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企業と地域の新しい生態系 100年生き残るための長期的合理性を考える

Date: 2026.06.04 THU

  • #地域共創

  • #新規事業

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GGPは2026年2月25日、まちなかの楽しい場づくりや地域の人材育成など、衰退しつつある地方都市で新たな公共的価値を生み出す企業活動を紹介するイベントをロフトワークと共催で開催しました。題して「企業と地域の新しい生態系 100年生き残るための長期的合理性を考える」です

ゲストは、前橋市を拠点とするJINSの地域共生事業部事業部長の白石将氏と北九州市・門司の老舗製造業である岡野バルブ製造の取締役で経営企画室長兼新規事業統括の菊池勇太氏。それぞれが基盤とする地域での活動を紹介しました。

続いて、後半のクロストークではロフトワークの棚橋弘季氏がモデレーターを務め、短期的な利益の追求だけでなく、企業が地域のコミュニティと共に成長し続けるメリットや秘策について、意見を交わしました。

ジンズの地域共生事業部事業部長の白石将氏

眼鏡業界の常識を変えたことで知られるJINSは、「Magnify Life - まだ見ぬ、ひかりを」をビジョンに掲げ、本業の物販に加えて、人々の生活を豊かにするための地域コミュニティの醸成に力を注いでいます。中でも創業の地である前橋市では、JINSと地域が共に成長するための挑戦が注目を集めています。

活動の拠点は2021年にオープンしたJINS PARK。眼鏡の販売スペースに加えてカフェベーカリー「エブリパン」を併設し、人々が滞在しやすいように空間を設えています。

「眼鏡店を訪れるのは平均すると2〜3年に1度。来店頻度を上げるため、日常的に来てもらえるベーカリーを併設した」と白石氏。「売り場面積は全体の3分の1程度に抑えて、その他を人々が集うための『余白』とした。短期的な損益計算にとらわれない空間づくりで、実は眼鏡の売り上げが伸びた」。JINS PARKの空間構成の効果をそう説明します。

JINS PARK前橋の内部 図提供:白石将

この余白を活用したイベントが集客の鍵です。屋外の広場でのマルシェ、室内でのワークショップなど、年間約120本のイベントを企画し、実践しています。

JINS PARKでは、JINSが主催するマルシェから、イベントを公募してJINSがマルシェから、イベントを公募してJINSがサポートする段階サポート段階に成長。エコシステムをつくることで、年間120本のイベントを行う。子どもたちの教育に貢献するワークショップも行う 図3点提供:白石将 

注目すべきは、周辺の住民を巻き込むJINS PARK独自のイベント開催スタイルと言えます。

「オープン時は、周辺の自治会や子ども会の話を聞くことに尽力した。『儲けたいだけでしょ』という住民の意識を払拭することから始めました」(白石氏)。

次の一手としてJINSが主催するマルシェを開催し、地域との交流が深まりました。出店者との「つながり」を重視し、場所代は無料。そのうち、イベントの参加者から企画がもち上がるようになったと言います。
現在はイベントを公募し、JINSは黒子に徹してサポートするかたちに変容しました。
「参加者が成功体験を得られるように、僕たちが並走して作り上げ、実施しています」。

まちの未来を担う子どもの教育にも貢献しています。世界的に活躍するアーティストを招聘して自由な発想を促すワークショップや、小学生が自分で物品を仕入れて販売する商売経験の提供など、起業家育成とも言えるイベントを開催しています。

「地域との共生にチャレンジしている」と白石氏。その成果は、JINS PARK以外の場所でイベントが行われるようになるなど、確実に実を結びつつあるようです。JINSではエリア全体を商業施設のように捉え、民間の力で中心市街地から離れた店舗の周辺地域でインフラを作っていくことを「企業が担う新しい公共」と位置づけています。

図提供:白石将

まちづくりへの投資は短期的に回収されるものではありません。しかし白石氏は、信頼関係をつくることでJINSへの愛着が地域住民に芽生え、まちづくりの当事者意識が生まれていることを明かしました。それは「イベント参加者が顧客となる循環を生み、さらには子どもたちにとって故郷の原風景を提供するといった未来にむけたリターンが確実に得られている」と締めくくりました。

図提供:白石将

岡野バルブ製造の取締役で経営企画室長兼新規事業統括の菊池勇太氏

続いて登壇したのは岡野バルブ製造の取締役、経営企画室長兼新規事業統括の菊池勇太氏です。
岡野バルブ製造は1926年に北九州市門司区で創業され、今年100周年を迎える老舗の製造業です。1932年に国産の火力発電用高温高圧のバルブ開発に成功し、国内の火力発電所では90%、原子力発電所(BWR方式)では80%のシェアを誇る企業です。

