GREEN×GLOBE Partners

記事

第1回GXフォーラム開催 ―新しい経済・環境・地域を支える未来のつながりを共に創る―

Date: 2026.10.16 FRI

  • #自然資本

  • #気候変動

  • #エネルギー

  • #新規事業

2026年6月4日、東京大学と三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、第1回GXフォーラムを東京大学弥生講堂で開催しました。
このフォーラムは、昨年東京大学とSMFGが締結した連携協定の一環で行われたもので、GXに関わる産官学の専門家らが多数参加し、これからの日本のGX戦略と持続可能な社会の実現について議論する場となりました。

東京大学グリーントランスフォーメーション(GX)戦略推進センターの大久保達也センター長

1年前に立ち上げたばかりの東京大学グリーントランスフォーメーション(GX)戦略推進センターの大久保達也センター長は、冒頭の挨拶で、「カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、そしてネイチャーポジティブ」がセンターの活動の3本柱であると説明。

これらの活動を「一緒に取り組む仲間をつくり、この大きな流れを東大から地域へ、そして日本から世界へと発信していきたい」とフォーラムの目的を話しました。

SMFGの髙梨雅之グループ チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)

SMFG グループ チーフ・サステナビリティ・オフィサーの髙梨雅之は「東大の多様な知とアセットを社会実装につなげ、日本の持続的な成長に貢献したい」と連携協定の主旨を説明。また金融の視点からサステナブルファイナンスが拡大している状況に触れ、「GXを真に実現するためにはエネルギーなどの新しい技術に資金が流れ、社会に実装していくことが重要」と課題を示しました。
「社会全体が進むべき全体像を描き、その実現のための戦略が不可欠。フォーラムを通して多様なステークホルダーどうしで議論を深め、具体的なアクションにつなげていきたい」と今後への期待を語りました。

フォーラムでは、GXを取り巻く国際社会の動向と日本が抱える課題、DX・AIの最前線についての2つの基調講演がまず行われ、続いて東京大学を中心に具体的な活動が紹介される2部構成でした。登壇者は以下の通りです。

挨拶
大久保 達也(東京大学 グリーントランスフォーメーション戦略推進センター長・特任教授)
髙梨 雅之(三井住友フィナンシャルグループ グループチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO))
基調講演
「社会・経済の持続可能性と安定性のためにGXに期待される視点」
亀山 康子(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 サステイナブル社会デザインセンター長・教授)
「GXを実現するためのDX・AI活用の視点」
松尾 豊
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
GX戦略推進センター活動紹介

「活動の全体像のご紹介」
大久保 達也(東京大学グリーントランスフォーメーション戦略推進センター長・特任教授)

「地方創生とGXをともに実現するワット・ビット連携」
岡本 浩
(東京電力ホールディングス株式会社 上席フェロー)
「トリプルサステナビリティの実装を目指す森林GX」
小嶋 大造
(東京大学 総長特任補佐 大学院農学生命科学研究科/グリーントランスフォーメーション戦略推進センター 教授)

亀山康子教授

「日本では2020年、菅元首相がカーボンニュートラル宣言をし、脱炭素への動きが加速しました。しかし近年は、トランプ政権による脱炭素政策の大幅な転換、欧州の環境規制簡素化に関するオムニバス法案などがあり、脱炭素の動きが後退しているという見方もあります。」

「でも、それは間違いです。」

基調講演の冒頭で、そうきっぱりと言い切ったのは、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 サステイナブル社会デザインセンターの亀山康子センター長です。亀山センター長は講演を通じて、世界中では温室効果ガス削減や再生可能エネルギーへの転換が確実に進んでいる現状を示しました。

まず、大気中の二酸化炭素濃度の上昇傾向や、現行の対策では産業革命前に比べて1.5度に抑えるというパリ協定の目標を大きく上回る予測が出ているデータを挙げ、「気温の上昇が加速し、解決ではなく深刻化している」と指摘しました。

上昇する大気中の二酸化炭素濃度 出所:WMO(2026) State of the Global Climate 2025

温室効果ガス排出量と気温上昇のシナリオ。現行の対策では今世紀末までに産業化前比で2度を大幅に上回る気温上昇が予測される 出所:UNEP 2025 Emission Gap Report

そうした中、EUでは2025年に気候変動対策と産業競争力の両立を掲げた新たな戦略「クリーン産業ディール」を発表しました。亀山センター長は「『脱炭素』『エネルギー資源の他国への依存度を軽減』『新産業の育成』の3つを目標とする政策は、同じ方向を向いている。脱炭素という言葉を使わなくても、温室効果ガス排出を減らす行動を後押ししている」と分析します。

