インタビュー
SDGsの達成に貢献する「Sumika Sustainable Solutions」と、リチウムイオン二次電池用セパレータ「ペルヴィオⓇ」とは――住友化学
Date: 2022.12.23 FRI
#気候変動
#イノベーション
#エネルギー
サステナ未来技術探訪の第4回は、第3回に続き住友化学株式会社の持続可能な社会の実現に向けた取り組みである「Sumika Sustainable Solutions(スミカ・サステナブル・ソリューション/SSS)制度の認定事例として、リチウムイオン充電池用セパレータ「ペルヴィオⓇ(以下、ペルヴィオ)」を取り上げます。 |
SDGsへの貢献と早期社内普及を目指し、2016年度から社内認定制度をスタート
SSSの事務局として活動を推進する、同社レスポンシブルケア部担当部長の藤田氏
藤田 住友化学グループとして、2016年から温暖化対策、環境負荷低減などに貢献する製品・技術を自社で認定する制度の運用を開始しています。ちょうど2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」が発効したタイミングです。当時はまだ、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という言葉もほとんどの人が知らない状況でしたが、SDGsを社内に普及させつつ、うまくビジネスと結びつけようということで、このSumika Sustainable Solutions(トリプルエスと呼称、以下、SSS)が始まりました。
SSSは住友化学グループ全体の取り組みと位置付けて、SDGsの達成に取り組んでいる。資料提供:住友化学株式会社
藤田 SSSは
1、「事業を通じたSustainableな社会の実現への積極的な貢献」
2、「Sustainabilityへの貢献の『見える化』による社員の意識向上」
3、「Sustainabilityを軸にした将来の成長機会を、 投資家をはじめ社会に向けて積極的に情報発信」
これら3つを大きな目的として設定しています。
SSSへの認定は、私たちレスポンシブルケア部が事務局となり、各事業部門や国内外のグループ会社から申請された技術や製品を確認し、認定委員会での審議、外部の有識者による検証を行います。認定の審査においては、「気候変動対応」「環境負荷低減」「資源有効活用」「その他、サステナブルな社会の構築に貢献するもの」という4つの分野を設け、それぞれ認定要件を設定し、SDGsの17の目標との関係を明確にしながら進めています。2022年9月時点では、66の製品・技術が認定を受けています。
弊社はBtoBが主軸の企業で、以前は社員からも「自分たちが作った製品が社会でどのように使われているのか、役に立っているのか分からない」という声が挙がっていたのですが、今では各事業部門や工場、グループ会社の社員たちから、自主的に多くの申請、問い合わせがくるようになり、社内のSDGsに対する意識の向上を実感しています。
また、当社ではこれら認定製品の売上収益をKPIとして位置付け、進捗をモニタリングしています。具体的には、認定製品の売上高は、活動開始当初2,800億円程度でしたが、2021年末に倍増の5,600億円を目標に取り組み、6,200億円の売上を達成しました。今後の目標は、2030年度までに現在のさらに倍である、1兆2,000億円の売上を目指すという、高い目標値を掲げています。
今後は、SSSをブランド化し認定製品に付加価値をつけていくこと、SDGsに貢献できるSSS認定技術・製品を多くのお客様に活用いただくこと、そして、新しい用途に向けた更なる認定製品を社内で見出していくことに取り組んでいきます。
今回は、SSSの認定製品の一つである、「高純度アルミナ」をご紹介します。
高純度アルミナはSDGsゴール7番、12番、13番に貢献する製品として、SSSの認定を受けています。
リチウムイオン二次電池の安全性を高めるセパレータ「ペルヴィオ」
住友化学株式会社 電池部材事業部 部長 三井 慎一氏
三井 ペルヴィオは、リチウムイオン二次電池内部の部品として使われている製品です。初めに、リチウムイオン二次電池の概要についてご説明します。
電池には大きく分けて2種類のタイプがあり、一つは乾電池のように充電できない一次電池と呼ばれるもので、もう一つが充電して繰り返し使える二次電池です。二次電池としてよく知られている代表的なものとして、自動車の電装用バッテリーとして使われている、やや大型の鉛蓄電池があります。小型二次電池では、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル水素電池などが古くから使われてきましたが、現在これらにとって代わって、スマートフォンやノートブックPCなどに広く使われるようになってきているのが、リチウムイオン二次電池です。
リチウムイオン二次電池の第一の特徴は従来のニッケル水素充電池に比べて約2倍という高いエネルギー密度です。これは同じ体積中により多くのエネルギーを蓄えられるという意味で、1回の充電でより長く使用できるということです。他にも自己放電率が低いことや、充電に制限がかかるメモリー効果という現象がないこと、長寿命だという特徴などもあり、家電製品や携帯電話などの小型電池用途で広まっていきました。最近になって、電気自動車の駆動用バッテリーに使われ始め、生産量は急速に拡大してきています。また、太陽光発電や風力発電などの、再生可能エネルギーを貯蔵しておくなどの電力用途でも注目されています。そのため、電池はより大型化してきています。
