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ポータブル医療機器でバングラデシュの人々へ質の高い医療を提供――コニカミノルタ

Date: 2022.06.08 WED

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サステナ未来技術探訪の第2回は、医療体制の整備が十分でない地域で活躍するコニカミノルタ株式会社の「ポータブル医療デバイスを活用した遠隔診療」をご紹介します。

「バングラデシュでは医療に地域格差があり、地方に住む貧しい人にも、ヘルスケアの機会をつくりたかった。そうしたボトムアップがサステナブルなビジネスにつながると考えている」。そう語るのは、同社ヘルスケア事業本部 ヘルスケア事業部モダリティ事業統括部モダリティ事業企画部超音波事業企画グループのアジズ・シェイク氏。コニカミノルタが取り組む、新興国での医療提供サービスについて、その概要、製品や技術、医療課題解決の成果、今後の展望などを伺います。

この「サステナ未来技術探訪」シリーズは、GGPと、メイテックが運営するエンジニアのためのキャリア応援メディア「fabcross for エンジニア」が共同で展開するシリーズです。(GGP事務局)

コニカミノルタ株式会社 ヘルスケア事業部 モダリティ事業統括部 モダリティ事業企画部 超音波事業企画グループ アジズ・シェイク(Aziz Sheikh)氏 写真提供:コニカミノルタ

コニカミノルタのポータブル超音波診断機(左)と、X線撮影機(右)を説明するシェイク氏 写真提供:コニカミノルタ

——まず、コニカミノルタの「ポータブル医療デバイスを活用した遠隔診療」について、概要をご説明いただけますでしょうか?

シェイク コニカミノルタではJICA(独立行政法人 国際協力機構)との共同プロジェクトとして、バングラデシュにおいて、遠隔医療・遠隔診断の普及に取り組んでいます。弊社のポータブル医療デバイスも、このプロジェクトの中心機器として導入していますので、まずはプロジェクトの紹介という形で進めさせていただきます。

まず、「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標3.4には、2030年までに、非感染性疾患(NCD)による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する」ことが掲げられています。

非感染症疾患は、WHOWorld Health Organization)によると世界の死亡原因の71%を占めており、その内77%は低~中所得国といわれる途上国で起きています。具体的な病名としては、心臓疾患、ガン、呼吸器疾患、糖尿病などが該当し、これらを減少させるには、健康診断による予防・早期発見が最も効果的だとされています。

バングラデシュの死亡要因。 WHOのデータを元にコニカミノルタが資料作成

バングラデシュは医療体制の整備が遅れており、全国の平均値で医師は人口1万人あたり、5.4人しかいません。都市部では18.2人となりますが、人口の7割が暮らす地方部ではわずか1.1人です。人口1,000人あたりの病床数は0.79と、医師も病院もまったく足りていないのが実情で、地方部で特に深刻な問題となっています。

シェイク バングラデシュでは日本のような健康保険制度が整備されておらず、ほとんどの人は健康診断を全額自己負担で受ける必要があります。ユニセフによると、バングラデシュの人々の平均月収は約15,000タカ(日本円で約21,000円)です。それに対して、非感染症疾患を調べるのに必要な診断の検査は12項目あり、全項目を受診すると、月収の3分の1に相当する5,000タカ(約7,000円)の費用がかかります。このコストを下げなければ診断の普及は不可能だと言えるでしょう。

この問題の解決に向けて、弊社はバングラデシュにおける「保健サービスへのアクセス改善のための健康診断ビジネス(SDGsビジネス)調査」プロジェクトJICAに提案し、2016年に採択されました。これは、非感染性疾患を早期発見、予防するために必要な検査を絞り込むための手法を明らかにすることで、検査コストの削減モデルを考案し、SDGs 3.4の目標達成を目指すというものです。

AIを使って検診受診者ごとに、受診が必要な検診項目を絞り込み、費用負担を減らす。資料提供:コニカミノルタ

上の図は、AIを使った非感染症疾患の診断コスト削減モデルのイメージです。特に地方部での適用を想定しています。

まず、ステップ1として問診とコストのかからない検査を実施し、ステップ2では検査結果をデータベースと照合し、健康リスクを評価します。結果がローリスクであればステップ3で生活習慣に関する指導を行って完了となり、もしハイリスクとの評価結果が出れば、詳細な診察を受けることになります。診察は都市部にいる医師が遠隔診断で実施し、診断の結果によっては近隣の病院を受診するようアドバイスもします。医師が不足している地域でも、都市部の医師による遠隔医療を利用できます。

ポイントは、非感染性疾患の大半を占める生活習慣病の低減です。特にリスクが低い人たちに対して、生活習慣病の予防に向けてライフスタイルに関するアドバイスを行うことが大切だと考えています。

このプロジェクトのフェーズ1として地方部や工場勤務者を中心として、非感染症疾患の診断に必要な全12項目を50001万人に受診してもらい、サンプルデータを集めます。そのサンプルデータを基に、コストを削減した検査項目を特定するAIアルゴリズムを導き出すところまでを現在実施しています。AIのアルゴリズムはパートナー企業が開発を担当しています。

——診断を広く普及させるための仕組みの中で、コニカミノルタのポータブル医療機器を活用するということですね。具体的に、どんな機器がどのように使用されているのでしょうか?

