イベントレポート
少子化に向き合う社会デザイン会議2025プロジェクト・レビュー02 Open day with Baby@SHIBUYA QWS
Date: 2026.05.08 FRI
#初学者
#ソーシャル
#新規事業
Open day with Baby @ SHIBUYA QWSの開催風景
|
【実証実験】働く場で、子育て前の世代 × 子ども×親の多世代交流
2025年度、GGP共創プロジェクト「少子化に向き合う社会デザイン会議」では、システム思考のアプローチを用い、少子化が生まれる社会構造の調査・整理に取り組んできました。 現代の社会では、核家族化や地域のつながりの希薄化が進み、日常のなかで子育て前の世代が子どもたちと交流する機会がすっかり失われています。 そこで、「世代間の分断で失われつつある、子育て前の世代・親・子どもが、同じ空間にいる時間をつくることで、小さくとも何らか意識の変容が生まれるのではないか?」という仮説を立て、“多世代が自然に交わる居場所づくり”を図るべく、実証実験を行いました。 場所は “働く場”に設定し、会員制シェアオフィスのSHIBUYA QWS(東京・渋谷)では「Open day with Baby @ SHIBUYA QWS」、日立製作所内の会議室(東京・品川)では「Co-sodate, working Day」と名付け、2026年2月〜3月にかけてそれぞれ複数回実施しました。 実験の主旨:多世代が自然に交わる居場所づくり 目的:少子化の要因を「世代間の分断」という視点から捉え直し、「多世代交流(子育て前の世代×子ども)の居場所」が、少子化対策の有効な解決策となる可能性を検証する アプローチ:子育て前の世代・子ども・親が同じ空間で交わり、どのような変化が生まれるかを、場づくりを通じて共に探る共創型の実証実験 検証観点:①人は来るのか ②交流は生まれるのか ③「子ども・子育て」に対する意識の変化は生まれるのか |
共創空間における多世代交流の場づくりを検証
SHIBUYA QWSでは、2月7日(土)、21日(土)、27日(金)、3月4日(水)の計4日間、共創プロジェクトに参画する各企業の協働により「Open day with Baby @ SHIBUYA QWS ―〈多世代(子育て前の若者×子ども)の共生〉から、これからの子育て社会を体感する4日間―」を企画・開催しました。
SHIBUYA QWSは渋谷スクランブルスクエア15階にあり、会員制のシェアオフィスとして子育て前の世代(以下、ワーカー)が多く利用しています。
ここで未就学児と子育て中の親とワーカーが同じ空間を共有し、これからの子育てや社会のあり方を見つめ直すための機会創出を試みました。
「どうしたら働く場所の中で、自然に多世代交流が促せるか?」と問いを設定し、「人は来るのか」「交流は生まれるのか」「こうした場によって参加者に意識の変化は生まれるのか」の3点について検証しました。
交流を仕掛けるプロジェクトの設計とコンテンツ提供
day2(2月21日)の開催風景。壁を挟んだ奥にワーカーが作業するスペースが広がる共創空間
会場はSHIBUYA QWSの中央に位置するクロスパーク。周囲はQWS会員のワーカーが行き来するオフィス空間です。
実証実験にあたっては、子どもとワーカーの自然な交流を促す以下のようなコンテンツをさまざまに設定しました。
▼ハイハイレース 主に1歳未満の子が参加するマット上のイベント。
▼子どもと関わるための100のミッションカード 子どもと接する経験が少ないワーカーに向けて、コミュニケーションの手がかりとなる100の行動方法を示したカードを作成し、会場で配布。
▼遊びの体験コーナー 多様なおもちゃや体を使って遊べる遊具、AIぬりえや万華鏡づくりなど、年齢に応じた遊びを提供するコーナー。コンテンツ提供企業が協力。
▼フォトブース 多方向からのカメラで3D写真が撮れるブース。
▼これからの子育て社会を考える問い&ブレスト会 保護者と子育て前の世代が混ざりながら行われるさまざまな意見交換。「子育てしながら働ける社会って、どんな社会?」などの問いが書かれたボードに対し、付箋に回答を書いて貼れるシートもセット。
▼その他 おんぶ用のグッズなどのベビー用品や、人形を使っただっこなど、子育て体験ができる多数のコンテンツを用意。
多世代の交流を促すコンテンツに加え、実証実験では安全性の検討、参加しやすくするためのルールや仕組みを設計し、4日間を通して会場のレイアウトなどの試行錯誤を繰り返しました。また開催中は、参加を促すためのワーカーへの声かけを随時行いました。
実証実験における問いと、空間×コンテンツ×安全の設計内容 図提供:ロフトワーク
