2020.11.27 fri

社会的インパクト評価入門~第1回 なぜ、社会的インパクト評価が必要とされるのか

伊藤 健  ソーシャルバリュージャパン代表理事/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師 

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営利・非営利のセクターを問わず、「社会的インパクト」が事業の価値創出を評価する上での大きなキーワードとなりつつある。本稿では、こうした社会的インパクトを志向する事業活動に必要な「社会的インパクト評価」が普及する背景を俯瞰し、企業経営や政策の導入、非営利組織の運営等、さまざまな局面において、それがどのように活用されているかを解説する。

企業の事業評価の領域で注目を集める「社会的インパクト評価」

企業が創出する社会的価値とその評価方法についての議論は以前からあった。例えば財務情報と非財務情報の統合的な報告のあり方については、2013年、国際統合報告評議会(IIRC)が「国際統合報告フレームワーク」を提唱し、企業の生み出す社会的価値は、財務的価値と並んで経営上の重要な報告事項として認知された。また、2015年に国連が採択したSDGsは、17の社会的課題のゴールと169のターゲット(評価指標)を示し、企業による社会的価値創出の基準として注目されるようになった。

こうした企業セクターにおける社会的価値の評価は、法人の経営に関する情報開示の一環として取り組まれてきた。しかし、従来の非財務情報の開示よりも、さらに深く踏み込んだレベルで関心が高まっているのが「社会的インパクト評価」という概念である。

この「社会的インパクト評価」とは、『事業や活動の短期・長期の変化を含めた結果から生じた「社会的・ 環境的な変化、便益、学び、その他効果」を定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えること』と定義されている(*1)。

ここでいう社会的・環境的な変化とは、売上や利益といった短期的な経済的価値に反映されたり、収れんしたりしない中長期的な事象を指す。それらを捉えるためには、社会や環境の変化に関して、適切な指標を設定し、定量・定性の両面でデータを収集、それを基に事業や活動のステークホルダーに対して説明責任を果たすことが必要とされる。さらにそのデータをもとに事業や活動から学び、改善へと展開していくことが、社会的インパクト評価の導入効果として期待されている。具体的な評価の方法については、第二回で解説する。

社会的インパクト評価に対するニーズの高まりとその背景

社会的投資の拡大、社会的企業の伸張がインパクト評価を後押し

さて、社会的インパクト評価の概念を企業セクターに適用するように後押ししているのが、金融市場におけるESG投資の拡大である。ESG投資はグローバルでは40兆ドル(*2)、日本においても2015年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国連責任投資原則(PRI)署名以降にESG投資残高は急増し、市場全体の18.3%、金額にして230兆円(*3)を超え、投資家が財務的価値のみでは評価が難しい社会的価値を投資先の選択基準として重視していることを示している。

インパクト投資に関わる方向づけをしたのは、2013年のG8で設置された「G8社会的インパクト投資タスクフォース(The Social Impact Investment Taskforce)」の発足である。英国の休眠預金基金の創設者であるロナルド・コーエン卿が議長を務めるこのタスクフォースは、日本を含むG8各国で国内諮問委員会を創設し、インパクト投資における基本的なガイドラインを策定した。2015年にThe Global Steering Group for Impact Investment (GSG)に改組され、現在も活発に活動を続け、ビジネス、金融、ソーシャルセクター等、分野を超えて、日本においても社会的インパクト投資の発展に必要な施策を議論している。

同時に、社会課題の解決をミッションとして、本業として取り組む社会事業セクターの伸張も、社会的投資拡大の一つの要因となっている。例えば英国では、2018年時点でGDP3%、雇用の5%は社会的企業によって担われている(*4)。

また米国発祥の社会的企業認証であるB Corpは、2020年現在で74カ国、3600以上の企業を認証する等、事業の社会性を第3者認証に基づいて社会的に発信している。社会的な企業ミッションや存在意義を明確化し、顧客やステークホルダーとのコミュニケーションや事業戦略の構築に活用しようという動きが加速している。

こうした社会的価値に対する機運の高まりは、社会課題への対応を企業に迫るものとなった。社会課題の解決に資する事業活動をいかに展開し、社会的価値を創出し、投資家の要請にどのように応え、また経営課題としてどのように成果を達成していくのかという企業の姿勢が問われているのだ。

次回は、社会的インパクト評価の具体的な手法についてご紹介する。

*1 G8社会的インパクト投資国内諮問委員会 社会的インパクト評価ワーキング・グループ(2016)
*2 2020年Optimus推計
*3 2018年GSIA
*4 SIZE AND SCALE OF SOCIAL ENTERPRISE IN 2018, Social Enterprise UK, 2018

伊藤健(いとう・けん)

ソーシャルバリュージャパン代表理事/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師

卒業後、日系メーカー勤務を経て、米国Thunderbird Global School of Management にて経営学修士課程を修了後、GE International に入社。シックス・シグマ手法を使った業務改善や、コーポレート・ファイナンス部門で企業買収後の事業統合等を行う。2008年GE社を退職、NPO法人ISL 社会イノベーションセンターを経て、2010 年より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任助教。2016年より特任講師。
主に社会的インパクト評価を中心に研究し、2014~15年には、G8社会的インパクト投資タスクフォース日本諮問委員会の事務局、2015年経済産業省「ヘルスケア分野におけるソーシャル・インパクト・ボンドに関する検討会」委員長、内閣府「共助社会づくり懇談会 社会的インパクト評価検討WG」委員会主査、2016年には内閣府「社会的インパクト評価の普及促進に係る調査」有識者委員を務めるなど、日本の社会的インパクト評価、ソーシャル・インパクト・ボンド、社会的投資の普及促進に尽力している。