2021.09.03 fri

国連食料システムサミットが持つ意味とは

日本総合研究所 渡辺珠子

2021年9月23日、国連総会と並行して国連食料システムサミット(FSSが開催される予定です。FSSは、貧困や飢餓の撲滅だけでなく気候変動対策や生物多様性保護を含め、SDGs達成に向けた課題とその解決方法について、食料システムの視点から各国首脳が議論する初の国際会議です。ここで言う食料システムとは、食料の生産、加工、輸送、及び消費に関わる一連の活動のことを指します。もちろん食品ロスや農作物残渣のリサイクルなど「廃棄」に関わることもFSSの議論の対象です。

世界銀行によると、世界の食料システムは年間およそ8兆ドルの経済価値を生み出しており、これは世界経済全体が生み出す付加価値の10分の1に相当します(*1)。しかし新型コロナウイルス感染拡大によって、世界の約30%の人々が年間を通じて適切な食料を入手できず(*2)、栄養不良は深刻化し、その結果働きたくても充分に働けず、家計だけでなく経済が停滞する国や地域も現れました。他方で世界の温室効果ガス排出量の約34%は食料システムから排出されており(*3)、また絶滅の危機にある28,000種のうち約86%は、農業活動によって絶滅に追い込まれようとしています(*4)。食料システムは気候変動の主な要因であるだけでなく、生物多様性の大きな損失要因でもあるのです。つまり、経済価値を損ねることなく、気候変動や生物多様性にも適切に対応する食料システムを議論することは、持続可能な社会づくり向けて避けて通れない、というのが世界の認識と言えます。

726日~28日には、9月のFSSに先立ち、イタリア・ローマで事前会合が開催されました。事前会合は食料システムに関する課題や、改革のあり方について様々な科学的なアプローチを共有すると共に、世界がコミットすることを発表することが目的です。ここでの議論を踏まえて、9月には各国が食料システムに関する「野心的な」取組目標や方針を提出することになっているため、具体的に何に取り組むのかを提示しながら、取組を進めるために必要な協力を他国から取り付けるための交渉を行う場でもあります。

ここで留意しておきたいのは、今年の10月には中国で生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)第15回締約会議(CBD-COP15)が、11月に国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されることです。つまりFSSは、この二つの国際会議での協議に向けた各国の「インプット」という側面もあると考えられます。実際、事前会合において欧州委員会の担当委員が、食料システムが気候変動や生物多様性の損失という課題解決に向けて果たす役割の重要性を主張しています。先進国を中心に各国が、農林水産業および食品産業を中心に、脱炭素や生物多様性保全にどう取り組むのかを具体的に提示することが期待されているのです。

日本はFSSの事前会合で、野上浩太郎農林水産大臣が今年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定したことを紹介し、スマート農業技術など、農林水産業におけるイノベーションの強化の重要性や、各国の置かれた自然やその他条件において最適な温室効果ガス削減の検討が重要であることなどを強調しました。

また、持続的な食料システム構築に向けて、食品関連企業、自治体など60以上の民間企業・団体のコミットメントを取りまとめ、FSSに提示する予定です。確かに「みどりの食料システム戦略」には、2050年までにCO2排出量ゼロ化の実現を目指すことや、技術を活用した多様な働き方や労働生産性の向上などが示されています。

また民間企業・団体もそれぞれのコミットメントに、同様のCO2排出量削減や食品ロス削減、水や化学薬品使用量の削減目標などを示しています。しかしCBD-COP15COP26で予定されている議論の内容を考えると、日本に対して、例えば農家単位でのCO2削減方法や、削減量の測定方法についてなど、より野心的で明確な取り組みの提示が求められる可能性も充分あります。事前会合ではそこまでの指摘はありませんでしたが、9月のFSSでどのような議論が展開されるのか、注目する必要があるでしょう。

1:(出典)UN 食料システム2021 General FAQs
2:(出典)国連児童基金ニュース(2021712日)
3:(出典)UNニュース(202139)
4:(出典)UN環境計画「Food System Impacts on Biodiversity Loss(202123)

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