2021.10.01 fri

TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)とは何か?(後編)TNFDで求められる企業の備え

日本総合研究所 渡辺珠子

前回TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)の概要とTNFDが求められる背景をご紹介しました。TNFDは現在非公式作業部会が活動をしていますが、202110月に開催される生物多様性条約第15回締結国会議(CBD-COP15)に合わせて正式に立ち上げられる予定です。また2022年半ばには情報開示のフレームワークの試用と検証を予定しています。

TNFDの具体的な内容については検討段階ではありますが、自然資本が企業の事業活動に与える影響と、事業活動が自然資本に与える影響の双方を評価し、リスク管理や目標設定を求める可能性が高いとみられています。また世界経済フォーラム(WEF)は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同じく4つの基礎項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)でのアプローチを提案しています。WEFは提案の中で、自然資本への依存度が高い産業は、より踏み込んだアプローチを取るべきと主張しています。

世界経済フォーラムが提案する自然資本関連のリスク管理アプローチ(一部抜粋)

基礎的なアプローチ より踏み込んだアプローチ
ガバナンス
  • 自然資本関連のリスクを担当する管理者の特定(可能な限り気候変動関連のリスク担当者と同一人物が望ましい)
  • 自然への配慮を既存の環境リスク管理の仕組み(ESG部門、サステナビリティ部門など)に統合 など
  • 取締役など経営幹部が自然資本関連のリスクを管理
  • 自然資本関連のリスクを特定、管理、報告するためのガバナンスおよびプロセスの確立 など
戦略
  • 自社が認識している短期、中期および長期における自然資本関連のリスクと機会を説明
  • 主要なリスクの緩和及び機会の検討を行うための行動計画の策定 など
  • 自社の成長における自然資本関連のリスクと影響について、シナリオプランニングを実施 など
リスク管理
  • 生物多様性が脅かす可能性が高い地域や重要なリスクなどを特定するための評価を実施
  • 気候変動関連のリスク管理に紐づけつつ、既存のリスク管理プロセスへの統合を検討 など
  • 企業のリスク管理のプロセスに自然資本管理のリスクを統合
  • 重要なリスクと機会について詳細な分析を実施(可能な限りバランスシートへの影響も含める) など
指標と目標
  • 製品・サービス、サプライチェーンなどに関する自然資本関連のリスクを特定し測定するための簡易な指標を開発 など
  • 自然資本関連のリスクと機会を管理する目標を設定し、目標に対する達成度を記載 など

出典:WEF “Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economyをもとに日本総合研究所作成

TNFDの内容については様々な意見が飛び交っていますが、生物多様性に関する影響分析が含まれることはまず間違いないと考えられています。経団連と生物多様性民間参画パートナーシップが実施した「生物多様性に関するアンケート―自然の恵みと事業活動の関係調査―」の2019年度調査結果によると、回答企業340社のうち、経営方針等に生物多様性保全の概念を盛り込んでいる日本企業は75%、生物多様性に関する宣言や行動指針等を作成している企業は58%であり、10年前に比べるとそれぞれ1.9倍、2.3倍増加しています。また事業活動に伴う生物多様性への影響の把握、分析、評価を行っている企業も一定数見られますが(図1)、定量評価を実施している企業は27%にとどまっています(図2)。TNFDへの対応という観点では、定量評価方法に関する検討や情報収集が必要になりそうです。

なお自然資本と事業活動の定量評価における事例としては、世界大手の化学企業であるダウ・ケミカルが挙げられます。ダウ・ケミカルでは自然資本が事業活動にもたらす影響を金額換算して定量評価する「Valuing Nature」という評価手法を開発しています。同社の事業投資、不動産投資、研究開発などにおける意思決定時にValuing Natureを実施することで、自然資本が不用意に損なわれない事業内容にすることが目的です。2016年には、Valuing Natureの実施によって2025年までに10億米ドル相当の正味現在価値(NPV)を生み出す目標を掲げており、20209月で目標額の50%を超えたと公表しています。

TNFDのような新しい制度は企業にとってリスク、コストであると同時に、ビジネス機会に繋がることもあります。それゆえ情報開示フレームワークに関する情報や、Valuing Natureのような評価方法についての情報をいち早くキャッチし、備えておきたいと考える企業も少なくないでしょう。しかし最近では脱炭素関連の政策を各国が打ち出すなど、追うべき情報は増えていく一方であり、ESGやサステナビリティ専門部署があっても、追いかけ切れなくなっています。

対応策の一つとしては、サステナビリティに関する制度やガイドライン等に関する情報提供サービスを利用することです。例えば、日本貿易振興機構(JETRO)では、2018年にサステナビリティ関連の主要なルールやガイドラインを72件抽出し、SDGsを紐づけたルールのマッピング調査報告書を公表しています(*1)。その他、2018年設立のスタートアップであるオシンテックでは、世界のルール形成に関する情報を日々自動収集し、各企業の関心に合わせて情報をまとめるというサービスを提供しています(*2)。主要国議会、政府、国連関係機関、シンクタンク、金融機関、大手NGOなど500以上の組織が公開する法案や議事録、政策提言など、ESG投資やサステナビリティに関連する様々な一次情報(更新情報も含む)をクローリングし、独自の解析AIによって情報が整理、タグ付けされるため、企業にとっては必要な情報に網羅的かつ容易にアクセスすることが可能になります。この事業が評価され、オシンテックは日本弁理士会主催「技術・ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト」(2020年度)で最優秀賞を受賞しています。

生物多様性や自然資本は、気候変動と共にこれから大きなテーマになることは間違いないと言えるでしょう。TNFDのフレームワークが具体的に発表されるのは2022年後半の予定ですが、TNFDの議論の展開とともに、ESG投資家や取引先等のステークホルダーから生物多様性に対する情報開示や要請が増える可能性は充分あります。対応できるように備えておくことが益々重要です。

*1:企業のサステナビリティ戦略に影響を与えるビジネス・ルール
*2:オシンテック

  • TOPに戻る