シェイク 弊社は、ポータブルX線撮像機とポータブル超音波診断装置による、デジタル遠隔診断(Tele-Diagnosis)の推進と、人間ドックのようなヘルスチェックの導入に取り組んでいます。

病院がない地域では、小学校などに医師が医療機器を持ち込んでヘルスチェックを実施する。資料提供:コニカミノルタ

上の図は地方の農村部に診断を導入しようとするケースですが、小学校のような場所を仮設診療拠点として選定し、診断に必要な機材を持ちこむことになります。

弊社のポータブル医療デバイスはコンパクトなモバイル仕様で、医師が自家用車に積んで、現地で出張診断を行うことが可能となっており、例えば、「ポータブル超音波診断装置SONIMAGE(ソニマージュ) MX1であれば、重さ約4.5kgと軽量ながら、鮮明なエコー画像をその場で確認することができます。

ポータブル超音波診断装置SONIMAGE(ソニマージュ) MX1。資料提供:コニカミノルタ

胸部レントゲンを撮る場合、地方部では協力クリニックの医師が、ポータブルX線撮影装置を持ち込んで撮影することになりますが、例えば弊社のワイヤレスカセッテ型デジタルX線撮影装置「AeroDR(エアロディーアール) Mobile Solutionであれば、可搬性が高く、屋内屋外を問わず撮影が可能です。AeroDRシステムのメリットとしては、最先端の鮮明なX線画像による診断を受けることができることや、フィルムを使わないカセッテ式デジタルシステムのため、長期的にみれば診察コストを抑えることが挙げられます。

仮設診療拠点で撮影したデータは、クラウド経由で放射線医師が診断し、その結果を協力クリニックに送ります。そこで全データをいったん集めてスクリーニングし、ハイリスクの方がいれば、都市部の病院を紹介するという仕組みです。弊社は、この遠隔診療モデルが健康と福祉の課題解決につながるサステナブルな取り組みになるかどうか検証しています。

ワイヤレスデジタルラジオグラフィシステム 「AeroDR(エアロディーアール) Mobile Solution」では、DRパネルとモバイルコンソールだけでX線撮影が可能。資料提供:コニカミノルタ

12項目の検査のうち、腹部超音波診断と胸部X線撮影は、コスト削減モデルでも必ず含まれる検査項目なので、こうしたポータブルデジタル医療機器を使って、診断にかかるコストを下げることは、多くの人たちが受診するために重要なポイントになります。

——ポータブルかつデジタル化された最新機器であることが、医療インフラが十分でない国への導入に特に有効なのですね。では、このプロジェクトの進捗を教えてください。

シェイク JICAのプロジェクトは、フェーズ1を2018年7月1日から2020年6月30日まで実施しました。フェーズ1の結果、地方部と工場従業員を母集団として5000人分のデータ収集が完了しましたが、新型コロナウイルスの影響で当初計画より遅れが発生し、スケジュール変更を余儀なくされ、今はフェーズ1を延長しての再開に向けて準備中です。

次の動きとして、バングラデシュ政府の意向も踏まえて、母集団として都市部と地方部の中間くらいにあたる人たちのうち、3500人程度をサンプルとして追加取得する予定です。これは2022年4月1日から2022年7月30日まで実施予定です。今のところ、フェーズ2は2022年8月1日から開始できればと考えていますが、まだ正式には決まっていません。

——ありがとうございます。では、最後にシェイクさんのプロジェクトに対する想いをお聞かせいただけますか?

シェイク 私はバングラデシュの出身です。医療インフラの整備が遅れているバングラデシュでは、多くの人が治療のために地方から都会へと移動しなければならず、旅費や滞在費まで含めると病気になったときの必要コストは、貧しい農村のほうが高いという実態があります。こうした課題を「ポータブルデバイスを使用した遠隔診断」で解決できるのではないかと思い、2016年から取り組んでいます。

現地の実態を調べていくにつれ、やはり地方部に遠隔診断を導入することが、質の高い医療を低コストで提供するという目標達成への近道だと確信しました。バングラデシュの人口はおよそ16500万人、医療機器の普及は非常に遅れていますので、弊社のポータブル医療デバイスのビジネス視点からもたいへんポテンシャルの高い市場だと考えています。バングラデシュの人々との間にWIN-WINとなるソリューションを提供できるよう、これからも取り組みたいと思います。

(文:後藤銀河/メイテック「fabcross for エンジニア」からの転載)

■取材協力
コニカミノルタ株式会社
https://www.konicaminolta.com/jp-ja/index.html

新興国の医療課題に「遠隔診療」で応える-ポータブル医療デバイスを活用した遠隔診療
https://www.konicaminolta.jp/about/csr/social-innovation/case/3d-laser-radar.html

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