次にリチウムイオン二次電池の構造ですが、正極(電池のプラス側)材料としてリチウムを含む金属酸化物、一例としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)が使われていて、負極(電池のマイナス側)材料としてはカーボン(C)などが使われています。このリチウム遷移金属酸化物からリチウムをイオンとして引き抜いて、カーボンの隙間に溜まるのが充電された状態で、電池が放電されるとイオンが金属酸化物の中に戻っていき、その時に電子が放出されます。これが充放電の仕組みです。セパレータとは、この正極材料と負極材料を分離し、リチウムイオンをやりとりするための空隙があるフィルム(微多膜)で、ポリオレフィン(PO)からできているものが一般的です。
リチウムイオン二次電池の中でのセパレータの役割は、主に3つあります。一つは、正極と負極が接触してショートしないようにする「電極の隔離(絶縁)」 、そして絶縁しつつも充放電のためにリチウムイオンは通す必要があることから「リチウムイオンの透過」 、最後に、正極と負極の間にあって構造的に電解質を保持するという「電解液の保有」になります。
加えて、POタイプのセパレータには「シャットダウン機能」という特徴的な役割があります。例えば、電池に異物として紛れ込んでしまった金属が析出してしまい(デンドライトと呼ばれる)、正極と負極を内部短絡させてしまう、不良現象がありえます。短絡が生じると発熱し、そのまま高温になりすぎると電池が破裂、発火する危険があります。シャットダウン機能とは、初期の発熱でセパレータの空隙部を溶融させて塞ぐことで、それ以上の発熱や発火を防ぐという機能です。ただ、短絡電流が大きく、セパレータのシャットダウン機能を上回る速度で内部温度が上昇してしまうと、セパレータが破膜して大電流が流れ、発火に至る熱暴走を引き起こすという安全上の大きな懸念は残ります。
独自構造で熱暴走を防ぐ耐熱セパレータを開発
住友化学が開発したセパレータ「ペルヴィオ」 画像提供:住友化学株式会社
一般家庭や車での活用に向けて
三井 リチウムイオン二次電池の耐熱セパレータには、大きく分けてペルヴィオのようにアラミドをコーティングしたACS(Aramid Coated Separator)と、アルミナに代表されるセラミックをコーディングしたCCS(Ceramic Coated Separator)の2種類があります。CCSは比較的簡単な設備で製造できるため、セパレータメーカーのほとんどはCCSタイプを生産しています。
弊社は、今後拡大していく民生用や車載用途に貢献していきたいと考え、ACSの優れている点を訴求し、お客様にアピールしていくことをこれからのミッションとしています。
特に安全性において大切な耐熱性の高さはCCSと同等以上と評価いただいていますが、それ以外にもアラミドが非常に均一かつ、微細な空隙層を形成しているため、金属リチウムがデンドライドとして析出するのを抑制しやすいことも分かってきました。今後、電池がより高性能化していく中で、こうした特徴を活かして、リチウムイオン二次電池の高性能化と安全性の提供に貢献していければと願っています。
また弊社では、セパレータ以外にもリチウムイオン二次電池の正極材の研究・開発も重ねてきています。研究・開発の1例として、コバルトフリーの正極材があります。現在リチウムイオン二次電池で主流となっている正極材はコバルト酸リチウム(LiCoO2)やニッケル・コバルト・マンガン3元系(NCM系)などで、非常に希少な金属であるコバルトが使われています。コバルトを使わないコバルトフリーの正極材は業界から期待されています。また、正極材も早く量産・販売につなげ、電池部材としてセパレータに並ぶ事業に育て上げたいと考えています。
SSS認定製品として評価いただいているリチウムイオン二次電池用セパレータ「ペルヴィオ」ですが、主な使用用途はリチウムイオン充電池の安全性を高めるという、補助的な役割を持つ製品だと言えます。それに対して、充電池の正極材は、電池容量そのものに影響する、いわば主役の材料ですから、さらにSDGsに貢献する直接的な課題解決ができるでしょう。
弊社は総合化学材料メーカーですが、セパレータのように組み立て加工まで行う製品はそう多くはありません。2005年頃に、ペルヴィオの量産化開発の取り組みを始めたときは、化学工学系に限らず、機械工学系の知識を持つ社内のエンジニアを集めて事業を立ち上げました。私自身は電気工学の出身で、入社時は商品開発がやりたいという希望を出し、千葉の研究所に配属され、大学で学んだ専門分野とは異なるポリマーの研究に携わりました。その後、樹脂加工製品を扱う住化プラステック(株)という子会社で業務をすることになり、住友化学本体が扱っているポリマーを使った加工製品を開発・販売していました。そのときの経験や知識がペルヴィオの開発に活かすことができたと思っています。
学生の皆さんであれば学校で学んだこと、現役エンジニアの皆さんであればそれまで自分が培った技術や知識を、業務にそのまま活かせないことがあるかもしれません。ただ、これまでの経験からどういう状況に置かれても、自分たちの力で切り開いていくという意思を持ち、作りたい製品に向けて積極的に動いて提案していけば良いのだと、私は考えています。これからも、世の中の環境・社会課題の解決につながる製品開発にいっそう取り組んでいきたいです。
(文:後藤銀河 メイテック「fabcross for エンジニア」からの転載/写真・資料提供:住友化学株式会社)
■取材協力
住友化学株式会社
事業を通じた貢献Sumika Sustainable Solutions(SSS)