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農業は「家業」から「産業」へ、必要なのは起業家スピリット! 担い手激減・農地消滅…国・生産者・金融のタッグで挑む農業再生

Date: 2026.05.27 WED

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パネルディスカッションに登壇した中森剛志氏(左)と荻野浩輝氏(右)

日本の農業が危機的な状況に直面しています。
農業を手がける経営体の数は2020年の108万から2030年には54万へと半減、コメ農家に限れば85万人から25万人へと激減するとの試算もあります。担い手は高齢化し、もはや「生産者の頑張り」だけでは国民の食卓を支えられません。食料の安定供給という国家的課題を克服するには、農業を「家業」から「産業」に転換する必要があります。それには、行政・民間企業・金融機関が一体となった構造改革が急務です。

日本総合研究所、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行は202636日、「日本農業の安定供給体制構築に向けた課題と未来予想図」と題したイベントを開催しました。登壇者は、農林水産省経営局経営政策課長の上野昌文氏、みらい共創ファーム秋田代表取締役社長の涌井徹氏、中森農産代表取締役の中森剛志氏、一般社団法人AgVenture Lab代表理事理事長で農林中央金庫特別参与の荻野浩輝氏、三井住友フィナンシャルグループグループCSuOChief Sustainability Officer)の髙梨雅之。パネルディスカッションのモデレーターは日本総合研究所創発戦略センター チーフスペシャリストの三輪泰史氏が務めました。

まず、日本の農業が直面している厳しい現実を踏まえ、担い手確保に向けた国の基本戦略を農水省の上野氏が解説しました。

農水省の上野昌文氏

農業を手がける経営体の数は、2020年の108万から2030年には54万へと半減する見通しです。内訳では、いわゆる兼業農家が81万から38万へと激減する一方、法人などの団体が4万から5万へと増加します。

農業経営体は2020年から30年にかけて約半減するが、法人などの団体は増加傾向にある 図提供:上野昌文

2025年には法人経営体の数は約33,000でしたが、農産物販売金額の約4割、経営耕地面積の約3割を占めており、非常に大きな役割を担っています。上野氏は、「既存経営体の規模拡大や他地域への参入、新規就農・企業参入などを、農地の集約と一体的に進める必要がある」との考えを示しました。

こうした担い手不足を補う手段として注目されるのが、法人による農業参入です。その方法は2つあります。1つは農地を自ら所有する「農地所有適格法人」、もう1つが農地を借りる「リース法人」です。

法人が農業に参入する際には2つの方法がある 図提供:上野昌文

現在、農地所有適格法人は21,857ありますが、主たる事業が農業であることや、農業関係者が議決権の過半を占めることなどの要件があります。ただし、20244月からは食品事業者や地銀ファンドなどの参入・出資を後押しする制度改正が行われ、農業関係者と食品事業者の議決権合計が過半数を超えれば参入可能になりました。

企業の農地取得については、農業からの撤退や農地転用など農業現場からの懸念がある中で、そうした要件が課されていました。それが、原材料の調達など取引実績のある食品事業者などに限って要件が緩和されることになったのです。

他方、リース法人には農地所有適格法人のような要件はなく、全国どこでも農業ができます。2009年の全面自由化によってその数は急増し、現在4,544となっています。特に野菜分野での参入が活発です。

そして、法人の農業参入とあわせて、もう1つの重要テーマが「地域計画」です。2023年施行の改正農業経営基盤強化促進法によって、この地域計画の策定がすべての市町村に義務付けられました。これは、10年後を見据えて農地ごとに耕作者を決める、いわば「目標地図」をつくる取組です。

10年後を見据えて策定が義務付けられた「地域計画」では、約3割が将来の担い手が決まっていない 図提供:上野昌文

すでに全国1,615市町村・18,894地区で策定が完了し、その農地面積総数は日本の農地全体に匹敵する422万ヘクタール(ha)に達しています。しかし、その内実は、「これで将来の農業は安泰」というようなものではありません。

10年後の担い手が決まった農地は280haにとどまり、134ha31.7%)は担い手が未定です。将来の担い手のために集約できた地図は全体のわずか11%にすぎず、45%はほぼ現況のまま、41%は「誰も担い手がいない」ことが判明しました。実に地図の9割が、農地集約や担い手確保という面で不十分な状況です。

それでも上野氏は、この結果は農業を変革するきっかけになり得ると捉えています。地域計画は1回作って終わりではなく、見直しを重ねてより良い地図へ改善していくもの。10年かけて農地集約に成功した事例もあり、「地域計画ができたということ自体の意義は極めて大きい」と語りました。

農水省は農業参入フェアの開催、専門家派遣支援、集中的構造転換期間としての予算確保など、施策パッケージを整備しつつあります。上野氏は「まさに大きな転換点。新規就農や企業参入など、日本の農業が少しでも良くなるように進めていきたい」と力を込めました。

