し、企画・運営を支援しました。そだてるはたらくプロジェクトは「働く場における子どもとの共存デザイン」を実践してきた団体で、その知見をもとに会場のレイアウトや遊び方の設計など、安全かつスムーズに運営できるよう、実践的なアドバイスを行いました。

試行錯誤を重ねた結果、今回は核となるアクティビティを2つ実施しました。

ワークスペースの机をコの字型に配置し、プレイエリアを囲む 写真:Studio SETO

1つは、子どもたちが挽いたコーヒー豆で働く人に1杯のコーヒーを提供する「ごりごりコーヒー」です。注文を受けてから子どもたちがコーヒーミルで豆をごりごりと挽き、熱湯は安全のため大人が注いでドリップします。子どもたちが絵を描いた紙カップでコーヒーを提供し、職場でほっこりした交流を生む仕掛けです。ここで働いた子どもには、報酬として子ども用の日立オリジナル紙幣が渡され、それをお菓子と交換できるという疑似商取引スタイルを採り入れています。

コーヒーカウンターで、コーヒー豆を挽いたり、コップに絵を描いたり、仕事する子どもたち

子ども用の日立オリジナル紙幣は、日立製作所の仕事やものづくりの世界を子どもにも親しみやすく伝えるためのデザインです。例えば同社が開発・設計・製造する電車車両の写真入りの紙幣は、鉄道好きの子どもの心を捉えるものでした。

日立製作所の製品画像を使った子ども用紙幣

仕事をした報酬で得られる子ども用紙幣をお菓子と交換

もう1つのアクティビティは、プレイエリアで段ボールを使って子どもと大人が一緒に「まち」をつくろうという試みです。同社が取り組むまちづくりの世界観に触れるきっかけとして、子どもたちと1つの空間を構想する体験を企画しました。

プレイエリアの中では、社員や保育士が子どもと一緒にまちづくり。正面は時計台の造作

2つのアクティビティの他に、子どもと交流するきっかけとなる「こどもとの交流BINGO」を作製したり、訪れた社員が付箋でアンケートに応えるシンキングコーナーを設置したり、コミュニケーションを誘発する試みも実施しました。

シンキングコーナーでは、「日立グループが共育企業ランキング1位に選ばれました。一体何をしたのでしょう」と架空の賞を想定した質問などを壁に掲示。参加者が付箋を使ってそれに答えることで、共育と企業の関係を考える機会となりました。

2月20日のCo-sodate, working Dayの配置 写真提供:日立製作所

2日間の実証実験で総来場者数は68人。そのうち子どもは11人でした。社員側の年齢構成比は、20代が24%30代が29%40代が全体の35%を占めました。それぞれ世代別に自分に子どもがいない比率も調査し、20代は100%30代は40%40代は15%でした。

実験後、参加者にアンケートを実施。
「カフェや公園で仕事をしているような感覚で、集中しやすい環境だった」20代男性)、「子どもが苦手だった自分でも自然に溶け込めた。職場で仕事するよりも心が気楽になり、騒がしくても気にならなかった」30代女性)など、ポジティブな意見が寄せられました。

子連れで出勤した親の声を聞くと、「子どもの意外な一面を見られ、成長を感じた」という感想が多く得られました。その一方で「ほとんど仕事にならなかった」「遠方からの出勤がたいへん」など、親の負担を軽減するという課題が残りました。

「少子化に向き合う社会デザイン会議」に参画しながら、ウェルビーイングな社会のあり方を模索してきた、プロジェクトマネージャーの大澤氏、阿部氏、宮本氏、岡田氏の4人に実験を終えての所感をそれぞれ伺いました。

