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グリーンリカバリー(後編)アメリカのグリーンリカバリーと関連ビジネス

Date: 2021.01.29 FRI

  • #気候変動

  • #イノベーション

日本総合研究所 渡辺珠子

パリ協定に復帰する米国

撮影:Chip Somodevilla / Getty Images

20201212日、地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定の採択5周年を記念する首脳級の会合がオンラインで開かれました。パリ協定は、世界の気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑制することを目指す取り決めです。会合では、多くの首脳が温暖化ガス排出削減とコロナ禍からの景気回復の双方を目指すことに言及しており、欧州以外でもグリーンリカバリーを景気回復の柱としていることが明らかになりました。

米国は202011月にパリ協定を離脱していたため会合には出席しませんでしたが、第46代大統領のバイデン氏は2021120日の就任当日、パリ協定に復帰するための文書に署名しました。バイデン氏は大統領選挙で2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ達成と景気回復の両立を目指すことや、脱炭素で米国が世界をリードすることなどを公約に掲げています。就任当日に声明を出したことでバイデン政権は米国としてのグリーンリカバリー策を展開する姿勢を改めて国際社会に示したと言えます。

気候変動対策に向けた巨額なインフラ投資

では米国流のグリーンリカバリーとはどのようなものでしょうか。バイデン氏の選挙公約のひとつに、気候変動対策のための巨額なインフラ投資があります。その経済対策規模は2兆ドル(約210兆円)。カーボンフリーやクリーンエネルギー実現に向けて、インフラ分野、発電分野、自動車産業など様々な分野・業界へ投資することを掲げています。

いくつか例を挙げると、鉄道を中心に交通機関の動力源をクリーンエネルギーに転換していくこと、電気自動車(EV)普及に向けて充電施設を50万カ所設置すること、EVへの買い替え需要を促すために消費者に奨励金を支給すること、太陽光パネルや風力発電タービンなど再生可能エネルギー発電機器の大規模設置、蓄電バッテリーへの助成などがあります。

エネルギー分野に関しては、トランプ政権から方針を大きく転換する姿勢を示したことから、選挙期間中にも関わらず、太陽光パネル製造企業や蓄電池技術をもつ企業など、クリーンエネルギー関連銘柄の株価の一部は上昇傾向を示しました。なお公約の中では原子力発電をゼロ・カーボン・エネルギーと位置づけていることから、小型原子炉や核融合型原子力など現在の原子力発電ではなく次世代型の核融合技術の開発支援が強化されるだろうという専門家の意見も上がっています。

米国クリーンエネルギー関連市場で日本企業の活躍が期待できる分野とは

バイデン氏の公約は、もちろん米国企業の競争力強化と米国での雇用増加も含めた経済効果を狙ったものですが、日本企業にも市場に食い込むチャンスはあるという見方もあります。例えば蓄電池です。

蓄電池の世界市場規模は2017年が約7.4兆円、2018年が約8.5兆円、2019年が約9.4兆円(見込み)と成長しており、2025年には約15兆円、2030年には約20兆円規模に拡大すると予測されています(*)。中でもEV普及や再生可能エネルギーの利用拡大に不可欠な高性能蓄電池については、電池の性能の他、耐久性や安全性においても求められる技術水準が高いことから、日本企業の競争力が活きる領域として注目されています。

バイポーラ型蓄電池

古河電気工業および古河電池は、再生可能エネルギー導入拡大の促進に寄与することを目的として、20206月に「バイポーラ型蓄電池」と呼ばれる新たな蓄電池を共同開発していることを発表しました。これはリチウムイオン電池よりも導入や運用コストが半分以下に抑えられる点が特徴です。量産実用化の目途が立ち、2022年度から電力会社などに出荷する見込みです。

全固体電池の構造

またリチウムイオン電池を超える次世代型蓄電池として「全固体電池」の実用化に官民が取り組んでいます。全固体電池は構造や形状が自由で薄型化が可能なことや、寿命が長く熱や環境変化に強い他、大容量にもかかわらず素早い充電が可能になることから、EVやロボット、ドローン向けの蓄電池として注目されています。この領域では、村田製作所がヒアラブルを中心としたウェラブル機器や小信号を飛ばすIoT機器向けにすでに量産の予定を打ち出している他、EV向けについてはトヨタ自動車が2020年代前半の実用化を目指しています。

これら日本の蓄電池技術は、次世代を担う可能性をもつものであり、米国の再生可能エネルギー市場やEV市場拡大の流れに食い込む可能性は十分あります。米国市場を始め、世界の脱炭素をリードし、競争力を発揮する領域となることを期待したいです。

(*)出典:国立開発研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発 2020年度実施方針」

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