こうした農業の厳しい状況を、現場の農家はどのように捉えているのでしょうか。次に登壇したみらい共創ファーム秋田の涌井氏は、「先行きがどうも暗い」と切り出しました。

みらい共創ファーム秋田の涌井徹氏

77歳の涌井氏は農業歴60年の大ベテラン。10年前に三井住友銀行・三井住友ファイナンス&リース・秋田銀行・日本戦略投資から資金を得てみらい共創ファーム秋田を設立し、現場の立場で日本の農業のあるべき姿を模索してきました。その取組から得られた課題認識は、データにも裏打ちされた切実なものでした。

コメの生産コストは販売価格を上回るケースが多く、赤字経営が常態化している 図提供:みらい共創ファーム秋田

涌井氏はまず、コスト構造の根本的な矛盾をデータで突きつけました。コメ1俵あたりの生産コストは0.5ha(ヘクタール)未満で約27,500円、1015haでも約12,400円。一方の販売価格は約12,000円前後で、710年前には1万円を切ったこともあるとのこと。涌井氏は「農家はずっと赤字だった。父親の、母親の、息子の兼業収入でカバーしてきたが、もう続けられない。国民への食料安定供給を進めていくには、『家業』としての農業から『産業』としての農業に進化させる必要がある」と訴えました。

さらに涌井氏は、担い手の急減と高齢化に危機感をあらわにしました。農水省のデータによると、コメ農家は2020年の85万人から2025年に55万人、2030年にはわずか25万人へと激減し、平均年齢は74歳に達するとの試算もあります。「この数字を見てびっくりした。74歳に農業をやれといっても、できるはずがない」(涌井氏)。

コメ農家の数は2020年の85万人から2030年には25万人に激減、平均年齢も3歳上昇し74歳に 図提供:みらい共創ファーム秋田

しかも農業者の減少は、単なる頭数の問題にとどまりません。熟練農業者がいなくなれば、農業技術の継承が途絶えます。そして、農協の合併が進めば営農指導員の数も減り、経験の浅い若手が安心して農業経営に取り組める環境がなくなってしまいます。そのため涌井氏は、国の研究機関が持つ最先端技術を全国に普及させることが必要だとの考えも示しました。

収量の停滞も見過ごせません。日本の10アール(a)あたりのコメの収量は500540kgで、55年前からほぼ変わっていない一方、アメリカでは800kgに達しています。日本でも農業・食品産業技術総合研究機構が多収穫品種の研究を進めており、技術進歩は見られるものの、現場に届いていない——それが涌井氏の問題意識です。

大規模化の前提となる農地の基盤整備にも、深刻な壁が立ちはだかります。涌井氏は、コメの生産コスト削減には水田を一筆(田んぼ1枚のこと)0.5ha以上に整備していく必要があると指摘。その上で、日本全国の水田234haのうち、一筆0.5ha未満の205haをすべて0.5ha以上にするには60兆円ものコストがかかるとの試算を示しました。

備費用は200万haで約60兆円かかる 図提供:みらい共創ファーム秋田

しかも、整備には長い時間がかかります。秋田県では13haのうち未整備の4haを年700haずつ整備していますが、このペースで進めば完了まで50年かかります。「基盤整備が終わった頃には農家が誰もいなくなる」(涌井氏)。それが、現在の農業の現実です。

農協が悪いとか、農水省が悪いとか、そういうことではない。あらゆる業界が結集し、食料の安定供給に向けて行動する必要がある。過去は変えられないが、未来は作れる」――。現場で60年奮闘してきた涌井氏の言葉が、重く会場に響きました。

パネルディスカッションでは「次世代農業に向けた挑戦」をテーマに議論した。左から三輪氏、中森氏、荻野氏

パネルディスカッションでは中森農産の中森氏とAgVenture Labの荻野氏が登壇し、日本総合研究所の三輪氏がモデレーターを務めました。議論の軸となったのは、「誰が農地を引き受けるのか」「農業経営者をどう育てるか」「金融が果たす役割は」という問いです。

中森農産の中森剛志氏

中森氏は東京出身で農家の出ではない新規参入者。「水田農業に日本の安全保障上、最大の課題がある」との考えから埼玉県加須市に移住し、現在は埼玉・栃木・島根・山口の4県の農地、合計約350haでコメ・麦・大豆などを育てています。2050年にその規模を10haまで拡大することを目標に、5年後に2,000haという計画を進めています。

中森農産はなぜ、これほどの大規模化を目指すのでしょうか。中森氏は、「いい悪いは遥か昔の話。大規模化は大々前提」と言い切ります。農業の生産性を高めて持続可能なものにするには、避けて通れないということです。