多くの参加者から“子どもの声でにぎやかな中でも、意外と仕事に集中できた” “気持ちがほぐれ、普段より精神的に楽に業務に取り組めた”といった前向きな声が寄せられた。
働く場に子どもがいると集中できないという無意識の先入観に変化が生まれ、職場に子どもがいる空間も1つの選択肢になり得る可能性が示されたと感じている。
一方で、継続的な実施に向けては、安全な空間設計や運営スタッフの確保など、企業側として向き合うべき課題が見えた。取組に共感してくれた日立グループの会社からは、カフェテリア兼業務スペースで実施する案も上がっている。
今後はグループとして、継続的に展開し、
他社にも波及していくようなことを考えていきたい。
(大澤郁恵氏)

実験の狙いの1つだった、若者の行動変容については、一過性のイベントでは大きな変化までは到達できていないと思う。しかしアンケートを見ると、既存の固定観念を揺るがす気づきを得て、意識変容は起こっていると感じた。
持続可能性については、実際にかかったコストは託児を除くと1回あたり5,000円程度に抑えることができたが、運営する人の確保または省人化できる設計が必要だと感じた。
私はリハーサルを含めて3回、子どもと参加した。初回は緊張から、なかなか私と離れられなかったが、回を重ねるうちにすっかり慣れて、最終回では社員の方と楽しげに交流をしていた。
子どもの成長を目の当たりにし、親子にとっても貴重な経験となり、この場があることの意義を大きく感じた。
(阿部恭也氏)

まちづくりのワークショップでは、最初子どもたちは何をつくって良いか分からない雰囲気だった。そだてるはたらくプロジェクトの河西歩果氏が“アイデアの土台となるものをつくると良い”とアドバイスしてくれて、建物のかたちを保育士さんがつくったら、そこから一気に電車をつくるとか、子どもたちが自主的にまちをつくりはじめた。共創の大切さを実感した。
一方で、運営側の私たちは本来の業務にほとんど手がつかない状況だった。
この取組の価値を確信したからこそ、これを一過性のイベントで終わらせず、社内で継続していくための運営体制の構築が不可欠であるという課題を痛感した。
その課題を解決する鍵の1つが、プロフェッショナルの知見を上手く活用することだと感じている。
私自身、普段子どもと関わる経験がなかったが、保育士の方に接し方のコツを伺い、子どもたちとのコミュニケーションを少しずつでも円滑にすることができた。すべてを自分たちで抱えるのではなく専門家の力を借りることの重要性を、今回の経験を通じて学ぶことができた。
(宮本まどか氏)

私は、2日間コーヒーカウンターでスタッフとして対応していた。豆を挽く子どもと、その様子を微笑ましく見守る参加者の楽しげな交流が印象的であった。
一方で、コーヒーの待ち時間が生じていたので、ウエイティングリストをつくったりと、オペレーションをアップデートして取り組んだ。継続するためには、現場スタッフの省人化など、仕組みづくりの知恵が必要だと強く感じた。
自分と年齢の近い20代に声をかけたところ、興味は示すものの、「本当に集中して仕事ができるのか」と懐疑的な人も少なくなかった。
意外と集中できたという声をもっと周知できれば、参加のハードルも低くなるに違いない。まずは1度体験して、実態を知って欲しいと思う。
岡田仁那氏)

その他、「子どもに役割を与えることで、子どもの成長につながる」「会社だからできる学びがある。それを企業の事業に還元する可能性もある」などの意見も参加者から寄せられました。

大澤氏は「次年度も継続できないか検討したい」と話します。

(文:Studio SETO/有岡三惠 特記なき写真:ロフトワーク)

開催概要
①2026年24日(水)13:00–16:00
 場所:日立大森ビル 2階ホール
②2026年220日(金)13:00–16:00
 場所:日立大森ビル 6階会議室

主催:株式会社三井住友フィナンシャルグループ、株式会社三井住友銀行
伴走支援:ロフトワーク
プロジェクトマネージャー:株式会社日立製作所
協力:KODOMOLOGY株式会社、株式会社Louvy(そだてるはたらくプロジェクト)

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