解説記事
緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(第2回)政策に直接影響を与えるパリ協定と各国の削減目標
Date: 2021.04.22 THU
#グローバル動向
#気候変動
撮影:Bloomberg/Getty Images
今回は、パリ協定の具体的な内容と、パリ協定が国の政策にどのような影響を及ぼしているかについて、確認しましょう。
パリ協定とは
パリ協定は、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)の中で2015年に採択された、全29条から成る協定です。その第2条で、世界共通の目標として、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも「摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑える」並びに「摂氏1.5度高い水準までのものに制限する」ことを明記しています。また、第4条で、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成するために…(中略)…利用可能な最良の科学に基づいて迅速な削減に取り組むことを目的とする」とあります。21世紀後半には、カーボンニュートラルを達成すると言っているわけです。科学に基づくというのも重要な表現です。和訳は環境省ホームページで見ることができます(*1)。
気温上昇の幅をどれだけ抑えるのかという点については、パリ協定だけを見ると「2度と1.5度が両方書いてあるな」とも感じますが、最近では「1.5度目標」の方がよく用いられています。
そのきっかけは、パリ協定から3年後の2018年に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の総会で、「1.5度特別報告書」が公表されたことです。そこでは、1.5度に抑制することは不可能ではないことや、1.5度と2度では、自然や人間の社会に及ぶ気候関連のリスクが違うことが示されました。簡単に言えば、1.5度に向けた最大限の努力をすることにメリットがあることがはっきりしたのです。同時に、1.5度以内に抑えるためには、パリ協定にある「21世紀後半」ではなく、「2050年近辺」でカーボンニュートラルが必要ということも示されました。そうした背景で、今では「1.5度に抑える、そのためには2050年カーボンニュートラル」が専らの共通認識となっています。
国に対するアプローチ
パリ協定に基づく各国の目標は、パリ協定そのものに書かれているわけではありません。各国が自主的に、国際社会に対して削減目標を約束するという構造になっています。この目標を、「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution, NDC) 」と呼びます。2021年4月22日の気候変動サミット直前時点でのNDCの例は以下のとおりです。米国や日本は、気候変動サミットで新たなNDCを発表する予定と報じられており、下記は旧目標です。
日本 | 2013年比、2030年に▲26% →どう変化? |
EU | 1990年比、2030年に▲55% |
イギリス | 1990年比、2030年に▲68% →4月20日、2035年に▲78%を発表 |
中国 | 2005年比、2030年にGDPあたりのCO2排出量を▲60~▲65% 2030年までに排出量ピークアウト |
米国 | 2005年比、2025年に▲26~28% →どう変化? |
※GGP事務局注(2021年4月23日) |
出所:UNFCCCのNDC登録ページ及び各国政府発表資料
https://www4.unfccc.int/sites/NDCStaging/Pages/All.aspx
これらのNDCは2030年の中期目標ですが、それに加え、2050年ネットゼロ(カーボンニュートラル)を打ち出した国や地域は、すでに121に上ります(*2)。2050年ネットゼロが長期目標とすれば、2030年のNDCは中期的に達成すべきマイルストーンとなります。各国で、カーボンプライシングなどの規制的手法の導入・強化や、エネルギー政策の脱炭素化、炭素除去を含む脱炭素技術の開発、吸収源対策(森林、海洋)が進展していくものと考えられます。
次回は、日本における脱炭素社会実現のために必要となる施策や注目すべき技術について解説します。