岡野バルブ製造の実績 出所:菊池勇太

その岡野バルブ製造が地域貢献を新規事業として行うのはなぜか。
菊池氏は「これまで社会のインフラを担う企業だったけれど、インフラだけを守っても人がいなくなればまちは続かない。これからは暮らしの土台を守る企業になりたい」と、その目標を説明しました。

図提供:菊池勇太

同社が拠点を置く北九州・門司は、明治時代は横浜や神戸と並ぶ日本の3大港で、その後も工業都市として発展してきました。しかし現在は産業構造の転換などで人口減少が進み、将来的な衰退が懸念されています。
そうした中で菊池氏は「渋沢栄⼀が唱えた合本主義は、公益のために資本
⼈材信頼を束ねる仕組み。株式会社は本来『社会を守るための装置』だ」と同社のミッションを紹介しました。

同社による地域関連事業の1つが、株式会社CNC(コミュニティナース)との協業による事業です。
JR門司駅前の商店街の一角に拠点を構え、CNCメンバー3人が中心となって子どもや学生、買い物に来た主婦層や高齢者など地域に住むさまざまな人の悩みごとを拾い上げながら解決を図る取組を進めています。
岡野バルブ製造はCNCによる「コミュニティナーシング」と呼ばれるコンセプトや活動に対する後押しをするかたちで支えてきました。

図3点提供:菊池勇太

「人口減少や高齢化など日本の地方が抱えている課題に、北九州は先陣をきって直面しています」と菊池氏。「もう公助だけに頼ることはできない時代なので、官民の垣根なく、株式会社の役割を拡張させ、地域で共助の仕組みをつくり、我々もそれを担う活動を始めています」。

岡野バルブ製造では、CNC事業のほかにもJR門司駅前にある本社敷地内の工場跡地約15,000㎡を再開発するプロジェクトも稼働中。
「この先の100年を考え、岡野バルブ製造は地域の皆さんと共に発展して共存共栄していく企業になりたい。日本の生活と暮らしを支えるという使命感をもって活動をしています」と菊池氏は結びました。

後半のクロストークでは、地域づくりの価値をどのように会社や社会に還元していくかに話題が集中しました。モデレーターを務めるロフトワークの棚橋氏がゲストの2人に質問を投げかけるかたちで議論を深めました。

右から、菊池氏、白石氏、棚橋氏

棚橋 企業としては短期的な売り上げから目を背けられない側面もあると思います。社内では地域貢献から得られる価値をどのように説明し、位置づけているのでしょうか?

白石 物販で得た利益を地域貢献に使うだけでは、僕たちのモチベーションは上がりません。自分たちの意欲をかき立てるためにも、JINS PARKの活動を利益に変換したいという思いが強くあります。
最初の頃は注目度を上げてメディアの露出数を目標にしていました。社外から評価されると社内でもその活躍が認められ、協力を得る。その土壌をつくってきました。
そして今は、イベント自体を事業化し収益に変えることを狙っています。そのためには、いったん投資が必要ですが、挑もうとしています。

菊池 現在の岡野武治代表取締役社長が2020年に就任して経営体制を刷新し、トップダウンでまちづくりの事業が始まりました。私も21年に取締役として招聘してもらって以来、経営企画や新規事業開発をやっています。
私が統括している経営企画のチームは私を含めて12人で、そのうち4人が広報、その他の人が事業開発をしています。もともと広報室がなかったのですが、新入社員を登用し、なるべく自由にやってもらうことで、堅い会社の印象が、だんだんと新しいことに挑戦する会社という柔らかいイメージに変わる効果を得られました。
新規事業は、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)のような感じで、出資しています。
コミュニティナースのように、自社の中では生み出せない事業は他の事業者と一緒にやることで、長期的に稼ぐことができる土壌づくりをしています。
こうした取り組みの結果、5年間で新規事業関連の売り上げや人材も増えてきました。

白石 小売店が100年生き残るためには、まち自体が生き残らなければなりません。JINS PARK前橋の開店以降、何かをやりたいという相談を受けることも増えて、まちの人が自分ごととして地域のことを考えるようになった印象があります。
群馬地区では、地域共生活動がきっかけで入社を決めてくれた新卒が増えています。

菊池 良い人材が集まらないと会社は長く持続できませんよね。自分自身もそうですが、短期的な効率ばかりを求めている企業に、今の若い世代はもうあまり面白みを感じないのではないかと思います。社会に良いインパクトを残すことに意欲的な人が多いと思うので、僕らはそういう人材と一緒に仕事をしていきたいと考えています。

棚橋 2社とも「新しい公共」の活動を後押ししています。そのために市民を巻き込んでいると感じましたが、どのようにその土壌をつくり出しているのでしょうか?

菊池 北九州の発展は1901年に官営八幡製鉄所の創業に遡ります。もともと国が主導してきた土地柄なので行政に依存するマインドが強くありました。でも、市の行政はもう限界だというのが分かってきて、自分たちのまちを自分たちで何とかしようという雰囲気に少しずつ変わっています。
そういう意識の高い商売人の人たちを中心に子育て世代やお年寄りの人たちをだんだんと巻き込んでいる最中です。

棚橋 公的な役割を担うとき、自治体との役割配分や連携があると思います。どのような関係性が理想だと考えていますか?