会場内で生まれた多世代の交流
実証実験は、子どもや親たちの声で賑わうなかで実施されました。0〜6歳の未就学児とその親たちは、会場に用意されたコンテンツに興味を示して遊び始めました。その光景を横目に見て通り過ぎるワーカーもいる一方、外から眺めたり、展示に見入ったり、ブレストに参加したり興味を示す人も多数いました。なかには積極的にベビーと触れ合ったり、子どもと一緒に遊ぶ光景もみられました。
ハイハイレースを応援してみたり。
親子が一緒にいるところに、ワーカーも入り込んで子どもと一緒に遊んだり。
子育て社会を考える問い&ブレスト会に参加してみたり。
休憩スペースで、ごはんを食べさせてみたり、ミルクを飲ませてみたり。おむつ替えを体験したワーカーもいたそうです。
参加者の中には中学生や、同日にQWSで開催されていたイベントに参加していた高校生の姿も。
「学校では必修として保育実習があるけれど、小さな子どもとどう関わったらよいか分からなかった。今回の企画を知って、もう少し触れ合えたり何か分かるかなと興味が湧いて参加しました」という声もあがりました。
実証結果の考察
検証項目として挙げた「人は来るのか」「交流は生まれるのか」「意識の変化は生まれるのか」の3つについて、事務局の一員として実証実験の仕組みづくりを担ったロフトワークの奥田蓉子氏に、結果を伺いました。
参加人数は次第に増えていき、4日間合計で68家族が参加、そのうち大人は92名、未就学児73名・ワーカーは各回で10〜20名程度。
「口コミや認知度が向上が影響した」と奥田氏は分析します。
参加人数実績 図提供:ロフトワーク
交流についてはどのような手応えがあったのでしょうか。
「ハイハイレースなどは自然な応援を促す盛り上がりの創出に繋がるコンテンツとなり、AIぬりえ等は同じ目線で一緒に遊ぶような作業を通じた交流に繋がっていました。また、企画意図を理解してくださった協力的な保護者の方から、ワーカーに向けて〈ミルクをあげてみますか?〉〈おむつ替え手伝ってみる?〉といった自然な声かけも生まれていました」(奥田氏)。
意識変化については、保護者・ワーカーに対して会場でそれぞれにアンケートを実施。交流イベントを通じて「子どもに対する気持ち」「子育てに対する思い」に変化があったかどうかを調査しました。
「多くの参加者がポジティブになった一方で、解像度が上がったためにネガティブになった(より不安が増した)という声も一定数みられました」と奥田氏は話します。
意識変化に関するアンケート結果 図提供:ロフトワーク
これらの結果について奥田氏は、「今回のような機会が、子どもと関わる機会の少ない世代にとっても、〈子育て〉を身近に捉えるきっかけになり得ることが実証実験から伺えました。これらは協力企業の高い熱量と、さまざまなステークホルダーの関わりがあったからこそできたことです」と共創の効果の実感を語ります。
少子化に対して企業は何ができるのか? 企画者たちの声
実証実験に参加した企業は、何をねらいとして今回参画し、どのような手応えを掴んだのでしょうか?
QWS実証実験でプロジェクトマネージャーを務めた、赤ちゃん本舗 新規事業推進エキスパートの澤田千春氏に話を伺いました。
社会との対話を求めて——赤ちゃん本舗/プロジェクトマネージャー
赤ちゃん本舗 新規事業推進エキスパートの澤田千春氏
澤田氏は、赤ちゃん本舗は1932年の創業から90年以上ベビーのいる暮らしに寄り添い続けてきた会社であるとした上で、「これまでベビーに特化し、物販事業を中心に成長してきた企業ですが、いま人口減少の最前線に立っています。だからと言って私たちが〈ベビーを増やしたい〉とただ一方的に言うのもきっと違う。一歩外に出て、社会全体から子育ての環境を俯瞰することが必要と考えました」と参画理由を話します。
リサーチ段階を経て、実証実験においては空間設計・コンテンツ準備・お客さま誘導など全体を統括するプロジェクトマネージャーの役割を果たしました。
「準備段階で苦労したのは、ベビーの安全性の確保と“働く場”で交流することのバランスです。ベビーの安全性や動線は大事ですが、そこを重視しすぎると多世代交流の側面が損なわれ、今後を見据えた汎用性も下がってしまいます。他参画企業の皆さまと協議しながら、ベビーの月齢、参加人数、想定されるワーカーの人数も考慮して、結果的に空間レイアウトは4日間で毎回変わりました」(澤田氏)。
マットが外から入りやすい動線であったこと、運営スタッフなど、親子ではない「第3の人」もいたことが、ワーカーの入りやすさにつながったのではと澤田氏は分析する
エントランスからマットに向かうコーナーには、くつぬぎのサインを設置
ワーカーの意識の変化は現地でも感じられたのでしょうか?
