2021.06.09 wed

緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(最終回)注目すべき国際会議や国内の政策動向

日本総合研究所 渡辺珠子

脱炭素社会への移行について6回にわたって取り上げてきましたが、最終回では2021年に企業が注目すべき脱炭素社会関連の国際会議や国内の取組みを見てみましょう。

主要7カ国首脳会議(G7サミット)
(開催国:イギリス)6月11日~13日

コロナ禍からの景気回復と気候変動対策が主要議題です。4月に行われたG7先進国財務相・中央銀行総裁会議によると、G7サミットでは気候変動対応を進めるための途上国への金融支援拡大のほか、2050年の地球温暖化ガス実質ゼロに向けて、企業に対して気候変動に関する財務情報開示の強化を求めていくことを議論する予定です(*1)。また一部報道によると、欧州委員会で検討が進められている「炭素国境調整措置」導入について、議長国である英国がG7の協調を呼びかける意向を示しているとされています。炭素国境調整措置とは、炭素規制の緩い地域からの輸入品に対して炭素排出量に応じた追加の負担を課す制度です。

国連総会 9月14日~30日 

昨年の国連総会では中国が2060年までにカーボンニュートラルを目指す新目標を発表したことが話題になりました。今年の国連総会の暫定議題は7月中旬に公表される予定ですが(*2)、11月に開催されるCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に向けて、気候変動対策に関する議論が国連総会の主要議題に含まれることが予想されています。

金融・世界経済に関する首脳会合(G20サミット)
(開催国:イタリア)10月30日~31日

4月に米国が主催した気候変動サミットにおいて、今年のG20議長国であるイタリアのドラギ首相は「世界全体の温暖化ガスの75%を排出する20カ国・地域(G20)が集まる首脳会議で強力な成果を求めたい」と述べました。また2021G20サミットの特設サイトでは、気候変動対策に関して再生可能エネルギーへの移行と、スマートシティ開発に焦点を当てたグリーンリカバリーが不可欠であるとも述べています。現在具体的な議題については調整中ですが、G20でもコロナ禍からの景気回復において気候変動対策を重視し、各国が必要な措置を講じることについて議論されることが想定されます。

国連気候変動枠組条約 第26回締約国会議(COP26)
(開催国:イギリス)11月1日~12日 

2021年の脱炭素において、もっとも注目すべき国際会議はやはりCOP26でしょう。COP26では気候変動に対する重点分野として今世紀半ばまでのネットゼロを目指した取組(脱石炭、森林破壊の抑制、EV車への移行、再生可能エネルギーへの投資促進)、適応と強靱性、気候変動対策資金の動員、気候関連リスクに対応するための政府・産業界・市民社会の協働などが掲げられる予定です(*3)。また主要論点としては

  • COP24COP25で合意に達することができなかった、国家間の排出量取引制度などの市場メカニズムなどが含まれるパリ協定6条に関する実施指針の採択
  • 先進国による年間1,000億ドル以上の気候変動対策資金の動員
  • TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の義務化
  • 気候変動対策に対する各国の野心的な取組や目標

などが想定されています。企業にとっても、パリ協定6条に関する実施指針の採択や気候関連(変動)リスクに関連する財務情報開示の義務化は注目すべき論点でしょう。

なお、脱炭素社会への移行に関する具体的な取組として、日本国内でも炭素税の税率引き上げや排出枠取引などのカーボンプライシングについての検討が進められています。排出枠取引については制度の公平性など議論は半ばであり、産業界でも導入については賛否両論があります。また炭素税引き上げについては、現在、経済産業省と環境省が個別に検討しており、また産業界からもさまざまな意見が上がっています。ただ、政府内では夏ごろを目途に方向性をまとめたいとの声があります。

気候変動に関しては、一連の国際会議に連なる動きの他に、注目すべき国内の動きがあります。その一つがコーポレートガバナンス・コードの改訂です。

金融庁に設けられた「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は2021331日、コーポレートガバナンス・コードおよび投資家と企業の対話ガイドラインそれぞれの改訂案を公表しました。コーポレートガバナンス・コードの改訂案では、サステナビリティをより重視する内容となっており、特に東京証券取引所(東証)の新市場区分となるプライム市場上場企業に対しては、気候変動についてはTCFDまたはそれと同等の仕組みに基づく開示要請が示されると補充原則で明記するなど、気候変動に対する踏み込んだ対応を求めています。

コーポレートガバナンス・コード改訂版 補充原則3-1③(*4

気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

東証によるとプライム市場のコンセプトは、「多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家と建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です(*5)。プライム市場への移行を想定している上場企業は、新市場区分に移行する20224月以降に開催される各社の株主総会の終了後、速やかに改定後の原則を反映したコーポレートガバナンス報告書の提出が求められることになり、具体的な対応については早々に取り組む必要があるでしょう。また上場企業でなくとも取引先企業から気候変動に関する情報開示の要請が強まることが容易に予想されます。TCFDなどを参照しつつ、温室効果ガス排出削減に関連するデータを収集するなど、こちらも早めの対応を講じておくことは決して無駄ではないでしょう。

4月の米国主催の気候変動サミットを契機に、2021年は脱炭素社会移行に向けた各国の取り組みが強化・加速していく1年になるでしょう。国内外の政府や産業界の動向に注目しつつ、自社にとってのリスクや機会を見いだし、積極的に対応することがますます必要です。

*1 G7 Finance Ministers and Central Bank Governors meeting chaired by Chancellor agrees ambitious climate agenda in UK’s COP Presidency year(https://www.gov.uk/government/news/g7-finance-ministers-and-central-bank-governors-meeting-chaired-by-chancellor-agrees-ambitious-climate-agenda-in-uks-cop-presidency-year)
*2 United Nations ”Preliminary list of items to be included in the provisional agenda of the seventy-sixth regular session of the General Assembly “(http://undocs.org/A/76/50)
*3 UN Climate Change Conference UK 2021 (https://ukcop26.org/cop26-goals/)
4 金融庁「コーポレートガバナンス・コード改定案」
5 東京証券取引所「新市場の区分概要等について」(2021221日)

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