解説記事
TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)とは何か?(前編)進化する情報開示の枠組み
Date: 2021.09.17 FRI
#グローバル動向
#自然資本
#ESG投資・開示
出典:https://tnfd.info/
T“C”FD? T“N”FD?
2021年は11月に国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されるため、気候変動や脱炭素に関する話題に注目が集まりがちですが、実はもう一つ見逃せない話題があります。それが生物多様性です。COP26の前月、つまり10月には生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)第15回締約国会議(CBD-COP15)が開催されます。今回のCBD-COP15で議論されると推測されているのが、TNFDです。
TNFDとは自然関連財務情報開示タスクフォース(Task Force for Nature-related Financial Disclosures, TNFD)のことで、2020年7月、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、国連環境開発金融イニシアチブ(UNEP FI)、英国環境NGOのグローバル・キャノピーの4機関によって発足されました。TNFDはNature-relatedとあるように、企業の事業活動がもたらす自然資本へのリスクと機会を適切に評価、対外的に報告できることを目指しています。2020年9月には62の金融機関、企業、政府等による非公式作業部会が設立されました。日本からは三井住友トラストアセットマネジメントと、NPO法人のSusCon Japanが参画しています。TNFDの非公式作業部会では、現在、2021年第2四半期に正式な検討機関を発足すべく、協議を重ねているところです。
TNFDと聞いて、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース/Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略)を思い浮かべた方が多いのではないでしょうか。TCFDでは投資家が気候変動に配慮した投資判断ができるように、効率的・効果的な気候変動に関する企業の情報開示を促すことを目的としています。TNFDはこの考え方を自然資本全体に広げ、TCFDと同様に情報開示フレームワークの構築を検討しています。そのためTNFDはTCFDの考え方をベースにする可能性があるとみられています。
自然資本とは?
そもそも自然資本とは何を指すのでしょうか? 環境省の「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(2014年版)」によると、自然資本とは「森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本(=ストック)」を指しており、これらの自然資本から生み出されるフローが生態系サービスとして捉えられる、とあります。馴染みのある言い方に置き換えると生態系サービスが「自然の恵み」で 、その恵みをもたらす自然環境が自然資本です。わざわざ「資本(=ストック)」とついているのは、森林や海洋資源など消費し続ければ時間経過とともに、自然の恵みが減るだけでなく、生物多様性といった自然の恵みを生み出す能力が劣化していく、という考えに基づいています。
TCFDに対応するだけではダメなのか?
世界経済フォーラムのレポート「New Nature Economy Report 2020」は、世界のGDP総額の半分以上に相当する約44兆ドルは自然資本から生み出されており、自然環境にプラスの経済へ転換することで、2030年までに年間約10兆ドル規模の付加価値が生まれ、約4億人もの雇用創出効果の可能性があると分析しています。同レポートでは農業や畜産業、食品、建設業などは自然資本に高く依存する代表的な産業として紹介されていますが、電力・エネルギー、金属なども自然資本によって左右される産業です。つまり自然資本が減少・劣化することは、多くの産業にとって利益が減るだけでなく、新たに付加価値を生む機会を喪失することに繋がるということです。自然資本が減少・劣化する主な要因として、もちろん地球温暖化など気候変動問題がありますが、より直接的に水質改善や陸・海洋を含めた生物多様性の維持にも対処していくことが必要です。
例えば、クレディ・スイスが今年1月に公表したレポート「Unearthing investor action on biodiversity」によると、アンケートに回答した投資家の84%が生物多様性が損なわれることに懸念を示しており、55%が今後2年の間に生物多様性への対応が必要だと考えていることが示されています。一方、91%の投資家が生物多様性に関連する取り組みを評価する手法が明確でないと感じているという結果も示されています。
つまり、持続可能な社会づくりをより力強く促進するためには、TCFDだけでは足りないのではないかと世界が考えているからこそ、TNFDが生まれたとも言えるでしょう。
次回はTNFDがどのような内容になるのか、また新しい情報をどのようにキャッチするかについてご紹介いたします。