「アンケート調査でさまざまな意見を伺いましたが、〈カフェやレストランで泣き声はすごく気になるけれど、今日は同じ泣き声なのに嫌じゃないです〉と言ってくださったことが印象的でした。空間設計や雰囲気が違うと意識が変わる、このことは大きなヒントになると感じます。ただ意識の変化は測定が難しいので、今後も継続的に実施して経過を見たい」と澤田氏。
「今後は、将来の家族を考えるきっかけとしてつながりの深い学生にも積極的にアプローチしたい」と意欲を示します。
専門的な知見をもち寄って共創する意義
共創の場では他企業との踏み込んだ意見交換と信頼関係が問われる
澤田氏は、今回の取り組みが共創であったことに触れ、「共創とは、お互い持っている暗黙知をどれだけ出せるかに尽きる」と力を込めて語ります。
「同じベビー業界でも、私の中にある暗黙知と、共創する方々の暗黙知は異なる。表面上の意見交換では足りず、どれだけお互いが持つ暗黙知を引き出し共感できるかが、共通善に近づくための鍵です」とした上で、共創は複雑な社会課題である少子化を考える上でも有用との姿勢を示しました。
最後に澤田氏は、時代や価値観が揺れ動く中でも 赤ちゃん本舗では“赤ちゃんのいる暮らし”を知りつくし、心強い味方となることを掲げた上で、「それは突き詰めると、〈今、子育てに関わる人もそうじゃない人も、皆がちゃんと幸せに暮らせているか?〉ということに帰結します。今回の実証実験はそこに繋がるものであり、共創の経験を自社に持ち帰って、社会を見つめ届けていくことの手がかりとしたい」と結びました。
広がる共創の和 ——Smart Nurse、ラク育、ママスキー、Louvy/協力企業
多企業が共創する実証実験は、協力企業として参画した人にとっても、多くの知見を獲得する機会となったそうです。具体的に何を得たのか、各企業の代表者にコメントをいただきました。(順不同)
写真提供:矢込香織
|
Smart Nurse 矢込香織氏 |
写真提供:奥山星奈
| ラク育 奥山星奈氏 事業内容:POPUP託児所・カフェ託児所運営 会社という垣根を超えて、同じ課題感をもつ企業や団体と連携することで、自社だけでは成し得ない挑戦ができると考えて参加しました。 普段はお客さまの層が現在子育て中の方に限られてくる中で、まだ子どもがいない、これから考えている方々と直接対話できたことは貴重な機会でした。また子育て前の世代だけでなくシニア層や子育てを卒業された方もいらっしゃり、多角的に少子化や子育てと向き合える場となりました。 |
写真提供:土肥恵里奈
| ママスキー 土肥恵里奈氏 事業内容:未就学児世帯向けの情報サイト運営・イベント企画 子育て世代が抱える孤独・不安・葛藤の解消が必要と考えており、今回はそれらのヒントや具体的な解決策を見つけられるのではないかと参画しました。 子育て支援・少子化対策は、誰かひとりが、どこか一社が実施すれば解決するものではなく、同時多発的にいろいろな地域で、大小さまざまに実施し、それが継続されることが大切だと思います。 今回の実証実験がプログラム化され、さまざまな地域で実施されることを願っています。 |
写真提供:河西歩果
| Louvy(そだてるはたらくプロジェクト) 河西歩果氏 事業内容:企業とともに、子育てと仕事の共存を研究し社会実装するプロジェクト 職場の中で子育てを見える化し、当事者だけでなく周囲の働く人にも自然と理解が生まれる機会をつくったり、カルチャー醸成を進めたりすることで、子どもを育てながら働く人の心理的安全性を育んでいくことが重要だと考えています。 今回、課題をただ提起するだけではなく、実際の空間の中でその状況を体感できる機会をつくれたことが、この取り組みの大きな価値だったと思います。 |
共創をつないでいくために
GGP事務局で三井住友フィナンシャルグループの山口玲衣は、「各協力企業のメンバーが自らの知識や経験値を包み隠さず共有してくださったことで、初めての試みも無事に完遂できました」と振り返ります。企画名称“Open day with Baby”にもこだわったと言います。当初は企業でもよく実施されていて馴染みのある“ファミリーデー”と呼んでいたけれど、各家庭に閉じたような限定的なニュアンスではなく、さらに開かれた場を求めて検討を重ねた結果、“Open day with Baby”という言葉に辿りついたのだそう。
会場となったSHIBUYA QWSのエントランスには、Open day with Babyの看板
今後もGGP共創プロジェクトの挑戦は続いていきます。
(文:藤田恵弥子 特記なき写真:ロフトワーク)
|
開催概要 |