また、米国でも太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電容量が大きく増えていることを指摘します。2025年に電力分野へ投資された資金の約9割は、再生可能エネルギー関連の発電設備や蓄電池向けであり、その背景には電力を大量消費するデータセンターの増加していることがあり「米国では安く安定したエネルギーが求められており、それに応えるのが再生可能エネルギーだ」と解説します。

米国で増加する再生エネルギーによる発電容量 出所:U.S. Energy Information Administration, Short-Term Outlook (STEO), January 2024

一方、日本の状況はどうなっているのでしょうか。

主要国の2024年の電力の構成を見ると、日本はインドに次いで化石燃料への依存が高い国になっています。さらに2022年一次エネルギーの自給率は12.6%とOECDの中でワースト2位です。

主要国の電力源。再生可能エネルギーが急成長している 出所:自然エネルギー財団HPより抜粋

主要国の一次エネルギー自給率比較、2022年 出所:資源エネルギー庁

化石燃料を他国からの輸入に頼っている現状に対し、亀山センター長は「このまま依存を続けていくのか」と警鐘を鳴らします。そして、日本が抱えるこれらの課題は、見方を変えれば新たなビジネス機会にもなり得るとの考えを示し、「近い将来、国際社会の潮流が『脱炭素』に傾いたとき、日本は世界から取り残されるのではないか。日本経済をどうするのか、皆さんと一緒に考えたい」と呼びかけました。

松尾豊教授

続いての基調講演は、内閣府のAI戦略会議の座長などを務める東京大学大学院の松尾豊教授が「GX実現のためにはDXやAIの活用が必須。GXを促進するための科学技術の進展においてもAIの活用が鍵となる」という立場から、最先端のAI動向と、AIがGXに及ぼす影響について多角的な視点から解説しました。

近年、AIが現実世界を観測し、そこから将来起こり得る現象を予測する「世界モデル」が注目を集めています。これは、人型ロボットの複雑な動作制御や自動運転にも活用されており、高度な自律動作を実現するフィジカルAIの技術として期待されています。

また松尾教授は、世界モデルの登場によって「さまざまな科学分野がAI駆動型となり、研究開発が加速していく」と予測します。その上で、再生可能エネルギーや脱炭素分野の研究開発力向上など、GXを促進するための重要な鍵になるとの見方を示しました。

AIが科学技術に与える影響 出所:東京大学 大学院工学系研究科 松尾・岩澤研究室

このように進化するAIは、GXにどのように貢献するのでしょうか。松尾教授は、次の5つの案を挙げています。

①AIによる再生可能エネルギーの供給・需要最適化

②AIによるサプライチェーン全体のデータ統合・最適化の推進

③AI用データセンターの省エネ化

④ 生成AI向けの効率的な半導体技術の開発

⑤ GXにつながる科学技術の進展のための生成AIの活用

図5点出所:東京大学 大学院工学系研究科 松尾・岩澤研究室

AGI(汎用人工知能)の開発競争が激化し、データセンターを中心とした電力需要の増加が見込まれる中、電力インフラの整備が重要な課題となっています。こうした状況を踏まえ松尾教授は「AIにとってもGXは不可欠であり、『GXのためのAI』と『AIのためのGX』の両面から取り組む必要がある」と結びました。

東京大学は1994年、マサチューセッツ工科大学(米国)、スイス連邦工科大学(スイス)とともに、Alliance for Global Sustainability(AGS)を発足し、30年以上にわたりGXに取り組んできました。第2部では、その歩みとともに関連する現在の具体的な取組内容が紹介されました。

昨年設立した東京大学GX戦略推進センターの大久保センター長は、「本センターのミッションは研究・教育ではなく、法人経営の戦略に資するセンターだ」と学内での位置づけを説明します。

その活動は、1)産学協創によるグリーン投資の受け入れを促進し、他大学や地域に還元していくプラットフォームの構築、2)キャンパス内の既存建物をスマートビル化してカーボンマネジメントを行うこと、3)ワット・ビット連携、4)GXによる自治体連携、5)学生と連携したGX、と多岐にわたっています。

大久保センター長 講演資料より

文京区にある本郷キャンパスでは、それらを包括的に実践中です。具体的には、太陽光発電、既存建物のゼロエネルギービル(ZEB)化、最先端のセンシング技術を駆使したデータ駆動型の行動変容促進とそれによる省エネ化などです。大久保センター長は、約3万人が日々を過ごす広大なキャンパスを1つの都市モデルと捉え、実践で得た知見を、近隣自治体へ展開するなど広く社会に還元していく意向を示しました。

