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グリーンリカバリー (前編) 注目が集まるグリーンインフラ投資

Date: 2021.01.15 FRI

  • #気候変動

  • #イノベーション

日本総合研究所 渡辺珠子

気候変動を軸とした景気回復を図るグリーンリカバリー

新型コロナウイルス感染による経済の落ち込みからの景気回復策として「グリーンリカバリー」という言葉が使われています。広まったきっかけは20204月に発足した「グリーン・リカバリー・アライアンス」。
このアライアンスは、気候変動対策やサーキュラーエコノミーを推進するためのグリーン投資を促進することで、新型コロナウイルス感染拡大以前の社会経済のあり方に戻るのではなく、レジリエントで持続可能な社会と経済を構築する「グリーンリカバリー」を目指して設立されました。EU加盟国12カ国の環境大臣、79名の欧州議会議員、37社のCEOの他、業界団体代表やNGO代表を含めた180名が署名しており、その中にはイケア、ユニリーバ、マイクロソフトなどグローバル企業も含まれています。
民間企業それぞれの取り組みも含めて、グリーンリカバリーを官民一体で推進していくことの必要性を訴えています。今回と次回はグリーンリカバリーをテーマに、世界の動きや企業の取り組みを取り上げます。

再エネとモビリティが重点投資先に

欧州が推進するグリーンリカバリーは、気候変動対策を中核とする政策パッケージ「欧州グリーンディール」を成長戦略の要と位置付けています。これは雇用を創出しながら2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す政策で、再生可能エネルギーの推進、エネルギーシステムの脱炭素化や輸送の効率改善とクリーン化などがその具体的施策として挙げられています。

欧州委員会は5月に総額7,500億ユーロ(約88兆円)の復興基金案を公表しており、グリーンリカバリーの推進にはこの復興基金が充てられる見込みです。5月の段階では、再生可能エネルギーの推進やモビリティといった復興・回復ファシリティ向けの資金として5,600億ユーロという圧倒的予算が計上されています。再生可能エネルギーについては、洋上風力の強化、エネルギー貯蓄技術やCO2の回収・貯蓄、水素資源の活用などが重点投資分野として挙げられています。モビリティについては公共充電ステーションの100万箇所設置や、車や船舶の燃料を水素などの代替燃料へと転換していくことが掲げられています。

日本でも菅政権が2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを目指し、再生可能エネルギーの導入を最大限進める方針を打ち出しており、水素の活用やCO2の回収・貯蓄技術を含めたイノベーション推進を強調しています。欧州のグリーンリカバリーの重点投資分野との重なりも大きく、この分野で研究開発を重ね実用化を図っていた日本企業には大きなビジネスチャンスがあると言えるでしょう。

CO2回収ビジネスでグリーンリカバリーに貢献する企業

温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す上で注目されているのが、温室効果ガスそのものをそもそも大気中に放出しないというCO2回収技術です。世界ではエクソンモービルやゼネラルエレクトリックなど化学プラントを扱う企業が主要なプレーヤーとして名を連ねていますが、この分野で世界トップクラスの導入実績を持つのは三菱重工です。これまで同社は関西電力と共同で独自のCO2を回収できる技術の改良を重ねており、現在までに世界13カ国でCO2回収装置を稼働させています。三菱重工の100%子会社である三菱重工エンジニアリングが2020年121日付で「脱炭素事業推進室」を発足し、CO2回収ビジネスを強化する姿勢を示しています。CO2を吸収するだけでなく、その後の活用についての技術開発に取り組む日本企業もあります。

例えば、旭化成はCO2を原料にポリカーボネート樹脂を生産する技術を開発し、世界中にライセンスしています。また鹿島建設は建設現場などで使われるコンクリートを製造する過程で、コンクリートそのものにCO2を吸収する技術を開発しています。欧州のグリーンリカバリーには建築・インフラのリノベーションによるエネルギー効率の向上が含まれていますが、これらのCO2を原料としたコンクリートがその資材使われるようになれば、カーボンサイクルが一層進むだけでなく、日本企業の市場拡大にもつながることが期待できます。

CO2回収技術(KM CDR Process™)のプロセスフロー

既存の火力発電所に加え、バイオマス発電所や製鉄・セメント工場、ごみ焼却施設などから、排ガスに対するCO2回収ニーズが高まっている。

CO2からポリカーボネート樹脂をつくる概念図

旭化成は、自動車や家電に使われるポリカーボネート(PC)樹脂の製造プロセスの原料に、CO2を用いることに成功。従来、PCの骨格となるカルボニル基は毒性のあるホスゲンを用いていたが、新製法ではCO2を用いて、省エネとCO2排出量削減を可能とした。

CO2をコンクリートに固結させる「CO2-SUICOM

次回は米国のグリーンリカバリーに対する取り組みと、関連する企業の動きを取り上げます。

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