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水害大国・日本の防災戦略の要——気候変動で求められる流域治水

Date: 2022.10.25 TUE

  • #気候変動

  • #自然資本

日本総合研究所 石川智優

水害大国である日本では、これまでに水利用を目的とするダムの他、水害緩和を目的とする治水ダムなどが多く整備されてきました。しかし、気候変動の影響等によって水害被害は深刻化し、21 世紀末には洪水発生頻度は現在の2倍になると予測されるなど、見直しが喫緊の課題となっています。政府は 2021 年に「流域治水関連法」によって9つの関連法案を一体的に改正するなど、「流域治水」に向け、技術や地域インフラを持つ企業、自治体、研究機関の一層の連携を推進しています。

国土交通省のデータを元にGGP作成

気候変動の影響と考えられる台風や豪雨による水害の激甚化が止まりません。直近の水害被害額は、2018年度: 約14050億円(統計開始以来2番目の被害額)、2019年度: 約21800億円(統計開始以来最大の被害額)、2020年度: 約6500億円(山形県、熊本県、大分県において統計開始以来最大の被害額)となっており、甚大な被害が発生しています。今年も線状降水帯や大型の台風などにより各地で洪水、浸水被害が確認されています。

出典:気象庁資料

このような気候変動の影響と考えられる昨今の水害の増加は、これまでの治水方法を見直すことを余儀なくしています。従来、日本が取り組んできた治水は水位を下げることを原則とし、過去の雨量等の統計データにもとづく適切な大きさのダム、調整池、堤防などの治水施設の整備を進める「総合治水」が行われてきました。治水機能を持つダムは1985年の273ダムから2018年に約2倍となる558ダムにまで増えた一方で、昨今の災害の激甚化に対応できていない事態も発生しています。ダムの新設には莫大な費用と時間がかかり、かつ地域の合意形成も難しい実態があり、目先の災害対策に向けた検討が急がれています。

こうした状況の下、政府の治水施策は「総合治水」から流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う「流域治水」に大きく転換が進んでいます。流域治水とは、堤防の整備、ダムの建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、雨水が河川に流入する集水域から河川等の氾濫により浸水が想定される氾濫域までを一つの流域として捉え、①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策②被害対象を減少させるための対策、③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策をハード・ソフト一体で多層的に進めようというものです。

国土交通省(https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/index.html)を元にGGP作成

流域治水の実現に向けて、202111月には関連する9つの法律[*1]を改正する「流域治水関連法」が全面施行されました。法改正によって、氾濫をできるだけ防ぐための対策として、企業が管理するダムや住民が保有・管理する田んぼなどの既設インフラについて、治水利用に協力してもらうことが期待できるようになりました。流域における貯水ポテンシャルの大きいインフラの代表としては、洪水調整用に国・自治体が保有する治水ダムのほか、民間企業が発電用に保有・管理する利水ダムが挙げられます。しかし洪水に備えて利水ダムの水位を下げておく場合、発電量が減るなどのリスクを民間企業が引き受けなければならなくなるため、流域治水の確実な推進には協力者に向けたインセンティブの設計も丁寧に行っていく必要があります。

図:日本総合研究所作成

そこで有効となる視点が、「既設インフラの多目的化」という発想転換です。協力者に対して一方的に協力要請するのではなく、これまで治水のみに活用されてきたインフラを開放し、他の目的での利用を認めることで、行政と民間の両者にとってメリットのある形で、治水効果・利水効果双方の最大化を図るアイデアです。ダムを例に挙げると、センシングやAI等の技術を駆使し最新の気象予測技術や河川への流入量の予測を行い、非常時に発電用のダムを治水利用する代わりに、平常時に治水ダムを発電に利用することができるように整備するための検討が進んでいます。得られる電力や収益を地域のために還元することが可能となり、地域を守りながら民間の経済活動に寄与につながることから注目が高まっています。

河川の上流から下流まで、流域全体を俯瞰して治水を行うことは、これまでにない画期的で有効な取り組みであることは間違いありません。それを絵に描いた餅で終わらせないためにも、協力者へのインセンティブ設計を始めとした、当該施策の持続可能性を担保する仕組みを構築していくことが重要です。

*1 改正された9つの流域治水関連法
①特定都市河川浸水被害対策法(「特定都市河川法」)、②河川法、③下水道法、④水防法、⑤土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(「土砂災害防止法」)、⑥都市計画法、⑦防災のための集団移転促進事業に係る国の財政上の特別措置等に関する法律(「防災集団移転特別措置法」)、⑧都市緑地法、⑨建築基準法

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