岡本浩氏

GXとDXの両方の視点から見て先進的な取り組みが、本郷キャンパスを中心に進められている「ワット・ビット連携」です。ワット・ビット連携とは、発電側(Watt:電力)と需要側(Bit:情報通信)を効率的かつ一体的に整備する考え方です。

では、効果的なワット・ビット連携はどのように実現できるのでしょうか。東京電力ホールディングスの上席フェローであり、東京電力パワーグリッドのCTOとしてワット・ビット連携を牽引してきた岡本氏は、MESH(Machine-Learning Energy System Holistic)と呼ばれる複合インフラ構想(MESH構想)を紹介しました。これは、データセンターや輸送分野の拡大に伴って需要増が見込まれる電力網とデジタルインフラを融合させ、最適な電力供給を実現する地域分散型グリッドを整備する構想です。

出所:東京電力ホールディングス株式会社

このMESH構想において重要な役割を果たす技術が、コンピューティングのワークロードシフトです。太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、時間帯や季節によって発電量が変動し、不足と余剰が繰り返し発生します。MESH構想では、この特性を逆手に取り、電力に余裕のある場所でデータセンターの情報処理を行います。

データはサイバー空間に存在するため、処理場所を瞬時に切り替えることが可能です。例えば、東京大学の連携先である北海道大学で実施している演算処理を、本郷キャンパスで太陽光発電による余剰電力が発生している時間帯には東京大学側で実行するといった運用が考えられます。これにより、余剰電力を有効活用しながらAIの学習や計算処理を進めることができ、まさにワットとビットの連携が実現します。

さらに岡本氏は、半導体から発生する熱を空調に活用するという革新的なアイデアも提唱しています。その一例が、「データセンター高負荷サーバーの蒸発冷却に関する研究」(矢嶌健史ほか)です。この研究では、計算処理によって発熱する半導体の冷却過程で発生する80~90℃の蒸気を利用します。蒸気を密閉系の中で循環させることで暖房だけでなく冷房にも活用でき、その設備を本郷キャンパスに導入する構想が示されました。

出所:東京電力ホールディングス株式会社

このように、「電力」「情報」「熱」を地域内で循環させる仕組みが実現すれば、地域産業の育成につながり、地方創生の新たなモデルとなる。ワット・ビット構想の先に、岡本氏はそのような未来社会を見据えています。

出所:東京電力ホールディングス株式会社

小嶋大造教授

東京大学とSMFGの連携協定の一環として設立されたのが、企業・大学・公的機関などで構成される「森林GXコンソーシアム」です。東京大学GX戦略推進センターの小嶋大造教授が、その活動概要について解説しました。

東京大学は、国土面積の約0.1%に相当する森林を保有しています。このコンソーシアムは、そうした森林を通じて、カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ、サーキュラーエコノミーを一体的に実現する新事業や共同研究の創出を目指しています。

出所:小嶋教授 講演資料より

講演では、森林GXコンソーシアムで連携する7つの研究プロジェクトに加え、3つの社会実装案が紹介されました。

出所:小嶋教授 講演資料より

7つのプロジェクトでは、例えばドローン等を用いた森林の計測データをもとに森林の状況をより精細に表現するデジタルツインを構築する研究や、樹木のリグニン成分を原料として化学品を直接合成するプロセスを開発することで、地域の炭素自立を目指す研究などに取り組んでいることが示されました。

さらに小嶋教授は、社会実装に向けた取り組みとして、①森林が有する多面的価値のナレッジデータベース化、②秋田県能代市をフィールドとした社会実装プロジェクト、③北海道苫小牧市をフィールドとした社会実装プロジェクトを推進する計画を紹介しました。

図3点出所:小嶋教授 講演資料より

小嶋教授は締め括りに「コンソーシアムを基盤として、森林GXを加速していきたい」と力強く語りました。

相原博昭理事・副学長

最後に、東京大学の相原博昭理事・副学長(プロポスト)が「GXは多様な主体の連携によって実現できる。東京大学とSMFGの連携を起点として、今後も研究成果の社会実装や具体的なプロジェクトへ発展させたい。引き続き情報共有と協創を推進していきたい」と述べ、フォーラムは閉会しました。

東京大学×SMFGの活動詳細は、https://gx-utokyosmbc.jpで発信しています。

(特記なき写真:稲垣純也)

関連記事