菊池 行政とは独立した対等の関係が望ましいと思います。会社の自主財源でやっているので、「お墨付きをくれるならば、後押ししてください」というくらいのスタンスです。今はSNSなど監視の厳しい社会なので、行政側はいろいろとやりづらくなっています。だから、民間の方が柔軟に迅速に動けます。

白石 行政はやはり中心市街地に人的なリソースを投入していますが、JINS PARKはそこから離れた住宅街にあるので、行政ができないことが多々あります。だから、公共が入り込めない細かい毛細血管みたいなところを、僕らがやりますというスタンスです。
群馬県とは、特産品の開発についてアイデア出しなどをすることがあります。小売業は to Cの事業なので、エンタメ性に関してはやはり僕たちの方が得意ですから。JINS PARKで県のイベントをすることもありますが、県庁には足を運ばない人が来てくれるというメリットもあります。

菊池 行政は、人口減少で住民が減ると納税額が少なくなり福祉が行き届かなくなるから、お金を遣って自治体のプロモーションをやる流れがあります。逆に、民間企業が福祉に乗り出すという逆転現象が起きています。これは多くの地方自治体で起こっているので、官民が連携せざるを得なくなっている。今後は、それぞれの活動やサービスが融和するかたちになっていくのかなという気がします。

棚橋 地域貢献の活動をする中でとくに心掛けていることはありますか?

菊池 突飛に見えるかもしれませんが、クリエイティブ・ジャンプが大事だと思います。日本の産業が衰退している理由も、左脳型(論理的・分析的)の課題解決手法だけ取っているからで、それではイノベーションが起きません。バルブの製造会社がまちづくりをしているのも突飛なことですよね。

白石 会長の田中仁は「自分だけのリソースで考えるな。理想に寄せていくことを考えろ」とよく言います。これは、閉ざされた専門家の中の知識だけではなく、ときには素人目線も採り入れながら、新しい発想で理想のものを目指すということです。イノベーションは、ある技術とある技術の掛け算で起こることが多いから、地域づくりも他業界や地域住民、ときには行政などと掛け合わせていくと何か面白いことになるのかもしれません。

棚橋 地域貢献活動は経営資源に結びつくのでしょうか?

白石 資源となるのは、情報です。地域共生事業部の仕事は「パブリックリレーション」で、自治体や学校と密につながることで得る情報とは、地域の課題です。これはネット検索では得られない。その課題とはすなわち人の欲求で、それをどう改善すれば来客につながるのか、ひいては利益になる可能性も秘めています。だから、地域からの信頼と「ありがとう」の数が課題の数であり、経営資源だと考えています。

菊池 情報と信頼が経営資源というのはまったく同感です。
岡野バルブ製造はミスが許されない会社なので、周囲からの信用は会社の与信に関わる重要な経営資源です。中堅中小会社なのでKPI化したりはしていませんが、僕たち社員1人ひとりが常にお客さんや周りの人を気にかけ、困った時に助けたりする人間性のある姿勢が必要だと思っています。

白石 ただし、あまり経営資源につなげることばかり考えると、発想が小さくなるので「面白い」を優先しています。地域のお困りごとや、やりたいという意欲をアイデアとして一緒に投げ込んで、数あるステークホルダーの中からどこをどうつないだら面白いことが増えるか。それが結果的に「ありがとう」につながります。

棚橋 JINSや岡野バルブ製造のような企業活動を増やしていくためには何が必要でしょうか?

白石 JINSの会長の田中が前橋市で結成した太陽の会(会長:田中仁)が1つのヒントになると思います。地域の企業が出資し、民間の視点で市の100年後を考え、行政機関や市民と連携して必要な施策を実施するための団体です。

菊池 日本人は、自分の地域や自分の周りの人にお金を回すことが大切だと思います。地方の顔が見える小さな範囲で、経済活動を活発にしていくと良いのではないでしょうか。

白石 クリエイティブなものは東京のデザイン会社に発注しがちですが、地元に発注するようにしています。地方都市に行くとどこも同じ風景になっていますが、もう少し土着性や地域の特色が育つようにしたい。そこに行かないと体験できない何かが味わえるようなところをつくっていけるといいなと思っています。

菊池 衰退しつつある日本の製造業としては、我々自身も事業のかたちを変え、新しい事業を興しながら、論語も算盤も両輪で回して、日本の経済や地域に還元することにチャレンジしていく覚悟です。

(2026年2月25日、ロフトワークにて 文:有岡三恵/Studio SETO 特記なき写真:ロフトワーク)

動画再生時間:約101分

00:01:57 GGP紹介
00:05:15 イベント本編開始

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