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IPCC第6次評価報告書の内容とは――気候変動の自然科学的根拠と政策への影響

Date: 2021.08.31 TUE

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日本総合研究所 渡辺珠子

202189日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業部会(自然科学的根拠)から第6次報告書が発表されました。

IPCC1988年に国連環境計画と世界気象機関によって設立された組織で、気候変化、影響、適応及び緩和方策について、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことが目的です。各国政府を通じて推薦された科学者などの専門家が参画し、57年ごとに気候変動に関する研究から得られた知見を評価し、評価報告書として取りまとめています。8月9日に発表された報告書は、66カ国、234名の執筆者(*1)によって、気候変動の自然科学的根拠に関する最新の知見がまとめられており、今後の気候変動対策の国際交渉において「科学的根拠を与える重要な文書」という位置付けになっています。

IPCC第1作業部会(自然科学的根拠)第6次報告書

4,000ページにわたる報告書のうち、冒頭の「政策決定者向け要約(Summary for policymakers, 以下SPM)」を特に注目して見てみましょう。SPMは報告書の要点や主張が凝縮されたものであり、その1行1行を専門家や各国政府代表が確認、承認するという緻密なプロセスを経て完成に至ります。SPMは「A. 気候の現状」、「B.あり得る将来の気候」、「C. リスク評価と地域適応のための機構情報」、「D. 気候変動の抑制」の4つのカテゴリから構成されていますので、ここでは各カテゴリのポイントを絞って概観します。

カテゴリの名称通り、現在までの気候変動の状況がまとめられています。最初に「人間の活動の影響によって大気、海洋、陸地が温暖化していることは疑う余地がない」と述べられている点がポイントです。その根拠として2011年から2020年の10年間で、世界の地表温度は1850年から1900年の間に比べて1.09℃上昇していること、人間活動に起因する温度上昇で見ると、2010年から2019年と比べた場合に1.07℃と評価されていることが示されています。上昇した1.09℃のうち1.07℃分が人為的要因であることから、「疑う余地がない」と表現しているのです。2001年の第3次評価報告書以降、温暖化と人間の活動の関係については、「人間の活動が影響している可能性が高い」という表現が採択されていました。その確度は評価報告書が作成される毎に上がってはいたものの、今回の評価報告書では人間の活動が温暖化の要因であると言い切ったことに注目が集まっています。

ここでは、今後の気温上昇や異常気象などの極端な気候の変化を含めた将来予測を示しています。ポイントとしては、検討されたどのCO2排出シナリオにおいても、地球の表面温度は今世紀半ばまで上昇し続けることは避けられず、2030年代始め頃までに1850年〜1900年と比較して1.5℃を超える可能性があることです。今後数十年で地球温暖化ガスの排出量を「大幅に」削減しない限り、パリ協定の目標達成が極めて困難であることを科学的根拠に基づき示しています。ただし、脱炭素の取組が大幅に進み、カーボンネット・マイナスになったとしても、海面上昇などの気候変動の影響は、少なくとも数世紀にわたり元に戻らないことも示されています。

世界の各地域における気候変動がもたらすリスクを科学的に評価し、それぞれの地域で適応に向けた適切な取組を推進するための情報を提供しているのが、このカテゴリです。一例として、もし地球が1.5℃温暖化した場合、アフリカとアジアのほとんどの地域で、大雨とそれに伴う洪水が激化し、またより頻繁に発生することは高確度であると示されています。また全ての地域で高温と極端な乾燥、小雨など、複数の気候変動に起因するリスクが同時に発生することも予測されています。これらは以前から指摘されていたことではありましたが、これらの気候変動リスクに備えられない地域においては、極めて深刻な人的被害へとつながることが容易に想定できます。

このカテゴリでは人間の活動によって引き起こされる地球温暖化を、どのようにして特定のレベルに抑制するかが示されています。地球の気温上昇は、累積CO2排出量(過去のCO2排出量と将来のCO2排出量の合計)に比例することが前回の評価報告書でも示されていますが、少なくともこの累積CO2排出量を実質ゼロにすることが必要であると述べられています。また地球温暖化の要因の一つであるメタン排出量を迅速にかつ大幅に削減することの必要性についても触れられています。

以上、SPMのポイントのみを概観してきました。内容としては、これまで取り組むべきだと言われていたことから大きな変化はありません。IPCCに携わった科学者の多くは、迅速に行動することによって、地球温暖化ガスの排出量を劇的に削減すれば気温上昇の安定を図ることが期待できると述べています。今年11月にはCOP26が開催されますが、今回の評価報告書も議論の科学的根拠として活用されることになります。各国がこの評価報告書の内容を受けて、どのような具体的な取組と、野心的な目標を提示するのかが注目されます。


*1:(出所) 国立研究開発法人海洋研究開発機構「IPCC6次評価報告書(第1作業部会)の公表―JAMSTEC研究者たちの貢献とメッセージ2021813日)

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