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分散型社会に向け関心が高まるブロックチェーンとは?(後編)サステナビリティ分野での活用事例と課題

Date: 2021.07.30 FRI

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日本総合研究所 先端技術ラボ 金子雄介

前回は、ブロックチェーンの特徴や用途について説明しました。今回は、サステナビリティ分野における活用事例や、ブロックチェーンの抱える課題について説明します。

サステナビリティの領域では、情報の可視化と信頼性の確保が、ますます重要になっています。その解決策として、ブロックチェーンを活用している企業の事例を紹介します。

(1)フェアトレード

フェアトレード(公正な貿易)とは、貿易のしくみを公平・公正にすることで、特に開発途上国の小規模生産者や労働者が貧困から脱却し、地域社会や環境を守りながらサステナブルな世界の実現を目指す取組みです。

公正な取引を実現するためには、商品の生産・流通・販売といった一連のプロセスが正確に記録され、関係者は必要に応じてその記録を参照できるようにすることが必要です。このような記録は多くの場合、販売企業のITシステムに記録されていました。しかし、販売者側の都合で、情報が改ざんされる事態も発生していました。改ざんできない信頼度の高い記録を実現するため、ブロックチェーンの活用が期待されています。

ブロックチェーンを用いたフェアトレードの事例として、オランダのNGOであるフェアチェーン財団の取り組みを紹介しましょう。フェアチェーン財団は、エクアドルのカカオ生産者の収入と持続可能な未来のために、国連開発計画(UNDP)と提携して「The Other Bar」と呼ばれるチョコレートを開発しました。パッケージのQRコードを読み取ると暗号資産がもらえます。これをチョコレートの購入に当てたり、生産者に寄付したりすることもできます。寄付すると、生産者はチョコレート4つ分の暗号資産でカカオの木1本を買うことができます。この木1本で、カカオ豆2,700円分を毎年収穫できます。農家に支払われた金額や、購入されたカカオの木の栽培場所などは、ブロックチェーンに記録され、アプリで確認できます。

出典:https://www.theother.bar/

(2)温室効果ガス削減の見える化

脱炭素社会の実現に向けた取り組みが、世界規模で進んでいます。世界経済フォーラムが20189月公表したレポート「Building Block(chain)s for a Better Planet」は、環境問題にブロックチェーンを活用する機会を調査・分析しています。

その一つとして、CO2の排出量や削減量を可視化しトレーサビリティを確保する手段として、ブロックチェーン技術の活用が期待されています。

日本では、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する、「J-クレジット制度」があります。20207月に環境省は、ブロックチェーンを活用したJ-クレジットの取引市場「ezzmo(イツモ)」を創設し、2022年度運用開始を目指すことを発表しました。(*1)

また、A.L.I. Technologiesとユビ電は、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のCO2排出削減量をブロックチェーンに記録するシステムを、20208月に発表しています。このシステムは、EVPHEVの対ガソリン車でのCO2排出削減量を計測するIoTプラットフォームと、CO2排出削減量を記録するブロックチェーンによって構成されています。

(1)膨大な電力消費量の問題

ブロックチェーンを永続的に運用するにあたり避けては通れない問題が、電力消費量の増大です。

ビットコインが採用するプルーフ・オブ・ワーク(作業量の証明)という仕組みは、膨大な計算量の暗号を解くという計算競争(マイニング)の勝者(コンピュータ)に、ブロックを作る権限を与えるものです。計算競争の仕組みが単純である一方、計算量が莫大となるため、電力消費も莫大となることが課題です。競争が最も激しかった時点(2021513日)では、ビットコインのブロックチェーンは、年間1,321kWhの電力が用いられていると試算されています(*2)。これは、日本の3,200万世帯の年間電気消費量に相当します。(*3

2014年6月~2021年7月18日までのビットコインによる電力消費量(試算値。黄色帯は試算値の上下幅を示す) 出典:https://cbeci.org/

マイニング参加者は、より多くのコンピュータをより安い電力を使って動かし、競争に勝利し続けることが求められます。ビットコインが得られなければ、赤字になるだけです。マイニング参加者は、さらに安価な電力を求めて、水力発電や太陽光発電の盛んな地域に活動の場をシフトしています。

一方、ブロックチェーンを運営するための電力消費量が、台帳の安定的維持という目的に照らして過大ではないか、という問題があります。ブロック1つ(約1MB)の記録を確定するために、これほど大量の電力(約250kW)を消費することは、果たして合理的でしょうか。

ブロックチェーンは、情報を複数の主体で共有しながら管理することで、情報の改変を防ぎ、結果として台帳の正統性を生み出しています。

ブロックチェーンの管理(ガバナンス)形態は、①パブリック型、②コンソーシアム型、③プライベート型の3つに大別できます。①パブリック型は、特定の管理主体をもたずに運用される形態で、ビットコインやイーサリアムなどが該当します。③プライベート型は、特定の管理主体をおく形態で、組織内システムなどでの利用が該当します。②コンソーシアム型は、複数の企業などの主体が共同管理する形態です。

従来のITシステムは、特定の管理主体がデータベースを管理する形態、すなわち③プライベート型の管理形態が主流でした。ビットコインは、①パブリック型を採用し、暗号資産という管理インセンティブを導入した点で「革命的」でした。また、②コンソーシアム型は①パブリック型と異なり、限られたメンバーで共同管理する、相手の顔が見える管理方法です。これは政治的な駆け引きを生みやすい環境です。つまり、ブロックチェーンの外側(すなわち現実世界)での運用体制が明確に定義され、透明性高く運用されないと、そもそものブロックチェーンの透明性という価値が損なわれてしまいます。

コンソーシアム型ブロックチェーンは、価値あるデータを限られた主体で持続的に管理する方法を、我々に問いかけています。

1:(出典)「『気候変動×デジタル』プロジェクト~デジタル化によるJ-クレジット制度の抜本拡充策」P.3
2:(出典)Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index
3:環境省「平成31年度(令和元年度) 家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)によると、世帯当たり年間電気消費量は全国平均で4,047kWh

著者プロフィール

金子 雄介

株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ エキスパート
2015年からブロックチェーン等の技術を用いた金融サービスの企画および開発に従事。2019年から現職。
(公財)金融情報システムセンター(FISC)「金融機関におけるブロックチェーンに関するワーキンググループ」委員を歴任。
著書:「ブロックチェーン技術概論 理論と実践」(講談社、2021年、共著)。

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