ただし、大規模化には苦労が絶えません。参入当初、5haの農地を貸して欲しいと申し出たところ、機械も作業場もない“無職”という立場だった中森氏は農地バンクから「お帰りください」と門前払いされました。そこから地道に信頼を積み上げてきたのです。

規模拡大を目指す農家の中には、多くの地権者から毎日のように言われる小言に耐えられず、規模縮小に転じるケースも少なくないとのこと。中森氏は、そうした農家が手放した農地も引き受けるかたちで拡大してきました。

中森氏は、「泣きながら『この農地を借りてくれてありがとう』と言われることもあれば、『絶対に俺の農地はお前に貸さん』と言われることもある」と語ります。そして、「私は無理やり進めてきたが、もし農地が集まらなければ終わっていた。そういう世界です。やる気のある若手がいたら、行政は農地集積にコミットしてあげるべき」と提言しました。三輪氏も「最初から負ける可能性が高いゲームに入ってもらうことなど、絶対に無理」と応じ、行政などがしっかり責任を持って農地の確保・集約を支援していく必要性を指摘しました。

苦労は農地の確保・集約だけではありません。人材の育成も大きな課題です。三輪氏が「地域を支える農業経営者をどう輩出するか」と問うと、中森氏は「レジェンド農家と呼ばれる人たちがこの10年でどれだけ大規模化したかを考えてほしい。ほぼしていない」と問題の根深さを提起しました。「農業は天候や機械の故障など予期せぬ事態に見舞われることが多く、オペレーションの再現性が極めて低い。農業は製造業ではなく、その都度、最適な意思決定を求められる医療に近い」(中森氏)。

こうしたことから中森氏は、複雑な意思決定にAIを活用して、少人数でも大規模農業を可能にする仕組みを開発しています。管理している農地を忠実に再現した仮想空間(デジタルツイン)で事業計画を事前検証するなどして、農業経営の再現性を高める狙いです。

AgVenture Labの荻野浩輝氏

他方、JAグループ8団体が設立したAgVenture Labで農業スタートアップの支援を手掛ける荻野氏は、農業にも起業家スピリットが必要だと強調しました。同組織が支援してきた卒業企業は60社超、株価評価の総額は1,000億円を超えるといいます。

そんな荻野氏は中森氏を「アントレプレナー(起業家)」と評し、「成功している農業法人では家業を継いだ人が社長となるケースが多い中、中森さんは全くの新規参入。農業にも起業家マインドのある人が必要になっている」と述べました。

その上で、農業法人にも、一般的なスタートアップと同様にチームとして経営にあたることが大切だと指摘しました。「栽培のプロや経営のプロをチームとして適切にセットアップできる人には、ちゃんとお金がつく。資金調達ができれば、ビジネスモデルが有望だという、いわば通行手形になる」とし、ファイナンスが信用の裏付けにもなることを示しました。

また荻野氏は、人材育成について2つの論点を提起しました。

1つは農業法人が人材の「育つ場所」となること。成功している農業法人でしっかり経験を積み、いずれ独立していくような流れです。
もう1つは、ベテラン農家の知をデジタル技術を活用して若い世代に継承していくこと。属人的なノウハウをAIに学習させるなどして、いわば農業分野で「知の民主化」を実現していく取組です。

日本総合研究所の三輪泰史氏

「データドリブン型の農業とファイナンスは相性がいい。収穫量の見通しが立てば、貸す側も出資する側もデータを頼りにハンズオンで支援できる」――。荻野氏はテクノロジーと金融の融合が農業を変える可能性も見据えています。

パネルディスカッションで浮かび上がったのは、農業を取り巻く環境は急速に変化しているということです。
かつて『農地を奪うのか』と農家から叱られた大規模化の議論は、いまや『誰かにバトンタッチしたい』と思いを託す形に変わっている」(三輪氏)。

次の世代に引き継いで再生するのか、ただ諦めて荒れ地として放置するのか——その二択が、日本の農業に突きつけられています。

最後に、三井住友フィナンシャルグループの髙梨が、日本総合研究所と共同で次世代農業モデルの構築を支援する協議会の立ち上げ(協議会プレスリリースはこちら)について、構想を明かしました。農地集約モデルや支援ファンドの組成も視野に、具体的なソリューション開発の場を作っていく方針です。

個々の農家の判断に委ねてきた日本の食料供給を、行政・産業・金融が一体となって「産業」として回していく。次世代農業の構築に向けた挑戦は、もはや待ったなしです。

三井住友フィナンシャルグループの髙梨雅之

202636HOOPSLINKにて、文:エディットシフト 特記なき写真:村田和聡)

動画再生時間:約92分

00:02:31 イントロダクション
00:06:39 イベント本編開始

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